侍女が語る。その壱
毎度ご愛読、感謝致します。
これからも宜しくお願いします(●´ω`●)
「___私がお嬢様方の専属に?」
突然、雇い主から告げられた人事異動に、私は困惑の色を隠さずに問い掛けた。
雇い主は、その顔によそから持ってきて、そのまま貼り付けたような笑みで私に向けて応えた。
「そうだよ、君は優秀らしいからねー。これからあの2人、新しく創る遊戯室に籠もるから、その世話を任せたいんだよね、うん」
表情を変えることなく、口だけで物事を伝えてくる。
どうやら、私には拒否権がないらしい。
雇い主の態度からその事がヒシヒシと嫌な感じで身体にまとわりついて離さない。
「あ、これは2人の簡単な取扱説明書…もといプロフィールだから、無くさないようにしてね」
と昨今稀に見る分厚さの、地球的物差しで言えば英和辞書、取扱説明書…もといプロフィールを手渡されて手に取ってみたが、…お、重い…。
プロフィールの重さに手をプルプルさせていると、雇い主は笑いながら私に言い放った。
「いやー、気合い入れて作ったからね。ちょー中身濃いからよく読んで2人のお世話して上げてね~!」
じゃあよろー♪とだけ言って雇い主は私の目の前から消え失せた。
1人残された私は重たい取扱説明書×2を抱えながら、トボトボふらふらし歩いて自分の部屋に向かいました。
※※※※※※
さて、あの置き去りにされた日から地球的物差しで二週間が経ち、私は新しい職場にやってきたのだが、新しい遊戯室はとてつもなく広かった。
部屋から出られず、これから籠もり続けなくてはならない2人の為の食事を作るキッチンは勿論のこと、バスルームにウォシュレット、ベッドルームなどなど生活するのに必要な設備は全て完備してある上、2人の遊戯スペースがこれまた筆舌し難い仕様になっている。
遊戯盤を載せたテーブルがある場所は、宙に浮いておりそれを対角に伸びた4本の橋がそれを支えている。
そのテーブルの下の空間には、擬似的な青い海と緑と茶色い大地のある星が存在していて…、と私の言語能力では説明し難い不思議空間なのだ。
唖然とした私の目の前に、金と銀の髪を持った瓜二つの2人の美少女が立っていた。
「貴女がお父様が遣わしたメイドさんね、宜しく~」
「貴女がお父様が遣わしたメイドなら早く私に紅茶を用意して貰えるかしら」
金髪の少女は柔和な笑みを浮かべて歓迎してくれたのだが、銀髪の少女はビシッと私を睨み付けて『来るのが遅いのよ!』と言外に態度で示してきた。
取扱説明書に書いてあった通り、金髪の少女が『面倒くさがりでズボラなのだが強運の持ち主』な姉で、銀髪の少女が『真面目で秀才だけど失敗するのが怖い』妹のようだ。
私はそんな事を思いながら、すぐお茶を御用意致します。と優雅に頭を下げて礼をしてから備え付けられたキッチンへと向かったのだった。
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それから地球的物差しでいうと、この共同生活が始まってから3ヵ月程経ち、取扱説明書には記載されていないお二方の趣味趣向も幾分か理解出来るようになりました。
金姉さま(仮称)は記載されている以上に、ご自身の身の回りに対してズボラで、よくプライベート空間は樹海と化している有り様で…よくもまぁアソコまで空間をぐちゃぐちゃに出来るモノだなと感心してしまいます。
銀妹さま(仮称)は一言でいうと、正に『質実剛健』とでも言うかのようにご自身の身の回りからプライベート空間、はたまた諸事の身のこなし方全てがキチッとなされており、ハウスメイドである私が逆に銀妹さまから収納術を学ぶなどという失態がある程に、しっかりとなされています。
ですが、少し堅苦しそうな上に失敗に対する恐怖心が強い為か、金姉さまがご自身よりも巧い一手を打たれるとその夜は寝付きがお悪くなれて注意力も散漫になってしまわれます。
そして、今日もそんなお二方のお世話に勤しむ私です。