報いを受ける②
裁判所に出廷した私は既に抜け殻のようになっていた。
読み上げられた罪状はウォールマン新聞社への放火、社内にいた人間への暴行及び、殺害。
フランチェスカやダールトンにした事は罪に問われていなかった。
罪の否定も反論も、しようと思えばいくらでもできたと思う。
全ての死人は火の中で焼け死んだ。
焼死体が発見されたのは低層階に不自然に集中しており、逃げられなかったとは考えにくい。
だが、今更、罪から逃げようと思わない。
私が火をつけなければ死なずに済んだ人がいた。
それがすべてだ。
擁護も反論も一切ないまま罪を受け入れるだけの裁判は進む。
あまりに早すぎる進行に裁判所内は怪訝な雰囲気になってしまっている。
それを見かねたのか、白髪の裁判長が直接私に問いかけてきた。
「陛下……覚えていらっしゃいますか。
あなたが王位に就かれる前、サイサリス旧侯爵の悪事を暴いたことを」
「ああ。覚えている。
王族の立場を濫用して臣下の者を苛めた事件として報道されたな」
思えば、あれが全ての因縁の始まりだった。
マスコミに対して不信感を抱き、即位してまず改革を行おうとした。
しかし、マスコミと繋がりがあったり、弱みを握られていたりしている議員の猛反対をくらって頓挫した。
そこから、私に対する攻撃が本格化した。
偏向報道、印象操作、事実の捏造。
現代において、情報という武器を制したマスコミの力を思い知らされた。
裁判長はふと穏やかな表情になり私に話しかける。
「実はあの事件、私が検察官を担当したのですよ。
王国屈指の大貴族による麻薬の密売なんて大事件に携わるなんて夢にも思わなかった。
相手が相手です。
逆恨みをされれば私は勿論、一族郎党に至るまで悲惨な末路を辿ることになる、と震え上がったものです。
それでも、勇気を持って裁判に臨めたのは、貴方様の正義に感銘を受けたからです。
世論は貴方様を愚王と呼びますが、私はそうは思いません」
「意義ありぃいいいい!!!
我が国の碩学にして法の番人たる裁判長が個人的な好悪を判決に反映させるつもりかああああああっ!!」
裁判長の言葉を遮るように、原告席から声が上がる。
新聞社にいた童顔の男だ。
名前はステファン・ランティス。
ウォールマン新聞社とロイヤルベッドの関係を調べていた時に捜査線上に挙がっていた男だ。
子供のような見た目なのに既に30を過ぎているらしい。
だが見た目とは裏腹に悪辣で危険な男だ。
「そうだ!! 裁判所は王族に忖度するのか!!」
「ウチの娘の死を汚い権力で踏みにじらないで!!」
「甘い判決をくだしたらただでは済まないぞ!!」
傍聴席からも非難の声が上がる。
マスコミ関係者だろうか。
文字だけでも不快なのに実際に目の当たりにすると辟易としてしまう。
それは私だけではなかったようだ。
ガンッ!! と裁判長が卓上を木槌で強く叩いた。
「静粛に! 法廷侮辱罪の存在を知っておろうな。
ここは王国法の最後の砦たる王国裁判所。
諸君らが放言の限りを尽くしている新聞紙上と同じ調子が許されると思ったら大間違いだ!!
文句があるならワシを裁判にかけてみよ!!」
裁判長の一喝にステファンも傍聴席の連中も水を打ったように黙った。
威厳ある姿に、私は感銘を受けた。
私にはこれができなかった。
うつむく私に裁判長は打って変わって穏やかな口調で語りかける。
「貴方様が粛清に乗り出されたということは、思うところがあったのでしょう。
事実、マスコミが新聞という媒体を使って行なっていることは他の者が行えば名誉毀損や業務妨害で訴えられるものも多い。
ですが……それでも法は暴力を許容しません。
人類が他の種族と異なり、巨大な社会を形成してこれたのは暴力以外の解決手段を持てたからです。
私どもが法を守るのは人類の社会を守るためなのです」
「……分かっている。
あなたはあなたの職責を全うしてくれ。
私は間違えた。間違え続けた。
せめて、この身に法の裁きを課すことで、法は王族の権威に勝るという判例を残してほしい」
私の答えに裁判長はふと憐れむような目をして、会話は終わった。
「判決を言い渡す。
被告を————アルケー島への流刑に課す」
……島流しとはまた前時代的な。
死罪を免れたのはフランチェスカの助命嘆願が功を奏したのか。
どちらにせよ、王位は剥奪され、王族からも追放。
帰還も許されず、他人との接触を禁止されて遥か遠い流刑地で無為に過ごすなど死んだも同然だ。
裁判長は長々と形式的な内容を述べて、最後に私に尋ねてきた。
「以降、国民との接触を禁止され、すべての発言を禁じます。
その前に言い残すことはありますか。
調書に残し、永久に保管しましょう。
たとえ、マスコミ連中が捏造報道を行おうとも、この場で残された言葉は曲げさせません」
最後の言葉か……
ちょうどいい、私の無念はすべてこの地に置いていこう。
「敵国よりもドラゴンよりも恐ろしい敵がすぐそばにいる。
奴らは無実の者に罪を着せ、罪深き者を無実にする力を持つ。
民よ、どうか気づいてくれ。
私の蛮行が無駄にならないように」
マスコミ関係者が怒りの目をこちらに向けている。
構うものか。
「私は過ちを犯し、そのために裁かれる。
これは人類が何千年とかけて磨き続けた法律によるものである。
異論はない。
しかし、奴らの罪はきっと……原始的な手段によって裁かれるであろう。
安全なところから他人を攻撃して正義を騙る者の末路はそういうものだ。
いつか、報いを受ける日が来ることを心待ちにしている。以上だ」
予言……いや、ただの呪詛。
裁判長は憐みを隠そうともせずに、重苦しい口調で閉廷を告げた。




