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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お悔やみ

作者: 植月 維智悟

※人、動物への暴力描写があります。

※流産する描写があります。

以上が苦手な方は、ご覧にならないようにお願いいたします。


ご指摘いただいて、誤字を修正しました。ありがとうございます。

「……ああ俺だ、叔父さん、今亡くなった。葬儀屋と話したあと、一旦帰るから。……ああ、喪服の準備を頼む。あと……。」

 うっすらと聞こえる声。ケンイチか……すまないな、迷惑かけて。だが、子供のいない年老いた男(やもめ)、身辺整理も終わっているし、葬式代と手間賃としては多いくらいの金も残した。手間を掛けさせて悪いが、あとは宜しく頼む。俺は、逝くから。


 全身に転移した癌と薬のせいで、さっきまであちこち痛く頭もぼーっとしていたが、今はなんと清々しいことか。身体が軽い。死んだばかりのはずだが、生き返ったようだ。

 妻に先立たれて十五年。子供はいなかったが、それなりに仲良く添い遂げた。あの世と言うものがあるのならば、もうすぐ会えるかもしれない。それだけが、少しだけ楽しみだ。待っていてくれているだろうか。


 ああ、何かに引っ張られている気がする。



 いや、どこかに落ちているのだろうか。




 上なのか下なのか、もう、なにも、わからない。





 俺は、どこにいくのだろう。






「ノグチ イサオさーん、こちらでーす」

 なんだ……誰か呼んでいるのか?

「私、ノグチさん担当のお悔やみ係です」

 お悔やみ係だと?

「そうです。まずは長いお勤め、お疲れ様でした」

 お悔やみ係とはなんだ? ここはどこなんだ。暗くて君の姿も何も見えないのだが。

「お悔やみ係とは、お亡くなりになった方をお悔やみの間から終焉(しゅうえん)の扉までご案内する係のことです。あと、確かにここは暗闇ですが、私の姿が見えないのは、自己の確立がお済みでないからですね」

 なんだかよくわからないな……。

「お亡くなりになった方、皆さん最初はそう言われるんですよ。でも大丈夫!私にお任せください」

 はぁ。


「えっと、先ずは……本人確認です。えー……ご氏名と、享年と、没年月日、をお願いします。あ、西暦でも和暦でもいいですよ」

 ノグチ イサオ、八十二歳、没年月日は……すまん、わからん。

「では生年月日はいかがですか?」

 昭和十三年の四月二十五日。

「はい結構です。ありがとうございました。では最初に、自己の確立を行っていただきますね。では、まずは深呼吸を」

 う、うむ。


「えー……死の受け入れは、もうお済みですよね」

 ああ。

「つぎは……生前の自己の想起……ノグチさん、お亡くなりになる前のご自身のこと、覚えていますか?」

 病院のベッドにいたはずだ。肺から全身に癌が転移して、数ヶ月寝たきりだった。

「ご自身のお姿を正確に思い描けますか?」

 入院前でいいなら……。

「そちらで問題ないです。よく思い描いてください。あ、お召し物を着た姿でお願いしますね」

 ……。


 なんだか、身体が少し重くなった。

「おおー、お上手です! もう一度、お名前お伺いしてもよろしいですか?」

「ノグチ イサオだ」

 自分の声が、さっきよりも鮮明に聞こえる。

「では、目をお開けください」

 目を閉じていたのか、気付かなかった。目を開けると、まぶしくて思わず目の上に手をかざす。目の奥のずんとした感じがなくなった頃、ゆっくりと手を外した。


 どこまでも続く暗闇のなか、左手に大きな辞書のようなものを持った少女が、光の中に立っていた。中学生か高校生くらいだろうか。透けるような白い肌で巫女のような白衣と白い袴、白足袋を身につけており、黒くて艶のある長い髪がとても映えている。しかし、残念ながらなんだかぼやけているようだ。

「はっきり見えます?」

「……いや」

「普段、眼鏡などかけられていましたか?」

「遠近両用の老眼鏡を」

「では、そちらも思い描いてください」

 視界が段々とくっきりしてきた。鼻の頭がむず痒くなり手をやると、眼鏡にカツンと指が当たった。

「ほー、便利なものだな」

 改めて自分の身体をよく見ると、紺色の甚平を着ていた。ケンイチの娘が買ってくれたものだ。生地が柔らかく着心地がよかったので、よく着ていた。


「えーと……うん、自己の確立成功ですね。円滑に進んでよかったです」

 少女は開いた本を右手人差し指でなぞりながら、満足そうに笑った。

「では早速、お悔やみの間へとご案内します。移動しながら、ご説明しますね」

 少女はくるりと向きを変えると、スタスタと歩き始めた。慌てて追いかけるが、十年前くらいから痛む膝が邪魔をする。必死で追いかけていると、少女が振り返った。


「まず、お悔やみの間とはですね……あれっ、ごめんなさい、歩くの速かったですか?」

 駆け寄ろうとする少女を手で制する。

「いや、こちらこそすまん。どうも膝がな、言うことを聞かなくて……」

 少女はそれを聞くと、首をかしげながら本をめくる。しばらくすると、にっこり笑って本を閉じた。


「わかりました、私の説明不足が原因です。すみません」

 少女は頭をぺこんと下げる。

「ここには肉体が存在しないので、今のノグチさんのお身体は、過去の幻なんです」

「どういうことだ?」

「この空間は、あらゆる生物が過ごした過去で満ちています。過去は、もう現在には存在していないものです。ですので、一見何もない空間でしかありません。でも、思い出すことで、過去は現在にも存在し得ます。幻という形ですけど。その幻を魂の入れ物としているんです」

「魂の入れ物?」

「魂は、それだけでは時の流れに乗ることができないんです。時の流れに乗り、現在に存在し、未来に進むためには入れ物が必要です。それが、生前は肉体であり、ここでは過去の幻なんです」


 少女は持っていた本を両手で顔の前に持ってきて、そこからひょこっと顔を覗かせる。

「と、この本に書いていました」

 そのまま少女は喋り続ける。

「なので、ノグチさんの今の身体は、ノグチさんが思い出した過去です。思い出さなければ消えてしまうのが幻、そして見たいものだけを見ることができるのも幻です」

「なるほど、つまり……」


 俺は目をつむり、もう一度生前の姿を思い出す。さっきは話の流れから死ぬ直前の姿を思い描いたが、過去の姿ならなんでもいいわけだ。それならと、何度も何度も眺めていた写真の姿を思い描く。

「うわあ、きまってますね」

 少女の声で目を開ける。上下グレーのスーツに白いワイシャツ、首元には紺色の石がついたループタイが付けられている。濃いグレーの帽子を小粋にかぶり、色が濃いピカピカの革靴を履いた、よそ行きの格好の自分が立っていた。そして、なんと隣には……


「サチエ!?」

 長年連れ添った妻の姿があった。上品な濃いワインレッドのワンピースに白いジャケットを着ている。何度この手で、もう一度触れたいと思ったか。ゆっくりと手を伸ばす。だが、触れる前にサチエの姿は薄くなり、暗闇に紛れてしまった。


「魂の入らない幻は、長く形を保っていられません」

 少女が申し訳なさそうに話す。

「お綺麗な方ですね。奥様ですか」

「……ああ、十五年前、やはり癌で亡くなった。……癌がわかる直前、普段はお願いをしない妻が、一緒に写真が撮りたいと言うんだ。その時撮った写真を思い出してね」

「素敵な思い出ですね」

 少女の笑顔に、こちらもにっこりと笑って見せた。


「さて、六十七歳の時の身体だ。まだまだ若い者には負けん、なんて言えていた頃だな。都合の悪い身体の不調は思い出していないから、健康そのものだ」

 死んでるから、健康はおかしいか……。

「では、そのお身体で参りましょう」

「うむ。……それであの、一つ質問があるのだが……」

 少女は少しだけ首をかしげ、質問を促す。そのしぐさがケンイチの娘の小さい頃と重なって見えた。

「サチエ、妻のサチエに会うことはできるだろうか」

 少女は少し考え、ゆっくりと口を開く。


「結論から申しますと、会える可能性はあります」

「本当か!」

 心に、小さな希望の灯りがともった気がした。

「しかし、可能性がある、とはどういうことだ」

「それも合わせて、ご説明しますね」

 少女は歩くように軽く促してきた。二人で並んで歩きながら、少女の話に耳を傾ける。


「この空間については、さきほどご説明した通りです。生きとし生けるもの、全ての過去がここにあります。肉体のある魂がいる世、生前の世界と、肉体を失った魂がいる世、死後の世界の間にあります。ここには過去しかないので、時の流れがありません。そして入れ物を持たない魂は、この空間にしかいられません」

「逆に言えば、入れ物を持つ魂はこの空間からでられるというわけか。幻の身体でも、生前の世界に行くことはできるのか?」

「可能ですが、ここの決まりにより、今は許可できません」

「決まり、とは?」

「肉体を失った魂、つまりお亡くなりになった魂は、最初にお悔やみの間へ行くことが定められているんです」


「さっきも言っていたな、お悔やみの間、か。誰が決めた決まりなんだ?」

「魂の管理者、と本には書かれています。私にも、それしかわかりません」

 少女は申し訳なさそうに、少しだけ頭を下げる。


「お悔やみの間のご説明をしてもよろしいでしょうか」

 ゆっくり頷き、手でどうぞ、という仕草をした。

「お悔やみの間は、ご自身の生涯を省みる場所です。ご本人の魂やそれに関係した魂の過去から、いくつかの過去の欠片が幻として存在しているので、それを追体験をしていただきます」

