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Birples  作者: 間津 紅華
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第五話 試験という名の決闘

お待たせしました。ようやくアクションです。

車を降りると、スーツの男が立っていた。

「ミス・カンダ、お待ちしていました。大統領がお待ちです。」

「大統領?あのレイマン大統領が?」

「君の依頼は国交が絡むからな。」

「でもそんなの総理大臣を介してからじゃないと…」

「知らないのか?八重(やえ)(しま)首相は反人鳥派だぞ?」

「えぇ!?だってテレビで中立を主張してたじゃない。」

「表向きに決まっているだろう。今の日本の与野党は人鳥の肯定派と否定派にわかれているが、野党の反人鳥派が勢力を増しているのは与党派の仮面をかぶった八重(やえ)(しま)首相が黒幕だ。」

「あたし、日本のことなんにも知らない…。」

舞にはショックが大きかったようだ。誰が敵で誰が味方なのかがわからなくなってきたのだ。

男に案内されて進むと、訓練場にたどり着いた。あちこちにブロックがバラバラに積まれていて、まるで港のコンテナ置き場のようだ。

大統領はそれらを一望出来る高台にいた。

「君がミス・カンダか。ようこそアメリカへ。」

レイマン大統領はなぜか苛立ったような表情をしていた。

「お会い出来て光栄です。」

舞はふつうの挨拶をした。

せっかく勉強した英語も気難しい表情の大統領の前では引っ込んでしまった。舞はそう思った。

「申し訳ないがコレが終わるのを待ってくれないか。私は立会人なんだ。…そろそろ始まるか。」

積まれたブロックの上に二人の人影が見えた。一人はスキンヘッドのがっしりした大男。もう一人は、面会室であったあの金髪の青年だ。

男二人は互いを見据え、しばらく黙りあっていた。

やがてガルドが口を開いた。

「いいか、ロヴァート。これから試験の説明をする。試験は俺と貴様のマンツーマンの試合だ。銃には麻酔弾を使え。それ以外は何を使ってもいい。それから…」

ガルドは少しニヤけて言った。

「このブロックたちのいくつかには爆弾が仕込まれている。試しに手前のそれを撃ってみろ。」

そう言われてハルはガルドが指したブロックに撃った。


ドォーンと轟音が響きわたる。


舞は驚愕した。こんな危険なところにいていいのか、そう思った。

「わかったか?これがハルを殺すための陰謀だ。」

と言ったフリノーサの顔は飄々としていた。

「何故あなたはそんなに平気な顔をしていられるの?」

「ハルが勝つと思っているからだ―」

「え?」

「コインをだせ!ロヴァート!」

ガルドが声を張り上げたので、舞はしっかりと聞き取れなかった。

「そのコインを背後に投げろ!」

二人は取り出したコインを背後に投げた。

「互いに相手のコインを取った方の勝ちだ。貴様が勝てば日本だろうと中国だろうと好きに行っていい。だが俺が勝てば、どうなるかはわかるよな?」

