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幼馴染にバラまけない復興支援①


 聖オルタンシア王国は建国500年を迎える歴史を誇り、国土は広く、温暖な気候と肥沃な大地に恵まれた豊かな国だ。

 農民達は作物を育て、狩人は獲物を狩り、職人は道具を作り、商人達はそれらを世に回す。

 周辺諸国と小競り合いのような紛争はあれども無敵の王国軍は敗北を知らず、辺境で強大なモンスターが暴れれば領主は兵を挙げ、さらに冒険者ギルドに所属する冒険者達がわれ先にと討ち滅ぼす。

 子どもたちはよく遊びよく学び、若者は勤勉に働き家族を築き上げ、年寄りたちは穏やかに余生を楽しむ。

 美しく調和の取れた民の暮らしを私は愛し、そして彼らのことも愛していた。

 愛する彼らのために理想の王であろうと即位してから三年間、ひたすらに尽力してきたつもりだ。



「ジルベール陛下……いったいどういうおつもりですか?」


 財務大臣が唇を震わせて私に問う。

 彼の手にはモンスターの被害に遭った辺境伯領に対する支援計画の書類が握られている。

 私が作成し、国王特権により議会に提出し、この場で承認を受ければすぐにでも動かせる計画だ。


「見ての通り、食糧の支援と復興工事のための人足の派遣。

 それに加えて犠牲者兵士の遺族に支払う弔慰金等の費用を国庫から供出する計画書だが」

「そんなの見れば分かります!

 言いたいのはこの支援が随分と手厚いことです!

 やはり……友人であるシュバルツハイム辺境伯の領地だから特別に便宜を計っているのですか!?」


 またか……と思った。

 私が何か政策に口出しするとこのように私的な権力の濫用を疑われる。

 他の者ではしがらみに捉われ手を出し辛い問題を国王の権限で率先して解決しているだけで私情を挟むつもりはさらさらない。


 それなのに賄賂だのえこひいきだの言われるのは甚だ遺憾だが、声を荒げたりはしない。

 立場が悪くなるだけだからな。


「シュバルツハイム卿が余の旧い友人であることは事実だが、王位についてから個人的な交友は行っていない。

 支援が厚いのは彼の領地がヴィルシュタイン王国との国境に隣接した戦略的重要地域だからだ。

 復興が遅れたり、混乱が続いたりすれば侵攻の隙を与える。

 それに討伐難度S級に値する大型のドラゴンを複数体討伐してくれたのだぞ。

 本来なら領地を増やしてやっても良いくらいの功績だ。

 戦費や犠牲を払わせるだけで、補填や補償をしないなどと言えば我が国を捨て隣国に与するだろう。

 要するにこの計画は国のために金を使うのだ。

 何の問題もない」

「……かしこまりました。

 王の勅命ということで、この計画を遂行します」

「うむ、良きに計らえ」


 私と財務大臣とのやりとりは同じ議事場にいる50名近い人間に見られている。


 国政の中枢である王国議会。

 王都に住む32名の議員からなる立法府である。

 かつては貴族だけで構成されていたが、最近では平民身分の有力者もその席を得るようになり、政治に平民の声も少しずつ取り入れられるようになりつつある。

 この王国議会によって決定された政策を行政機関である執政府が遂行する。

 先程、私に質疑を問うていた財務大臣は執政府の金庫番である。


 国が富むにつれて国家運営に必要なものは強力なリーダーではなく、有能な参謀達が構成する強固な組織と代わりつつある。

 それでも国王は変わらず、王国議会の最も高い場所に座り、執政府の首相としての地位を兼任している。

 法案や政策の最終承認を行ったり、公職の任命などを行う権限を与えられている。

 そのことを面白く思わない者もいるのだろう。

 議会の一番入り口に近い席に座っている議員が私を見て意地悪そうに笑う。

 薄い紫色の髪を几帳面に整髪膏で固め後ろに流しているキツネのような顔つきの男。


 ジャスティン・ウォールマン。

 王国議会の数少ない平民議員である彼は有力な大商人の父を持つと同時に、彼自身も国内最大の新聞社『ウォールマン新聞社』の経営者でもある。

 世間では彼を育ちの良いやり手の実業家程度に思っているらしいが、私の値踏みは異なる。


 50年ほど前、活版印刷の技術が確立されると同時に情報屋と呼ばれていた裏稼業のゴロツキどもが新聞業を始めた。

 情報を大衆に向けて売る商売を始めたのだ。

 その商売と、それに携わる者達はいつしかマスコミと呼ばれるようになった。


 最大手の新聞社の社長であるジャスティンはマスコミの代表格であり、そして私の首を狙っている野心家だ。

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