「どういうものなんだ?」

「簡単に言えば、生前、対象の魂、ノグチさんに対して恨みを持った魂の、その恨みをもったきっかけ、原因となった過去の幻です」

「恨み?」

 なんだか物騒な話だ。その気持ちを感じ取ったのか、少女が優しく微笑む。


「あまりご心配なさらずに。確かに強い恨みもありますが、大変些細なものや、妬みなど、理不尽なものの方が多いそうですよ」

 少女は本を読みながら話を続ける。

「恨む、というのはとても強い特殊な思いが込められます。そういう思いが込められた過去は消えない幻となり、この空間を漂います。そして恨みの対象の魂が近づくと、一ヶ所に集まり、ある部屋を作るのです。それが、お悔やみの間です」

 少女は足を止めることなく話続ける。


「なるほど。お悔やみの間での追体験が終わったら、その後は?」

「追憶の園へと御案内します」

 また知らない場所がでてきて、少しだけうんざりする。

「なんだ? そこは」

「生涯を清算する場だと言われています。追憶の園の先には終焉の扉と言われるものがあり、そこを進むと、二度と戻ることはできません」

「その扉の先には、なにがあるんだ?」

「扉の先は、扉を進んだ魂にしかわかりません。本に書いていないので、私も知りません」

「何もわからないのか?」

「はい。あ、でも様々な憶測ならありますよ。天国や地獄があるのではとか、閻魔様がいるのだとか、すぐに生まれ変わるのだとか、そのまま魂が消えるのだ、とか」


「魂が消える?」

 底知れぬぞくっとした感覚に襲われ、つい身震いする。

「どれも根拠のない噂話です。あまり、お気になさらずに」

「そうか……で、その、なんとかの園では何をするんだ?」

「追憶の園ですね。お話ししたとおり、生涯の清算です。お悔やみの間での追体験が終われば、基本的にはご自由に過ごしていただくことが可能です。いくつか決まりがありますが、それについてはお悔やみの間の追体験後にお伝えしようかと思います」


 先ほどから、少女はキョロキョロと辺りを見渡しながら歩いている。

「追憶の園で皆さんが何をしているかですが、生前関係のあった魂とお会いしていることが多いですね。既に亡くなっている魂を追憶の園で探されたり、まだ生きている魂を待たれたり」

「サチエも、そこにいるのか?」

「可能性はあります。割と早く、終焉の扉へ向かわれる方もいらっしゃるので、確実にとは言えないですけど」

「そうか……」

 サチエのことだ、きっと待ってくれているだろう。しかし、もしいなかったら……きっとひどく落胆する。だめだ、こういうことは深く考えないに限る。


「あとは、生前の世界に行ったりですかね」

「生前の世界へ行くものは多いのか」

「そうですね、結構いらっしゃいます。ただ、魂の入れ物は幻、ほとんどの場合は生きている魂に見えないし声も聞こえない、物に触ることもできませんので、基本的にはただ見ているだけとなります。……あ、これかな」

 そう言うと、少女はぴたりと止まった。少女の視線の先に目を凝らすと、うっすらと扉のようなものが見える。


「触れてみていただけますか?」

 少女はそう言うと、扉から一歩下がりながらこちらを見る。多少とまどいながらも、腕を伸ばして扉に触れた。


 途端に、情けない悲鳴をあげて手を引っ込めてしまった。


「なっ、なんだこれは!?」

「どんな感じでしたか?」

「なっ、何かが手を伝わって……俺の、中に……!」

 思わず右手で心臓を押さえる。生きているときと同じように激しく脈打っている。全身には鳥肌が立ち、背中は麻痺しているのではないかと思うくらいうすら寒い。ツーっと、汗が流れるのを感じた。


 少女は冷静にこちらを見つめながら、ゆるく微笑む。

「見つけました、これです。ノグチさんのお悔やみの間です」

「これが……」

 恨みの過去の集まった空間とは言っていたが、これ程とは……。まだ静まらない心臓と鳥肌をなんとか落ち着かせようと、腕を組み、手のひらで二の腕をさする。


「お悔やみの間では、それぞれ過去の幻が一部屋ずつノグチさんの前に現れます。一つの幻が終わるたび、扉が現れますので、ご自身で扉を開けて順にお進みください。最後の幻が終わりましたら、縁が金色の扉が現れます。それが追憶の園への扉です。その扉だけはノグチさんに開けることはできないので、ノックをお願いします。私が追憶の園から扉を開けますので。全ての扉が一方通行ですのでご注意下さい。なお、お悔やみの間は、一度追体験すると消滅します。なので、後悔のないようお願いします」

 少女は慣れた口調ですらすらと説明を終えた。

「では、ご準備ができましたら、いつでもお入りください」

「……」


 もう一度、扉を見る。先ほど少し触れた部分を中心に、ぐるぐると渦を巻いている。禍々しくみえるそれは、まるで獲物を探し回る獰猛な獣のようだ。

「……もし、お悔やみの間に行かないとすれば、どうなるのだ」

「しばらくすると、対象の魂を渇望するお悔やみの間に飲み込まれます。それでも問題なく追体験は可能ですが、ご自分のタイミングで入られる方がよろしいのではないかと」


「ここから逃げたらどうなる?」

「決まりに従う意思なしとみなされ、私がお悔やみ係から外されます。その後、他の者がノグチさんのお悔やみ係になることはありません。案内なしに、この空間を抜けることは非常に困難なので、かなりの時間ここで過ごすことになるでしょう。運が悪ければ、本当に永遠に彷徨うことになります。運良く、生前の世界へ行けたとしても、ご希望の場所にたどり着けるとは限りません。よくわからない場所で誰にも気付かれず、魂の期限が切れるまで過ごすことになるかと」

「魂にも期限があるのか?」

「はい、ただ、少しややこしいので、それは追体験後に。なお、魂の期限が切れたら、追憶の園をとばして、強制的に終焉の扉の向こうへ送られます」


「そうか……では、彷徨っていて追憶の園にたどり着くことは?」

「入り口にたどり着く可能性は無いこともないですが、お悔やみ係以外、こちらの空間からは開けることができません」

「……いずれにせよ、追憶の園には永遠に行けなくなる、ということか」

「そうですね、そういうことになります」


 扉が段々と脈打つように波うってきた。深呼吸を一つする。ここは男らしく、潔く行こうではないか。

「行ってくる」

「追憶の園で、お待ちしておりますね」

 もう一度深呼吸をして、ドアノブに触れる。回す間もなく、ドアが内側に勢いよく開き、身体が吸い込まれてしまった。


 ーーーーー


 [ここは……]

 小さな神社の境内で、子供達が遊んでいる。今ではほとんど見なくなった坊主頭におかっぱ頭の子ばかりだ。そして、みんな身体の大きさに合わない服を着ている。ダボダボの服を着ている子もいれば、腹や下着が見えそうなほどツンツルテンの子もいる。その中に、後頭部に特徴的な十円ハゲのある男の子が……。


 あっと思い、無意識に自分の後頭部を触る。そこにはまわりと手触りが少しだけ違う頭皮があった。目の前の子と、同じところに。

 [あれは、俺か?]

 五、六歳くらいのその子供は、十人くらいの男の子と一緒にメンコ遊びをしている。

 [そうだ、この神社……確か俺、メンコ強かったんだよ]

 懐かしい気持ちに導かれるように、子供達に近づく。子供達には見えていないようで、こちらを見向きもしない。目の前の子に触ろうとするが、通り抜けてしまった。試しにあっと声を上げてみるが、誰も反応しない。


「ああー! それ、だめー!」


 急に誰かの声がして、そちらに視線を向ける。小さな痩せた子が泣きながらメンコに向かって手を伸ばしている。しかし、横からドンと押されてこけてしまった。押したのは、頭に十円ハゲのある男の子……多分、子供の俺だ。


「キヨシ、それはおれが取ったから、もうおれんだ! 触るな!」

 子供の俺はそう言うと、見るからに新しくて大きいメンコをさっと取る。キヨシと呼ばれた子は立ち上がり、ぐすぐす鼻水を流しながら必死で子供の俺にすがり付く。子供の俺は腕を目一杯上にあげ、メンコをキヨシから遠ざけている。


「イサオ! お願いそれ返して! それ、にいちゃんの、勝手に持ってきちゃったの!」

「ダメだ! 勝負に出したんだからあきらめろ! もうおれんだ!」

 子供の俺は、すがり付くキヨシにげんこつをする。周りの子が止めようとしているが、なんと言っているかは聞こえない。


「やだやだ! 出したキヨシが悪いんだ!」

「だ、だって、おれのメンコじゃ入れてくれないから……! お願い、おれの全部あげるから、返して!」

 ぐしゃぐしゃに泣いているキヨシが、ポケットから何かを取り出して差し出す。破れてボロボロになった牛乳瓶の蓋が六個、両手に乗っていた。子供の俺はそれを一瞥すると、ばしりと叩き落として踏みつけた。


「全部破れてボロボロじゃねーか! そんな汚ねーの、いらねーよ!」

 そう言うと、自分のメンコをばっと取って、境内から走り去っていった。キヨシは泣きながら追いかけようとするが、何かにつまずいたのか転んでしまう。大泣きするキヨシに少し大きな子が駆け寄り、先ほど子供の俺が踏みつけた牛乳瓶の蓋を差し出していた。なにか話しかけているようだが、やはり聞こえない。


『バカバカバカ!』

 どこからか声が聞こえてくる。キヨシの声だが、目の前の本人は大泣きでしゃべれる状態ではないようだ。

『イサオのイジワル! 大キライだ! 死んじゃえ!』

 なおも声は聞こえてくる。その声は和太鼓を頭の中で打ちまくられたように響き渡り、思わず両手で頭を抱えた。


 [……キヨシの考えている声、か?]

