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第六話


<〇年前>

「シロ、『エンゴサク』が咲く時期だ。採取してきてくれ」

カナタに草花の採取を頼まれた。


「分かりました」

シロはいつもの事だったので二言返事で返す。


--------------------

薬を調達する方法について、2種類ある、買うか作るかだ。

我々のギルドはどちらの手段も併用している。

また、調合という意味なら作る方が圧倒的に多い。


シロは一通り、草花辞典の文、写真を覚え、自分なりの方法で薬草、山菜採取は行えた。

草花は色だけでなく、模様、形、臭いなどさまざまな特徴があるからだ。



シロは当時、カナタに目のことを言っていなかった。

言わなきゃ言わなきゃとは頭の念頭にはあったのだが自分のコンプレックスはなかなか気軽に話せるものではなかった。



今回のミッションである『エンゴサク』は3枚の輪生する広い派の上に、3枚花弁の小さな花が咲く『スプリング・エフェメラル』だ。

『スプリング・エフェメラル』とは雪解けと同時に地面から顔を出し、春先にいち早く花をつけ、落葉樹の葉が生い茂るまで短い期間だけ活動し、夏になると枯れ、あとは地下で過ごす一連の草花の総称で花植物ともいう。

語感といい意味といい、えも言われぬ趣があるとシロは思っている。


花の色はムラサキや白、茶色があるそうだが色は見えない。

だがこの花は特徴的で独特な姿をしている花なので、格別見分けが難しい草花ではない、むしろ初心者向けで色を見る必要が無くてシロは助かったと思っていた。

シロは『エンゴサク』の採取経験はなかったが、見間違えることはないだろうと思っていた。


シロは採取用のカゴを持って山へと駆け上がり、目当ての草花を探す。


「……見つけた」

水はけが良くない土地に生えると書いてあったのでその土地を探し、無事『エンゴサク』を発見し、採取に成功した。

予想通り苦労しなかった。


帰り道、まだ時間もあったのでついでに山菜の採取を始めた。

我がギルドは最近ホームを購入し、絶賛金欠なので食用草で飢えをしのぐこともあった。

船生活での食事はとても大切で、手軽に取れる山菜に重宝していた。


「は、ぁ…………っ、」

あるだけカゴに詰め、ほぼほぼ取り終えただろうという頃、体に異変が起こりはじめた。


「…………ん、ふぅ、ふぅ、」

夏ではないのに異様に汗が出る、息が上がるほど動いたつもりはないのに呼吸が上がる、

異常を自覚してからどっと体が重くなった気がした。

とりあえず、さっさと山を下りるのが先決だ、目的はとうに達成しているのだからと可能な限り早足で山を下る。


「…………ん、……はぁ……はぁ、気持ち悪ぃ…………」

良くわからないがぶわっと噴き出る汗、さらに酸欠で気持ち悪い、早く、一秒でも早く帰りたかった

なんだか多少……といえない位に、本当に具合が悪い。


「…………あっ、」

あと少しでホームに着くだろうと言う時、くらりと歪む視線の直後ふわんと意識が急激に遠のきそうになった。

咄嗟に転倒を回避しようと左手を木に伸ばしたが世界が歪み、目が回ったせいで木があるはずの位置に手を付けず、空を切り、そのままバランスを崩して倒れた。




さばーっと、薬草をぶちまけてしまった。



「く、あ、はぁ…………あ」

(やってしまった)

頭を打ったかもしれない、何処を打ったかも分からずとりあえず転倒の衝撃から覚めるまでその場から動けなかった。


「…………ふぅ、ふっ、っ、は、はっ…………」

熱が籠もった息に、発熱までしてきたのかと悟った。

時間を追うごとに呼吸が浅くなってきている、ヤバい、帰れそうもないや。


「っく……あ…………はぁはぁ、あ、はっ」

倒れたままはくはくと、酸素を求めて唇を開閉しつづけてどれくらい経っただろう。

山に独りぼっち、寂しさがこみあげてくる。


この自然な不調に全く思い当たる節がないのに俗にいう風邪の症状だ。

現在、我がギルドに通信機を持つほどお金はなく人を呼ぶ手段はない。



「んんん、ふっ」

それでも自分が動かなければ帰れることはない、転倒で一気に持って行かれた体力のせいで、力も上手く入らない体を気力で持ち上げる。

身体を反転させ、四つん這いになり、手を付こうとした木にもたれかかり一息つく。

目の前には散らかった草花が見える。


「……ふぅ、はぁ、あっ…………はぁはぁっ、う」

一度落ち着こうと足を止めたというのに呼吸が整わないどころか、このまま酸欠で意識を失いそうだった。


「…………あっ、……はぁ……はぁっ」

このままだと風邪をひいてしまう、早い所自分で散らかした草花を回収して帰宅し、ホームに戻らないと、汗が気持ち悪いからシャワーを浴びたい。

そう頭では思うのだが、一度休憩してしまうとこの世界の重力が変動したか、自分の体重が急激に増えたのかと錯覚するくらいに床に吸いつけられる力が強く、何もやる気が起きない。



