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ジルベールの呪い〜ダールトン編①〜

 我が世の春とはこの事だ。


 後に生まれたというだけで、虚弱な兄に王位を奪われ、アルゴスター公爵家などという役不足な家に押し込められて二〇年以上。

 耐えた甲斐があったと思えるほどの栄華を吾輩は堪能している。

 兄やジルベールは軟弱であったが故に王でありながら常に悩み苦しんでいたようだが、吾輩からすれば馬鹿げている。

 強い力と心を持って好き勝手していればあとは周りが盛り立ててくれる。

 それが国王という立場なのだ。




 新調したシャンデリアが王宮内のダンスホールをオレンジ色の灯りで照らす。

 外は夜の闇に包まれているというのにここは晴天の下のように明るく、色とりどりの花畑のようにカラフルなドレスに身を包んだ娘たちが咲き誇るように舞っている。

 国王になって以来、吾輩は毎夜、舞踏会を開くことを命じた。

 国中の貴族が入れ替わり立ち替わり、自らの妻や娘を連れ立って吾輩に忠誠を示しにやってくる。

 ようやく取り戻した権力を実感できる素晴らしい時間だ。


「今宵はこのような華々しい催しにお招きいただき光栄にございます。

 陛下のご活躍は辺境たる我が領にも伝わっております。

 御世が続く限り、この国は安泰だと確信しておりまする」


 今、目の前で頭を下げておるのはゴルディア伯爵。

 恭しい態度を取っているが、吾輩が公爵だった頃は一度しか挨拶に来なかった。

 王位を継げなかった事を見下していたに違いない。

 そのくせ即位した途端、挨拶に来たがった。

 当然、無視をし続けた。

 都合がいい時だけすり寄ってくる男は信用できんからだ。

 しかし今日、呼んでやった事で奴は吾輩の懐の広さに感謝している事だろう。


「余が過去のことを引き摺らないさっぱりとした性格で良かったな」


 吾輩がそう言うと感動のせいか、一瞬呆けたような顔をしたが、慌てて表情を引き締め直した。


「は………っ、おっしゃる通り!

 陛下は人の上に立つべくして立たれたお方にございます!」


 気に食わない男からであっても褒められて悪い気はしない。


 見計ったように奴の後ろに控えていた深紅のドレス姿の若い娘がスカートの裾を掴んで挨拶をする。


「偉大なる国王陛下。

 お目にかかれて光栄にございます。

 ゴルディア伯爵家が娘、スカーレットにございます」


 若々しく跳ねるような栗毛は生気にあふれている印象を受ける。

 二の腕やくるぶし、胸元など布で覆われていない部分を思わず目で追ってしまう。

 瑞々しく滑らかな艶肌。

 あどけなさの残る顔立ちも背徳感を掻き立たせてくれるので悪くない。


「スカーレットか。近う寄れ。

 我が膝の上に座る事を許そう」


 と、吾輩の世話をさせてやることにしたのだが、何をトチ狂ったのか伯爵が騒ぎ立てる。


「陛下!? お戯れを!

 この娘は私の実の娘でございますよ!?」

「だからどうした?」

「娼婦の真似事をさせないでください!

 夜伽の相手が欲しいのであれば相応の格の娘に————ギャアッ!?」


 奴の反論を遮るため、護衛騎士に殴らせた。

 唇から血を噴かせ床に尻餅を突いた。

 その様子を見下ろして吾輩は怒鳴りつける。


「自惚れるなぁっ! たかが伯爵風情が国王に意見するのか!

 貴様の娘も、娼婦も、余にとっては等しく下賤の者だぞ!

 お情けをくれてやるというのだから有り難く思え!」

「クッ………………」


 反抗的な目をしていた伯爵だったが仮面を被るように表情を殺して、吾輩に頭を下げる。


「どうか……お許しください……

 この子には婚約者もいるのです。

 齢16を数えるまで窮屈な想いをさせながらも手塩にかけて育てた自慢の乙女なのです。

 無垢な身体のまま嫁入りさせてやってください」


 ろくに挨拶も来なかった不義理な男が虫のようにみっともなく頭をぺこぺこ下げて同情を買おうとしている。

 これが力というものだ。


 奴を嘲笑い、構わず娘を口説いた。

 娘は表情こそ強張っていたが黙って大人しく我が膝に腰を下ろした。

 宴が終わった後、目論み通り娘を部屋に連れ込み、抱いてやった。

 初めてのことだったせいか、ことが終わると塞ぎ込むようにして寝てしまったのはつまらないが、まあ良い。


 思えば、吾輩ほどの立場の人間が愛妾を囲うことが許されなかったことはどう考えてもおかしい。

 アルゴスター家には婿入りという形で入った上に妻は嫉妬深く陰湿な女だったので浮気は許されなんだ。

 そのせいで男児に恵まれず、ジルベールにフランを嫁がせて王室に血を戻すような姑息な手しか取れなかった。


 だが今は違う。


 吾輩は今、世継ぎを残さねばならん。

 40を過ぎて落ち着きがないように思われるかも知れんがこれは王としての責務だ。

 故に毎夜、舞踏会を開いてはそこに集う娘たちに情けをかけてやる。

 これは臣下に対する踏み絵ともなる。

 最愛なる妻や娘を笑って差し出すことができる者でなければ信用などできん。

 最後まで文句を垂れていたゴルディア伯爵には制裁を加えてやらねばなるまい。

 もし、男児を授かったのならば勘弁してやらんでもないがな。


 泣き腫らした顔で眠る奴の娘を見てほくそ笑んだ。

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