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別れ

作者: 和子

美しい湖がある。

この森に春がきました。

冬眠から目を覚ました動物たちで、この森の中は急に賑やかになりました。

眩しいばかりの太陽が、この森を照らします。

木々の葉が光を跳ね返し、みずみずしい緑の芽が顔を出しました。

雪やつららが溶けて、谷川の水が増し、水の音は歌っているようです。

この美しい森の公園で、鬼と小熊とリスがブランコに乗って遊んでいます。

鬼はビューンビューンと高い舞い上がり、雲の上まで飛んでいます。

ブランコとは何と素晴らしいおもちゃでしょう、と鬼は雲に乗って空を飛び回っている思いでした。

小熊は体が重いからでしょうか、動かせば動かすほど、ブランコがギシギシと鳴くのです。

小熊はブランコが可哀想になってきました。

リスはブランコの上に乗っていますが、ブランコが大きすぎて動きませんのでブランコをくるみ割りに使い、一生懸命でくるみを食べています。

鬼が空高く飛んで下界を見ると、真っ赤になっています。

「これはいったい何だろう。夕焼けにしては早すぎる。さっき昼食を取ったばかりだから」

と、鬼は独り言を言いながら、もう一回高く舞い上がり、よぉくみるとそれは大事でした。

鬼の顔は真っ青になり、体がブルブル震えるのです。

「大変ですよ、小熊ちゃん、リスさん、火事よ、火事ですよ」

「どこが火事なの?」

「ここ、ここよ。早く逃げないと、焼き焦がれて死んでしまうよ」

火の手はこの公園目指して、赤い大きな舌で舐めるようにして、迫ってきています。

「小熊ちゃん、リスちゃん。何をぐずぐずしているのよ。火事よ火事よ大火事よ」

鬼は一生懸命で言いますが、火事が強くて腰が抜けて体が思うように動きません。

「鬼さんしっかりしてよ。何しているのよ。大変だから逃げようと言ったのはあなたよ。早く逃げましょうよ」

「ねぇ、私の体を動かしてよ、体が動かないのよ」

リスと小熊は鬼の手を引っ張りました。

それでも鬼さんは動けません。

鬼が

「鬼の丸焼きなんて聞いたことないわ、頑張ってよ」

と、小熊とリスは鬼の腰をポンポンと五回叩くと、やっと動き出しました。

三匹で逃げました。

大分逃げたところで、リスが

「ちょっと待ってね。火の手はどこまで来ているか見てみるわ」

と、大きな木の上に登りました。

下界を見ると、大きな赤い日の塊が笑っているようでした。

その火の塊が

「リスさん、そんな木の上に登って逃げたつもりでしょうが、私のこの赤い舌でペロリと舐めれば、あなたは真っ黒に焦げるのですよ」

と、意地悪を言っているようにも思えました。

「さぁ、逃げましょう。火の手はそこまで来ているわ」

リスはピョンピョンと跳ねるようにして逃げました。

鬼も元気になり走りに走りました。

小熊は火事とはどんなものかわかりません。

しかし、鬼もリスも一生懸命で逃げますので、鬼やリスの後を追いました。

小熊は太りすぎて、早く逃げることができません。

そんな小熊に鬼もリスも焦るのです。

「小熊さん、早く早く」

と、急き立てます。


鬼たちは自分たちを狙っている狩人が近くにいることは知りませんでした。

「おーいおーい、鬼だ鬼だ」

と、人間の声が聞こえてきます。

こんな大変な時に

「困ったな」

と、鬼たちは悲しい顔で見つめ合いました。

火の手はそこまで来ています。

下は火事、上は狩人と両方に挟まれてどうしたらいいのでしょう。

狩人たちは火事には気づいていないようです。

鬼を的にして発砲します。

ズドンズドン、鬼の耳をかすめます。

「何やっているんだ、ちっとも当たらないじゃないか。どれ、今度は俺が仕留めてやる」

鬼たちは雑木の中に逃げました。

そして、腹ばいになりました。

「こんな道草していると、火に焼き殺されてしまうのに。あれほど強い火の勢いなのに」

「ちょっとでも動くと、ズドンとくるからどうしようもないね」

「そうだよ、狩人たちだって、焼け死ぬかもしれないのにまだ気づかないのかね」

「そうだよね」

狩人は

「よーし、今度こそ射止めてやる」

銃口は鬼に向けられ火を吹きました。

「また、ダメか」

「おーい、なんだかキナ臭いぞ。それに、暑すぎる。この時期はこんなに暑くないよ。火事かもしれない」

「何だって、山火事だってかい」

「どうも、そうらしい。あの音は木が燃えている音だよ。早く逃げよう」

鬼たちは、狩人たちが話をしている隙に逃げました。

鬼が

「みんな北風だから、東に逃げよう」

走っていると、森の動物たちはみんな一生懸命で逃げています。

小鳥も野ネズミも森の動物たちはみんな一斉に東に向かって逃げていました。

やっと、火の手から逃れることが出来ました。

狩人たちもフウフウ言いながら、山の上に登ってきました。

森の動物たちが一番怖がっている銃は持っていません。

逃げるのがやっとで、持ち物は全部捨てて、命からがらたどり着いたのでしょう。

緑豊かな森でしたが、森は一面に死の山と変わり果てました。

木と言う木は裸になり、裸の枝はヤリの先のように、とげとげしい枝になり、夕暮れも手伝って森の中は灰色となりました。

森の動物たちは住み家を探して、さまよい歩きました。

どこへ行っても、どの動物も迎え入れてはくれません。

自分の領域にはよそ者は絶対にいれまいとして、オオカミが遠吠えを出しています。

鬼たちは疲れ果てて、湖に行きました。

湖のそばにあったブランコも焼けていました。

湖に住んでいた魚たちも死に、白いお腹を上にしていました。

変わり果てた姿がそこにはありました。

鬼もリスも小熊も別れ離れになって、住む所を探しに、親に連れられ旅に出ました。

鬼もリスも小熊も、目にいっぱいの涙をためて、別れを惜しみました。

「鬼さん、リスさん元気でね」

「小熊さんも元気でね。いつかきっとこの湖で会おうね」

「うん、きっと会おうね、この湖でね。約束したよ。その日を楽しみにしているよ」

と、口々に行っても別れを惜しみました。

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