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王族の面汚し②

 混沌とした沈黙を破ったのはフランチェスカの涙声だった。


「へ……へ、陛下!! 違うんです!!

 この男が私の弱味を握って……それで私は脅されて仕方なく————」

「お、王妃様!? それはないでしょう!!

 俺はこんな危ない橋渡りたくなかったけど、金積まれたから」

「黙れえええええええっ!!

 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ!!

 死ねっ!! 死ねぇっ!!

 舌を噛み切って死ねええっ!!」


 顔を真っ赤にして髪を振り乱しながら怒鳴り散らすフランチェスカ。

 絶世の美姫の面影はどこにもない。

 ああ、ダールトンもいい顔をしている。

 流石のヤツもこの状況で愛娘の言うことを信じてやれないようだ。

 問答無用で殴り飛ばすには、もったいないな。


「フランチェスカ。お前が間男を招き入れていることは知っていたよ」

「違いますっ! 私は乱暴されて!」

「お前がどこの誰をどのようにして招き入れたか、全部調べさせた。

 体調がすぐれぬなどと言って公務に帯同せず、自室で取っ替え引っ替え」

「私が愛しているのは陛下だけです!!

 これは……その……」


 媚びるように上目遣いで私を見つめるフランチェスカの瞳はサファイヤのように蒼く煌めいている。


 愛のない結婚だった。

 レプラも嫌っていたし、叔父上が義父になるというのも居心地が悪かった。

 だけど、婚儀の際に純白のドレスを纏ったフランチェスカの美しさは……眩いばかりだった。

 ヘタクソなりに務めを果たした初夜の後だって、美しい姫君を抱いたことによる優越感や満足感に浸り、感謝の念すら抱いていた。

 だから彼女を愛そうと、愛するように努めようとしていたのだけれど……

 


「言ってごらん。フラン。

 私を愛しているのだろう?

 だったらなんで————」


 間男に歩み寄り、大切そうに押さえている股間を思い切り蹴り上げた。

 足の甲にクルミがひしゃげて潰れたような感触が伝わると、思わず鳥肌が立った。


「おぎゅっ!!?〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 間男は声にならない声を上げてのたうち回り、泡を吹いて倒れた。

 筋骨隆々とした美丈夫が白目を剥いてマヌケヅラを晒しているのは滑稽であり、思わず笑みが溢れてしまう。

 再びフランチェスカに向き直って、言葉を続ける。


「なんで、私以外の男たちに抱かれたんだ?」


 穏やかに話しかけているのにフランチェスカは怯えてガチガチと歯を鳴らしている。

 それでも歯を食いしばって、言葉を絞り出した。


「た、鍛錬でございますっ!!

 陛下を悦ばせて差し上げるために、その、夜伽の経験を積むためにたくさんの男と交わりましたっ!!」


 …………ダールトンもあんぐりと口を開けている。

 弁解になっていない。

 

 錯乱して気の触れたことを言っているのか、前向きな言葉を言えば許してくれるとでも思っているのか。

 なんにせよ、私を軽んじていることは伝わってきた。


「ひと月ほど前かな、貴様が間男と部屋でまぐわっているのを見たのは。

 その時、貴様何と言っていたか覚えているか?」


 王妃という立場において最低最悪の所業を口にしたあの日。

 私は、この女に何も期待せず、そして一切の情を失った。


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「そ、そんなこと言った覚えは!」

「貴様が覚えていなくとも私は忘れはしない!!

 私の血を侮辱するということは、父を! 母を! この聖オルタンシア王国を侮辱するということだ!!

 私がっ……毎日毎日いわれなき中傷を受け!

 守るべき民に嫌われて!

 それでも歯を食いしばって耐えてきたことを貴様は否定した!!」


 言葉にすればするほど怒りが込み上げてきた。

 生まれてはじめて得た、女を苦しめてやりたいという衝動に突き動かされt、フランチェスカの首を掴んで宙吊りにする。

 ジタバタもがくが、小鳥が騒いでいる程度のもの。

 数センチ指を押し込めば、フランチェスカの細い首は折れ、絶命する。


「ジ……ルッ……!!」


 放っておいたダールトンが娘の危機を救おうと私に掴みかかってきた。


「王………は……乱心……コロセっ……!!」


 潰れた喉で掠れた声を上げて護衛騎士のサリナスに命令をするダールトン。

 だが、サリナスは動かず、淡々と言い返す。


「私は陛下の家来であり、公爵様のものではありません。

 そして、今行われているのは賊の排除です。

 お許しいただければ、私めがこやつらを皆殺しにいたしましょう」


 そう言って、剣を抜き顔の前に立てた。

 なかなかの忠義者じゃないか。


「よくぞ言った。

 だが、殺さなくて良い」


 ダールトンのみぞおちを蹴り上げ、フランチェスカを床に投げ捨てた。


「コイツらには死すら生ぬるい!!

 王族に産まれたというだけで責務を果たさず恩恵をむさぼり!

 民や臣下を見下し、モノのように扱った!

 そして何よりも……私が大切だと思う者たちが貶めたり苦しめたりすることを喜んでいた!!

 ダールトン!!

 レプラの裸の写真を見せつけていた時に貴様が笑っていたこと気づいていたぞ!!

 楽しかったか!? 嬉しかったか!?

 私はそれ以上のことを貴様と娘にしてやる!!

 ロイヤルベッドの下劣な記事などでは表現できないほどの恥辱をくれてやるぞ!!

 だがそれでも許さない!!

 許さない!! 絶対に許さない!!!

 反省しようが気が狂おうが許されると思うなあああああああっ!!!

 俗物どもがああああアアアアアアアアっ!!!」


 喋れば喋るほど怒りが溢れかえる。

 興奮あまってシルバスタンでベッドを叩き壊した。

 穢れた褥がバラバラになって撒き散ったのを見て、私は高らかに笑った。

 ダールトンとフランチェスカが絶望の表情を浮かべているのを見下ろしながら。

次話投稿時にタイトル変更します。


『流刑王ジルベールは新聞を焼いた 〜マスコミの偏向報道に耐え続けた王の苦悩と葛藤の日々。加熱する報道が越えてはならない一線を超えたその日、王国史上最悪の弾圧が始まる〜』


で以降お送りします。

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