暴れん坊王子は麻薬栽培を許さない④
コンコン、とドアがノックされるが返事をする間もなくドアは開けられる。
スープの匂いと馴染み深い気配が寝室に入ってきたことで僕は少しホッとしてしまった。
「レプラ……」
「事情は承っております。
災難でしたね」
王宮内で過ごすレプラの立場は僕の近侍、有り体に言えば専属の世話係である。
他の女給たちと同様にメイド服に身を包み、金色の癖毛をバレッタで後ろにまとめている。
彼女は淡々とそう言うと、食事の乗ったお盆をテーブルに置き、ベッドで布団をかぶってうずくまっている僕に横にどっかりと腰を下ろした。
「聞いておくれ、レプラ。
僕は————」
愚痴を吐こうと口を開くと同時に、レプラは僕の頭を抱き寄せ自分の膝に載せた。
「聞いてあげますよ。
そして甘やかして差し上げます。
だから思ったこと感じたこと、全部私に吐き出してください」
彼女の細長い指が僕の前髪を掻き分ける。
耳と頬に柔らかく張りのある太ももの感触を感じていると、幼子に返った気分になる。
「ねえさま……」
ふと、僕はもう二度と呼ぶことができない人のことを口走ってしまう。
だけどレプラは聞かなかったフリをして僕の肩を撫でてくれた。
レプラに全部吐き出した。
サイサリスが悪と報じられていないことの怒りも、父上を怒らせてしまったことの申し訳なさも、民に嫌われてしまった自分はどうなってしまうのかという不安も。
相槌を打ちながら聞くだけだったレプラが、ふと僕に語りかける。
「後悔、なされているのですか?」
「後悔?」
「悲しい。悔しい。怖い。恥ずかしい。ムカつく。
得たくない感情を得てしまったのです。
無かったことにしてしまいたいものではないですか?」
レプラはやさしい。
けどいじわるな時がある。
なかったことにしたいかって?
そりゃあそうしたい。
父上に怒られることもなく、新聞にあんなひどい書かれ方をしなくて済むなら。
だけど、僕がああしなければ今でもラクサスは私欲のために悪事を働いていただろうし、何人もの命が奪われていた。
なかったことにするというのは、彼らを救わなかったことにするということだ。
「ううん……後悔なんてあるわけない。
だって僕は民を救ったんだ。
憲兵や他の貴族は見過ごして動こうとしなかった。
僕にしかできない務めをやり遂げたんだ」
「そのとおりでございます。
たしかに敵に回した者もいるでしょうが、あなたの行いに感謝している者も必ずいます。
殿下は正しいことをされたのですから」
「そっか……」
僕はレプラの言葉を信じることにした。
彼女の体温や声が僕に優しいまどろみをくれる。
毛羽だった心が落ち着いて、穏やかに眠りにつくことができた。