 まだぐわんぐわんとする頭を軽く押さえながら、あたりを見渡す。じんわりと情景がとけて真っ暗になり、泣いているキヨシの泣き声だけが響いていた。


 記憶が刺激されたのか、なんとなく思い出してきた。この日、いつも見ているだけのキヨシが、初めてキレイなメンコを一枚持ってきたのだ。物が少ない終戦間際のあの時代、俺はあんなにキレイなメンコを初めて見たんだ。上級生は気を遣ってか、キヨシのメンコを取ろうとしなかったが、俺は欲しくて欲しくてたまらなくて、ひっくり返してやった。

 ここに出てくるほど恨まれていたとは驚いた。いやでも、確かこの次の日、ぼこぼこに殴られたキヨシと兄のショウイチが家に来て土下座するから、他のメンコ数枚と交換で返してやったはずだぞ。


 [そうかなるほど、これがお悔やみの間なのだな]

 恨みと言うからビクビクしてしまったが、こういう子供の喧嘩程度のものもあるかと少しほっとした。しかし、第三者から見ると、自業自得とはいえやはりキヨシが可哀想だ。あのボロボロの牛乳瓶の蓋も、必死でゴミから集めたものではないだろうか。それでもメンコ遊びに入れてもらえなくて、つい兄の宝物のメンコを持ち出してしまったんだろう。それを俺に取られた時の絶望は、いかばかりだったか。年を取ったからかもしれないが、キヨシの心情を思うと胸が締め付けられる気がした。


 そうこうしているうちに、後ろに何か光るものが現れたので振り向いてみると、先ほどと同じような扉があった。キヨシの幻はこれで終わりで、次に進まないといけないのだろう。もう一度、キヨシの泣き声が響く暗闇のほうへ向き直る。

 [明日には、返すからな]

 そういうと、扉を開いて次の幻へと進んでいった。


 ーーーーー


 低い天井にむき出しの豆電球がぶら下がっていて、黒い覆いがかけられている。その下にはちゃぶがあり、俺はところどころ傷んでいる畳の上に立っていた。ここは……小さい頃に住んでいたところだ。懐かしい、今はもう一番上の兄が売り払い、駐車場になってしまったと数十年前に聞いた。


「うわああぁあぁん!」

 子供の泣き声が聞こえて、そちらを振り向く。甥のケンイチの小さい頃によく似た子供が、わあわあと泣いていた。まだ一才になったばかりではないだろうか。


「かーちゃ! かーちゃ!」

 ちゃぶ台に片手を置いてつかまり立ちをしており、もう片方の手を必死で伸ばしている。そちらを覗いてみると、土間のようなところで割烹着姿の女性が忙しそうに働いていた。あれは……急いで女性のもとに行く。


 [おふくろ……]

 髪は黒くて長く、後ろで纏められていた。目立ったシワもないし、腰も曲がっていない。若い頃のお袋だ。懐かしくて懐かしくて、思わず手を伸ばす。


「おぎゃあっ、おぎゃあっ、おぎゃあっ!」

 お袋の背中から赤ん坊の泣き声がして、思わずびくりとしてしまう。声は聞こえないが、お袋は何か言いながら、背中の子を優しくあやしている。覗き込むと、なんとなく面影のある泣き顔だ。もしかして、この赤ん坊、俺か。


「かーちゃー!」

 だとすると、あの子供は兄のヒロシか? ヒロシはケンイチの父親だ。通りで似ていると思った。

「かーちゃー!」

「おぎゃあっ、おぎゃあっ、おぎゃあっ!」

「おれもー! かーちゃー! おんぶー!」

「おぎゃあっ、おぎゃあっ、おぎゃあっ!」

 赤ん坊の俺と兄のヒロシの声が合わさって、耳がどうにかなりそうだ。そうこうしているうちに、お袋が振り向き、ヒロシに向かって何かを言っている。ヒロシは更に激しく泣き出した。


「にいちゃんじゃない!」

 お袋が再度、何かを言う。なんとなく、先ほどよりもきつく言っているようだ。

「おぎゃあっ、おぎゃあっ、おぎゃあっ!」

「おとーとなんていらん! きらい!」


 お袋が台所から何かを持ってくる。ちゃぶ台に近づくと、ヒロシが足にまとわりついて、危うく転けそうになった。お袋が激しく泣き続ける赤ん坊の俺に何かを話し掛け、ヒロシに怒った顔で注意する。

「しらん! おとーとなんて、死んでいい!」

 とたんに、ヒロシはお袋から頬を叩かれて転び、ちゃぶ台で頭をうってしまった。火がついたように泣き出すヒロシを無視して、お袋はまた台所にいってしまう。


『おとーとなんか、いらん!』

 また頭の中に声が響き渡る。

『かーちゃん取った。おとーとなんかキライ! いなくなれ!』

 泣いているヒロシの輪郭がぼやけていき、懐かしい部屋も、お袋も消えてしまった。ただ、ヒロシの泣き声だけがまだ響いている。


 [はは、こういうのもあるのか]

 なんてことはない、子供の頃の嫉妬だろう。急に弟が出来て、お袋を取られた気持ちになっているんだな。確かケンイチに妹が出来たとき、同じように癇癪をおこすようになったと、大人になったヒロシが愚痴っていた。やっぱり似てるよ、お前達。


 まあ、俺が生まれたのは日中戦争が始まった次の年。多分この幻もそのくらいのものだろう。父親は俺が生まれてすぐに赤紙が来て、戦地へ行ったと聞いている。兄も多かったが、俺とヒロシ以外は年が離れていて、この頃にはすでに働いていたり学校に行っていたりで、ヒロシの相手をする人はいなかったようだ。ヒロシとの兄弟仲は悪くなかったが、やはり小さい頃は俺のせいで我慢することも多かったかと、すこし申し訳ない気持ちになった。


 後ろに扉が現れた気配がした。次の幻か。泣いているヒロシには悪いが、本当に久しぶりにお袋を見れて、少し気持ちが暖かくなった。このお悔やみの間で、こんな気持ちになろうとはな。

 [それにしても、古い過去からと言うわけでもないんだな]

 そう言いながら扉へと手を掛け、次の部屋へと向かった。


 ーーーーー


「待ってよにいちゃん!」

 扉を開けると、少年が脇を通りすぎていった。はっと振り向いて見ると、後頭部に特徴的なハゲのある坊主の少年が走っていた。少年の前には、やや背の高い少年が早くしろよと言うように、後ろを向きつつ手を上げて走っている。

 先ほど脇を通りすぎたのは、少年の俺だろう。そして前を走っていたのは、多分兄のヒロシだ。二人とも同じヨレヨレの学生服を着ている。ヒロシのはダブダブで、少年の俺のは丈が足りていなかった。あの制服は、確か中学生だ。二人は田んぼと雑木林の間の道を全速力でかけていく。


 周りの様子から、多分帰り道だろう。少年の俺は肩掛けの鞄をガチャガチャ言わせながら夢中で走っていて、継ぎはぎだらけの鞄を持ったセーラー服の少女を追い越した。その時、何かにつまずいたのか、ずべっと盛大に転んでしまった。鞄の中の荷物が飛び散っている。

 少年の俺はばっと顔をおこして前を見るが、すでにヒロシは見えなくなっている。唇を噛みながら少年の俺は立ち上がり、荷物を拾いだした。


「イサオ君、大丈夫?」

 声を聞いて、ざわりと心臓が高鳴る。この声は……。


 [カズコちゃんだ]

 カズコちゃんは俺と同じ年の女の子で、綺麗な三つ編みにくりくりした目のかわいい子だった。地面にへばりついて荷物をかき集める少年の俺をじっと見ている。さっき追い越したのはカズコちゃんだったのか。懐かしい……しかし、ここはお悔やみの間。そして声が聞こえると言うことは、この幻はカズコちゃんの恨みなのだろう。なんだ、カズコちゃんに何をしてしまうんだ、少年の俺。


「さわんなっ!」

 少年の俺は、拾うのを手伝おうとしてしゃがんだカズコちゃんの手を乱暴に払った。そうだ、思い出してきた。転けたところを見られたのが恥ずかしいと言うチンケなプライドと、カズコちゃんと、こうしているのを誰かに見られたくないもいう謎の意地で、俺は……。


「なんね、手伝ってあげようと思ったのに」

「いらん、さわんな! あっちいけ!」

 少年の俺はがしゃがしゃと荷物をかき集めると、がばりと立ち上がった。

「あっ、ちょっと待って。おでこ怪我してる」

 そう声をかけられて、少年の俺はしゃがんでいるカズコちゃんを見る。そうだ、その上目遣いの顔がなんともかわいくて……。


 カズコちゃんは、呆けている少年の俺をそのままに立ち上がると、田んぼの横にある水路までいってしゃがんだ。ポケットからハンカチを取り出し、水路につけてぎゅっとしぼり、また少年の俺のところに戻ってきた。そして、少年の俺のおでこにそれを近づける。