ガルドはまたしても不気味な笑みを浮かべた。

「さぁな。」

今まで無表情だったハルはその時一瞬だけ笑った。


そして、試験という名の決闘が始まった。


先に動いたのはガルドだった。彼は素早く前のブロックに飛び移りながら拳銃を取り出し、引き金を引く。

ハルはそれをかわしつつ二発ほど撃ち込んだ。

しかし、それはガルドには当たらず彼の両側のブロックに命中した。

またも轟音が炸裂する。ガルドはまた次のブロックに移りながら撃つ。

ぎりぎりにかわせたがハルは足場を失い宙に舞った。続け様にガルドが撃ってくるのを体を捻りながら避け、近辺のいくつかのブロックに三四発ほど撃ち込んだ。

爆音が連鎖する。舞は耳が壊れるかと思った。だが隣に目をやると、フリノーサも大統領も表情ひとつ変えず見ている。

舞い上がった煙が薄れたとき、舞は目を疑った。

ハルが立っていると思っていた場所には、人間ではないものが立っていた。


両腕は翼へ、足は鉤爪に、そして目は鳥の目に。

そこには人鳥、ハル=ロヴァートが立っていたのだ。


彼はガルドの銃撃をかわしながら飛び上がった。そしてガルドから距離をとると、大きく弧を描いて舞たちのいる高台のテントへ飛んできた。


舞は不思議な高揚感に包まれた。


彼の翼は白くでも先は少し灰色がかっていて、それらはひとつの黒い枝からはえている。細い足は黄色く、鋭い鉤爪が光る。そして何よりも目である。彼の純白の眼球は黒点を残して美しい黄色に染められていた。鷲。彼の姿はまるで鷲のようだった。

「大統領。先程の失態、大変申し訳ない。直ちにこの不毛な決闘を終わらせてご覧に入れましょう。」

気高く気品のある佇まいにレイマンは気圧されつつも、うん、と力強く頷いた。

ハルは一礼すると、舞に向き直った。

「マイ、さっきは悪かったな。これを終わらせてすぐに日本に行ってやる。」

「…うん」

「勝てるのか?ハル。ガルドは空軍最強の男だぞ?」

「ポール、お前にはわかってんだろ?」

翼を大きく開く。その姿はまるでアメリカ国章の白頭鷲のようだ。

「五分で終わらせてやるよ。」

そう言うと、そのまま後ろ向きに倒れて降下していった。

「カンダ、ハルは約束を破らない男なんだ。だから絶対にあいつはガルドに勝つ。」

「そんな気がする。彼の目が言ってもの。でも…」

舞は少し不安な顔をした。

「ガルドって凄く強いんじゃなかった?何かの記事で熊三匹を素手で絞め殺したって書いてたけど…。」

「それは有名な話だな。それにガルドは少年時代アフリカでライオンと喧嘩して暮らしていたそうだ。その腕を見込まれて軍人になったとか。だがそれがどうした。ハルはそんな奴に五年もしごかれたんだ。熊やライオンを殺せても、常に上を征する鷲には絶対に勝てない。」

「友達思いね。」

「誰だってそう言うよ。」


ガルドは足元のバッグから遠距離射撃用のライフルを出していた。

「わかっていると思うがこの試験はパラライズマッチ(気絶試合)だ。コインをとるためには相手動けなくしないといけないぜ!飛び回ってコインを探そうたってそうはいかねえよ。」

