秘密の森9
授業が終わるとサティは誰とも言葉を交わさず、祖父の墓地へ向かった。
秘密の森にも行こうか迷ったが、森は閉鎖されているし、メモにはただ、「秘密の森」とだけしか書いてなかったのでひとまず保留にした。
鍵が見つかれば書庫には入れる訳だし、そちらの方が解明すれば森のことも分かるかも知れない。
サティは朝から降り続く雨のなかを足早に歩いた。
王国の北の領土では土葬が一般的だが、近年火葬が普及しつつあった。サティの祖父は当時としては珍しく火葬であり、墓標も立派なものだった。祖父は学者として有名であったようで、葬儀などは大々的に行われたのをサティは記憶している。
祖父の墓標は他の死者たちとは少し離れた林の中にあった。林の中に開けたスペースがあり、周りを花壇に囲まれた墓標が雨に打たれている。
「じいちゃん、久しぶり。ちょっと悪いんだけど鍵を探したいんだ。」
サティは墓前に優しく語りかけた。
まだ日没前だが、辺りは薄暗く、ランプなどの明かりを持ってくれば良かったと後悔した。
裏手に回って、骨室の石蓋に手をかける。雨に濡れてつるつる滑るし、結構な重量に苦戦するがなんとかなりそうだ。
ゆっくり蓋を開ける。中は暗くてよく見えない。
カビと土と雨が混じりあった独特の臭いが鼻をかすめる。
石を投下して広さや深さを探る。骨室にしてはかなり広い。軽く20人分の遺骨が納まる広さだ。
よくみると足を掛けるくぼみがいくつかあった。降りてみると大人1人がようやく動けるくらいのスペースがあり、両脇には遺骨を納める石棚が並んでいた。
地下の書庫を初めて見せてもらった時のことをふと思い出していた。あのときの興奮にも似た感情が沸き上がって来る。
「さて、鍵はどこかな」
夢に出てきた父親は確かに祖父と一緒に埋めたと言っていた。本当にあるのだろうか。
しばらく暗い骨室を手探りで探してみる。石棚の上にはほとんど何も載っていない。そして、一番奥の方に手を伸ばすと、何かビンのような物が手に当たった。ひとまずそれを取りだし、入り口付近の明るい所へ運んだ。
次の瞬間、サティの背筋は凍りついた。
少し泥を纏った透明なビンの中から、真っ赤に染まった眼がこちらをじっと見ていた。あの夢に出てきた血に染まったような眼。
雨はいつしか上がっていた。辺りは暗闇に包まれているが、赤い瞳だけは淡い光を纏っていた。