「やめろっ!」

 少年の俺は真っ赤な顔でおでこを押さえて、ざっと一歩さがる。カズコちゃんはハンカチを付き出したまま、きょとんとした顔で少年の俺を見る。

「そんなにしみんと思うよ。バイ菌入っちゃう」

「いらんて!」

「でも……」

「あっちいけ! ブス!」


 少年の俺はカズコちゃんを思い切り突き飛ばした。ああ、これは……見ていられない。俺は咄嗟に右手で両目を押さえてしまった。しかし、不思議なことに情景は鮮明に見えている。そうか、目をそらしたくても、お悔やみの間ではそらせないのか。


「きゃっ!」

 カズコちゃんはその場で尻餅をつく。そしてハンカチはカズコちゃんの手を飛び出し、無情にも勢いよく流れる水路へと落ちていった。はっとしてカズコちゃんは立ち上がり、流れるハンカチを必死で追う。

「待って!」

 しかし、その声もむなしくハンカチは流れていき、深くなっているところに沈んで、二度と上がってくることはなかった。


「そんな……おとうちゃんが買ってくれたのに……」

 ハンカチが見えなくなったところで、カズコちゃんは座り込んだ。目に涙がみるみるうちに溜まっていく。少年の俺はジリジリと後退り、ばっと走って逃げていった。

 [まてっ……このバカ!]

 俺は少年の俺に、そう叫ばずにはいられなかった。


『おとうちゃん……おとうちゃん……』

 悲しげな声が頭の中に響き渡る。俺は、カズコちゃんの方を見ることが出来なかった。

『イサオ君のバカ……せっかく傷を拭いてあげようと……大キライだ。本当に本当に、大っキライ!』

 カズコちゃんのすすり泣きが聞こえ出すと、辺りは少しずつ暗くなっていった。悲しみを絞り出すようなすすり泣きは、俺の心を深くえぐっていく。


 確か、カズコちゃんの父親は、戦争に行ったきり帰ってこなかったのだ。少年の俺は、その事を知りながら、そしてカズコちゃんの声も聞こえておきながら、なにも言わずに逃げていった。思春期ど真中の少年で、現代ほど男女が親しい時代ではなかったとは言え、少年の俺の態度はいただけない。誰かに後ろ指を指されているような、背中にぞわぞわとした違和感を覚えながら、俺は当時のことを次々に思い出した。


 この後、実は雑木林に隠れていた兄のヒロシに言い付けられ、お袋からビンタを数発もらい、一緒にカズコちゃんの家に謝りに行った。カズコちゃんの母親は笑って許してくれたが、カズコちゃんは出てこなかった。夜には、親父にげんこつを一回、頬を二回ほど殴られた。ハンカチの弁償はカズコちゃんの母親が固辞したため、家でとれた野菜を大量に持っていった。


 次の日のひとけもなく薄暗くなった頃、俺はその水路に戻り、びしょびしょになりながらハンカチを探した。田んぼの持ち主にイタズラしてると勘違いされ、げんこつをもらった。それでもめげずに人目を盗んでは、一週間ほど毎日暗くなるまでハンカチを探した。

 そんなある日、ふと顔をあげるとカズコちゃんが立っていて、たいそうびっくりした。彼女は、困ったように笑いながら、もういいよと言って、走っていった。その日、田んぼの持ち主から親父に俺がイタズラしたと連絡がはいり、またもやげんこつをもらった。ハンカチ探しは、確かその日でやめたと思う。


 ああ、そうだ、すっかり忘れてしまっていた。俺は何てことを……。

 俺の後ろが淡く光る。次の幻へいかなければ。

 [ごめんな、カズコちゃん……]

 ついぞ直接言えなかったその言葉をつぶやき、俺はカズコちゃんのすすり泣きが聞こえる幻をあとにした。


 ーーーーー


 気付いたら、俺は薄暗いところに立っていた。見渡すと古い駅の前で、うっすらと記憶がよみがえる。俺は中学を卒業してすぐに家を出て、他県に工員として就職した。俺の最初の就職先だ。確かこの駅は、その工場の近くにあった駅のはず。辞めてからは一度も来ていないが、その時の様子を思い出し、俺は苦々しい顔でほんのりと明るい駅を眺めていた。


 先ほどの幻は、かなり心にくるものがあった。いや、少年の俺が引き起こしたことなので、完全に自業自得なのだが……。それで、次はどのような幻だろうかと、俺は憂鬱な気持ちで辺りを見渡した。

 だが、駅の周りに見覚えのある人はいない。人影も少なく、よちよち歩きの子供を連れた母親が、熱心に駅の壁に貼られた何かをみているのと、痩せ細った野良犬がウロウロとしているだけだ。過去の俺さえも見当たらない。


 これはどういうことだと訝しげにその場に立っていると、よちよちの子供が野良犬に近づいていきはじめた。それを見て、背筋がぞわりとする。現代では野良犬などほとんど見かけないが、昔はどこにでも結構いて、この頃はまた狂犬病が流行りだしたなんて話も聞いていたのだ。子供が手を出すと、ゴミを漁っていた野良犬は顔をあげ、グルルと唸りながら後退る。母親はまだ気づいていない。


 意味はないとわかっていながら、手を伸ばし掛けたその時、

「危ない!」

 誰かがそう叫び、野良犬をゴミもろとも蹴っ飛ばした。

「ギャン!」

 野良犬は短くそう鳴き宙を舞い、地面にずしゃりと落ちるとキャンキャン鳴きながら逃げていった。


 そこでやっと母親が気づいたようで、子供に駆け寄り野良犬を蹴った青年にペコペコと頭を下げている。

「俺、その、ただ、危ないって思って……」

 照れているのか、しどろもどろと答えているのは、青年の俺だった。この頃は金もなかったので、月に一度の休みに一人でよくあてもなく散歩していた。多分、その帰り道に偶然出くわしたんだろう。

 子供が無事だったことにほっと胸を撫で下ろす。しかし、はて、これのどこが恨みなんだ?


 その時、ぐんと身体が引っ張られる感じがした。必死に何かを固辞する青年の俺が遠ざかり、気づけば街灯もない空き地に立っていた。クンクンと弱々しい鳴き声が聞こえてそちらを見ると、先ほどの野良犬がよろよろと歩いていた。まてよ、もしかしてこの恨みの幻は……。


 野良犬はがくりとその場に倒れるように寝そべった。すると、草むらからこれまたガリガリの仔犬が四匹、よたよたと野良犬に寄ってきた。仔犬たちは野良犬の腹に潜り込むと、乳を吸いはじめた。しかし出てこなかったのか、野良犬の周りをウロウロとしだす。野良犬は腹を上下させながらクンクンと鳴いていたが、突如ガフリと音をたてて血を吐き、そのまま動かなくなった。半開きの目から目をそらせないでいると、辺りはゆっくりと暗闇につつまれた。


 なんとも言えない、冷えた何かが身体の中を落ちていく感じがした。青年の俺はただ、子供が危ないと思って、必死に行動したのだ。しかし、この野良犬にしてみれば、食べ物を探していただけなのに、勝手に人間に近づかれ、突然蹴っ飛ばされ、そして幼い我が子を残して死んでいかなければならなかったのだ。あの弱々しい仔犬が無事に育つ確率は、ほとんどないだろう。青年の俺の行動がきっかけで、こんなことになっているなんて。


 誰が悪かったのか。蹴っ飛ばした俺か。近づいた子供か。子供から目を離した母親か。あそこをウロウロとしていた野良犬か。それとも……。わからないが、野良犬は青年の俺に恨みを抱きながら死んでいった。その事実だけが今、俺に突きつけられていた。


 後ろに次の幻への扉が現れた気配がした。今までと違ってなにも聞こえなくなった幻にしばらく黙祷してから、俺は扉に手を掛けた。


 ーーーーー


 いきなり明るくなったかと思ったら、目の前から人が歩いてきたので、反射的に避けた。しかし、その後ろにも人の波があり、尻餅をついてしまった。そんな俺を通り抜けて、人の波がどんどん通りすぎ、止まった。明るい昼間の電車の中で、まずまずの混み具合だ。これはかなり現代に近いのではと思い、立って辺りを見渡すと、やはり白髪の俺がいた。死ぬ十年くらい前ではないだろうか。

 この頃既に膝が痛く、長く立っているのが辛かったので、優先席に座っていた。電車が次の駅に到着し、人の入れ替わりがある。白髪の俺は乗り込んできた人の波を見て何かに気付き、席を立った。見てみると、先頭の女性の腹がふっくらと膨らんでおり、妊婦だとわかった。


 俺とシズエには子供がいなかったが、一度だけ妊娠したことがあった。俺はとても喜び誕生を心待ちにしていた。しかし、腹も膨れてきたある日、急に出血して胎児は亡くなってしまったのだった。そしてその後、シズエが妊娠することはなかった。

