秘密の森4
「ごめんね。ノエルったら本当にどうしようもなくて。」
ミランダは眉を八の字にしならがらサティに話しかけていた。
「いや、いいんだよ」
引きずられた膝がまだ痛む。
ミランダは休み時間になるとよく話しかけていた。他愛もない話ばかりだけれど、その時間がサティは好きだった。
「サティってすごい頭良いよね~。私なんか早くから学校きて、予習してるのに。サティにはかなわないわ。いつも学年トップだし。どんだけ勉強してるの?」
ミランダの会話には脈略と言うものが存在しない。いつの間にか別の話になったり、こちらの返事を待たずに話を進めたりする。上級学校で再会した当初は戸惑ったものだ。そんな縦横無尽な会話も今では慣れたものだった。
「勉強なんてする時間ないよ。学校終わったら買い物してご飯作って、家のことやってたら1日終わっちゃうよ」
サティは父親と二人で暮らしていた、母親は物心ついた時にはいなかった。父いわく、父と幼いサティを捨てて出ていったらしい。
「ふ~ん。勉強せずにテストで満点とる秘訣でもあるとか?」
「秘訣かぁ。強いて言うなら今やってる勉強って俺が8歳くらいの時にもう終わっててさ。簡単なんだよね」
「え?」
ミランダは言葉を失って目を丸くした。そこで休み時間の終わりのチャイムが鳴った。
サティたちが通う上級学校というところは、一般の学校と比較して、国家の要職、あるいは王都で働けるような優れた人材が集まる学校であり、知力、体力ともに秀でた人材を育成する学校だ。王国の東西南北それぞれの領土に一つずつしかないエリート校である。
サティがこの学校を選んだのは家から通える範囲内で少しでも知識欲を満たしてくれるだろうと踏んでのことだった。入学してすぐにその期待は裏切られたが6年振りにミランダに再会できたことがサティを学校に留まらせている。
ミランダは冗談とも本気とも取れるサティの発言に困惑した様子で席に戻って行った。
サティの話は事実だった。小さい頃から勉強というものをしようと思ったことは無かった。ただ好奇心の赴くまま、本を読んでいたら知らない事がほとんどを無くなっていた。
「はい。では教科書77ページを開いて下さい。先週話しました、エンサガ史の復習から…」
サティは外の景色を眺めながら昔のことを思い出していた。