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王族の面汚し④

 私は努めて優しく、彼女に愛称で語りかけた。


「フラン。お前には色々迷惑をかけた。

 そもそもそこの愚物の機嫌を取るためにお前を娶るようなことしなければよかった。

 お前のような売女に王妃の椅子はさぞかし座り心地が悪かったろう」

「陛下! お、お許しください!

 父やそこの男は生かしておいても何の役にも立ちませんでしょうが私は役に立ちます!!

 陛下の……陛下のために身と心を尽くして奉仕いたします!!」


 そう言って私に跪き、ズボンのベルトに手をかけてきた。

 寝室からここまで全裸で歩かされて、羞恥心が麻痺しているのか?

 こんな日の下で何を始めるつもりだ。


 奴の髪を掴んで持ち上げると「痛い痛い!」と悲鳴を上げた。

 その声が耳に触った。

 どれほど憎く嫌いな相手でも女というだけで暴力を振るうのに不快感を覚える。

 しかも不快なことにコイツの髪や肌や目の色がレプラに似ているのだ。

 典型的な貴族美人ノーブルビューティ

 今更、どう思われようと構わないが生理的にやりたくないことを相手を苦しめるために行いたくない。


「なあ、貴様は今まで何人の男に抱かれてきた?

 恥ずかしがらなくても良い。

 今更少なく申告したところで罪が軽くなるわけでもないしな」


 ポイ、と地面に放り捨てられたフランチェスカは怯えた目をして答える。


「お、覚えていません……

 実家にいた頃は……ぶ、舞踏会や、その……特殊な趣向のパーティに通っていましたので……数を気にしたことは……」


 コイツ……本当に私と同い年か?

 想像の斜め上を行く返答に困惑してしまう。

 私よりも聞き耳を立てていたダールトンの方にダメージが行ってそうだ。


「そ、そうか…………その、ご盛んだな……」


 身を焼くほどの怒りの火が弱まりそうなくらいフランチェスカの性的な倒錯ぶりの凄まじさに圧倒されている。

 あの父親の影響を受け、贅沢に甘やかされて育ったのならば歪んで然るべきか。


 しかし、ブレかけた復讐心に喝が入れられる。


「陛下っ!! 寛恕を与えてはなりません!!

 王妃————その淫売は私に命じて間男どもを殺害しております!!

 それも、一人二人ではございません!!」


 サリナスが悲痛な叫びを上げ、私の背筋が冷たくなった。


「黙りなさい!! サリナスっ!!」

「私に命じるのも慣れたものでした。

 おそらくは常習犯でしょう。

 それに間男だけでなく、私の前任の寝室守護の護衛騎士も不自然な死を遂げております!

 自らの不貞を隠すためであれば他人の命を奪うことに躊躇わない!!

 悪魔のような女にございます!!」

「そんなっ!! 言いがかりです、陛下!!

 私はそんなことを命じておりません!!

 その不忠者が犯した罪をなすりつけようとしているのです!!

 信じてください!!」


 涙ながらに訴えるフランチェスカ。

 私は即答する。


「信じるわけなかろう」

「へいかっっ!?」

「ああ、お前の不貞についての捜査が行き詰まるわけだ。

 既にこの世にいない人間のやったことを暴くのは難しいからな。

 これで辻褄が合う。

 …………道理にそぐわない暗殺命令は王族であろうと殺人罪が適用されるぞ」

「お、お気を確かに!!

 私が殺したのは浮気相手ですよ!!

 王妃の腹に胤を仕込もうとした反逆者です!!

 どのみち死刑となる者たちではありませんか!?」


 凄いなぁ……とんでもない論理だ。

 しかもそれが詭弁とすら思っていない。

「私、間違っていませんよ」みたいな顔でのたまっている。

 自分もその反逆者の一味、いや首領格であることを忘れているのだろうか。


 まあ、追い詰められた気狂いの戯言よりも、重んじたいのはサリナスの忠義……いや、罪悪感か。

 以前も王妃を斬らせてほしいと懇願していたな。


「サリナス・フォン・レイナード。

 穢れた命令により忠義高く由緒あるレイナード家の剣を血で汚したこと……主君として謝罪する。

 すまなかった」


 私は頭を下げた。

 するとサリナスはだくだくと大粒の涙をこぼして地面に平伏し、頭を擦り付けた。

 激しく嗚咽していて背中が上下に震えている姿は重荷から解放された喜びに震えているようにも見えた。

 さて————


「フラン。貴様は王族の面汚しだ。

 王国史上最悪の悪女として未来永劫語り継がれよ」

「陛下っ————きゃああああああっ!!」


 私はフランチェスカの両手首を縛り付けて、裸婦像の頂部に吊るす。

 さらに、股を開かせた形に縛り付けて固定する。

 そして、下にいるダールトンの頭を掴み、フランチェスカの腿の間に近づけていく。


「う……嘘……!?

 陛下! お許しを!! やめ……それだけはおやめください!!」

「お前に忌避するものがあろうとはな。

 良いではないか。

 親子仲睦まじいのだ。

 それを周囲に見せつけてやれ」

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」




 完成した。

 悪趣味な先祖の残した茨の裸婦像に間男、義父、妻を()()()、括り付けた。

 しかも一糸纏わぬ姿でだ。

 間男の腹には『王妃の玩具』。

 ダールトンの背中には『無能な俗物』。

 フランチェスカの腹には『淫乱殺人鬼』。

 とそれぞれ血糊で文字をデカデカと書いてやった。

 ダールトンがもう少し美しければ芸術っぽくなったかもしれないが、これはこれで趣深いものだろう。多分。


 日が完全に昇っている。

 私の作品製作を距離をおいて見ている者の数は何十人もいる。

 ほとんどが王宮の使用人たちだ。


 シウネの作ったカメラがあれば……このザマを王国中にばらまけたのだが————よそう。

 マスコミ連中と同じことをするのは気分が悪い。


 私は息を吸い込み声を張り上げる。


「こやつらは罪人である!!

 王家の品位を貶め、臣下の命を身勝手に奪い、王位の簒奪のためあらゆる非業を行った許すまじき悪である!

 よって、王命によりこやつらはここに晒す!!

 決して余が許すまで解放するな!!」


 視界に入っている者たちは直ちに平伏し「ハハァッ!」と言って命令をうけいれた。

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