 そんなこともあり、俺は妊婦を見ると積極的に席を譲ることを心掛けていた。それは、膝を痛めてからも変わらなかったのだ。


 だが、白髪の俺が立ち上がった直後、近くに立っていた女性がするりと座った。白髪の俺はため息をつき、女性に話しかけた。


「失礼、私はあの妊婦の方のために席を立ったのですよ」

 電車の中の視線がこちらに向けられる。座った女性ははっとしたように顔を上げた。

「あ、す、すみません、でも、あの」

 大人しそうな女性だったが、一向に立ち上がろうとしないので白髪の俺は再度ため息をつき、女性の話を遮る。


「ここは優先席ですよ? あなたはまだ若いのですから」

「でもあの、私も」

「いいから、立ち上がりなさい」

 近くに立っている五十代くらいのふくよかな女性も、大人しそうな女性に何かを言っている。覚えていないが、多分白髪の俺を援護するようなことを言っているのだろう。


「ほら、立った立った。そんなに座りたいなら、優先席でないところに行きなさい」

 白髪の俺は、泣きそうな女性の背中を軽く押して立たせて、妊婦の女性に手招きをする。妊婦の女性は大人しそうな女性に軽く会釈し、にこにこと席に座った。妊婦の女性は自分のお腹を撫でながらふくよかな女性と何かを話しはじめ、白髪の俺も嬉しそうに、そして誇らしげにその会話を聞いていた。


 俺は、ふらふらと車両の真ん中あたりに移動する、大人しそうな女性に着いていった。この女性が、今回の恨みの持ち主のようだが、このくらいのことで恨まれたのだろうか。恥をかかされたからとかか? 中には理不尽なものもあるとは聞いたが、この女性が、そんなことで恨みを抱くようには見えない。


 大人しそうな女性がつり革に捕まろうとしたその時、電車が大きく揺れ、女性は思い切り尻餅をついてしまった。女性ははっとした顔をしてヨロヨロと立ち上がり、丁度ホームに到着して開いていたドアから急ぎ足で出ていった。俺は急いであとを追う。

 女性は駅のトイレに入っていった。しばらくすると飛び出してきて、慌てたように改札を抜けてタクシーに飛び乗った。タクシーが出ていってしまいどうしようかと思っていると、また身体がどこかに引っ張られるような感じがして、駅が遠ざかっていった。


 気付くと、病院の診察室のようなところに立っていた。すすり泣きが聞こえて目を向けると、先ほどの大人しそうな女性が椅子に座って泣いていた。女性の医師が悲しそうに何かを説明しており、看護士の女性が泣いている女性の背中をゆっくりと撫でていた。


「赤ちゃんが、死んでしまったのは、私が、転けてしまったからですか?」

 大人しそうな女性から、とぎれとぎれに発せられた言葉を聞き、俺は息をのんだ。


 医師はゆっくりと首を横にふりながら何かを説明するが、それを遮り、より大きな声で女性が叫ぶ。

「じゃあなんで、死んじゃったんですか!? 昨日までなんともなかったのに! 今日、少しお腹が痛くて、病院行こうと思って電車乗って、転けて、そしたら血が、たくさん……」

 そこまで言って、女性は泣き崩れた。看護士が顔を覗き込みながら、懸命に背中を擦っている。


『最初からタクシーにしておけば……あのとき転けなかったら……あのまま座れていたら……私がちゃんと説明できていれば……あのおじいさんさえいなければ……』

 頭の中に女性の声が響き渡る。女性の泣き声と合わさって、頭が割れそうだ。暗闇につつまれていくなか、俺は耳をふさいでしゃがみこんだ。


 この大人しそうな女性も、妊婦だったのだ。なのに白髪の俺はロクに話も聞かずに無理矢理立たせ、その結果転ばせてしまった。それが流産の直接の原因ではないかもしれない。医師も首を横にふっていた。でもシズエは子を失った時、誰がなんと言っても、自分の一挙一動を責め、後悔し続けていた。この女性もきっと……そしてだからこそ、俺のお悔やみの間にこの幻があるのだ。


 よかれと思ってやったことだ。腹の目立たないこの女性が妊婦かもしれないなんてことは、これっぽっちも考えつかなかった。その思慮の浅さが招いた結果なのだ。


 いくら耳をふさいでも、女性の泣き声は聞こえ続けていた。後ろに扉が現れた気配がしたが、俺はしばらく動けずに、そのまましゃがんでいた。


 ーーーーー


 そのあとも、俺は様々な恨みを追体験した。赤ん坊のときのものも、老人になってからも、様々な幻がランダムに現れた。もうどのくらい時間が経ったのだろう。数時間、いや、数日、数十日、下手したら何年も、俺は現れては消えていく幻の中を彷徨っていた。


 まだ終わらないのかと絶望に近い気持ちを奮い立たせ、俺は扉を開く。


 ーーーーー


 大きな機械の並ぶ工場に立った俺は、腹の中に押さえていたドロドロしたものが溢れ出てくるような気がした。作業着を着た男性が五人いる。その中の一人が二十代の俺だ。中学を卒業してから就職した工場で十年目の時だ。今でも腹が煮えくり返る、俺の一番思い出したくない思い出。


「もう一度、よく調べてください! 俺じゃないです! なんで俺のロッカーに入っていたのか、俺、わかりません!」

 二十代の俺が必死に叫んでいる。顔は青ざめ、身体がワナワナと震えていた。

 一人の男性が何か喋っている。あれは、工場長だ。


「ミノルが……そんな……ミノルに、ミノルに会わせてください!」

 絶望したように話す二十代の俺を工場長は冷たい目で見つめながら、また何かを喋る。

「そんな……ミノルを呼んでください! 俺じゃないんです! 本当です!」

 そういうと、二十代の俺はその場にがばりと土下座した。


「お願いします! ミノルともう一度、話をさせてください! 何かの間違いです! 俺、皆の給料なんて盗んでいません!」

 無視して去ろうとする工場長の脚にすがりつき、なおも叫ぶ。

「お願いします! 信じてください! 嫁が妊娠してるんです! 今クビにされたら、俺……!」

 工場長は乱暴に俺を振り払うと、足早に工場の奥へと行ってしまった。追いかけようとする二十代の俺を他の男性が殴り付ける。倒れたところを三人の男性に取り押さえられ、両脇をかためられながら工場の外に放り出された。


「スズキさん! 俺してない! 信じてください! ……サトウさん! ヤマダさん!」

 男性三人に必死ですがりつこうとするが、蹴りつけられてぼこぼこにされていく。無実を訴え続けるが、しばらく蹴りつけられるうちに声も枯れ気力もなくなり、二十代の俺はがくりと頭を下げたまま座り込んでしまった。男性のうち一人が唾を吐き、何かを言っていたようだが、そのうち三人はいなくなった。俺は拳を強く強く握りしめたまま、一部始終を見ていた。


『これから……どうしたら……』

 二十代の俺はピクリとも動かない。

『俺は盗んでない。ミノル……お前まさか、俺をはめたのか……でもミノルが一人でするとは考えにくい……じゃあ、誰かと手を組んで、俺を……』


 急に叫び出したかと思うと、地面を殴り付け始めた。血がにじんでも、何度も何度も。

『ミノル……許さねえ、絶対許さねえ! 俺をはめやがって! あいつを、いや、あいつの家族、一族全員、呪い殺してやる! 一緒にはめた奴がいるのなら、そいつも!』


 まだ殴り続けている。


『あんな奴を親友だと思ってた、自分も許せねえ! 俺なんて死んじまえばいい!』

 ああそうか、だから俺のお悔やみの間に、この幻があるのか。俺はこの時、自分も恨んでいたんだな。ミノルと仲良くしていた自分を。


 ミノルは俺と同じように、地方から就職してきた奴だった。寮で同じ部屋になり、出身地は離れていたが同い年ですぐに仲良くなった。少し小柄で痩せていて、細いたれ目がとても優しそうで特徴的だった。


 ミノルはとてもひょうきんで職場のムードメーカーだった。例えば、まだ就職して間もない頃、身体の小さなミノルが俺のロッカーに隠れて、何も知らずに開けた俺を驚かしてきたこともあった。まだ中学生のつもりかと先輩には少しおこられたが、当の二人はゲラゲラ笑っていたものだ。さすがに二十歳を越えたくらいにはそんな幼稚なことはしなくなったが、ちょこちょこイタズラをされては笑いあっていた。その反面、気が弱く小心者なところもあり、先輩からはしょっちゅう小突かれたりしていた。何度も辞めて帰りたいと言っていたが、その度に俺が励ましていた。親友だと思っていた。あの時までは。


 そんなある日、帰ろうとした俺はミノルに頼まれ事をされたのだ。なんだったか覚えていないが、少し時間がかかった。頼まれ事を済ませた俺が工場に戻ると、工場長と先輩三人が待ち構えていた。そして、翌日の給料日のために準備していた給料のうち、数人分がなくなり、それが俺のロッカーから見つかったと聞かされた。俺のロッカーを調べた理由は、俺が金庫から盗んでロッカーに入れているのを見た、というミノルの密告があったからだった。


 全てが寝耳に水だった。俺は皆の給料がなくなったことさえ知らなかった。ミノルは、俺の報復を恐れているとのことで既に寮に帰宅しており、会うことは出来なかった。たしかこの後、怒りに任せて何度か寮に行ってみたが全て門前払いされ、最後には警察を呼ばれそうになってしまった。工場前で待ち伏せして会おうとしたが、休んでいるのかミノルは工場にこなかった。三日程粘ったが、それでも来なかったことで、ミノルへの疑念が確信に変わり、同時に会うの諦めた。そして、自分の潔白を証明することも諦めた。正直、それどころではなかった。


 俺はこのとき既に結婚して、近くのアパートに移りすんでいた。給料日前日にいきなり解雇され、訴えないだけありがたいと思えと、その月の給料ももらえなかった。一刻も早く安定した収入が必要だったが、大きな工場で周りには関係者が多く、周辺で再就職なんて到底望めなかった。サチエは俺の潔白を信じてくれたが、近所からの冷たい視線や嫌がらせも酷く、随分辛い思いをさせてしまった。俺達は他県に住んでいた兄のヒロシを頼って、逃げるように引っ越した。サチエが流産したのは、その直後だった。

 兄のヒロシの伝で就職先を紹介してもらい、その会社で退職まで死に物狂いに働いて、なんとか人並みに暮らすことができた。しかし、この時のことを、この時の悔しさを、俺は一度も忘れたことはない。


 絞り出すような嗚咽は、二十代の俺のものだろうか、それとも俺のだろうか。わからないまま、俺は暗闇に背を向け、扉を開けた。


 ーーーーー


 [……くそっ! 勘弁してくれ!]

