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ジルベールの呪い〜イーサン編②〜

【英雄イーサン、抵抗できない非力な民衆を脅迫!? キングスレイヤーは貴族の狗なのか!?】


「どうですか? よく書けているでしょ」


 童顔の新聞社員、ステファンは嬉しそうに印刷前の記事を憲兵団の本部にいる俺に突きつけてきた。

 憲兵団の上層部も同席している。

 彼らは記事の内容を見て怒りと焦りで顔を真っ赤にしていた。


 俺は呆れた気持ちでステファンに言う。


「デタラメも良いところだ。

 俺は法に則って、暴動寸前の集団に解散を命じただけだ」

「でしょうね。ですが、それはそれ。これはこれ。

 こういう記事が出回ったらどうなるか、想像がつきますよね」

「ああ、これこそ脅迫だな。

 憲兵団の本部で……ふざけた奴だ」


 逮捕しようと立ち上がったところを上層部の一喝で阻まれた。

 ステファンはご機嫌そうに笑う。


「そうそう。これはあなたの名誉だけの問題じゃない。

 ジルベールの呪いの広がったこの状況で貴族と平民の対立は避けたいでしょう」

「呪い? あの病はただの伝染病だろう!

 賢い民衆はすでに王都を去っている」

「ですねえ。残っているのは揃いも揃ってバカばっかだ。

 ちなみにあの病の原因はジルベールが逃げ回ったあの日、奴めがけて民衆が投げつけた汚物のせいらしいですよ。

 わざわざ下水道から汲み上げて来たものだから毒素も濃縮されていたんでしょうよ。

 民衆同士で投げつけあって、しかもそれを放置してしまったらしいですからね。

 ハエやネズミがそれにたかり一気に感染拡大です。

 もう平民の住む区画は怖くて寝泊まりできなくてね。

 私も貴族街に居候させてもらっています」

「そこまで分かっているなら!

 なぜ貴様らは事実を報道せずに呪いなどと!」

「んなもん意味ねえからに決まってんだろうがぁっ!」


 突如熱湯が沸いたようにステファンは爆発するように怒鳴った。


「伝染病の原因は皆さんでした、なんて言われて納得するほどまともな人間じゃねえだろ、愚民どもは。

 クソ投げつけた連中を迫害してその辺で私刑リンチが横行するだけ。

 それよりもいなくなった王様を呪っている方がみんなで気持ちよくなれるじゃんか」

「気持ちよく? 怒らせることが?」

「ンフフ……報道の仕事の面白さってなんだと思います?

 ウチの社長はさぞかし意識高い事を仰るんだろうけど俺はもっと短絡的でね。

 報道の仕事とはどうにかして愚民を満足させるサービス業だと思ってるんですよ。

 もっと言えば娼館かな。

 うだつの上がらねえ亭主が娼館で女抱く時だけ強気になったりするでしょ。

 あれと一緒さぁ。

 愚民は華々しい活躍もできず、暴力で他者を牛耳ることもできない。

 そんな弱者に唯一残された娯楽が、怒ることなのです。

 今、手出しのできない俺に対して怒っていると気持ちいいだろ?」


 にやけヅラのステファンを前にして俺は拳を握りしめていた。

 陛下の怒りが、ようやく本当のところで理解できた。

 ただ、自分が嫌な思いをするだけではない。

 生きている限り、これから先の未来も犠牲者が出ると分かりきっている程の悪意を持っている悪党を処罰できず見過ごすしかできない悔しさ。

 こんなものにあの方は振り回されていたのか、と今更ながら慮る。


「時間を戻せるのなら、陛下を逮捕するのはお前らを殺した後にする」


 考えていることがそのまま口に出てしまった。

 上司達は声を上げて俺を叱責する。

 俺は悔しさに顔を歪めているのだろう。

 ステファンはニコニコと子供のような笑みを浮かべた。


「気持ち良くなってもらえたみたいで結構。

 さて、そろそろ本題に入りましょうか。

 まー、ぶっちゃけこんな記事ボツで良いんですよ。

 手ぶらで交渉ってわけにはいかないから用意立てただけでね」

「交渉だと? 憲兵団相手に?

 調子に乗るのも大概にしろよ。

 まさか受刑者の釈放みたいなテロリストじみたことを言うんじゃないだろうな」

「真面目な市民相手に酷いですね。

 流石に法を曲げろなんて言いませんよ。

 あなたの裁量でどうにでもなるハナシです」

「俺の?」

「ええ、あなたを我がウォールマン新聞社に招き入れたいのです。

 これから設立する私兵団の団長として、ね」

「私兵団、だと?」


 予想外の話に面食らった。

 たしかに商会や貴族で私兵を持つと言う話は聞かないわけではない。

 憲兵から高待遇で引き抜かれるという話も耳にしたことがある。


「新聞社ごときがなぜ私兵を、と思われたかもしれませんがあんな事件があったんです。

 警戒するのは当然でしょう。

 それに元々、報道取材は命がけのところがありますからね。

 犯罪者の逮捕と取材が一気にできれば効率的じゃないですか」

「憲兵の職を辞さぬまま、貴様らの狗になれと?

 バカめ。憲兵の兼職は法で禁じられて」

「原則としては、でしょう。

 行政府から特例として認められたケースはいくらかある。

 ウチの社長はダールトン陛下と仲がいいですからなんとでもなりますとも」


 冗談じゃない。


 コイツらの悪事に加担するくらいなら死んだほうがマシだ————


「まさか、舞台から降りるんじゃないだろうなぁ?

 ジルベールを国王の座から引き摺り下ろした張本人たるキングスレイヤーが!」

「!?」


 挑発だ。分かっている。

 だが、奴の言葉は俺の胸の最奥にまで突き刺さっている。


「この国の在り方は変わります。

 良くも悪くもジルベールとダールトン陛下では思想も気質も器量もまるで違う。

 私たちウォールマン新聞社はその動向を追い続けますよ。

 それが役割だと考えていますから。

 キングスレイヤー、あなたは無責任に自分に与えられた役を投げ出しますか?」


 ……分かりきっている。

 コイツらは俺を利用して今まで以上の悪を為そうとしている。

 しかし断れば、陛下に対して行った事を俺や憲兵団組織に対して行うだろう。

 憲兵の権威を失墜させられれば市井の暮らしは守れなくなる。


 それに……俺は、奴の言う通り、この国の現状を生み出した人間の一人。

 ジルベール陛下の逮捕は俺にキングスレイヤーという悪名と消せない罪を俺に背負わせた。

 それから逃れるために死んだり世捨て人になってしまえば、俺は再び、あのお方を裏切ることとなる。



 ステファンの提案を呑んだ。

 すると上司達は胸を撫で下ろすかのような表情を浮かべた。

 保身だとは思わない。

 憲兵団を守らねば国が傾くのだから。

 俯く俺の肩を叩いたステファンは耳元で囁く。


「ようこそ、同僚。

 ま、仲良くしよーぜ」


 ジルベールの呪い、などというものがあるとすれば、それはきっと、俺に今降りかかっているものだろう。

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[一言] 情けない…一生後悔し続けろ。
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