トミヤ商会
2日後の事
私はメルナ、ベルを連れてリジーナの酒場に到着した。
前回ミードを渡して貰った店員さんの所へ行って、また頼もうかと口を開けようとした時、先に「上でお待ちしております。」と言って上に通された。
コンコン
「どうぞ」
そう言われたので、扉を開けて部屋に入ると、2日前と同じように椅子に座っていた。
「待っていたよ。クロノスにメルナちゃんと……」
「ベルって言います。短い間ですが、ヨロシクお願いしますね。」
ベルは微笑みながらそう言うが、実際の所はずいぶん警戒しているようだった。
「ベルちゃんって言うんだ。こちらこそヨロシクー」
リジーナはメルナの時のように握手をしたが、すぐに振り払うように握手をやめた。
「それじゃあ、3人とも、そこのソファーに座って。すぐにお茶と、頼まれていたの渡すからさ。」
そう言って、リジーナも自分の仕事机から立ち上がった。
「そう言えば、私の渡した銃、ちゃんとある?
言い忘れたけど、他の所に売ったりだとか、壊れたからって自分達で修理しないように気をつけてね。」
そう言われると、彼女は1つため息を吐いた。
「ちゃんと解っているし、それに解体しようとしたら吹き飛ぶって前にも聞かされたし、仮に出来たとしてもこれを量産できるほどの技術はこの世には存在しないよ。」
そう言って、彼女は数枚の紙を渡して来た。
「それは全部私の手書きの奴だから安心して。」
私とメルナ、ベルは座り、リジーナが集めた情報がまとめてある紙に目を通した。
内容としては、初めの方は差し当たりの無いような情報を書いてあったが、どんどんと読み進めて行く内に、内容は表では口に出せるような物になってきた。
「……これって本当?
脱税とかはまだしも…違法な量の魔石の密輸に禁止薬物、それに……奴隷の違法売買なんて……」
リジーナの書いた資料の1枚目の方は、大まかな予定と、世の中で言われているようなトミヤ商会を称賛するような内容なのに、2枚目以降からは脱税に賄賂、違法な物の取引等々の黒い部分が書かれていた。
「情報屋界隈では結構聞く話だよ。
脱税と賄賂は珍しい話じゃあ無いし、大きな声じゃあ言えないけどヤミ商品の流れは特にココじゃあ日常茶飯事さ。」
そう言って自分の入れたお茶を一口飲んだ。
「それじゃあ……奴隷商売も……」
私の口はゆっくり重く開いたのに対して、リジーナの口はすぐに開いた。すぐに
「奴隷制度はここ100年200年余りで採用している国は相当減ったけど、まだ採用している国は少数ながらいるし、安い労働力を求めて違法でも奴隷を使っている奴らだって少なからずいるのさ。」
私は段々と気分が重くなってきた。
数百年生きようとも、まだ現代人の心が残り続けていて、そう簡単には受け入れられない。
それに奴隷制度の廃止は相当力を入れて行った事の1つなのだ。
確かに、奴隷制度とかはすぐには無くなるような物ではないのは解っていたけど、こう現実を直視すると少しキツい。
そんな私の心の内に気づくはずもなく、リジーナはさらに話し続ける。
「それでさ、クロノス。まだこれは確定情報じゃ無いから書かなかったんだけどさ、トミヤ商会にはこの商業都市でもトップクラスの規模をほこる商会の、リヒテイル商会が裏で糸を引いているから気をつけな。」
私はその話を黙って聞いていた。
今回はこれまでとはまた違った難しい問題だ。