 開けたら、またあの工場だった。今度は機械のあるところではなく、従業員のロッカーがずらりと並んでいた。今度は何を見せられるのだ。


 終業後のようで、一人また一人と鞄を持って帰宅していく。最後の一人が出ていき、誰もいなくなった。しばらくぼけっとしていると、ドアが開いて誰かが入ってきた。先ほどの幻で二十代の俺をしこたま蹴っていた、スズキ、サトウ、ヤマダの三人だった。この三人は工場のある地元からの就職で、どこからかのコネで工員になったらしい。先輩だったが就業態度がよくなく、あまり好きではなかった。


 三人は笑いながら入ると、ドアを閉めて鍵を掛け、床に車座に座り込んだ。その真ん中に、スズキが封筒を投げ置く。その衝撃で、封筒からお札が飛び出した。

 俺は大きく目を見開き、封筒を凝視する。かなりの大金だ。それこそ、給料数人分の金額……。その時、急に一つのロッカーが開いて、何かが出てきた。


 出てきたのは、ミノルだった。床の上に倒れ込むと、青ざめた顔で三人を見ている。


「あ、あの、おれ、おれ……」

 三人は驚いた顔で振り向いていたが、ミノルだと分かると顔を見合わせてにやりと笑って立ち上がった。つかつかとミノルを取り囲むと、スズキが思い切り腹を蹴った。ミノルは腹を押さえてえずくが、サトウとヤマダも蹴りはじめる。

「おれっ、言いません! 何も、見てませ……」

 サトウの蹴りが顔にあたり、ミノルの口から歯がとんでいった。口から鼻から血を出しているが、三人はにやにやしながら何かを言いつつ蹴り続ける。


 ミノルの顔が腫れてきた頃、三人はやっと蹴るのを止めた。スズキが何かを聞いている。ミノルが答えないままでいると、サトウがまた蹴る。ヤマダはミノルが出てきたロッカーを覗き込んでいたが、何かを取り出し、ミノルの目の前に持っていった。

 茶色の紙で包まれたそれを見て、ミノルが取り替えそうと手を出すが、横からサトウに踏みつけられて呻き声をあげる。がさがさとヤマダが包みを開けると、小さなでんでん太鼓が出て来て、紙がはらりと落ちた。


 ヤマダが訝しげにでんでん太鼓をならす。スズキは落ちた紙を拾い上げ、笑い出した。サトウとヤマダもそれを覗き込み、腹を抱えて笑っている。何かを言いながらスズキが紙を破くと、ミノルが立ち上がりヤマダからでんでん太鼓を取り替えそうとしたが、サトウに殴られて転倒した。顎に入ったのか、ミノルは気を失ってしまった。

 スズキがミノルの出てきたロッカーを確認し、にやりと笑ってあとの二人に何かを言った。二人もにやりと笑うと、先ほどの金の入った封筒をそのロッカーに放り込み、乱暴に閉める。ヤマダはでんでん太鼓を叩きつけるようにゴミ箱に捨てると、ミノルを抱えて部屋を出ていった。


 俺は、動けなかった。

 目には、先ほどスズキが拾い上げた紙に書かれていた文字が、焼き付いていた。


 《子どもおめでとう。元気にうまれることをいのる》


 下手くそなそれは、ミノルの字だった。


 俺はそのまま、身体が引っ張られていった。

 気づけば、古い畳の部屋にいた。ここは……そうだ、あの工場の寮だ。六人部屋で、五つの布団が畳んでおいてあった。一番奥の布団は、誰かが潜っているのかぽこっと膨れており、小刻みに震えていた。


『ごめん……イサオ……ごめん……』

 ミノルの声が頭に響く。

『工場長に言っても揉み消されてしまった……コネ入社だからって……めちゃくちゃだ……』


『誰も俺を信じてくれない……』


『くそ……どうして……』


『あいつらのせいで……殴ってやりたい……殺してやりたい……』


『こんなとこ、さっさと辞めてれば……イサオが引き留めるから……』


『俺は最低だ……死にたい……消えたい……』


『もういやだ……苦しい……』


『あいつらも……イサオも……俺も……』


 暗闇になってからも、ミノルの声はずっと聞こえていた。自責の念に耐えられず、自分を恨み、境遇を恨み、それに関わる全ての人を恨むミノルの心は、既に壊れてしまっているように感じた。

 後ろに扉が現れた気配がした。ミノルの恨み言はまだ聞こえているが、俺は放心状態で扉を開けようとノブを回す。だが、扉はピクリとも動かない。ミノルの恨み言はまだブツブツと聞こえており、俺はそれにじわじわと侵食されていくような気がした。


 やめてくれ、俺まで壊れてしまいそうだ。俺は必死でノブを回すが、やはり扉は開かない。ミノルの恨み言で頭がどうにかなりそうになりながら、俺は扉を乱暴に叩いた。


 すると、ふわりとドアが開いて、俺は前に倒れ込んだ。


「ノグチさん、お疲れ様でした」

 目の前にはお悔やみ係の少女が立っていた。ミノルの恨み言はもう聞こえない。振り返ってみると、縁が金色の扉がすうっと消えるところだった。


 ーーーーー


「……大丈夫ですか?」

 倒れたまま放心している俺を少女が心配そうに覗き込んできた。

「あ……ああ、大丈夫だ」

 俺はそういってゆっくりと立ち上がる。


「ずっと、ここで待っててくれたのか? かなり時間が経っただろう」

 俺が言うと、少女は微笑みながら首を横にふる。

「いいえ、私は先ほどノグチさんと別れたばかりですよ」

「なに? そんなはずは……」


「ノグチさんがいらっしゃったお悔やみの間は、過去で満ちた空間にあるものです。過去には、時の流れがありません。体感では長く感じたかも知れませんが、時の流れにのっていなかったので、実際には全く時が経っていないんですよ」

「そうか……」

 頭がこんがらがりそうだったが、とりあえず返事をする。


「では、ここが追憶の園か?」

 俺は植物のトンネルのようなところに立っていた。新緑の葉が一面にあり、小指の先ほどの小さな白い花がぽつぽつと咲いている。明るいが眩しいわけではなく、足元を見ると影もなかった。キョロキョロする俺を見て、少女がにこりと笑う。

「はい。正確には入り口ですが。さあ、魂がたくさんいるところへ行きましょう」


 少女についていくと、トンネルの出口のようなものがあった。トンネルを出て、俺は目を見開く。


 そこには、どこまでも続く草原があった。どこからともなくそよそよと心地いい風が吹き、足元の草を揺らしている。草はくるぶしあたりまでの長さで、とても柔らかそうだ。ところどころに色とりどりの花が咲いている。そして頭上には、澄んだ青空のようなものが広がっていた。


 人もたくさんいたが、驚くことに動物も結構いる。そういえば自分のお悔やみの間にも、犬の恨みの幻があったなと思い出した。皆、誰かとお喋りをしたり笑いあったり、犬と楽しそうに追いかけっこしたりしている。言い争いをしているような人たちもいるが、ほとんどはにこにこと笑い、幸せそうに過ごしていた。ふと上に目を向けると、鳥が飛んでいた。しかし、よく見ると鳥だけではない。赤ちゃんや小さな人形のようなものも飛び回り、楽しそうに遊んでいる。あれは何かと少女に聞こうと口を開きかけた、その時、


「イサオさん」


 懐かしい声に、はっとしてそちらを向く。上品な濃いワインレッドのワンピースに白いジャケットを着た女性が立っていた。ずっとずっと会いたかった女性が。


「シズエ……」

「お疲れ様でしたね。待ってたんですよ」

 にっこりと笑う女性のそばに行き、ぎゅうと抱き締める。先ほどの幻とは違い、すり抜けることなく腕のなかに収まった。しばらくそうしていたが、ふと我に返って急に恥ずかしくなり、離して一歩離れた。


「ああ、その……元気そうだな」

 咄嗟にこんなことしか言えなかった。死んでいると言うのに、俺はバカか。居たたまれなくなって下を向く。だが、そんな俺を笑うことなく、シズエは優しく答えた。

「ええ、イサオさんも」

 ちらりと顔をあげると、微笑むシズエと目があった。シズエはさらに顔をくしゃくしゃにして笑うので、俺もつられて笑った。


「ほら、やっぱりきたわね。お会いできてよかった!」

 シズエの後ろに立っていた女性が話しかけてきた。中年くらいで少しふくよかな女性だ。少女と同じような白衣に袴、白足袋を身に付け、世話好きそうな笑顔でにこにことしている。


