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27.凡凡は噛み締める

 ##


「そろそろ時間か」


 時は刻まれる。いかに己が静止していようと、それは無常に無情に。己に何も告げることなく、ただ淡々と世界は流動していく。ふと、己が立ち止まっていることに気づいたときには、もう追いつけないほど遠くに置いていかれてしまっていた。必死に追い縋り、足を運ぶが追いつくはずもなく、遂には無駄だと悟り、その場に蹲る。それでも、時は歩みを止めない。


 タントは腰に剣を()()()()()()


「もういいだろ。あってもなくても大して変わるもんでもないしな」


 試合場へ向かう足取りは重くもなく軽くもない。ただ、機械的に足は運ばれていき、思考には全くの淀みもない。ただただ、白い。


「兄上」


「ディーンか。まったく、愛の告白をするにしても時と場合を考えろよ?一応、連合府にとっては重要な戦いなんだからさ」


「えぇ、重々承知しております。しかし、俺にとってはあの場で彼女に応えることの方が大事だったので」


「そうか。なら、もう文句は言えねぇよ」


「はい!ありがとうございます!兄上!!」


 なんのお礼だ?まあいいや、追及すると面倒くさそうだし。


「ところで、剣はどうされたのですか?」


「ああ、あの剣だと持っていったところで砕かれて終わりだと思ってな。それなら、最初から無い方が良い」


 剣なんてあってもなくても負けるのには変わらないから持ってきていないというのが本当の理由なのだが、そんなことをディーンに言えば大目玉喰らうので適当な言い訳を繕う。


「ふむ。確かに当初はラスバが出る予定でしたから、兄上の剣は有り合わせの物でしたね。俺の剣を貸したいところですが、これは特注の物ですので兄上の手に馴染むかどうか……」


「いや、いいよ。もう時間もないし、このままでいく」


「そうですか。無理はなさらないでくださいね」


「そういうのは得意分野だ」


 試合場に足を踏み入れると、また一段と肌寒くなっていた。


「かの龍をも殺すとはお主は我の想像を常に超えていく。だが、決して臆さぬ。我が全力を持って、お主に挑むとしよう」


「貴殿にそのように言われると、俺の胸も高鳴る。良い闘いにしよう、ダゴドゴ殿」


 ディーンとダゴドゴは互いに握手を交わす。ダゴドゴ・ドンカシは魔族の将軍であり、世界でも屈指の巨体と筋肉を誇るパワーファイターである。だが、決してその技が拙いというわけでもない。ディーン曰く、この世で最も機敏な砲台らしい。


「………」


 対するゴナ・ドンカシは何も言わずにただこちらの方を見つめてくる。何かを伝えるわけでも、訴える訳でもなく、ただ瞳の中で()()()()()()()



 ##


「ふっ!ふっ!」


 一戦目はディーンとダゴドゴ。最初に仕掛けたのはディーンだったが、怒涛の連撃をダゴドゴは全て往なした。そうして攻勢は一転し、ダゴドゴの双鉄球がディーンへと襲いかかっている。


「くっ!」


 襲い来る鉄球を弾くも交わすも、もう一方の鉄球が死角から捉えることのできぬ速度で飛んでくる。ディーンは鉄球が触れた瞬間に身を捻る事で、威力を分散させているがダメージは少なくない。


「どうにもやりにくい相手だッ!」


「光栄の極みッ!」


 完全に劣勢。しかし、ディーンは嬉しそうに笑みを零した。


「やはり、出し惜しみなど貴殿には無礼だったな……」


「来るか……」


 ディーンの両手の甲から光が溢れる。それを見たダゴドゴは双鉄球を放り、ディーン目掛けて突進する。


「我が最強の武器こそ、この肉体!!!見事打ち砕いてみせい!!!」


「ゆくぞっっ!!【紋章顕現(ディエルマキナ)】!!」


 ─斬ッッッッ!!!!


 その斬撃の音はこの熾烈な闘いの決着を一瞬で告げた。


「み、見事なり……!」


 賞賛の言葉を残し、ダゴドゴは地に伏せる。ディーンは噛み締めるように剣先を天に向けてから、鞘へと収めた。


「勝者、ディーン・クルニス!」


 まあ、予定調和だな。と笑みが零れる。生まれてこの方、ディーンが負けた姿など見たことがない。一見、苦戦しているように見える勝負もアイツが楽しみたいから力を抑えているだけ。紋章(本気)を出せば、一瞬。なんてことはない圧倒的な勝利だ。


「以前にも増して、鉄球捌きに磨きが掛かっていたな。それに肉体の方も、一瞬力負けしそうになった」


 ディーンが手を差し伸べると、ダゴドゴは手を掴み、ヨロヨロと立ち上がる。


「ふ、お主が言うと世辞にしか聞こえんわ」


 その光景はほんの数年前からは考えられぬものであった。



 あぁ、よかった。良かったなぁ。


 タントは何故かそう思わずには居られなかった。きっと、この光景は誰かが望んでいた光景。叶えたかった願い。そのために命を賭して、世界を奔走していたんだ ろうか。


 自然と顎に力が入る。思わず、拳を握ってしまう。漏れ出る息が震えてくる。


 なあ、見てるか


 お前が望んだ世界は


 今、此処に在るぞ


 その思いは誰に届けたものなのか?それは本人すらも分かってはいない。ただ、溢れ出るこの感動を抑えられずには居られなかった。





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