秘密の森5
サティは校舎の裏手にある森を眺めながら、10年前に亡くなった祖父と過ごした日々を思い出していた。
祖父はいつも家にいて、サティの側で必ず本を読んでいた。あるときはリビングで、あるときはキッチンで。多くを語らない祖父だったが、いつもサティを見守っていた。
サティが昼寝をするときは決まって絵本を読んでくれた。優しい祖父の声、胸をわくわくさせるような物語は今でも鮮明に思い出すことができた。
その後、文字が読めるようになったサティは祖父の書斎が遊び場になった。難しい本ばかりだったが、本を読むのが大好きだったので夢中で読みまくった。
わからないところはとことん祖父に聞いた。祖父は必ず読書を中断してサティに分かりやすく教えてくれた。
他の同年代の子供たちがおはじきで算数を習う頃、サティは難解な数式を解けるまでになっていた。その他にも歴史や哲学など、祖父の教育は多岐にわたって行われた。
祖父は亡くなる直前に一度だけ、地下の書庫に連れていってくれたことがあった。それまで地下室があったことすら知らなかった。重い鍵のかかった扉を開けると真っ暗な空間に夥しい数の本が並んでいた。祖父の書斎にある本の10倍はあっただろうか。
「ここにある本はいずれサティに全部読んでもらいたいよ」
祖父の最期の言葉だった。
次の日、祖父は事故で亡くなった。ショックのせいかその日の記憶が全くない。あの書庫にはそれ以来一度も入っていない。
「鍵…か」
なぜ書庫に鍵がかかっていたのだろう?
何か重要な意味があるような気がしてならない。
「…ィさん…サティさん!聞いてますか!」
先生がぼんやりしているサティに向かって怒鳴っている。もう授業は終わる時間に差し掛かっていた。
「は、はい。すみません。」
前の方の席でミランダが心配そうな表情でこちらを見ている。また休み時間に来てくれることをサティは期待していた。