13.凡凡は独房にて
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確か、あの日もこれくらい寒い日だっただろうか
あのときは寒いという思考以外は何も浮かばなかった
いや、それだけでない
死
その言葉が、風が吹く度に、脳裏に刻み込まれた
かの日の想い出が、また別の日を思い起こさせる
あの日は強烈な飢餓に襲われた
腹が空けば、土を喰らうなど
喉が渇けば、泥を啜るなど
それで確かに腹は膨らむし、喉も潤う
決して惨めとは思わなかった
これは試練だと
ただ、そうは思えどやはり王宮での日々が恋しかったのに違いはない
あぁ、あのときは若かった
俺にもあると思っていたのだ
英雄となる素質が
国記たちに記された
あの偉大な
憧れの
英雄に...
けれど
夢物語はやはり夢であって
現実という残酷で非情な真理が
私を目覚めさせた
夢酔いが覚めた頃には
宮殿での生活が
王族という立場が
いかに恵まれたものかということを
肌身に
脳裏に
深く染み込んだあの感覚は
今も新鮮に感じることができる
だから、私は誓った!
『平凡』に生きると!
誓った
誓ったんだ
それからは、父の生き方を模倣した
彼が記した皇太子時代の自伝を五冊ほど読み古した
なので、周りは凡凡だの出涸らしだのいうが
父は決して何も言って来なかった
民衆の中には嘲笑だけでなく、同情する者もいた
可哀想に、時代が違えば、秀才であったのに
そんな気持ち悪い言葉が時折送られてくる
わかった風に、理解者であるかのように、
汚い舌で傷口を舐めてくる
辛いねぇ
羨ましいだろうな
妬ましくないはずがない
憎い
そんな穢れた悪意が蓋した夢を熱する
本当の望みはそうでないのだろうと
今の俺を否定する
でもその蓋を開けても
もう中身は空っぽだ
そうだ
あれは呪いなんかではない
あれこそ、祝福されるべきものなのだ
呪いというものは
彼らにも不幸あれ
そう願っていた俺の祈りに他ならない
だから、俺は消えるべきだ
人を呪う怨念の形をした化物は
還るべき場所へと還らなければならない
ラン、エガ、マロン、ティワ、ザグド、サーラ、母上───
なぜ、俺には力が無いのだ
なぜ、俺はこんなにも弱い
なぜ、俺は生きている
なぜ、俺が生きている
夢見た代償は俺には払えそうにないもので
その代わりに大切なものを奪っていった
俺の身勝手な行動が周りに不幸を撒き散らした
あぁ、なんだ
俺も持って生まれてきているんじゃないか!
人を不幸にする呪いを!
審判の時は来た
裁かれる時が来た
遅かれ早かれ
俺は地獄へ落ちなければならない




