誕生会
誕生会当日
貴族の誕生会は他の貴族を招いて行われるのが一般的でありアルシーの場合も例外ではなかった
基本的に訪れる貴族は誕生会の主役と同年代の子供を伴っていることが多い
これは将来の政略結婚なども前準備として当たり前もことである
故にアルシーの誕生会にも多数の4~6歳児が詰めかけていた
子供たちは親から主催者と積極的に話すように指示されている
アルシーもまた両親から話しかけて来た者を無碍にあしらったりはしないように釘を刺されている
子供間のことではあるがそこは貴族
すべての行動が親へと帰る、だから要らぬ不評は買わないほうがいいのである
(かったるいなーマジで)
声をかけてくる幼児を愛想笑いで適当にあしらいながら彼は出されてくる飯に舌鼓を打っていた
(それにしてもこっちの世界の食事は俺の元の世界よりも水準が高いな……)
それはアルシーが中流の上の貴族、侯爵であったことによるものが大きいのだが、ずっと屋敷暮らしの彼には分らなくて当然のことである
(はあ、早く終わらないかな、それよりもたかが誕生会でなんでこんなに人が来るんだ?)
今日の誕生会に出席している人数は優に150人を超えている
それには着いてきたメイドや執事、側仕えの者も含まれるのだが
(少なくても30近い貴族が参加しているってことか、うちの家ってそんな身分が高かったか? ん? 誰か来たな)
「初めまして、アルシー様、私、フォンダー侯爵の娘で来月5歳を迎えるシルベリータと申します。」
「初めまして、ジャンヴァルディ候、長女のアルシー・ラ・ジャンヴァルディです」
「このたびは5歳の誕生日、おめでとうございます」
「ありがとう」
「えっと、アルシー様」
「あの、様なんて敬語やめませんか? 私たちは同じ侯爵家の人間ですのよ、そのような口を利かれるとちょっと寂しいです」
「確かにそうですね」
(お、こいつ、敬語を止めるつもりか、さっきまでの奴とは少し違うか?)
「そうです」
「じゃあアルシー、私のことはシルって呼んでね、長い名前だし、それと、アルシーも敬語は使わないで」
「ふふ、分かったわシル」
「そうそう、アルシー、つまんないの?」
「え?」
「だって、楽しそうじゃないもん」
(5歳でそこ気にするってどんだけだよ……)
「お料理はおいしいですが矢継ぎ早に内容の無い話をされにきますの、それで少し退屈してたの」
「じゃあ私も……」
「シルは違います!」
「え、だって」
「私、敬語で話されるのが嫌なの、それで対等な身分や、上の身分の方が来られた時は敬語を止めてほしいと申し上げましたのに誰も止めて頂けませんでした、そういう方は大体、親に言われたから話に来たって方が多いですから、そんな方々とお話しでても何も面白くないのですよ!」
(やべ! つい熱入れて喋ってしまったーーー!)
五年間(実質三年程だが)女としての喋りかたを装っているのでアルシーの内面と実際話す口調が違うのは既に彼には慣れている
「シルにはよく分からないです」
「そ、そう」
(んまあ、そうだわな)
「あ、父上が呼んでいる、じゃあまたね!」
「またねー!」
(シルが俺のこっちでの初めての友達になりそうだな……)
そう彼が感じていたのは言うまでもないことだった
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「シルベリータ、アルシー様とどんなお話してたんだい?」
これはシルの父親、フォンダー候、序列ではジャンヴァルディ候の3つ程下の地位にいる
「アルシーと?」
「な! 様をつけんか!」
「アルシーが嫌だって言ったの!」
「アルシー様が?」
「うん」
「そ、それならいいのか……」
序列で近いとはいえジャンヴァルディ侯爵領とフォンダー侯爵領の領力の差は歴然としていた
また、隣の領地であった為、フォンダー候はジャンヴァルディ候に支援などをしてもらっていたためかなりの負い目があった
「また、お話しようって言ったの!」
(まあ、社交辞令かもしれんが……噂によるとアルシー様は年に見合わない考えを持つとか)
それはあなたの娘もです
とは誰も言う者がいないのだけれども
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誕生会も佳境に入り
ポツリポツリと会場を後にする者が増えてきた
(そろそろ終わりかな、夜まで続くと思っていたからこれは嬉しい誤算だ!)
