14.凡凡は裁判に掛けられる
##
牢の頂には滴る水が凍り、氷柱となっている。
外から漏れ出る朝焼けはやけに色が濃い。
眠れたのかそうでないのか、自身でも解らぬ微睡みの中で
ただ無心に子守唄を口ずさんでいた。
##
「これより、罪人タント・クルニスの裁判を開廷する」
タントの裁判は彼が捕まった翌日に開廷された。他に優先すべき裁判がなかったこともあるが、禁書保管庫に侵入したという罪がかなり重く、急を要するものであることも加味されている。
「ではまず、冒頭弁論を」
「それは私から」
手を挙げたのは、この国の宰相であるシギナ公爵であった。
「私が本日、検事を務めさせていただく、レクール・シギナでございます」
「シギナ公爵、貴殿は宰相であろう?なにゆえ、此度は─「国王、発言の許可は出ておりませんぞ」
「ぐっ!」
レクールが検事を務めることを知らなかったマークは焦りながらも口を挟むが、判事に諌められる。
なぜ、マークがレクールが出てきたことに焦ったのか。
それは、シギナ公爵が宰相となる以前、検事時代に扱った事件が全て求刑通りの判決を取っているからである。つまり、レクールは無敗の検事。自分の息子が罪人であるマークにとって最悪の人選であった。
「罪人タント・クルニスは昨日、地下の禁書保管庫の扉から出てきたところを執事長のゲルゲル・ゲーンに目撃される。そしてその二分後、憲兵により拘束された。以上」
「なるほど、罪人は禁域である禁書保管庫に立ち入った。罪人よ、この事実に間違いはないか?」
タントは法廷の中央左に座らされている。手足には枷が付けられており自由に身動きは取れない。許されているのは発言のみである。
「ああ、間違いない」
タントの表情に恐れはない。怒りも無ければ、絶望の色も見えない。いつもと変わらぬ表情をしている。
「結構。では、検証に移る。証人喚問を行う」
判事がそう告げると証人席に執事長が立った。
「証人。貴殿が見た事実だけを答えよ」
「は、はい!私は見たのです!まず最初に、ら、ラスバ様が地下から逃げるように駆け上がって来たので何かあったのかと思いました。それを確認しようと旧図書室の扉を開けると、タント様が手を扉に!」
「結構。罪人、何か申し開きは?」
「ない。驚かせて悪かったな、爺や」
「お労しい限りでございます」
「では、罪人に問う。貴殿は何を目的として禁書保管庫に立ち入ったのだ」
「時はきた。それだけだ」
「つまり、どういうことなのだ?」
「もとより俺は罪人だ」
「余罪があると?」
判事が尋ねると、タントは自嘲気に笑った。
「あるのならば、今ここで告白しなさい」
「………」
「結構。では、次の証人に移る」
執事長が退席し、証人席の前に台が置かれる。次に現れたのは弟のラスバであった。
「では、証人。幼いながらもこのような場に召還させたことは心苦しいが昨日、地下であった事を話してほしい」
レクールがそう告げると、ラスバは呆けたように首をかしげた。
「うーんと、僕は昨日、地下になんて行っていません」
#¥
なぜ兄さんは真実を訴えない?
僕を庇っているのか?いや、違う
利用されているんだ
彼が希死念慮を抱いていたことは普段の態度から解る
僕はそれを知りたい
だから、まだ死なせるわけにはいかない
それに、これは僕が招いた事件なのだから




