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彼女が幸せなら、かまわない⑦

 


「ハアッ!? そなた!?

 え……何故だ?」


 驚きすぎて頭がまともに回らない。

 だってそうだろう!

 レプラをバルトが娶る?

 そんなこと今まで一度も考えたことがない。

 混乱する私に対して、バルトは淡々と語り始める。


「三つ、理由があります。

 一つはレプラの今の境遇が必ずしも安全とは言えないこと。

 国教会に保護してもらってはいますが王都にいる以上、マスコミ連中に身辺を荒らされ続ける。

 その点、我が領は連中の影響力を抑え込んでいるし、ディナリスだけでなく、我が部下たちは強者揃いでそもそも王宮に攻め入るバカはいない。

 レプラは陛下にとって特別な人間。

 守りたいと思うのが忠義でしょう」


 そうだろうな。

 修道院には防衛機能はない。

 レプラ自身が戦闘能力を有しているといっても安全とは言い難い。


「二つ目はシュバルツハイムの嫁として条件が揃っているということ。

 後継ぎをこさえろ、と家臣からよく言われますが、近隣の貴族家の娘を娶った場合、東部の軍事バランスが崩れかねない。

 我が領の威を借りたい連中は山ほどいるのでね。

 家臣やその娘はというと、これはこれで婚姻の旨みがないことがまずい。

 家臣たちに政略結婚をさせているのに自分だけが面倒ごとから逃れるのは面子が立ちません。

 その点、レプラは面倒な親戚付き合いが不要なのにバックに国教会がついている。

 にっくき隣国ヴィルシュタインも国教は我々と同じプレアデス教。

 宗教を介して敵対関係を緩和させるのは悪くない、と目論んでいます」


 父上と似たような理由だ。

 シュバルツハイムの戦闘が緩和されるなら、願ってもない話だ。


「そして三つ目は……私がアイツのことを憎からず思っていることですかね」


 頬をぽりぽりとかきながら少し照れ臭そうに目を逸らすバルト……って!


「ちょっと待て!

 三つ目の威力が凄過ぎて前の話が飛んでいったんだが、ええ……そなたが? レプラを?」

「私もレプラも陛下より少し年上ですから。

 陛下がお子様だった時、私は色を覚え始めていたし、レプラも女らしく成長されていた。

 ある意味、もっとも身近な女でしたから意識もしましょうぞ」



 たしかに……

 王都にいた頃のバルトはかなりの浮名を流していた。

 長身で嫌味のない涼やかな顔立ちをしており、良い意味で貴族らしからぬ野性味があった彼は、数多の御令嬢の嫁入り前の火遊びに誘われるがまま付き合っていたのだ。

 そんな彼がレプラを女として見ていないという方がおかしい。


「まさか私の知らないところで二人は」

「無いですよ! 神に誓って、何もない。

 ただこっちが一方的に好意を抱いていただけですって。

 彼女は頭が良くて、他人の気持ちを手にとるように分かってくれてるから過不足なく気配りをくれるし居心地が良い。

 あまり感情を顔に出さないけどたまに笑うと可愛いし、物憂げな横顔は美しいと思う。

 決して幸せな生い立ちじゃない。

 どこか自身の幸せを諦めてるんじゃないかと思うことがある。

 だからなおのこと、幸せにしてやりたいと思うでしょう!」


 そうだよな、と口にはしなかったが無意識に頷いてしまう。

 バルトのレプラへの気持ちは本心だろう。

 だって私がレプラに抱いている想いによく似通っているから。


「そなたがなあ……

 でも、だったらどうして今まで黙っていたんだ。

 王都を離れて五年だぞ」

「野暮なことを聞かないでくださいよ。

 あのレプラが陛下を置いて、私の元に嫁に来るわけないでしょうが」


 ……たしかに。野暮なことを聞いた。


「まあ、それはそれで良いと思ったんですよ。

 陛下にはレプラが必要だし、レプラにとってもそうだろうから。

 嫁にもらったり、男女の関係にならなくとも心の特別な場所に置き続けた————私にとってそういう女でした。

 甘酸っぱい青春時代の象徴です」

「……だけど今はレプラが私のそばにいない。

 燃え尽きたはずの想いが再燃したのか」


 バルトはふふ、と微笑んでうなづいた。


「今回付いてきたのも国教会にこの件を申し入れるためです。

 教皇猊下のお気に入りである以上、ここで筋を通しておかないと面倒なことになるし。

 もっとも、陛下の許可をもらうのが最優先ですが」


 私の許可……

 おかしなことを言う。

 いったい何の権利があって私がレプラの人生を左右できると言うのか。

 全てを譲れと言っておきながら守ることもできず、逆に助けられてばかりだった。


 レプラの幸せを考えなかったわけではない。

 いつかは誰か誠実で彼女を大切にしてくれる男。

 みすぼらしい暮らしをさせないなら貴族でも平民でもいい。

 そして彼女が良いと思える男になら嫁がせようと思っていた。


 私と彼女が結ばれることはない。

 たとえ血は繋がっていなくとも、姉弟として過ごした日々を否定したくないから。

 なのに————


「私は嫌だ……

 レプラが他の男のものになるなんて」


 この提案はありがたいものだ。

 バルトなら人格的に問題はない。

 多少破天荒なところはあるし、シュバルツハイムの暮らしが楽なものとも限らないが、バルトならレプラを守ってくれることだろう。

 理屈では分かっている。

 それなのに、


「嫌だから……私の目の届かない場所で好きにやってくれ」

「陛下…………」


 情けない言葉しか出てこない自分が悔しくて涙が溢れた。

 バルトはそんな私のわだかまりすらも呑み込むように凛とした笑顔で、


「これで私たちは義兄弟です。

 心おきなくバルト兄と呼んでくれて構いませんよ」


 と言った。


「冗談なのか、真面目なのか分からん」

「私は本気ですって」


 もし、子どもの頃の私にバルト兄とねえ様が結婚するなどと教えたらきっと喜んだと思う。

 そうなりきれない執着の正体はきっと………

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