アルシーの叫び
屋敷のアルシーの部屋では専属メイドがせっせと掃除をしていた
このメイドはアルシーが3歳の頃父親に頼んだため専属メイドとなった者だ
ルナンという名前はアルシーの父親から与えられたものだ
ここの話はまた別の機会に話そう
「ルナン! 帰ったよ!」
「アルシー様、お帰りなさいませ。その者が?」
「うん! 私の奴隷!」
(なぜか嬉しそうに言ってる自分がなんか嫌だ……)
「エルフですか?」
「そうみたい」
「ふーんすごく、かわいいですね」
「うん!」
「それと男の人が好みそうですね」
「そ、そうだね」
(うん……気づいてる絶対気づいてる、今確信した!)
「えっと……私はどうすれば」
「あ! 名前聞いてない! なんて言うの?」
「ルーミアと申します、ご主人様」
(ご、ご主人様ですと! 萌だあああ!)
「アルシー様? 目が逝ってます」
「え? マジで」
「マジです」
(ところどころで素が出てるのをスルーしてるし)
「ルナン、もしかしなくてもなんとなく気づいてたりする?」
「薄々は」
「うん、そうだよね、普通気づくよね……、遮音頼む」
「承知しました、【遮音】」
「ふう……とりあえず、やっちまったああああああああ!」
「え?」
「気にしないで下さい、というか慣れて下さい」
「は、はい」
「オトン! オカン! 俺やっちまったよ! 煩悩には勝てなかったああああああ! ルーミアたんめっちゃかわいいし! だって、エルフだよ! 世界の神秘じゃん! これマジで逃すわけにはいかねー! って俺はああああ! 今は女だろおおお! 選ぶ基準ばっちり健全な男子じゃないかよ!」
「え、えっと」
「アルシー様は恐らく前世の記憶をお持ちのようですね」
「え? 前世?」
なおこの段階でもアルシーの発狂じみた叫びは続いているのだが……
「はじめてこれを見たときは気でもふれたのかと心配しておりましたが、何度か見ているうちに違うなと思いまして、観察しているとどうやらアルシー様は男性の人格をお持ちなのだと理解しました」
「それで説明できるのが、前世というわけですか?」
「そうです、前例はあるようですので」
「前例?」
「はい、調べたところ約2000年前に」
「……」
なおまだ彼は懺悔という名の叫びを続けている
「そろそろ頃合いですね」
「頃合い?」
「アルシー様、もう大丈夫ですよね」
「はあ、はあ、はあ、うん、大丈夫」
「それにしても……」
「な、なに!」
「ルーミアみたいな人が、アルシー様の好みの女性なんですね」
「…………」
「え! ルーミア、その蔑むような眼は何!」
「いえ、ちょっと距離を置こうかと」
「そ、そんな!」
「冗談ですよ」
「はあ、よかった、これから宜しくね! ルーミア!」
彼は万年の笑みで握手を求めた
「はい!」
「アルシー様はこういう時だけ可愛らしいのですが」
「その一言、余計!」
「ふふふ」
「ルーミアに笑われた!」
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奴隷の買手で最も劣悪なのが子供である
善悪の認識が甘く、軽く残忍なことや非道なことをしてしまう
年を経るごとにそれは学習していくものであり
故にこの国での慣習である”5歳のプレゼント”に選ばれた奴隷は覚悟を決めなければならないと言われていた
それはどこの奴隷商のでも例外なく伝えられ、奴隷たちの恐怖の対象となっていた
ルーミアもそんな奴隷の一人だった
彼女は戦争で両親を亡くした戦災孤児である
エルフという物珍しさから、孤児院より誘拐され奴隷商の手へと移った
売り物であるため基本的に奴隷たちの待遇は良好である
成人男性は一般的に肉体奴隷と言って農作業、鉱山、工場で働く労働力となった
女性は性奴隷、家政婦といったもの
子供はいろいろと幅広くに使われた
基本はこれだがすべてを決めるのは買手であった
「ルーミア、エミル、イア、カイル、ノア、ジャン、お前らは今日やってくるジャンヴァルディ候の長女の5歳のプレゼントの商品の候補だ、仕度しておけ」
これはある種の死刑宣告に等しかった
「そんなあ! いやだよ!」
「そんなこと言っても仕方ないだろ……」
「そうだよ、選ばれないことを祈ろう」
「案外優良物件かもしれないわよ」
「貴族様の子供だぜ、歪みきっているに違いないだろ」
実際別のベクトルに歪んでいるのだからあながち間違いではない
「嫌だな……」
ルーミアも嫌だとは感じていたが
「でも、もうどうでもいい」
流れに身を任せていた
そして
彼がやってきた
(女の子だ)
(でも、案外女のほうがひどいって話も聞くぞ)
(なるようになるさ)
(やっぱり、怖いよ!)
(私を選ばないかしら)
(なんだろ? あの子から感じるこの違和感……)
「父上、あの子」
(わ、私だ……)
ルーミアはその瞬間人生を半ば諦めていたのだが実際のところ
一連の彼の叫びを聞いて
(ちょっと変わったご主人様だけど、悪い人じゃなさそうだな)
そう感じて、これからの希望を持ったのだった
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「それでなのですが、この部屋にはベッドは一つしかありません」
「予備ないの?」
「はい」
「私は床で寝ます」
「それは駄目!」
冷静なら普段の言葉づかいになるアルシー
「でも」
「私と一緒に寝よ!」
そして万年の笑み
「アルシー様いやらしいです」
「ちょと! 今は煩悩は無いの!」
「本当ですか?」
「ほ、本当!」
「ちょっとは?」
「ある」
「…………」
「誘導尋問反対だよ!」
「ご主人様がいいのならいいんですけど……」
残念なことにこのルーミアのつぶやきは二人には届かなかったようで
「ルーミアは私の部屋で」
「そんなあ! あんまりだよ!」
(マイドリームがああああ!)
(明日、ご主人様と一緒に寝ても良いってルナンさんに伝えよう)
彼が若干ルーミアに哀れに思われたのは気づくはずもなかった
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