15.凡凡への追及
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「な!?」
裁判所にいる者全てが驚愕の渦に呑み込まれた。
「そんなことはないはずです!」
執事長が声を挙げる。
「私は見ました!ラスバ殿下が地下より駆け上がって来なさるところを!間違いなく!」
「俺も、ラスバにも見られたことは覚えている」
タントも執事長に同調するように手を挙げた。
「じいやも兄さんも嘘をつかないでください」
『兄さんと僕は昨日、一緒に書斎にいました』
ラスバが高らかに宣言するように言い放つと、その場にいた全員がふらついた。
「ふむ、これはまぎれもない事実ですな。ということは罪人は誰かに嵌められた可能性が高い」
「えぇ、その通りのようです。おそらく罪人、いえタント殿下の姿に扮した者が禁書保管庫に侵入したのでしょう。殿下に罪を被せるために。なんと不敬な!」
ラスバの言葉に判事もシギナ公爵も首を縦に振る。また、彼らだけでなく、ほとんど者が納得していた。
「ラスバ、お前...」
ただ、タントだけは悲しげにラスバを見つめる。
「タント殿下は無罪!憲兵を始め警備、使用人たちはただちに保管庫の捜査を始めなさい!本日はこれにて閉廷!」
堰を切ったように判事は告げる。それによって多くの者が法廷を後にした。まるで、あらかじめ出るようにプログラムされた機械のように迅速に。
タントは憮然としていた。それは、このような結果に終わったこともあるが、ラスバが己を助けたことが不可解であった。それに機会を失った。それが何よりもタントの精神を白に塗りつぶした。拘束具は既に外れている。しかし、立ち上がれない。ただただ、俯くしかない。
「兄さん」
ラスバの声が頭上から降り注ぐ。頭を上げると法廷には既に二人しか残されていなかった。
「僕は、知りたい。なぜ真実を訴えなかったのか。なぜそんなに死にたがったのか。兄さんが何者であったのか」
「ラスバ、そうか、お前か。俺の手記を盗んだのは」
「あの暗号は見たことがない。魔法で強引に解読しようにもそれができなかった。あれ、兄さんが自分で考えた暗号でしょ?」
「それが皆を洗脳してまで知りたかったことか?」
「それもだ。僕の精神魔法が兄さんには効いてない。僕の魔法は完璧なはずだ。兄さん、僕は貴方を、貴方の全てを知りたい!」
「保管庫への侵入、私物の盗難、他人への魔法行使。バレたら、幽閉じゃ済まないだろうな」
「お願いだよ。教えてよ、タント兄さん!」
「そうだな。ひとつだけ教えてやる。それについてお前に話すことは一つもない。先生にでも聞け。それだけだ」
「意地でも教えないつもりだね」
バチバチ、とラスバの手から電光が迸る。
「なら、無理矢理聞くことにするよ」
ラスバはタントの頭に手をかざすとタントの身体に電流が駆け巡る。が、
「やっぱり、精神魔法は効かないみたいだね」
手を下ろし、ため息を吐いた。
「保管庫で探してたのは時空を操る魔法。それで過去に行って、確かめようと思った。でもそんな魔法、保管庫にはなかった。そこで兄さんに見つかったんだ。僕が間抜けな声を挙げたから。先生っていうのはイーダのこと?あの人に聞いても本人に聞けって断られたよ。もちろん、精神魔法もまだ通用しなかった。鍛錬しなきゃいけないなって初めて思ったよ」
「いきなりどうした?別に俺はそんなこと話せと言っていないが」
「他人を知りたいならまずは自分を教えないと、と思ったんだ。僕らは互いに知らなさすぎる。兄弟なのに、ね」
「いいか、ラスバ。もう一つだけ教えてやろう。お前の興味本位で俺を探るのは勝手だ。だが、犯罪は犯すな。お前の勝手によって被害者が出るのは今回の件で火を見るより明らか。それが今回、俺だったから良いものの他の者だったらどうする?また、魔法で誤魔化すのか?お前はそんな生き方でいいのか?」
「お説教じみたことしても無駄だよ、兄さん。止める気はない」
タントは目を瞑り、背もたれに身を預けた。
「この話は置いといて、事件のことで気になることがある」
「それは?」
「保管庫の扉が開けっ放しだったことだ。焦っていたにしても、お前がそんな下手を打つはずがない。何か心当たりはあるか?」
「あー、それかぁ。それはこいつのせいだよ」




