25.新たな人生
「いつかは真実を打ち明けなければと思いつつ、言い出せなかった…
レオの死は事故だったとはいえ、結果的には彼の人生を盗み、彼になりすまし
世間を欺き、おまえを騙しながら俺は今までのうのうと生きて来た。
卑劣な犯罪者と何ら変わりはない。いや、それ以下の人間かもしれない…
本当にすまなかった」
奥寺拓也は、マリアに深々と頭を下げた。
「本当のこと話してくれてありがとう…
これから先もずっと、私のお兄ちゃんのままでいてくれる?」
「マリア…」
「莉江さん、私って超幸せ者だよね。優しい兄貴が二人もいるんだもん」
(そうね、ほんとにそうだよね…)
莉江は大きく頷いた。
「お兄ちゃん、一つお願いがあるの…」
「?…」
「いつか南太平洋の海に連れて行ってくれる?
お兄ちゃんたちのおかげでこんなに立派に成長しましたって、
もう一人の兄貴に報告したいの」
マリアの顔にまた以前のような、眩しいくらいに明るい表情が戻った。
「ああ、一緒に行こうな。兄さんの大好物だったペルーの酒を持って… 」
涙で顔をくしゃくしゃにしながら拓也は何度も頷いた。
* * * * * * *
季節は廻り、出逢いから二度目の秋が訪れた・・・
(一緒に来てくれて、ありがとう…)
「ほんとに、これで良かったの?」
(狭いお墓の中より、彼もきっとこの広い海のほうを望んでいると思う)
莉江は健介の遺灰を彼が愛したケープ・コッドの海に散灰することに決めた。
(それに、ここなら一人ぼっちじゃないから淋しくないもの…)
「そうだね… 」
拓也は目を瞑ると水平線に向かって長い黙祷を捧げた。
(何、お祈りしてたの?)
「彼に、お願いしてたんだ… 」
(?…)
「…俺の愛する妻と息子をどうか見守ってやってください。
その代わり、貴方の大切な家族は俺に任せてくれませんか、って」
(……)
「分かってる、君がまだとてもそんな気持ちにはなれないこと。
俺だって、十三年もかかったんだから… 」
拓也の口元から苦笑が洩れる。
「その日が来るまで待つよ、ずっと待つつもりだから… いいかな?」
静かに頷く莉江の顔に穏やかな微笑が浮かぶ。
「彼、なんて言うかな…」
(そうね… きっと、こう言うと思う――)
「ん?」
(--ちょっと妬けるけど、よろしく頼みます――って)
莉江は何かを思い出したように左手を握りしめ、くすっと笑った。
「あ、レインボー!」
膝の上の美玖が突然大きな歓声を上げ空を指差した。
三人の視線の先には大きな七色の虹が、真っ青な空と海を繋ぐように
綺麗なアーチを描いていた。
ー完ー
最終章までお付き合い下さった方には心から感謝いたします。
ありがとうございました!