そういって引き金に指をかける。

「…暗黙の了解だろ。」

と、ぼやくハルに銃弾が放たれた。

走る一閃はハルの喉を正確にとらえたもの。その頂点は空を切った。

ハルは旋回して空軍大佐の放つ幾つもの狙撃を避けながらガルドとの距離を詰めていく。

ハルの翼は腕に変形し、腰についている黒いケースから拳銃を両手に出した。人間の体のまま最後の銃弾をかわし、ガルドの立つブロックに着き、彼の動脈に王手をかける。

「チェックメイト…」

「には早いな。」

引き金を引くよりも早くガルドの足が動く。お手本のような足払いがきまり、ハルは体制を崩された。

寸手のところでブロックからの落下を防いだハルは拳銃を向け直す。しかしガルドの手にも拳銃が握られていた。

「『油断が敗北を生む』昔から言ってきたよなあ?」

「しばらくあんたにゃ会ってなかったからなあ。すっかり気が抜けてたぜ。」

「生意気な口を聞くな。兵器がよぉ。」



互いに銃を構えたまま沈黙の時が流れる。


風が吹いた。


彼らは動かない。


遠くで訓練生の号令が聞こえる。


自分の呼吸が聞こえる。


相手の呼吸が聞こえる。



張り詰めていた空気を先に破ったのはハルの銃弾だった。ガルドはそれを銃で弾きながら報復の弾を放つ。それをまたハルも弾いて打ち返す。

「凄い。銃弾を銃で弾くなんて。」

「ガルドの技だ。だがあれには弱点があってな…」

「弱点?」

「見ろ、ハルの方が先に根をあげた。」

激しい銃撃戦に終止符を打ったのはハルの弾詰まりだった。

カチカチッと引き金が引けない彼の姿にガルドは不敵な笑みを浮かべた。

ハル両方の拳銃に顔をしかめたとき、ガルドはゆっくりとライフルを彼に向ける。

「壊れたな。後で一緒に修理してもらえ。」


銃声が響きわたる。


麻酔弾は隆々とした上腕二頭筋に突き刺さっている。


さらに追撃が脚部を襲った。


今日まで鍛え上げた肉体はガクッと膝をついて倒れてしまった。



「『油断が敗北を産む』あんたが言ったことだろう?ガルド大佐。」



ハルは銃弾を装填させながら、弾詰まりの演技をしていたのだ。

ガルドは苦悶の表情を浮かべ、ハルを睨み付けていた。

ハルは、負けずに睨み返し、言った。

「この際に聞いておきたいことがある。大佐、あんたは何故俺を兵器と呼ぶ?確かに俺は忌み嫌われる存在だ。この存在が、姿格好が化け物である事を理由にあらゆる人間から罵倒され、攻撃された。あんたもそんなやつらの一人だ。確かに俺は人間じゃない。正直それで何度も悩んだよ。だが、ポール=フリノーサ教授は言ってくれたよ。『人間じゃないからなんだ?発現しなければ見た目は人間じゃないか。人々が気付かない内は人間として振る舞えばいい。もしも正体がバレて周りが不信の目を向けてきたならば、堂々と言ってやれ。俺は人鳥だ。とな。ああ、俺が名付けよう君は人鳥だ。』と。今こそ言える!ガルド、俺は人間でも兵器でもない。俺は、ハル=ロヴァートは人鳥だ!答えろ!俺を兵器とする由縁を!」

しかし、そのときのガルドはハルを睨むのが精一杯のようだった。

「口もきけなくなったか。もう俺の勝ちだな。」

そういってガルドの後方、少し離れたところにコインをみつけた。

「あれか。」

ゆっくりとその方向へ歩き出す。

1セント硬貨がぽつんとある。


それに手を伸ばそうと腰をおろした瞬間、ブロックは爆発した。


爆風が去る音に甲高い笑い声が乗り掛かった。

「油断していたのは貴様だ、ロヴァート!このブロックはな、全てが起爆するようになっていたのだ。いずれのブロックに降りても安全なものはなかったのだよ!」

そう叫ぶガルドの手には、起爆用のリモコンが握られていた。

「こんなちゃちな麻酔で俺が倒れる訳がないだろう。馬鹿め!猛獣用の三倍の濃度のを使わねば俺は倒れん!」

「―そのために五発目のシリンダーに人鳥用の麻酔弾を詰めていたんだよ。」

ガルドは驚いて後ろを振り向いた

間髪を入れずその顔面に蹴りが入る。

大きく飛ばされたガルドは不思議と安心した表情になった。

「あの爆発から抜けることが、できたのか…。」

「想定内のことだ。こんな大掛かりな舞台をセットしたんだ、何か企んでいると踏んだ。銃弾を当てておけば、あんたは必ずやられたふりをする。その演技にのかっておけば、あんたの攻撃のタイミングぐらいつかめる。」

「それで気を抜いたところを仕留めた―」

表情は崩さず袖に忍ばせたジャックナイフを光らせる。

「―つもりか!」


しかしハルのレボルバーが回るのが早かった。


頸動脈をしっかり射止めた麻酔弾はゆっくり血液に薬品を流し込む。

強力な麻酔の効き目を感じながら、ガルドは言葉を絞り出した。

「成長…したな…。日本なり、中国なり何処でもいくがいい。だがな…。」

もうその言葉はハルにしか聞こえない。

「潰れんなよ…人鳥がよぉ…。」

その意識は切れた。

「…ああ。行ってくるぜ、大佐。」

ハルは彼に背を向け、舞たちの元に翔んだ。


伝わったでしょうか…

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