今は昼を少し過ぎるかな? ぐらいの時間である
「アルシー!」
「どうしたの、シル?」
(おお、走ってこけるなよ)
「私たちお隣さんだって!」
「え! 本当!」
「うん!」
「やったあ!」
「また遊びに来るね!」
「いつでもきてね!」
「父上がもう帰るって言ってるから」
「そうなの……じゃあ、またね!」
「うん!」
(お隣さんだったとは、マジで友達第一号だな!)
前世で基本的にボッチ体質だった彼はかなり本気に喜んでいる
(だけどあれだな、しょうがないとはいえ5歳の幼女が友達になるとは……)
心の中でorzの体勢で嘆いている彼の気持ちはだれにも分からない
「アルシー」
「父上!」
「そろそろ、お開きだ」
「疲れました」
「もう少し我慢してくれ、この後はプレゼントを買いに行くんだから」
「え! 本当! やったあ!」
(そしてこういう事に素直に喜べるっていうのもな……精神が体の年齢に引きずられているって考えはあながち間違いじゃないんだろうな)
「さっき話していた子は誰だい?」
「フォンダー候の娘のシルベリータ! シルって呼んでるの!」
「ほう(もう少し本格的な支援をしてやっても良さそうだな)」
「どうしたの?」
「ほかの子はどうだった?」
「んー、みんな遠く感じたの」
「遠く?」
「うん、だって、畏まってずっと話されるのがなんだか遠く感じたの」
「……そうか」
(ん? どうしたんだ父さん? そんな鋭い目をして)
「でも、シルは違ったよ!」
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[ドルイ・ラ・ジャンヴァルディの日記]
皇紀4050期 アルダーノの月 二つ
今日は我の愛娘の5歳の誕生会だった
以前から娘はほかの同年代の子とは少し違うと思ってはいたのだが今日それは確信に変わった
あまりにも人を判断できすぎている
これは5歳児としては少々異常だとは思う
しかし、我の娘であることは変わらない
あの笑顔や泣き顔は我の愛おしい娘の物だ
それとプレゼントを選ぶ時にも若干思うところはあった
選ぶ視点が……
いや、これは考えないでおこう
もう少し様子を見てもいいと思う。
それと、フォンダー候にはそれとなく来期の支援額を増やすと伝えたら
泣かれたのは我も驚いた
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午後
アルシーとその両親と側仕え数人はとある商館を訪れていた
「ようこそいらっしゃいました、お話は前々から伺っておりましたので最高の物を用意できております」
「ほう、そうか」
「はい」
「父上? ここは?」
「ここは奴隷商だよ」
「奴隷?」
(え、マジで? 5歳のプレゼントが奴隷だって! なんつーこった)
「アルシーの好きに使える側仕えって感じだよ」
「へえ」
(うん、知ってます父さん)
「じゃあ、案内しますので付いて来て下さい」
「今、アルシー様にお売りできるのはここにいる6人です」
「アルシー好きな物を一つ選んでくれ」
(物扱いですね、はい)
「うーん」
(うわ! あの子めっちゃかわいい! マジでタイプなんですけど!)
「父上、あの子」
「……そうか」
(あれ? さっきと同じ目?)
「これはこれはアルシー様はお目が高い! あれはエルフ族の20歳も娘で、もちろん生娘で……」
「おい、娘に変なこと吹き込むな!」
「こ、これは失礼おば」
「父上? 生娘って?」
「お前、後で話がある」
「ひ!」
「アルシー、今は知らなくてもいいことだよ」
「そうなの?」
(ごめん父さん、俺知ってる)
「そうだよ」
「わかった!」
その時奴隷商がホッっと息をついたのを知る者は居なかった
(ん? まてよ、俺、やっちまった?)
彼が自分(男)目線で選んでしまったことに気付くのにそう時間はかからなかった
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