王族の面汚し①
引きずるようにして連れてきたダールトン。
喉は潰れて、声を出そうとすれば激痛が走るので言葉を発しない。
だが視線には私に対する憎悪が満ちている。
「そんなに物欲しそうな目で見るな。
心配しなくとも、貴様の欲しがっていた王位など自然と手元に転がり込んでくるぞ」
私の怒りが行き着く先は破滅だ。
まともに死ねれば御の字。
命を失わずに済む結末もあるだろうが少なくとも王位を手放すことは避けられない。
そうなれば、自然と王位はダールトンのものだ。
…………想像するだけで楽しみだ。
「貴様が欲しがった国王の椅子は無数の刃が生えた拷問器具のようなものだ。
一度座れば肉を貫かれ、血が滴り落ちる。
傷を治そうにも刺さった刃が邪魔で塞がらない。
そして、椅子から降りることができない。
石を投げられ、火を放たれようが座り続けるしかできないんだ。
私は楽しみでならんよ。
無能で愚鈍な貴様がこの地獄に堕ちた時にどれほどの後悔と絶望を味わうのか!!」
ジャスティンは最初はダールトンを担ぐだろう。
だが、蜜月は長くは続かない。
ダールトンは元々王国議会の平民枠の廃止を訴えたり、旧時代の強固な王政の復活を夢見ている時代遅れの愚か者だ。
いずれ互いの利害が一致しなくなり、その後に起こることは……想像したくもない。
厚顔無恥なダールトンであろうと臓腑を抉られる想いをすることになるだろう。
ジャスティン・ウォールマンはそれくらい恐ろしい男だ。
だが……その前に私がこの愚か者の心を抉ってやろうと思う。
私たちを侮辱し尽くした出来の悪い娘とともにな!
たどり着いたのはフランチェスカの寝室の前。
扉の前には彼女の護衛騎士であるサリナスが立っているが、私と目が合うと素早く跪き、頭を下げた。
一瞬の動揺は私が右手にぶら下げている愚物のせいだろう。
「おい。相変わらず、我が妻は愉しんでいるのか?」
私の問いにサリナスは全てを理解したようだ。
「ええ! それはもう!
真っ最中でございます!
公爵様にもぜひご覧になっていただきたい!」
清々しそうに笑みまでも浮かべているサリナス。
きっと、私もこいつと似たような顔をしているのだろう。
先のことを考えることやめた人間の顔だ。
「ダールトン。
何故、自分の娘に息のかかった者を付けなかった?
まあ、どうせアレに嫌がられたのだろう。
お前はアレに対しては本当に甘い。
結果、あのように我慢のできない娘となってしまった。
アレに王家の血が流れていると思うと虫唾が走る」
私が忌々しげに罵ると、ダールトンは目を真っ赤にしてこちらを睨んできた。
まだ早い。
目を剥くならば、もっと良いものを見てからにしてもらいたい。
フランチェスカの寝室の扉を開けた。
この前は開けると同時に奴の喘ぎ声が聞こえたものだが、今日は————
「んっ……んっ……むちゅばっ……あむぅ……んんっ……んっ!
嗚呼……おいしい、美味しいわぁ……」
「お妃様。そんなに俺のが口に合いますか?」
「ええ……素敵よ。
大きくって、たくましくって、濃い雄の味がするわぁ……
もっと、もっとちょうだい! あむっ!」
「アアッ! 凄いっ!
あはっ……王妃にしとくのが勿体無いっ!
娼婦だったら国すら買えるくらい稼いだろうなぁ!」
「同感だ。王妃なんかよりもよっぽどお似合いだ」
男の背後から被せるように声をかけた。
次の瞬間、ベッドの上で裸で座っている男の股間に顔を埋めていた————フランチェスカと目が合った。
「ファ!? ふぇい————」
「いぎゃああああああ!!!」
男が悲鳴を上げて飛び上がった。
口を押さえたフランチェスカの様子から見るに、うっかり男のモノに噛み付いてしまったようだが……
いったいナニをしていたらそんなことになってしまうのか。
私の知識では思いつかないな。
「ふ……ら、ん……」
「お父様!? え、ど、ど、どうしてここに?」
喉が潰れてまともに声を出せないダールトンはフランチェスカの不貞の現場を見て真っ青になっている。
最愛の娘がどこの馬の骨ともしれない男に媚びるようにして快楽を貪っている様を見せつけられる父親なんてそうはいないだろうな。
フランチェスカも私だけでなく父親にまで娼婦顔負けの淫らな様子を見られたことにはショックを受けているようだ。
今更ながらシーツで身体を隠して、被害者のような顔で唇を震わせている。
壁の方に目をやれば股間を両手で押さえた全裸の男がガチガチと歯を震わせて怯えた目でこちらの様子を窺っている。
やれやれ、私だけが落ち着いてしまっていて寂しくなってしまうな。
初めてフランチェスカの不貞を知った時はカーテン越しでも脳が壊れそうなくらい衝撃を受けたのに。
実際に間男とまぐわっている姿を見てしまえば拍子抜けだった。
そこにいたのは美しき我が妻ではなく、ただの下品なケダモノだったのだから。




