秘密の森2
「うわあっ!」
少年は間抜けな声と共にベッドから飛び起きた。わずかに肩を上下させている。外はまだ夜明け前だ。今年で18歳になろうというのに、悪夢で目が覚めたのは初めてのことかも知れない。下の階で寝ている父親に情けない声を聞かれてしまったのではないかと恥ずかしい気持ちになった。少年の金色の髪は汗で額に張り付いている。
「夢…か?」
ぼんやりした頭で夢の内容を思い出そうとするが、どうしても思い出せない。ただ、恐ろしい夢だったことは間違いないようだ。そして、あの赤い眼だけは鮮明に脳裏に焼き付いていた。
「なんだったんだろう。赤い眼…」
少年はあの恐怖が夢であったことに安堵し、また深い眠りについた。
そして、悪夢を見たこと自体を忘れていった。
明くる朝、窓からこぼれる日の光で少年は目が覚めた。眠い目をこすり、壁に掛けてある時計に目をやると、一気に血圧を上昇させた。起床の時間をとっくに過ぎていたのだ。
「ヤバッ!遅刻する!」
即座に学校の制服を纏い、鞄に教科書を詰め込み部屋を出て階段を降りる。
「父さんゴメン!寝坊した!ってあれ?起きてたの?」
いそいそと2階から降りてきた少年を尻目に、父親はパンを頬張りながら朝刊を読んでいた。
「おお、サティ。珍しいな寝坊なんて。市街でエーテル治療院がオープンしたんだとよ。エーテル治療って効くのかなぁ。父さん最近腰が痛いから診てもらおうかな~。」
サティが寝坊したことなどさほど気にも止めず、どうでもいい情報を無感情で発信すると、父親は新聞に視線を戻した。
「父さん!起こしてくれたっていいでしょ!」
サティは吐き捨てるように言うと家を飛び出した。おお、すまんすまん、という返事とも謝罪ともつかない声を背にサティは走り出した。
サティの父親は昔からいい加減な男だった。サティたちは10年前に亡くなった祖父の遺産で生活をしているため、父親のほうは働く必要がなく、昼間っから酒を飲んではどこかふらっと出て行き、夜まで帰らないこともしばしばあった。母親はサティが物心つく頃にはすでに居なかった。今思えばこんな父親なら、出て行ったとしても不思議ではないように思える。
いつもならば、道の両脇にい並ぶ木々を眺めながらゆったりと登校するのだが、今日に限ってはそんな余裕はなさそうだった。
太陽の光が容赦なくサティを照らす。