同郷の同士
アルシーは目の前の二人をポカンと眺めることしかできなかった
「あ、そうよね……マリナ、アルシーちゃんに何も話していないわよね?」
「勿論です」
「ヴァレンスと私しか知らないあなたの秘密ですものね、話していいわよね?」
「はい」
「アルシーちゃん、マリナの本当の名前は入間真里菜って言うのよ、聞き覚えあるかしら?」
「いるま……まりな……、まさか……転生者」
「そうよ、でも5歳の貴方が知っているのは少しおかしくないかしら? そこでなのだけど……貴方は何者?」
(この二人、確信犯だな……感づかれたのが運の尽きか……騙せる気がしねえし、仕方がない)
「はあ、しょうがないですね。 こういう誘導とかには弱いのですよ。 初めまして、安見安吾と申します。 真里菜さんとは十中八九同郷の人間だった者でしょうね」
「え? 男の方なの?」
真里菜が驚いたように安吾に聞く
「自分もびっくりですよ……、20XX年に〇〇線で起こった電車の事故で死んだはずなんですけどね、気が付いたら赤ん坊です。しかも女の子になってた……」
「知らないわね……まあ私がこっちに来て既に10年程経ってるしね」
「ちなみに死んだときは20歳でした」
「ちょっと待って? 今5歳よね? じゃあ実質25歳?」
「ええ、そうですが……」
「精神年齢がそんなに変わらないなんて……私は今28歳よ」
「18でこっちに飛ばされたという認識で間違いないですよね?」
「ええ、まあ、姫様とヴァレンスのお蔭で何とかやってこれたんだけどね」
「そうなんですか……」
「ちょっと! 二人で盛り上がって私をお忘れではありませんかしら!」
「「あ」」
「あ、とはどういうことですか!」
「「すみません」」
「どうして、そんなに息が合うのかしらね……」
「「これは、仕方がないと思います」」
「……」
「これは私たちの国民性よね?」
「まあ、そうでしょうね」
海外と違い謙虚で弱腰である言われる日本国民
すぐに謝罪の言葉が出てくるあたり、彼らもその国民性に沿っているのだろう
「まあ、いいですわ」
「あの、自分は何故この場に呼ばれたのですか? 真里菜さんと同郷とかいう件は俺と真里菜さんだけでもいいと思いますが」
「ええそうね」
「…………」
「安吾さん、姫様がここにいるのは、単に好奇心よ」
「アグレッシブな姫様ですね……」
「ほんとにそうよ、前はもっと凄くて大変だったわ……」
「そういえば真里菜さんは親衛隊の隊長でしたね」
「そうなのよ、だから、姫様のしりぬぐいも私の仕事だったのよね」
「心中お察しいたします」
「あら、ありがとう」
「…………貴方たち、故意よね、故意に私をないがしろにしていますわよね?」
「いえ」
「そんなことは」
「「ありません」」
「あるだろ!!!」
妙なところで息の合う二人
「安吾さん、貴方まさか」
「真里菜さんこそ、そのノリは」
「「大阪人!」」
「だからなんなのよ貴方たち!」
まあ、安吾も真里菜もこの世界の生活に慣れているため(というか言語体系が実は違うため)大阪弁は心の声でしか発動しない
「同郷の同士だったという確認です」
「ふふ、そうね」
「もういいです、疲れました……」
「安吾さん……」
「そうですね」
「「からかって、ごめんなさい」」
「やっぱりでしたわ!」
何とも騒がしい3人組である
というか、この二人、一国の王に対して何とも恐れ多い事をしているという実感はあるのだろうか?
まあ、この女王がそういうことに無頓着であるということを真里菜は知っているが故だろうが。
「安吾さん、いえこっちの世界じゃアルシーちゃんの方がいいわね」
「本当はそれ、むずむずするんですけどね、それでお願いします」
若干苦笑を浮かべるアルシー
「分かったわ、女王様もいいですよね?」
「ええ」
ちなみに切り替え直りの速さが女王の売りである
「では、会場に戻りましょう」
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(あれ? アルシーはどこかしら?)
こちらはアルシーがマリナと王女に連れて行かれた後のパーティー会場
シルベリータはなかなかアルシーがやってこないので少し寂しかった
(もしかして、この人たちのせいで、私のアルシーとの時間が損なわれてしまっているの?)
考えが既にアルシー一筋という何かそういう気でもあるのか? と言われてもおかしくないシルベリータの心の声
真偽のの程はさておき
若干機嫌が悪くなりつつあった
そしてそろそろ、我慢の限界が近づきつつあったとき
「シルー!」
「あ、アルシー! 遅かったね!」
「ごめん! ちょっといろいろあったの」
「そうなんだ」
(あれ、アルシー様じゃないか、どうしてこんな所に……)
(そういえば、隣の領地だった筈だ、でもなぜ?)
(おい、息子よ、アルシー様とお近づきになるのだ、行け!)
(シルベリータ殿とアルシー様はご懇意なのか?)
などなど、貴族達の困惑した表情が会場の一部を占めていた
彼らはアルシー達が来ていたのは知っていたがどうせ声すらかけないだろうと踏んでいた
同じ侯爵家といえどジャンヴァルディ候との差が歴然としているのは他家でも知っていた事だった
さらにヴァレンスが成り上がり者だということもこの間違った予想を打ち立てていた原因である
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