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2.凡凡に従者はいない


 今日はよく晴れた日だ。こんな日にはベッドで二度寝を決め込むに限る。


「いいかげんお起きになってください」


 そんな思いも空しく、メイドに羽毛布団をひっぺ返される。


「やめてくれ、メイド。俺はまだ寝ていたいんだ」


「メイドという名ではありません。サラでございます。覚える望みは蚊ほども期待していませんが、名乗っておきます。ちなみにこの今日の鳥は貝です」


「不敬をも怖れぬ末恐ろしいメイドだ」


今日の朝食は鶏肉の替わりに貝か......


「恐縮でございます。そんなことより、早く朝食を取ってください。後5分後に昼食が出来上がりますので」


「起こすならもっと早く起こせ」


 と言いつつ、ベッドから起き上がり朝食を食べる。


「冷めているな」


 それにこれ、いつも通り鶏肉じゃないか。あれは聞き間違いか?


「当たり前でごさいます。5時間前に作られたものですので」


「なぜ、保存の魔法をかけておかなかった?」


 本来、主人が食事を後回しにする際、給仕は料理の鮮度を保つため、保存の魔法をかけておくものだ。


「この国の法律により、無許可による他人への魔法への行使は禁じられておりますゆえに」


「いや、それとこれとは違うだろ。どんな解釈してんだ」


 確かに、魔法律により魔法の行使は制限されているが、この点に関しては明文化されておらず、また解釈も多様であるため、様々な議論が巻き起こっている。しかし、こんな言い訳じみた解釈など初めて聞いた。


「勉学が足りませんね。アルスタ様の姿勢を見習ってください」


「なんだか不愉快な奴だ。他の奴と変わってくれないか」


 別に兄と比べられたことが気に障ったわけではない。彼女の態度全般が気に食わなかった。歯に衣着せぬ物言いは構わないが、それは従者が取るべき態度ではない。


「残念ながら、他の従者は全て兄弟方のお世話に回っておりますので、現在、殿下を相手にできるのは私以外にはおりません」


「ということはなんだ。まさか、今日の御付きはお前だというのか?」


「お前ではなく、サラとお呼びください」


 いないのであれば仕方ない。嫌な従者が付くなんて日もある。俺は他の兄弟たちと違い、専属の従者を持たない。そもそも、いないのだ。だから、その日特に予定のない下人がその日限り俺の従者となる。


 なぜ、いないのかだって?そうだな。簡単に言えば拒否られたからだ。王族の子供は五つになると、皆それぞれに専属の従者が付くことになる。だが、俺はその日候補者全員に辞退された。理由は俺のような者に仕えるなど畏れ多いというのが全会一致だった。まぁ、俺に仕えるぐらいなら他の兄弟たちに仕えたいというのが本音であろうが。その後にまた一悶着あったが、話せば長くなるから、今はいいだろう。そんなこんなで、俺の専属従者は日替わり制となった。


「ではサラ、今日の予定は?」


「......口に物を入れながら喋るのははしたないですのでお止めください。いいかげんに直ってください。それに、本日は殿下はお休みですので予定は特にありません」


「そうか、食事を終えたらまた寝る。俺が寝たら、下がってもいいぞ。夕食には起こしてくれ」


「ああ、なんと不摂生な生活でございましょう。殿下、予定ができました。本日は昼食後、庭園にてお散歩がございます」


「なんてむちゃくちゃな奴だ。これまで色んな者を見てきたがお前みたいな従者は初めてだ。怒りを通り越してもはや呆れたよ」


 主の予定を勝手に作り出す従者なんて聞いたこともない!


「恐縮でございます」


 はぁ。まぁ、これも今日一日だけだ。こんな経験も体験しておくべきだ。我慢、我慢。


「殿下、昼食が出来上がったようですのでお運び致します」


「見て分からないか?まだ、俺は朝食中だぞ」


「では、同時に昼食もお取りください」


 あーあ、今日は厄日だ。

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