「……シズエのお悔やみ係か?」

 少し考えてから問うと、女性は首を横にふる。

「いいえ、私はこの子のお悔やみ係よ。と言っても、この子にお悔やみの間はなかったけどね」

 そういうと、シズエの肩にいた、小さな人形のようなものにそっと手を伸ばす。それは、ふわふわと浮き上がり、俺の周りをくるくると周りだした。


「これは、一体……」

 困惑したように俺は少女を見る。

「飛んでいるのは、胎児の魂ですね。母体のお腹にいた記憶で、ふわふわと飛んでいるんです」

 信じられない気持ちで小さな人形を見つめる。ということは、この子は……。


「ずっと待っててくれたんですよ」

 シズエの声を聞きながら、その子に手を伸ばす。ふわりと手に乗った子はにこりと笑った。俺はやっと抱けた我が子を優しく両手で包み込んだ。


「この子の魂の期限が近づいていたからね、あなたがくるんじゃないかと思って、奥さんと待ってたのよ」

「魂の期限……」

 そういえば、お悔やみの間の前で少女がそんなことを言っていた気もする。

「あら、あなたまだ、説明してないの?」


 女性が問うと、少女はあたふたと本をめくり出した。

「その、えっと、まだ着いたばかりで……えと、えと、魂の期限のご説明からですか? えーと……」

「ああ、すまない、順番があるなら、その通りに説明してくれ」

 あまりに慌てているので見かねて声をかけると、少女はほっとしたようにこちらを見た。


「すみません。では、これからの過ごし方からご説明します。途中、わからないことがあったら、都度お聞きください」

「座ってお話しましょうか」

 シズエに促されて、少女と俺とシズエがその場に座る。草は柔らかくフワッとしていた。小さな人形のような子は、シズエの膝に落ち着くとくるりと身体を丸めて横になり、親指を吸いはじめた。

「私はまた明日くるわ。しばらくは大丈夫だから、楽しんでね」

 そういうと、女性はどこかに行ってしまった。


「では、ご説明しますね。ノグチさんは、これから基本的に自由に過ごしていただくことができます。お過ごしいただく場所は、主に三ヶ所です。」

 少女は本をめくる。

「まず、この追憶の園です。ここでの過ごし方には、特に制限はありません。ここは生涯を清算する場と言われておりますので、思い切り好きなことをしてください。他の魂と触れあうこともできます。叩いたり殴ったりも、お気のすむまでどうぞ」


「なんだか物騒だな」

「ここでは痛みを感じませんから、形だけですけどね。それでもやはりたまにいらっしゃるみたいですよ、そういう形でないと清算できない方が。ただし、不必要な暴力や迷惑行為は禁止です」

「それも、魂の管理者が決めた決まりか?」

「そうですね。なんど忠告しても繰り返される場合は、強制的に終焉の扉の向こうへ送られます」


 少女は本を一ページめくった。

「次は生前の世です。ご希望であれば、生前の世にお連れすることもできますので、私にお伝えください。生前の世でこちらに戻りたいと思っていただければ、またお迎えにあがります。この追憶の園は昼も夜もなく常に明るいのですが、生前の世と同じ時間が流れています。行けるのは、過去でも未来でもなく、現在だけです」


「ずっといてもいいのか?」

「はい、魂の期限が切れるまでですが。ただ、本当にずっとおられる方はあまりいないですね。あ、信仰されていた宗教に合わせる方が多いそうですよ。四十九日まではあちらにいたり、毎年お盆に行ったり」

 それを聞いて、なんだかくすりと笑ってしまう。


「最後は先ほどの過去で満ちた空間です」

 少女は次のページへと進む。


「先ほどお悔やみの間で、恨みの思いが作り上げた幻を追体験していただきましたが、強い特殊な思いは、恨みに対してだけ込められるものではありません。他の感情に関連する過去も、強い特殊な思いが込められたものは、同様に幻となり空間を漂って、対象の魂が近づくとそれぞれ部屋を作り上げます。それらの空間には特に名前がついていませんが、追体験は任意で行っていただくことができます。なおこれらも一度追体験したら消えてしまいますので、ご注意下さい」

「なぜ、恨みの追体験だけ義務付けられているんだ?」

「魂の成長の糧となるから、だそうです」


 少女は本をパラパラとめくり、該当箇所と思われる場所を指でなぞりながら話し始めた。

「魂は様々な出来事や、他の魂との交流によって成長します。なかでも、恨みに向き合うということは、その成長に大きな影響を与えます。しかし、生前に受け止めきれない、見ないフリをする、もしくは気付かない恨みも多くあり、それを補う仕組みとして、お悔やみの間追体験が義務付けられているのです。それに……」


 少女はぱたんとページをもとに戻すと、少し困ったような顔でこちらを向いた。

「ほかの感情に比べると、任意の場合にほとんど追体験されないので……」

 まあ、それはそうだろう。死んでまで人からの恨みを聞きたいと言う人はそう多くないはずだ。だが、魂の成長の糧になる、か。確かに、お悔やみの間は辛かったが、自分の人生を顧みて、色々なことを考えるきっかけになった。


「大体、過ごし方は以上ですね」

 少女はページを更に先に進めた。

「そして、もう十分だと思われたら、終焉の扉へとお進みいただくことができます。いついくのも自由ですが、一度お進みいただくと二度と戻れませんので、ご注意くださいね。ただ、強制的に終焉の扉の向こうに送られる場合もあります。先ほど申した通り、こちらの忠告にしたがっていただけない場合と……」


「魂の期限が切れたとき、か?」

 ずっと気になっていたことを聞くと、少女はそうですと答えた。


「魂の期限は、生前の世にいる魂に依存します。ここにいる魂は幻を入れ物として存在していますが、幻は肉体とは違って時の流れのなかでは魂を守りきれず、少しずつ魂が疲弊していきます。その疲弊した分は、生前の世にいる魂から少し力をもらって補うことができます。ただ、誰からでももらえるわけではなく、生前の世で強い関わりがあった方に限られます。なので、そういった方々が全員お亡くなりになると、疲弊した分を補うことができなくなり、そのうち魂の期限が訪れるのです」


「なるほど、じゃあこの子は……」

 シズエの膝で気持ち良さそうに寝る子を見る。この子と生前強く関わりがあったのは、俺とシズエだけだ。

「そうですね、もうすぐ期限がくると思います」

 少女が残念そうに呟いた。


「でも、そんなにすぐに切れちゃうわけじゃないそうよ。十日くらいは大丈夫なんですって」


 シズエの声に顔をあげる。

「この子、私がくるまで、ずっと一人で待っててくれたの。だから、私はもう、この子を一人にはしたくない。もう少し、あなたと三人の時間を楽しんだら、私も一緒に終焉の扉を進むつもりよ」

 にっこりと笑う顔は、生前の頃と変わらない。いや、むしろその時よりも優しく綺麗に見えた。


「わかった、俺も、一緒に行く」

 迷わずにそう言うと、シズエは困ったように笑った。

「でも、イサオさん、ケンイチ君のお孫さんにも会ってるでしょ? 多分、その子がこちらにくるまで、あなたの期限はこないわよ」

「構わない。シズエと、この子と、一緒にいたい」


「あの……」

 少女が言いにくそうに口を開く。

「終焉の扉の向こうがどうなっているのか、誰もわからないんです。なので、皆さんが扉の向こうでも一緒にいられると言う保証はなくて……」

「なら、なおさらそんなわからない場所に、嫁と子供だけでいかせるわけにはいかない」

 きっぱりと言うと、少女は少し驚いた顔をしたが、にっこりと笑った。


「わかりました。ではそれまで、素敵な時間をお過ごし下さい」

 少女はにこにこしたまま、広げていた本をぱたんと閉じる。

「何か質問はございますか?」

 俺は少し考えてから、首を横にふった。

「では、私はこれで失礼します。何かあれば呼んでください。また明日きますね」

 そういって、少女は立ち上がると、ぺこんと頭を下げて去っていった。


 それから俺は、しばらくシズエと話していた。二人の思い出話や、シズエが亡くなってからの話など。シズエは子供とちょくちょく生前の世にも来ていたらしく、結構知っていることも多かった。中にはそんなことも見られていたのかということもあり、冷や汗をかいていた。

 子供はその間、シズエの膝で眠ったり俺の肩をよじ登ったり、他の胎児の魂に紛れて遊んだりしていた。シズエは子供のことをケイちゃんと呼んでいた。男か女か判らないから、どちらでもいいようにとシズエは笑った。俺は、いい名前だなと呟いた。


 初日はそんなこんなであっという間に過ぎていった。

 お悔やみ係の少女がきて、もう次の日になったのかと驚いた。ここではお腹もすかないし疲れない。寝ようと思えば寝れるそうだが、眠たくもならないし寝なくても支障がない。時間の感覚がすっかりくるってしまう。そういうと、そのために私たちが毎日お顔を見に来るんですよと微笑まれた。ちなみに、ケイのお悔やみ係の女性と、シズエのお悔やみ係もきた。シズエのお悔やみ係は壮年の男性で、服装は他の二人と同じく白衣と白い袴に白足袋だった。


