グルメな貴族
アルシーの居る国では貴族の家それぞれに作法がある
親しい者の家を訪れるときは相手の家の作法に合わせるのが礼儀であるとされる
食事においてだが、アルシーの家ではお喋りしながらわいわい食べるとこが許されている
変わってシルベリータの家では……
(だんまりですか……)
食事中は一切会話をせず
出された食事を黙々と食べるというもの……
(礼儀正しいかもしれないけど、これはちょっと精神的に窮屈だぜ……)
(だけど、出される料理は、うちよりうまい!)
またこの国のでは貴族の家それぞれに郷土料理てきな物が必ずあるという、なんともグルメな国であった
アルシーがこの国の食事水準が高いと謳っていたのもあながち間違いではない
ちなみに、アルシーの家特有の料理というのはライナミというパスタ料理である
これは、こちらでいうところのミートソースパスタのようなもの
だけど使われる肉がメープという羊みたいな生物である、味はまあご想像にお任せいたします
代わってシルベリータの家の特有の料理はカロムと言ってウィードの粉(まんま小麦粉)の生地を可能な限り薄くして、その上にトナミ(トマトみたいなの)、エルグ(なすびみたいなの)を薄くスライスしたもの、燻製にした肉(種類は問わず)をのせて、生地を折りたたみ、石窯でじっくり焼いたものである
(お隣さんっていうのもあると思うが……うちも、シルの家もイタリアンっぽいですね)
ジャンヴァルディ候領は海に面しており、こちらでいう気候区分において地中海性気候にあたる
夏は暑く乾燥しており、冬に纏まった雨が降る
領内ではいわゆる地中海式農業の劣化版が行われている
どういうことかというと、若干行っていることが少ないのである
(オリーブもどきでも栽培しろとおもうのだけどな)
領内に点々と植生しているオリーブもどきをアルシーはシルベリータ邸に来る途中で目にしていた
後、アルシーが気づいていないことでは、牧畜もこの地域では行うことができる、移牧と呼ばれる牧畜の形式で、乾燥する夏季に高山地域に移動し放牧するやり方である
移牧で代表的なスイスで行われている移牧は雪の多い冬に山を下る季節が逆転しているものである
(それにしても、俺たちの地域では羊が主流なんだな)
出されてくる肉料理のほとんどがメープ肉である
そうしているうちに最後のデザートが出された
(こ、これは!)
「今日、お出しいたしましたデザートは奥方様が考案されました乳氷でございます。どうぞお召し上がりください」
これはこの家のお抱え料理人、すべての料理が出されたときにそれとなく説明していた
(アイスクリームですよね! これ!)
出されたのはミルクアイスそのまんまであった
(うまい! でも、普通のミルク味とは違う? まさか……これも羊か!)
なんともメープずくしのコースである
(ようやく、食事が終わったぜ……何か疲れた……)
「さてと、皆、食事はどうだったかな?」
「やはり、お主のところのカロムは絶品だな! アルシーどうだった?」
「はい、父上! とても美味でした!」
「ははは、気に入ってもらえて何よりだよ」
「それと、乳氷でしたか? それもとても気に入りました!」
「あらあら、うれしいこと言ってくれるわね」
「お母様の料理は王国一なの、アルシー!」
「それは母上もかわりません!」
「むうう」
「むううう」
「こらこら、止しなさい」
「そうだよ、アルシー」
「「はーい」」
「それとだ、アルシー、今日はこの家に泊まることになったよ」
「え! 本当ですか! 父上!」
「ああ」
「シルベリータの部屋で一緒に寝るといいよ、二人ぐらいならあのベッドでも余裕だと思うからね」
「やった! シル! 一緒だよ!」
「うん!」
きゃっきゃっと二人の幼女が騒いでいるのを大人たちは微笑ましく見ていた
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シルベリータの部屋
(よくよく、考えろよ俺! 女性(というには幼すぎるのだが)の部屋にお泊りってこと忘れてただろ!)
4歳児(来月5歳)と一緒に寝ることに若干のためらいを感じている彼は果たして……
「アルシー、お着替えあるの?」
「えっと……無い、ね」
「サイズ多分同じだと思うの、貸してあげる!」
「ありがとう!」
「じゃあ、湯浴みに行こ!」
「うん!」
その後一緒にお風呂に入り、少し話をして、二人は眠りに落ちた(なんていっても5歳児だから寝るのは早い)
その間に、彼が
(よし! 大丈夫だ、俺は正常だ! うん!)
とある思考を完全否定することに成功していたのだった
感想お待ちしております。