きっといる、あなたの近くに。
人を殺してみたい。
小さい頃から、ずっとそう思っていた。
誘惑に駆られて、初めて実行しようとしたのは、小学生の時だった。
階段を降りている時に、前にいた男の子の背中を、押してみたのだ。
その子のことが嫌いだったわけではない。そもそも、私はその子のことを知らなかった。
ただ、その子が階段を転げ落ちて死んだら、面白いなと思ったのだ。
結果的に、その子は転んで、足と手を少しだけ痛めた。
期待はずれの結果ではあったものの、私はとても興奮した。
そして、きっといつか成功させたいと思った。
でも、私は先生に叱られてしまった。
「どうしてこんなことをしたの!?」
私の担任だった女教師は、私が他の子に怪我をさせたと知って、とても怒った。
「面白そうだったから」
私は正直に答えた。
すると、先生はますます怒って、人を傷付けてはいけないとか、それは悪いことだとか、延々と説教した。
馬鹿じゃないか、と思った。あんなに楽しいことをしちゃ駄目なんて、理由が全く分からなかった。
でも、その先生は大切なことを教えてくれた。
それは、誰かを傷付けると面倒臭いことになる、ということだ。
それからはなるべく大人しくした。人を殺したら叱られるからだ。
それから暫くして、私は野良猫を殺す計画を立てた。
人から餌を何度も貰っているらしく、かなり無防備だったから、簡単に殺せるだろうと思ったのだ。
餌を貰えると思ったらしく、警戒することなく近寄ってきたその猫を、私はナイフで刺した。
猫は、叫ぶように鳴いて逃げ出した。
子供が料理に使うような、小さなナイフでは猫も殺せないということを、私はその時に知った。
その後は、猫のための餌と、もっと大きな刃物を準備した。
初めて猫を殺すことに成功した時は、興奮しすぎて震えが収まらなかった。
でも、その後皆が大騒ぎをしたので、私は動物を狙うこともやめた。
この辺りに危険人物がいる、などと盛んに注意喚起がなされたが、私が疑われることは無かった。
私の両親は、「変な男がうろついている」「子供を狙ったらどうしよう」などと、的外れな心配をしていた。
中学生になる頃には、テレビやインターネットで様々な知識を得ていた。
人を殺す方法はたくさんある。それを知って、私はとても嬉しかった。
こんな方法で人を殺してみたい! こんな方法で人を殺せたら、どんなに楽しいだろう!
そうして空想をしている時間は、とても楽しかった。
アニメとか、ドラマとかには、人を殺すのを楽しむ登場人物がたくさん出てくる。
中には魅力的なキャラもいた。でも、大抵のキャラのことは理解できなかった。
そういうキャラには、人を痛めつけることを楽しむ描写が多かった。その理由が、私には分からなかった。
人が痛がったり、苦しがったりするのを見て、どこが面白いんだろう?
そんなことで喜ぶなんて、凄く異常なことだと思う。そんなことをしていないで、さっさと殺したらいいのだ。
調べてみると、過去の犯罪者の中には、本当にそんな人が何人もいたらしい。そういう連中は、きっと頭がおかしいのだろう。
頭がおかしい人間は、精神鑑定というものによって無罪になることがあるらしい。普通に人を殺すことを楽しんだ人は刑務所に入ったり、死刑になるのだから、とても不公平だ。
進級してクラス替えがあり、私はとても可愛い子と同じクラスになった。
その女の子は、いつもたくさんの人と楽しそうに話していた。笑顔の可愛い子だ。
こういう子を殺せたら、なんて幸せだろう!
そんな気持ちが日々募っていき、ついに我慢の限界になった。
そして私は決心した。この子を殺そう。それで刑務所に入ることになっても、この際仕方が無いだろう。
殺す相手は決めたけど、どうやって殺そうか?
色々な方法を想像して、楽しい時間を過ごす。
どんな方法だったとしても楽しいだろうと思う。でも、首を絞めたりするのは、女の腕力では難しい。
斧のような、大きな刃物を持ち歩くのも難しいだろう。
どうしようか。そんなことばかり考えていると、ある日事件が起こった。
ある日のお昼休みのことだった。
突然、学校中が大騒ぎになった。
最初は何が起こったのか分らなかった。そのうちに、「落ちた……」「飛び降り……」「死んだ……」「自殺……」といった言葉が耳に入ってきた。
私は、クラスメイトから話を聞き、急いで現場を見に行った。
先生達は、生徒が近づかないようにしながら怒鳴っていた。でも、幸いにも私は死体を見ることができた。
男子だった。これは後で知ったことだが、私とは学年が違う生徒だ。
人は、落ちて死ぬとこうなるのか!
地面に転がっている死体を見て、私は久し振りに激しい興奮を味わった。
それから暫くは、いじめがあったとか無かったとかで、大人達が騒いでいた。
クラスメイトの中には、可哀想と言ったり、怖いと言ったりして、泣く子が何人もいた。
そういう人達のことはよく分らなかった。私は、嬉しくて楽しくて、とても幸せな気分だった。
その事件で、私は決めた。
やっぱり、あの子はどこかから突き落として殺そう。小学生の頃からの念願を果たすのである。
どうせ落とすなら、なるべく高いところがいい。落としやすさを考えれば、高いフェンスなどが無い場所がいいだろう。できるだけ相手を安心させて、後ろから思いっきり押すのがベストだ。
その日から、私は人を突き落とすのに適した場所を探した。
捕まらないための、最低限の努力はしておくべきだろう。できれば、人目が無く、防犯カメラなども無い場所がいい。私がやったとバレて、刑務所に入ることになったら、その後何年も人を殺せなくなってしまうからだ。
やがて、私はある建物に注目した。既に住人がおらず、容易に屋上に上がることができるビルである。
建物自体は古くてボロボロに見えたが、遠くの山が見えて、意外と景色も良かった。あの子を誘い出す口実としては、ある程度の説得力があるだろう。
そして、私はあの子にこっそりと話しかける。
「景色がいい場所を見つけたんだけど、一緒に行かない?」