 その後、俺とシズエとケイは、追憶の園で楽しく充実した時間を過ごした。

 生前に知り合いだった人も多くいて、兄のヒロシをはじめ、俺やシズエの両親、他の兄たちにもあった。また、たくさんの友達にも会うこともできた。ただ、同郷の友達が子供の頃の姿をしていて少しびっくりした。あとで少女に聞くと、初対面の人には自身の思い描く幻が見えるが、知り合いならその人の一番印象に残っている姿が見えるのだそうだ。これを聞き、俺はシズエにどんな格好に見えるか聞いてみた。シズエは、上下グレーのスーツに白いワイシャツ、首元には紺色の石がついたループタイ、濃いグレーの帽子を被って、色が濃い革靴がピカピカ光ってると答えた。私は? とシズエが問うので、俺と同じときの格好だというと、嬉しそうに笑った。


 四日目に、見覚えのあるおさげにセーター服姿の少女を見つけた。どきりとしてつい名前を呼ぶと、少女は振り向いて驚いた顔をしていた。軽く挨拶をすると、お悔やみの間での記憶がよみがえってきた。謝りたいが、何と切り出そうか、今更蒸し返すだけで、俺の自己満足だろうか、色々と考えて下を向いてしまう。

「もういいよ」

 はっとして顔を上げると、カズコちゃんは困ったように笑いながら、こちらを見ていた。

「ごめん」

 自然に出てきた言葉に、カズコちゃんはもう一度笑った。

「言ったでしょ。もういいよ」

 そういうと、カズコちゃんはくるりと反対を向き、走っていってしまった。


 七日目から九日目は、三人で生前の世に行った。三人のうち誰かが行ったことのある場所には、連れて行ってもらうことができるらしい。また、人やものに触ることはできないが、空間ごと移動する乗り物には乗ることができるとのことだった。

 最初に俺の家に行くと、初七日の法要が執り行われており、なんだか笑ってしまった。その後、俺たちは家でゆっくりしたり、散歩に行ったり、ちょっと遠くに旅行に行ったりと、まるで生きている親子のように過ごした。ケイが思ったよりもはしゃいでいて、胸が熱くなった。


 最後の日は、シズエの希望で追憶の園に戻ることにした。その前に、少女の勧めで俺は感謝の幻が作る空間を追体験することにした。最初は、一秒でもシズエとケイと一緒にいたいと躊躇していたが、過去で満ちる空間は時が流れておらず、三人で過ごす時間が減らないと聞き、またシズエも勧めてくれたので追体験を決めた。


 お悔やみの間と同じように、最後の扉を少女に開けてもらうと、シズエとケイが待っていた。半分以上がシズエの幻だったというと、シズエは頬を赤らめ、当然ですよとなぜか得意気だった。


 その後は人の少ないところを選び、ゆっくりと座って話をしながら三人で過ごした。とても穏やかな時間だった。


 ケイの魂の期限があと二時間くらいに迫った頃、最初にケイのお悔やみ係が、そのあと少ししてからシズエと俺のお悔やみ係がきた。


「では、まいりましょ」

 ケイのお悔やみ係の女性が歩きだし、皆がそれに従う。一時間ほど歩いただろうか。段々と人も動物も少なくなり、咲いている花の密度が上がっていく。

「ここね」

 ケイのお悔やみ係がそういって、前に向かって手を伸ばす。すると、空間に水面に手をつけたような同心円状の波がおこり、扉が現れた。白く優しく光るそれは、朝の太陽に照される新雪のようだった。


 ついに、この時がきた。


 十日間という短い間だったが、生前お世話になった人にも会えたし、思いがけない再開もあった。そして何より、シズエとケイとかけがえのない時間を過ごすことができた。

 それなのに、胸に何か引っ掛かっている気がするのは、緊張のせいだろうか。……いや、原因はわかっている。()()()との清算が終わっていない。だが、いくら探しても、あいつは見つからなかったのだ。まだ来ていないのか、それとも既に終焉の扉を進んだのか……どちらにしても、今の俺には調べるすべがなかった。


「……行こうか」

 しかたないのだと自分に言い聞かせ、ケイを抱くシズエの手を引いて、扉に手を掛けようとする。


「イサオ!」


 呼び止められて、はっと手を止める。振り返らずとも、声の主がわかってしまった。この声を間違えるはずはない。


 急いで振り返ると、小柄で痩せた青年が立っていた。たれ目がやけに悲しそうに見えた。

「イサオ……俺……」

 胸の引っ掛かりを勢いよく引っ張られたようだった。反射的に駆け寄ろうとするが、目の端にシズエが見えて、足を止める。


「ケイの期限はあとどのくらいだ」

 俺はミノルを見たまま尋ねる。大体二十分くらいねと、女性が答えた。

「すまない、少し、待っていてくれ」

 俺はそういうと、ミノルを通り越してゆっくりと歩いていく。ミノルがついてくるのがわかった。


 ーーーーー


 五分ほど歩いて、二人きりになり、後ろを向いてミノルと向かい合う。ミノルは少しだけびくりと身体を強ばらせたが、伏し目がちに立っていた。

 俺は、なんと言っていいのかわからなくなってしまった。半世紀以上、俺は心の奥底でミノルを恨み続けていた。しかしつい十日前、お悔やみの間で誤解だとわかった。ずっと、会って話がしたいと思っていたが、いざ目の前にすると何から話していいのかわからない。


「……殴らないのか」

 しばらくすると、ミノルはそう呟いた。そして、がばりと土下座すると、震えながら、絞り出すように話し始めた。


「ごめん、俺、お前に……」

「顔をあげてくれ」

 慌てて言葉を遮ると、ミノルはびくりと身体を震わせた。しかし、顔をあげないままだった。俺も次の言葉を見つけられないまま、沈黙が続く。ミノルが身体をおこすが、顔は下を向いたままで表情が見えない。正座で背中を丸めた姿勢で、ぽつりと呟くように口を開いた。


「……ここに来て、結構経つのか?」

「いや、十日ほど前だ」

「そうか……もう、いくのか?」

「ああ、ケイの……子供の魂の期限、今日までなんだ。だから、一緒に」

「お前の子供の? なんで……」

「子供、生きて産まれてこなかったんだ」

 ミノルが顔をあげる。驚愕したような顔は、見る見るうちに苦渋の表情へと変わる。


「あれが、原因……だよな」

「わからないと、医者は言っていたよ」

「でも、いや……」

 ミノルはまた下を向く。

「すまなかった、本当に……。あんな風に一方的に、疑われて、クビになって、三人から蹴られて、お前、あんなに違うって叫んでたのに……その上子供まで……全部俺のせいだ……。今更、俺の自己満足にしかならないが、お前にずっと謝りたかった。本当に、申し訳ない。すまない」


 また土下座の体制になったミノルから、絞り出すような嗚咽が聞こえている。ミノルが、なぜあの時のことをまるで見ていたかのように知っているのかと訝しんだが、こいつのお悔やみの間に俺の幻が出てきたんだろうと思い当たって納得する。俺も言わなければ。お悔やみの間でミノルの幻を見て、誤解だとわかったことを、恨みに駆られていたことを後悔しているということを。


 しかし、感情ばかりがあふれ出て、肝心の言葉がでてこない。

 沈黙が、二人の間に重く立ち込めていた。


「すみません……そろそろ、お時間が近づいています」

 控えめに掛けられた声にはっとすると、いつの間にか来ていたお悔やみ係の少女が、心配そうにこちらを見ていた。


 そうだ、もう行かなければ。でもその前にミノルに何か言わなければ。でも何といっていいのか、この期に及んでもまだわからない。ミノルとは、俺の人生とはこれでお別れだ。最後は、謝罪ではなく、俺とお前らしく……。


「でんでん太鼓」

 俺がつぶやくと、ミノルがピクリと反応する。

「でんでん太鼓と、手紙も、ありがとう。あと、ごめんな」

 ゆっくりと顔を挙げたミノルは、なぜ知っているのだと訝し気だ。俺はその顔がおかしくて、軽く噴き出してしまった。


「あとさ、お前二十五歳にもなってロッカーに隠れるとか、ばかだろ」

 ミノルが何かに思い至り、納得したような驚いたような顔になる。あの時から変わらない優しいタレ目が、悲しそうに光った。


「うん、俺、ばかなんだ」

「じゃあ、俺もばかだ。お前の、親友だもん」


 にやっと笑った俺の頬を暖かいものが流れ落ちる。胸の引っ掛かりを溶かすような、優しく温かいものだった。やっと笑ったミノルの目から流れるものも、同じようにミノルを暖めてくれるといいなと思う。


 俺は一度だけ右手を挙げるとくるりと向きを変え、少女と一緒に終焉の扉に向かい始めた。


 八十二年の人生を終え、もうすぐ俺の魂は終焉を迎える。

 取り返しのつかないことをされたり、してしまったり、色々あったが、それももう終わりだ。正直、悔やむことも多い。謝ることさえ叶わぬ相手もいる。だがそれら全部ひっくるめて、俺の人生として受け入れるべきなのだろう。

今はただ、この扉を妻と、子供と、共に進める嬉しさを噛み締めよう。俺は、そんなことを考えながら妻の手をひき、扉に手を掛けた。

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[良い点] 上手く表現出来ませんが、人だな、と感じるところ。 [気になる点] 一番最後の一文。 >俺は、そんなことを干害ながら妻の手をひき、扉に手を掛けた。 とありますが、「干害」ではなく「考え」かな…
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