彼女が幸せなら、かまわない②
場所を変え、庭園のテラスでバルトとテーブルを囲むことにした。
彼は護衛の騎士を連れていた。女騎士だ。
私よりも背が高く肩幅も広いが、亜麻色の長い髪に金色が混じる猫のような瞳が女性的な雰囲気を醸し出していて厳つくは感じない。
怜悧な刃物を思わせる涼やかな美人だ。
どこか退屈そうだけれど、国王が私のような子供っぽくつまらない男だからかもしれないな。
「陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう。
王都の賑わいはここに極まり、生き生きとした人々の営みは御世の治世行き届いているが証と存じまする」
「お決まりの美辞麗句は良いよ。
久しぶりだな、バルト」
「流石に敬語くらいは使わせてください。
部下に示しが付きませんので」
「部下というのは後ろの美人か?」
そう言って目をやると、彼女は一瞬驚いたのちに、笑みを浮かべ唇を舐めてこちらを見つめ返してきた。
その仕草は可憐な少女のように愛らしい。
思わずこちらも胸が跳ねる。
視線を下に逸らしたが、鎧の腰から生えるように露出した太ももが目に入り、その艶かしさに釘付けになる。
「陛下も色を覚えて……まあ、ご結婚されているなら当然ですな」
しまった、無意識のうちにいやらしい目で見てしまっていた。
最近、女性を遠ざけるようにしているからかな……
「失敬。気を悪くしないでくれ。
バルトが帯同する部下ということはかなりの手練れであろう」
私の言葉に女騎士はへへん、と言わんばかりに上機嫌に胸を張る。
「ディナリス、別に口を聞いて構わんのだよ。
陛下は御心が広く、どのような身分の方であろうと同じ人間として接することができる素晴らしいお方だ」
バルトが発言を許すと、ディナリスとやらはにこりと笑って白い歯を見せる。
貴族の娘はあまりしない豪快で爽やかな笑顔だ。
「その説明だと領主殿も素晴らしいお方だということになるな」
「私のは陛下の受け売りさ。
ひん曲がった根性の貴族のガキだって、品行方正で心優しい年下の王子と暮らしていれば影響受けるってもんだろ」
「違いない。
どうやらマスコミのいう暴君ではなさそうだ」
ディナリスの言葉に胸がざわつく。
彼女に悪気はない。
私の心の問題だろう。
レプラを手放した後、王宮内の私寄りの人間達も遠ざけるよう心掛けている。
私に近づく者はマスコミの連中は有る事無い事書き立てて悪評を受けることになる。
その悪評は人生を壊すほどに力を持つ。
バルトだって例外ではない。
「せっかく王宮まで足を運んでもらって悪いが、かつてのような付き合いを期待しないでほしい。
国王として一人の臣に肩入れしていると思われてはたまらないのでな」
遠ざけるつもりで放った一言をバルトは一笑に付す。
「どうやら先の事件がよほどこたえたようですな。
無理もありません。
陛下にとってレプラ様は実の姉同然。
今となっては唯一残された家族なのですから」
「貴殿の元にも知れ渡っているとは……
やれやれ。父上も気の毒だ。
亡くなって三年以上経つのに寝取られたことを全国民に晒されるなんて。
この分だと他国にも及んでいるのだろうな」
「普段はろくでもないデマ記事ばかりなのにアレだけは事実だから驚きましたよ。
私なんて口に出せば消されると思って、頑なに記憶から消そうとしていたのに……」
おどけ気味に頭を抱えるバルト。
そんな様子は少年の頃と変わりない。
「そなたも新聞を読むのだな」
「読んでいるんじゃありません。押収物の確認です。
我が領内では王都の新聞は人心を惑わす詐欺師のばら撒くモノとして扱われていますから」
「間違っていないのが悲しいところだ」
「この間の復興支援の事といい、我が領はマスコミ連中に嫌われていますからね。
民も奴らのことを憎らしく思っています。
一致団結して奴らの影響を受けないように頑張っていますよ」
羨ましいな、と苦笑する私にバルトは向き合って真剣な目で語りかけてきた。
「マスコミ連中は国益を損なうとわかりながら陛下を貶めている。
悪政を行う王を諌めるためならば分かる。
だが、貴方様は善政を為している。
それを邪魔するのは王国に仇なす行為です。
私は不愉快でたまりません。
我が部下や民が命がけで他国からの侵入を防ぐ防人の役目を果たしている事を愚弄するに等しい」
バルドの拳が握られる。
彼の所領、シュバルツハイム領は王国東の国境に位置し強力なモンスター討伐や他国からの威力偵察に多大な力を消費している。
反国家的とも取れるマスコミの横暴に怒りを覚えるのは当然だ。
「まあ、そんなわけですから我が領内は王都のように下賤な新聞は蔓延っておりません」
「そもそも識字率が低いと言う問題もありますがね」
胸を張って言うバルトにディナリスが笑い混じりで茶々を入れた。
バルトは口を曲げるも気を取り直し言葉を続けた。
「えー、まあ、そんなわけですから!
我々のことは心配ご無用!
僅かな時ですが、陛下の愚痴ぐらい聞かせてください。
陛下にはまだまだ元気に王位についてもらっていなくては困るのですから」
ピカピカと光る太陽のような笑顔を投げかけてくるバルト。
かじかんでいた心が溶かされる思いだった。




