22.凡凡は弟の正体ミタり!!
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「なんで先生がここに?皇交戦の入場は王族だけしか許されてないはずだけど」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれましたねタク…ではなくタント殿下」
「なんだよこれ!外せよ、このインチキ魔道士!」
この怒涛の展開にアルスタとディーンは呆然としている。
「なんと!この度、私はラスバ君の保護者として入場が認められたのです!」
「どういうことだよ!」
ラスバ〜?猫の皮どころか、何か見えちゃいけない部分まで剥けてる気がするぞ〜?大丈夫か?追い洗脳かましとくか?
「ラスバ君の魔力はとてつもなく強大ですが、その分不安定なのです!その危険性は対戦相手だけでなく、会場にまで及ぶ可能性が考えられます。よって、先生である私が特別に処理を施す必要があると連合府の判断が下りました」
「お前!国の許可なしで勝手に申請したな!こんな首輪まで付けやがって、これで僕を完全に制御したつもりかよ!!」
バチバチ、と音を立てて首輪が煙を立てる。
「ふぇ?」
なにが『ふぇ?』ですか、先生。まさか、これマズイやつですか?
「うらぁぁぁぁ!!!」
凄まじい爆音とともに四散する首輪。その火花は、もはやついていけなくなり抜け殻のようになった二人の兄弟を明るく照らした。
「な、なっ、なああー!!!わ、私の小型魔力制御装置:乙華麗がァァァ!!!!」
なんだその名前、ダサすぎるだろ。この人、前からセンスのない名前をつける人だと思っていたけどこれは過去最大級にダサい。
「さて、覚悟はできてるかな? 不躾にも僕の首にこんな玩具を付けたんだ。それなりのお仕置きはしないとね」
「ふん、望むところです!またこの前のようにコテンパンにしてやりますよ!」
「待て待て待て待て!!!!」
より激しく火花を散らす両者の間に割って入るタント。
「言いたいことは山ほどあるが、とりあえず二人とも落ち着け。見ろ、兄上とディーンが理解を拒絶して灰人形になってる」
タントが指差す先には白目を剥き、口を開けて呆けている二人の姿があった。そして、その指をそのままイーダへと向ける。
「まずは先生!貴方がここに居ることは理解しましたが、どうしてラスバの感情を逆撫でするようなことをするのですか!?これじゃ保護者じゃなくて妨害者ですよ!」
「何を失敬な!?私はラスバ君のことだけでなく、皆のことを思って─「あと、いい加減そのダサい名前つける癖止めた方がいいですよ。これ本当に切実な思いです」
タントが放つ言葉の機関銃に、イーダは膝を折り、苦渋の涙を流す。そんなことおかまいなしにそのままの勢いでタントはラスバを指差す。
「次、ラスバ!」
「何かな?僕、今物凄く機嫌が悪いんだ。できれば手短にね。兄さんまで傷つけたくはないから」
「今年の初戦の相手はイスカンダルだ。なら、そこで全力を使い切って力尽きた振りをすればいい。それなら魔国の姫と当たる心配はなくなるだろ?その後は俺がなんとかしてやるから。だから、機嫌直せ、な?」
ラスバはゆっくりと目を閉じた後、満面の笑みで頷いた。
「うん!いいよ!兄さん大好き!」
飛びついてくるラスバを受け止め、安息を漏らすタント。どうにか、この場は収まった。未だ心在らずの二人を除いて。
しかし、試合の用意はしないといけないので、とにかく空っぽになった二人を抱えて、一行はエヴンダに用意された邸を目指す。
「いやぁ〜、まさか私の最新作まで粉々にしてしまうとは、やはりラスバ君は規格外ですねぇ」
「その割には満足そうですね。もしかして、あれは試作品とかで耐久試験も兼ねてました?」
「いえ、あれは既に済んでいます。もちろん、私自身の魔力でね。その完成品を完膚なきまでに破壊されたのですよ」
と、いうことはラスバは先生を遥かに越えた魔力を持ってるのか。これは予想以上というか、もう俺が実力でどうこうできる領域ではない。これからはコイツの機嫌にも気を配らないといけないな。気分一つで国が消し飛ぶことになりうる。
「そんなみつめないでよタント兄さん、照れちゃうよ」
そして、この猫の被りよう。もはや最高級の劇団の演技すら幼稚なままごとに見える。なんて恐ろしい子!!!
「それで、アンタはいつまでここにいるのさ。兄さんが言ってたようにアンタは僕にとって害でしかない。だから、とっとと国に帰りなよ」
「だめです!!連合府から許可が降り、指令を出された以上、私はそれを遂行する義務があります」
「そんなの嘘だ!!僕どころか父である王の認可なしでそんな申請が通るはずがない!」
「それが、通るんだよ。先生は一応、腐っても、昔は『英雄』だったからな。連合府に顔が利く人物も少なくない。だから、ある程度の融通は利くんだよな」
「なんですかその修飾語は。そんな口を聞く弟子には、また例の特訓をさせますよ」
「はは、懐かしいですね。あの無意味な特訓。火魔法と水魔法を同時に唱えて、延々と対消滅させて魔力だけ消費させるアレ、疲労感よりも虚無感が酷かったな」
先生と談笑していると、ラスバが頬をふくらませながら両手を広げて先生との間を遮断する。
「兄さん、ダメだよ!こんな奴と話しちゃ!脳みそが縮んじゃうよ!」
お、なんだ嫉妬か?意外と子供らしくて可愛いところもあるじゃないか。よしよし、頭を撫でてやろう。
「もう!子ども扱いしないでよ!」
「なあ?どうして、そんなに先生を嫌うんだ?確かに先生は、酒浸りで、人格破綻者で、人の心も分からないマッドサイエンティストだけど、いい人だぞ?」
「それ、褒めてるんですか?それとも、貶してるんですか?」
「えっと、それはね……」
口篭るラスバ。言いたくないことなのだろうか。ならば、仕方ない。無理に聞く必要もないことだ。
「私に魔法で負けたから、ですよね?」
はい、せっかく気を利かせたのに無駄でした。ほんとにこの人終わってるよ。だから、母国から追い出されて、その先の国でも追い出されて、僻地の森の中で孤独に研究することになって、英雄と崇められたのに無職になるんだ。
「タント、いやもうこの場ではタクト君と呼びましょうか、いいでしょう?一々殿下なんて煩わしいし」
「ええ、俺はもう何も言いませんよ」
「君には以前、教えたはずでしょう?『魔術王の極意』を」
「ああ、確かあらゆる魔素を自由自在に操れるとかなんとか、でしたっけ?」
「その通り!つまり、彼が放つ魔法は全てこの手でかき消してやったのです!ふはははは!」
「死ね」
ラスバの拳がイーダの脇腹にめり込む。
「ぐぼぁ!!」
イーダは脇腹を抑えて地面にのたうち回る。ラスバは追い打ちとばかりに蹴りを入れる。
「こ、こらぁ!ま、まじゅちゅしがこぶしにたよるとは、ほ、ほこりはないのでしゅか!?」
「相変わらず肉弾戦には打たれ弱いですね。お変わりないようで安心しました」
「え?懐かしむ要素そこですか!?もっと他にあるでしょ!?ほら、ここの黒子なんか─ぐべぇ!」
先生とのレクリエーションをさんざん楽しんだラスバは、無事体力を使い果たし、初戦のイスカンダルすらをも満身創痍ということで棄権し、お昼寝タイムを満喫したのであった。(ちなみにディーンは無事復活し、何事もなく勝利を収めた)




