24.凡凡は普通に負ける
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「それじゃあ、後は全部兄さんに任せていいってことだよね?」
ラスバの部屋に入ると、ベットに寝そべりながらポリポリと菓子を貪っていた。
「最初からそうすべきだったってことだ。先生の諌言でようやく気づいた」
「僕は杞憂だと思うけど」
「とにかく、お前は病人だということになっているから病人らしく振舞えよ」
「はぁい」
本当に理解しているのか不安になるが、この部屋から出るような気配はないのでひとまず大丈夫だろう。
「一応、見張りとして先生を置いていくけどくれぐれも殴ったり蹴ったりしないように」
タントは全身をグルグルに縛ったイーダを部屋の中央におく。
「あの、これで本当にラスバ君と仲良くなれるんですかね?私にはどうにも先と同じ結果になるような気がしてならないのですが」
「心配ありませんよ、先生。ラスバも人の子、いつかは心を開いてくれるはずですから」
「猿轡もあればもっと仲良くなれる気がするなぁ」
「ほら、ラスバもああやって言ってますし、心配ありません」
「ちょっと待っ!!むぐ!!!むぐぅ!!!」
「じゃあな、ラスバ。玩具は置いておくけど壊さないように」
ラスバは何も言わず、満面の笑みで返事をした。
「兄上、先ほどは申し訳ありませんでした」
自室で身体を動かしていると、ディーンが訪ねてきたので部屋に入れると、開口一番に謝罪をしてきた。
「謝る相手が違うだろ。今度、ドンカシ嬢に会った時にはちゃんと頭を下げろよ」
「どうして兄上は彼奴等に対して、いや、誰に対しても平等に接することができるのですか?」
「さぁな。それが俺の人柄なんだろ」
「俺が言いたいのはそういうことじゃないんです!」
「じゃあ、どういうことなんだよ。なんだ?未だに戦争の時の思想が抜けきらずに魔族を敵だと思ってしまいますってか?甘えんなよ。それはお前の感情だろうが。お前がとっととケジメをつけろ。俺がどうこうすることじゃない」
「そう、ですね。失礼しました……」
「あ、いや、俺も言いすぎたか。とにかく、俺たちはもう宿敵同士じゃない。焦らずにゆっくりと互いに理解していけばいい」
俺だってそうだった筈だから。
「そろそろ時間だな」
「次はガーダ帝国、カルデナ達とです」
「お姫様はお前に任せるよ」
「はい!必ず勝利を収めます!」
そういうことでもないんだがなぁ。まあ、こうして躍起になってる方がディーンらしいな。
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剣を腰に携え、おもむろに立ち上がる。会場から吹き抜ける風は通常の大会のような熱気はなく、全身を凍えさせるような冷気を纏っている。
「さて、やるだけやるか」
ほぅ、と白い溜息が零れた。何年経っても、戦いの前は緊張してしまうのは治りそうにない。試合は至ってシンプル。審判に戦闘不能と判断されるまで。ただ一つだけ特殊な規則がある。皇交戦にあたって、武器は使用者の誇りを顕し、それを破壊、また使用不能された時点で負けとなる。まったく自尊心の高い者たちが考えそうな事だ。
足を運べば、約五百平方メートルほどを大理石で敷き詰めた試合場。機能性より優美を優先するとはいかにもお上の集まりらしい。
「今年は味変出来ると思うたが、結局貴様になるとは何ともつまらん」
「まあ、そう言うなよ。お手柔らかに頼むぜ」
相手は第二子のボルド・エクスクローネ。姉のカルデナこそに劣るが、彼も次期皇帝に恥じぬ程の剣豪であることには間違いない。
「始め!!!」
審判の合図と同時に、ボルドは深く踏み込み、下段から大きく袈裟に切り込む。
「いきなりかよっ!」
タントは半身を捩らせて受け流し、そのまま後ろに飛んで距離を取る。
「逃がすか、【地を覆す雨】」
詠唱とともにボルドの掌から無数の水の弾丸が射出される。
「【渇きの蕺】」
しかし、地面から生えた大きな植物がその弾丸を次々と飲み込んでいく。
「姑息な手だ」
ボルドは構わず魔法を射出し続ける。やがて植物たちは弾丸の勢いに耐えられなくなり、貫かれ、削られていく。次第に露になっていくタントの姿を捉えて、ボルトは集中的に弾丸を放つ。
「ちっ、【瞬転】」
このまま距離を取るのはまずいと感じたタントは一瞬にして距離を詰める。
「うらぁ!」
額に紋章を滲ませ、ゼロ距離で鋭い突きを放つ。
「─【秘剣・古鷹大戴爪】」
剣戟の鈍い音が響いた後に、タントの剣が砕けた。そして、右肩から対角線上に赤い線が刻まれる。
「痛っ!」
「皮一枚だ。薬でも塗っておけばすぐ治る。次の試合にも影響あるまい」
「勝負あり!!」
審判の手が高々と挙がり、勝者を示す。
「勝者、ボルド・エクスクローネ!」
拍手や歓声は起こらない。それほどの人数がいないというのもあるが、これが盛り上がるような催しではないからだということが要因だといえる。
「つまらん。本当につまらんよ。見え透いた隙を突くのは」
そう呟きながら、ボルドは会場を後にする。
「心外だな。こっちは至って真剣にやってるってのに、まるで手を抜いてるかのように言いやがって」
憎々しげに傷口を抑えながら、タントもまた試合場から背を向ける。
その様子をディーンは唇を噛んで、見守っていた。




