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1.凡凡王子は何を夢見る?

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 例えば、膨大な魔力を持って生まれたとする。


 例えば、計り知れぬ智力を持って生まれたとする。


 例えば、強靭な肉体を持って生まれたとする。


 そんな恵まれたものを持って生まれたら大抵の者はきっと、己の欲望を満たすために使うことだろう。富、名声、権力はもちろん、その道の探究も例外でない。もっとも、そんな化物なんてそうそう生まれやしないだろう。いたとしても、1時代に1人ぐらいが相場だ。


「だが、生まれてしまったんだなこれが。それも一気に」


「タント殿下、夕食の御時間です」


「はいはい、すぐ行く」


 タント・クルニスはエヴンダ王国の第二王子である。16年前に生を受け、現在は学園に通いつつ、公務をこなしている。


「遅いぞ、タント」


 タントを叱責するのはこの国の第一王子であり現皇太子であるアルスタ・クルニス(20)。彼は建国史上最大の賢人と呼ばれ、産声は泣き声ではなく、聖正書の一節であったという逸話を持つ。現在は国の外交大使を務めつつ、史学の研究にも熱を入れているという。ちなみに彼は三歳の頃に学園を卒業した。また、彼が出した論文は全世界の史学をひっくり返すものであった。これにより、長年続いていた魔族との抗争に終止符が打たれることとなったのは記憶に新しい。


「兄上、時限の厳守くらいはなされた方がよろしいですよ」


 嫌味を吐くのは第三王子であるディーン・クルニス(14)。彼は三国最強の武人。つまり、魔国を除く全ての国の中で肉体的に最も強い男なのである。剣技はもちろん、マーシャルアーツ、その他武芸全般において、比類なき才能を発揮させている。そして、なによりも特筆すべきなのはその肉体である。その肉体は生涯傷つけられたことはないという。彼が持つ出産逸話は、彼が自らの力で産道を這い出し、そのまま自力で湯浴みをしたという。


「そんなことより、早く食べようよ」


 冷淡な態度を取るのは第四王子であるラスバ・クルニス(6)。彼は、おそらくこの世で最強の魔法使いである。他人にその才能を必死に隠しているが、タントはある夜、彼がとんでもない魔法の実験を廃庭でしているのを目撃している。その魔法の威力は天を穿ち、空を割った。文字通りパキパキと。慌ててラスバが何かを唱えて事なきことを得たが、その日の洗濯物にズボンが一着増えたことはメイドたちだけの秘密だ。彼が持つ出産逸話は、出産を終え、疲労した母に回復魔法を施したという。


「ハハ、すまない」


 対して、タント・クルニスは?


 彼は何の才能がある?


 もちろん、彼にも才能はある。


 それは、平凡という万人が持ちうる才能。


「他の皆は?」


「父様は会議、母様は会食、ラディナを始め妹たちはパーティーだ」


「そ、そうか」


「兄上、早くお座りください。ラスバに至ってはもう5分も待っています」


「あ、すまない」


 ディーンが急かすとタントはばつが悪そうにラスバにペコリと頭を下げた。


「構いませんよ、タント兄さん」


「さあ、揃ったことだ。給仕、食事を運んでくれ」


 なんとも重苦しい雰囲気で食事が始まったように思えるが、当人たちはそうは思っていない。それは、タントにも当てはまる。彼自身、居心地が悪いとは毛ほども思っていない。だが、居心地が良いとも思っていない。なぜなら彼にとって、これは会食と変わりないからだ。兄弟といえども、距離感はもはや天と地ほどの差がある。きっとそれはタントだけなのだろうが。


    ##


 俺は神に感謝している。王族として生を受けたことに。しかも、煩わしい才能など持つこともなく。才というのは諸刃の剣だ。それ相応の利益は得られるが、また同時に相応のリスクと責任を伴う。また、道理として光と闇は惹かれ合うというものがある。俺の兄弟が強烈な光とするならば、陰に潜む闇もまた濃く深いものだろう。


 あぁ、考えるだけで嫌になる。そんな痛くて苦しくて辛そうな面倒事に巻き込まれるのなんて御免だ。せっかく王族として生まれてきたというのに宿命などというくだらないものに絡み付かれるだなんて。生きているというだけで、美味い食事、暖かい布団、高価な服が与えられるのだ。公務というものも、この生活を考えれば苦ではない。むしろ、労力と報酬が良い意味で見合っていない。そう、生まれた時点で俺は『勝ち組』なのだ。


 そう考えると、我が兄弟が不憫でならない。どうして、才能という呪いを持って生まれた来てしまったのだろうか。きっと前世で深い業を積んでしまったからに違いない。だから、俺は寝る前に神に祈る。『どうか、我が兄弟の罪が赦されますように。そして彼らがもたらす(わざわい)に巻き込まれませんように』と。


 世は俺のことを出涸らし王子だとか、凡凡王子だとか嘲笑の的にする。だが、所詮それは無い者の僻み妬みに過ぎない。腐っても王族だ。たとえ、公爵に落ちようとも最上流に変わりない。だから、俺はこの血の恩恵を最大限に謳歌する。


 あぁ!平凡万歳!王族万歳!出涸らし万歳!

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