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Birples  作者: 間津 紅華
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第四話 教授

その頃、はるばる日本からアメリカへ飛び、聞いた情報と噂だけを便りに弟の凶行を止められる探偵を苦労して見つけたが、あっさり突っぱねられた神田舞はと言うと、帰国を余儀なくされていた。

何故彼女はここまでして弟を止めたがるのか。その理由には件のヤタガラスの残虐性にあった。

前述の通り、ヤタガラス率いる集団の目的は反人鳥派組織の壊滅と人鳥に安寧をもたらすこと。それは反人鳥派の人間全員の死によって完成する。

いってしまえば人殺し集団なのだ。そして彼女の弟の隼人もまたそんな集団の一員であり、身内としての責任を感じているのだ。

彼らの力は絶大で警察や自衛隊が総動員しても虫けらのように蹴散らされる。誰もがヤタガラスを恐れ、彼らに怯えるような社会になってしまった日本。もう彼らを止める手段がないのか、彼女が諦めかけていた時、彼女に一通の手紙が届いたのだ。

そこには、人鳥は世界中にいて、一般人がその存在を知るのは日本くらいであるということ、人鳥の力は人間の想像をはるかに上回ること、アメリカ空軍に一体の人鳥がいて彼を頼るべきであること、などということが送り主不明の手紙に書いてあったのだ。

今となってはその手紙もただの紙切れ同然、彼女は刑務所にゴミ箱を見つけると迷いなく捨てたのだった。

ところが、奇跡が起こる。こんな偶然があるのだろうか。彼女が手紙を封筒ごと捨てた時、それを拾い上げた男がいた。彼は、それを手に彼女に追い付くと言った、

「ハル=ロヴァートは依頼を必ず受けます。」

舞は苛立っていたのできつい口調で返した。

「さっき断られたばかりよ。それはもう捨てて頂戴!」

「恐らく彼は自分の立場上断ることしかできなかった。今事情が変わったんです。彼は今から大統領から直々にその内容をしらされることでしょう。」

「貴方は誰なの?さっき面会室にいた人?」

「いいえ、私は貴方にこの手紙を送った人物です。」

彼は名をポール=フリノーサといった。

彼は舞を車に乗せ、ボーリング空軍基地に向かった。

「何故そんなところへ?」

「友人から連絡があってね。ロヴァート一等兵は今から試験を受けるらしい。」

「試験?」

「とはいっても、ガルド大佐の陰謀だろうな。」

「?」

「君は、知らないのか?ガルド大佐を。」

「物凄く陰険な空軍大佐っていうのはきいたことあるけど。」

「彼は、反人鳥派なんだ。」

「そんなはず無いわ。だって反人鳥派の人間なんているのは日本くらいでアメリカではそんな人間はいないように極秘に法律を制定した。その効き目もあってアメリカで反人鳥派組織どころか人鳥の存在すら誰も言及しなくなった。あなたが手紙に書いたことじゃない。」

「ああその通り。誰も言及はしなくなった。だが人鳥の存在を知りさえしていればその存在を快く思わない連中も自然に出てくる。ガルド大佐もその一人だ。」

彼によると大佐はハルの入隊を歓迎しなかった。彼は「訓練」と称し拷問室に連れ込み、「発現」した経緯を吐かせた。そして、13歳の少年には過酷すぎる訓練を強い、さらには自分の命令に絶対服従させる為に半分洗脳のようなことも行った。

何故このようなことをして誰にも諌められなかったのか。それはだれもやろうとしなかったハルの教官役をガルド大佐が自らすすんで(悪意があって)引き受けたからだ。当時としては新種の生物に誰が教鞭を取ろうと思えたか。

想像して欲しい。もしも猿が人語を解し、人を攻撃し殺す術を教えなければならない人間の苦悩や葛藤を。その猿がいつか反発して握り方を教えた刃を自分に向けることがあるかもしれない恐怖を。

クローム=ガルド空軍大佐はそれがわかった上で引き受けた。だから誰もそのやり方に口出し出来ない。例え大統領であっても。

だが、彼は危険が去れば神を恐れなくなった。しだいにハル=ロヴァートという人鳥を自分の支配下に置くだけでは飽きたらず、あわよくば任務中に殉職してもらおうと思い始めた。より危険性の高い任務にハルを起用し、生きて帰れば苛立つのを繰り返したそうだ。それでも誰もハルのかたをもとうとはしなかった。何故ならガルド大佐に誰も逆らえないからだ。

「ガルドはいつからかハルをこう言うようになった。『やつはただの兵器だ』と。」

「そんな…」

「奴にとってハルは壊れてもらいたい『兵器』でしかないんだ。」

「じゃあその試験って。」

「そう、死んでもらうための試験だ。おそらくマンツーマンの格闘訓練だろうな。」

「あなた、やけに詳しいのね。関係者かしら?」

「私はエールで生物学の教授をやっている。専攻は人鳥学(Birplism)だ。」

「人鳥学?」

「大統領勅令の極秘の研究だよ。表向きは鳥類の研究としているが、中身は例の発現の構造と仕組み、あるいは飛行時の脳波の測定といった実験をしているんだ。自分で言うのも何だが、この研究がなければ世界中の人鳥は救えなかっただろうな。」

そんな話をしている内に基地に到着した。


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