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最愛なるあなたへ①

 私はレプラの部屋の扉をかすかに開けて、周囲に人がいないのか確認している。

 首を伸ばし部屋の外に出してキョロキョロと左右の廊下を見渡すと、


「何をそんなに怯えてらっしゃるんですか」


 ベッドの上からレプラが尋ねる。

 髪の毛を掻きむしりながら眠そうな目をこすっている彼女はいつもどおりだ。


「怯えてなどいないが……側仕えの女の部屋から朝帰りは流石にマズイだろう。

 いや……何もしていないんだが」

「私が止めなければ想いを遂げていたと思いますが?」

「う…………反省してます……」


 思わず腰が低くなってしまう。

 昨夜、ベッドの上でフランの裏切りについてレプラに打ち明けた。

 彼女は目の奥に明らかな怒りの火を滾らせたが、それを隠すようにまぶたを閉じて私を抱きしめた。

 彼女のぬくもりに包まれながら、私は眠りに落ちて、今ここに至るというワケだ。


「何もしていないのだから堂々としていれば良いでしょう。

 あまりダラダラしていると朝食を摂る時間を無くしますよ」


 そう言った彼女は朝支度を始める。

 タライの水で顔を洗い、寝巻きを脱いで下着をつけ……


「流石にまじまじと見られると恥ずかしいのですが……」

「え、あっ! すまん!!」


 レプラに注意された私は逃げるように部屋を飛び出した。

 その直前、いたずらっぽく笑うレプラの声が聞こえた気がした。


 ツカツカと廊下を歩いていると侍女を連れたフランと遭遇した。


「陛下、ご機嫌麗しゅう」


 他人行儀でドレスの裾をつまみ上げて会釈するフラン。

 昨夜の痴態が嘘のようにドレスを着飾っている。

 しかし首回りは嘘くさいほどに白粉を塗りたくっている。

 情事の爪痕、肌に散った花びらを隠しているのだろう。


「朝からめかしこんでいるな。

 外出するつもりか?」

「ええ。父に呼ばれておりますの。

 行ってまいります」


 許可も求めず、自由に出ていくか。

 もはや何もいうまい。

 我々の関係はすでに修復は不可能だ。

 仮面をつけたまま夫婦生活を送るのなら、お互い不干渉に越したことはない。


「ああ、気をつけてな」


 恨みも憎しみも必要ない。

 私の人生に、王として進むべき道にフランは必要ないのだから。



 昼食を摂り終えた私に贈り物が届いている知らせがレプラから入った。

 上機嫌そうな彼女に案内され、それが置かれているという個室に入る。

 何の家具や調度品も置かれていない四角い部屋の真ん中にそれはあった。


 三本の棒が広げた脚のようにしっかりと床に接地されている。

 脚の上には台座があり、さらにその上には四角い化粧箱のような物が取り付けられている。

 奇怪なのは箱の中央に目のように大きなレンズが張られている事だ。

 新型の望遠鏡だろうか?


「王国教養大学のヒューズワン研究室からの贈呈品でございます」

「大学……研究費用を要求するための成果物ということか?」

「それもあるでしょうが、書簡に書かれております。

『陛下の御力になりたい』と」


 レプラはそう言って人の両手に収まる程度の大きさの紙を渡してきた。

 紙には絵が描かれている。

 人物画だ。

 小麦色の肌をした美人な女性だ。

 ドレスからはみ出しそうなほど肉感的な身体をしており、正直ムラムラする。

 だがそれ以上に驚くべくはその絵が恐ろしいほど精密でまるで鏡に写った像のようだということだ。


「凄まじい技巧だな。

 して、この絵とこの箱とどういう繋がりが?」

「繋がりというか、その絵はこの道具で作るものなのです」


 ……?


「何を言ってるのか分からないみたいな顔をなされていますね。

 大丈夫です。私もそんな反応でしたから。

 百聞は一見に如かず、ということですので、早速サツエイしてみましょう。

 陛下はそちらの壁に立ってください」


 レプラに言われるがまま、私はサツエイとやらを行った。

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