17.凡凡は知らない
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「おはようございます。弟君がお待ちですよ、殿下」
まだ鶏がけたたましく鳴く頃、タントは従者に起こされる。
「誰だ?ディーンか?昨日あれほど喚き散らかしたというのにまだ足りないか」
「いえ、ラスバ様でございます」
「ああ、そっちか。部屋に通せ」
「その鶏冠ような寝癖のままでよろしいのですか?」
「構わん。廊下は寒い。あまり待たせてやるな」
「かしこまりました」
タントが自分で寝癖を直していると、ラスバが部屋に入ってきた。
「おはよう、兄さん。昨日はアル兄やディン兄にこってり絞られたみたいだね」
「早すぎだ。まだこの時間は睡眠時間だ。訪ねるならもっと日が昇ってから来い」
タントは面倒くさそうに髪を鋤くが、跳ねは中々直らない。
「その時間になると、姉さんたちが起きてくるから。兄さんと話せるのは早朝か深夜ぐらいだよ。本当は昨日の夜も話したかったけど、アル兄たちが独占してたからね」
"これはまぎれもない冤罪だ!俺はお前を信じている!だって、お前は─!"
"兄上!俺は貴方がそんなことをしないということは身を持って知っている!これは何者かの謀だ!"
タントが法廷から去った後、公務から飛んできたアルスタに捕まった。それから数時間経って解放された後に、今度はディーンに捕まった。タントが皆から解放されたのは日付が変わる直前であった。疲れきったタントは身を清めたあと、即座にベッドへダイブした。
「それで、朝っぱらから何の用だ?」
「取引しない?」
タントは手振りで従者に下がれとジェスチャーする。従者はコクりと頷いた後、部屋を出た。
「気が利くね、さすが兄さん」
「早く話してくれ、二度寝するから」
「せっかちだなぁ。そんなんじゃ婚約者なんてできないよ?」
「それで話は終わりか?」
ラスバがからかうとタントは毛布の下に潜った。
「ごめんって。早い話、今度の皇交戦さ、僕が兄さんの代わりに出るからあの手記の内容を教えてよ」
「なるほど。てんで俺のメリットが見当たらないな」
タントは毛布から出てこない。
「いやいや、去年の戦いなんて見るからに嫌そうに戦ってたじゃん。特に魔族と」
「気のせいだ」
「嘘ばっかり。明らかに魔国の時だけ魔力の流れが乱れてたよ」
「強敵だから緊張していただけだ」
「兄さんの癖、一つ見つけちゃった。それは、図星だと早口になる癖」
ラスバは自身の髪を指で弄ぶ。
「とんだ小悪魔っぷりだな。外では猫被りやがって」
ほんとですぜ、とラスバの胸元から声が聞こえる。
「本物の悪魔からのお墨付きだよ」
「はぁ、本当はもっと言わないといけなかったんだがな。実は俺も知らないんだ。というか、覚えてない」
「え?」
「あの創作言語はその場のノリで書いた言語だ。よって、今の俺にもあれを解読することはできない」
「嘘、じゃないみたいだね。魔素(空気中に漂う微量な魔力。魔法が行使されると使用者の魔力と混じる)が反応しない。呼吸も脈拍も正常だし、表情もおかしくない」
「確か表紙に懺悔って書いたやつだろ?何書いたかな?父上の誕生日パーティーでやらかしたやつ?それとも妹の茶会を台無しにしたやつか?」
「そんなしょうもないこと書いたの?大層な題名してさ」
「当時の俺にとっては大層なことだったんだ、多分」
「まぁ、いいや。その話、聞かせてよ」
「いいぞ。まずは父上の誕生日パーティーの話だな。あのときは─」
ラスバが話を聞く中、アクロシアは先程の違和感を一人、いや一匹吟味する。
さっき、タントの奴が『懺悔』と発言した瞬間、懐かしい魔粒子(空気中に漂う小さい魔素よりも細かい魔力の粒子)が漂ってたな。ご主人は気づいてないようだけど、聞かれてないし、黙っとこ。




