秘密の森3
郊外にある自宅を出て、しばらく走ると街が見えてくる。メザロニア市街だ。王国の北の領地を任されたメザロ卿が作った街。その歴史は古く、石壁の建物が多い。街の中央には大きな時計塔が建っている。
どうやらこのまま行けば学校に間に合いそうだ。
市街に入ると様々な商店が軒を連ね、朝から活気付いていた。家を出る前に父親が話していたエーテル治療院もオープン初日とあって盛況のようだ。
人波を縫って時計塔の更に北、メザロニア市ガンザルグ上級学校へ急ぐ。
時計塔を過ぎた辺りで、サティと同じように人波を駆け進む、見覚えのある人影を見つけた。
「おい!ノエル!待てよ」
サティの呼び掛けに少年は振り向いた。
「あれ?サティじゃないですか。珍しいですね~。優等生がこんな時間に。遅刻しますよ~」
走りながら爽やかな表情の少年ノエルはサティと並んで走り始めた。ノエルは2つ下の学年で幼なじみだ。
「お前に遅刻を心配されたら終わりだよ」
「せっかくだし~競争しましょ~」
ノエルはサティの返事を待たずに全速力で駆け出した。人混みを抜けた直後のことだった。
「お、おい!」
サティはノエルの後を追った。
商店街を抜け、木々に囲まれた校舎が見えてきた。角を曲がると校門までは一直線。二人は横一線に並び、ラストスパートをかける。
わずかにノエルがリードしている。
(ヤバい!このままでは負ける!あれをやるか)
サティはつま先から脚全体に意識を集中させた。脚全体が淡い光を放つと、一歩ごとに地面を蹴る力が強くなっていく。
校門を過ぎるとサティが先に体1つ分ほど離してゴールした。
「はぁ、はぁ、サティはやっぱり足が早いねぇ」
「はぁ、はぁ、お前に負ける訳には行かない」
「あはははは」
ノエルは楽しそうに笑った。笑い声が青空に響いた。
「ちょっとアンタたち!もう何やってんの!」
背後から聞き覚えのある声がサティたちを見下ろす。
声の主はクラスメイトのミランダだった。ノエルの姉でもある。肩まで伸びた栗色の髪が風になびいている。
「いつもいつもギリギリなんだから。もっとゆとりを持って家を出なさいっていつも言ってるでしょ!」
「わかってるよ~。姉さん。あはは。でも今日は何で校門まで様子見にきたの?」
ノエルがいたずらっぽくミランダの顔を見上げる。
「へ?あー、それは~」
ミランダの頬が紅潮している。
「あっそうか~、サティが遅いから」
ノエルはミランダの顔を見てニヤニヤしている。
「ハッ?な、何言ってんのこの子は!授業遅れるよ。行こう、サティ」
顔を赤くしたミランダはサティの襟を掴み、引きずりながら教室へと連行した。