とある士官の嘆き
俺の名前は、マルコー。
マルコー・ヴォッツ。
皆からはいいとこ取りのマルコーとか、悪運のマルコーだなんて言われてる。
なんでそんな風に呼ばれてるかって?
それはボクに運が付いてるからさ!
生まれてこの方、不幸なんて起きた試しがないんだ。
どんな時だってボクは運が良くて助かって来たんだ。
この戦争だって生き残ってみせるさ、ボクはそう確信していた。
あの日までは…。
※※※※※※
僕の家は赤の国の中では、中流家庭で両親は健在、上に2人の兄と下に妹が1人の6人家族だ。
父は王宮で事務官の補佐役__階級は下から四番目__として勤め、上の兄達も父と同様に官吏として日々下働きに明け暮れている。
そして、僕は運良く国軍の士官候補生として軍務に付いている。
この国では、男女とも9才になると読み書きと算数などの一般的な教養を学ぶ学舎に通わなくてはならない。
まず3年間は国の助成金で基礎教養を学び、12才で卒業して農業や商業の仕事に就くか、進学して官吏や軍人になるかを選択する。
勿論、進学するには3年間の学費と進学試験を突破出来るだけの学力が必要になる。
僕は父や兄達のように官吏になるため進学を選び、そこそこに難しい進学試験を突破、また3年間勉学に励んで官吏や軍人になるための国士試験を受けたんだ。
僕は、大して身体が強い訳でも頭が良い訳でもない。
記述はたまたま昨晩勉強をして覚えていた内容が、実技は得意な乗馬が選ばれたために、普通なら縁のない点数を弾き出し、見事試験を突破、これで官吏になれると思ったら、国軍のベイカー将軍から直々にスカウトされて、晴れて将軍直属の補佐官となるに至った。
大きな戦もなく平穏無事に武術の訓練や兵学の講義を受け、いつか僕も父のような家庭を築いていけるかなと思い始めた矢先、戦争が始まった。
僕はベイカー将軍と共に、一軍を率いて南部の要所であるセヴァールポートへと赴いて、紫の軍に対して防衛戦を展開した。
僕ら赤の国軍は約1000余騎と元々セヴァールポートに駐屯していた500騎を合わせた1500。
対する紫の軍はおよそ5000弱、雲梯や攻城塔が多く立ち並ぶが、投石機や衝車などの城壁を傷付ける兵器が用いられていない。
どうやら敵はこのセヴァールポートをなるべく無傷のまま奪いたいらしく、ベイカー将軍もこれならば、と頷いていた。
戦闘が始まると、紫の軍の先鋒が攻城兵器と共にこのセヴァールポートへ波のように勢い良く襲い掛かってきたが、城壁の上に設置し隠していた弩砲の攻撃を前に、攻城塔は散々に撃ち抜かれて、雲梯で城壁へと乗り込もうとした奴らは弓矢の雨と斧で足場を砕かれたために、這々の体で退却していった。
此方の被害が皆無、敵軍は200~300人の死者を出した。
その被害からかその後敵軍はこのセヴァールポートを包囲する為の陣地を築いてこちらとの我慢比べを始めたのだが、この時の僕らは先に音を上げるのは彼らだと思っていた。
王都から早馬が届くまでは…。
※※※※※※
「中央軍が壊滅!?王都が完全包囲された…」
早馬の知らせは一瞬で僕らの雰囲気は敗戦した様になった。
将軍は知らせを聞いてから参謀達と休みなく軍議を続けていた。
「…や、夜襲、でありますか?」
参謀は敵軍が築いた陣地を夜襲し、火計を用いて糧秣を塵にしてやれば敵軍は退かざるを得ないと…。
この作戦を聞いた僕は尋常じゃない程に、嫌な予感がした。
理由は分からない。でも感じたんだ、身が捩れる程に、背筋が凍るなんて比じゃない。
一応参謀に危険なのでは?と問い掛け、自分が感じた嫌な予感について話してみたものの、所詮は一士官の戸惑い・予感なんて国軍を率いる将軍達からいえば何の意味のない。
僕は夜襲部隊から外され、セヴァールポートで留守を守る事になった。
…そうして僕以外の士官は殺されてしまった。
留守番に残った108名と、生きて還ってきた負傷者68名。
敵軍は約4,500。
僕らは死を覚悟せざるを得なくなった。