なぜこうなってしまったのか、ただの薬草摘みも満足に出来ない自分の情けなさに涙がぶわっとでてきて精神面でも焦りが出てきて非常に困った。

これ以上哀れでいたくないと自分を叱咤させ重い腰を上げて草花をかき集めだした。




動作を再開してしまえばまだ動く。




「シロ、そこにいたのか……遅いと思って探しに来た……」

突然カナタの声がした。


声ひとつでぴくりと肩が揺れで竦み上がり手が止まる、もともと手は動いていたが意識が夢の世界へといざなわれようとしていたようだ、急にカナタの声を聞いたため、シロの意識が現実へと引き戻される。


「…………どうした?」

シロに反応がないため再度カナタが呼ぶ。


ああ、なんでこんな時に、よりにもよって、そう思い絶望した。

カナタにこの姿を見られたくなかった。

服は汚く薄汚れ、体は汗だくでしかも息が整わない状態でカナタの前に顔を出したくなかった。

消えてしまいたい。

シロは羞恥心に襲われた。

浅い呼吸しかできていなかった身体をカナタに悟られたくないと深い呼吸を意識する。


逃れられない、足元はカナタその人、目線を頑張ってあげ入ってきた人物も声の主通りカナタだった。


「シロ?! どうした?!」

上げた自分の顔が真っ青だったのか、真っ赤だったのかわからないがシロの尋常じゃない顔を見てなのだろう、カナタが血相を変えた。


「……はぁ、いえ、なん、でも……」

平常心を装いたいが、上手く演技ができない。



「熱が出てるのか?あと皮膚が真っ赤だぞ、何があった」

カナタがそう言いながら近づきおでこに手を当てたりシロを診る。


「…………え?」

汗だくで腕まくりをしていた。

肌に着いた土の色だと思っていたが真っ赤だったのか。

皮膚が赤かったことにも気づかなかった。


「何に触ったんだ?」

カナタが言う。


「え、…………特別、め、ずらいものには…………」

回らない頭で考えるが、やはり危ないものに触った覚えはない。


「……これは…………」

カナタがシロの採取してきて、現在ちらばった1種類の高等植物を見る。



「『トリカブト』という毒草だ。ほんのちょっとの皮膚に触れただけで人間に強烈なダメージを与え、誤食すると中毒症状を起こす」

カナタの目が細められ、顔をしかめながら言う。


「…………はぁはぁ、『ニリンソウ』じゃ、……な、いんですか?」

シロがいう。

『ニリンソウ』という山菜があり、よく採取していたのでこれだとおもったのだ。


「……これは『ニリンソウ』じゃない、確かに似ている形だが…………そもそも葉の色が黄緑じゃなく薄紫の時点でおかしいと気づかなかったのか?」


「…………」

シロはカナタの言葉に衝撃を受け、絶句した。

色のわかる人間なら明らかに危険な色をしていたのか。


「全ての部位に有毒成分が含まれている、皮膚に触れたんだろう」

複数種類の山菜を取っていた軍手で採取していたのだが、枝などで擦り切れて肌が出ていたのだろうか、全く気づかなかった。


「まあいい、燃やすと毒煙が出るから海に沈める、そこにそのまま置いておけ」

カナタが言う。


「…………す、みません、めいわく、かけて……」

シロが言う。

他の草花も触れている可能性があるから処分となるだろう、目当ても薬草もダメになってしまった。

シロは罪悪感で泣きそうだった。



「いや、危なかったな。目に入れば失明は確実だった。皮膚にステロイドを塗る。あとは熱が出て辛いだろう? 解熱剤も後で飲ませてやる。今はもう寝とけ」

カナタの優しい言葉が逆に心に刺さり痛かった。


--------------------


その後、目のことをカナタに話した。

シロは薬草摘みから外された。

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