6 実は悩み多し。
お気に入り登録件数30突破しました!!(30位で喜ぶなとか思わないで)
ありがとうございます。そして、これからもよろしくお願いします。
「わぁーすげー!」
パチパチっと皆の拍手が教室に鳴り響いた。
その拍手の中心にいるのはやっぱりイアン!ーーではなくて、
「まぁまぁこの俺様にとっちゃ朝飯前よ」
皆にすげーすげー言われて絶賛鼻の下伸ばし中の背高ノッポの少年ーークザンだった。
今はお昼休みの時間、クラスでどのくらいの魔法が使えるようになったのかを見せようぜ大会真最中だ。そして只今イアン君は部屋の隅で皆の魔法を羨ましそうに眺めていた。
「んじゃ次俺やるよー」
と、小柄な少年が真ん中へ進み出てきた。
少年は[ウォーター]と言うと片手を上につき出して弧を描くように動かした。すると手を動かしたところから水が現れた、その水は小鳥に姿を変えて教室内を飛び回っていた、が
「あっあれ!?」
急に少年が慌て出した。いつの間にか小鳥たちは喧嘩し始めていて教室内を物凄いスピードで飛び回っていた。小鳥たちは喧嘩で周りが見えなくなっていたのだろう。その物凄いスピードであらぬ方向へ飛んでいったーー部屋の隅で羨ましそうに見ていたイアンの元に。
勿論、水の鳥と言っても魔法で出来た鳥だ、あたると痛い。それがイアンの方向へ飛んできた、がイアンは避けようともしなかった。小鳥はそのままイアンに当たるーーわけなく消滅した。
「あっえと······ごめんね」
軽い感じで謝ってきた、もしイアン普通の魔法が効く人だったらどうするつもりだったのかと口には出さずに胸に留めておいて、
「んー別に大丈夫だよー」
こっちも軽い感じで返してやった。
するとクラスの人たちは一斉に安心した顔をして再び大会を始めた。
人に1回当てたにも関わらず許してもらえれば特になにもなかったかのようにまた始める、なんだと言うんだ最近の若者は!
そして次に挑戦するのはガタイのいい女の子だった。
その子は今度[ウィンド]と唱えるとフワッと手でほんのすこしの風を起こすとその風は、魔力の量を間違えたのか風の刃と化していた。
「わっ!」「きゃっ」「うおっ」「あぶねーな!」
なんとか誰にも当たらずに風の刃は集団を通過した。が、その先にいたのはまたもやイアンだった。
その刃はイアンに当たる直前に消滅した。
「あっあう……」
その女の子はガタイに関わらずしゅんとしていた。まぁ2回も続けて不慮な事故で魔法を食らってないにしてもいい気分では無いはずだ。
イアンはなにも言わずに立ち上がると教室から出ていった。
その後の教室の静けさと言ったら……
その頃イアンは学校内をフラフラと歩いていた。
「僕って不幸なのかなぁー」
ポツリと呟く、ハッと今言ったことを思い出すと、
「っとイカンイカン、僕は不幸なんかじゃない。ただタイミングが悪いだけだ」
不幸とタイミングが悪いのはあまり変わらないような気がするのだがイアンの中では違うらしい。
トボトボと歩いているといつの間にか屋上まで来ていた。もうすぐ夏らしく(この世界でも四季はあるらしい)生暖かい風を顔に受けながらフェンスに寄りかかる。
はぁーっとイアンにしては珍しく深い溜め息を吐きながら空を見上げると、イアンの心を表しているかのようなどんよりとした雲が広がっていた。とそこに屋上の扉が開いた。
イアンが顔を向けるとそこには、
「およ?ソーくーーじゃなくて、アルじゃん」
そこにはついこないだ友達になったばかりのアルベルトことアルが顔を扉からひょっこり出していた。
どうしたのーっと聞くと、
「なんか、お前が悩んでるように見えたから······」
っと少し顔を赤くしながらイアンの隣に腰を下ろした。
ホント、アルって一瞬男の子なのにドキッてしちゃうんだよなぁーっとか思いながらアルが隣に座ることで出来た2人の距離に少々ドキドキしながら一緒に空を見上げる。
アルは悩んでそうだから悩みを聞いてあげようとか思ってないらしく、アルはなにも言わずにただイアンの隣でしゃがみこんでいた。
イアンはアルが無言で隣にいてくれることに感謝した。今は静かに過ごしたかった。
その状態がしばらく続くとポツリとイアンが呟いた。
「僕ってやっぱり不幸なのかなぁ」
今さっき不幸のせいにしてはいけないと言ってたにも関わらずやはり口に出してしまう。
イアンは別に誰に答えを求めているわけでは無かったがアルがあえて、
「不幸じゃないんじゃない?」
軽い感じで言ったアルだったが、本当にそう思っていた。が、その軽い感じがかんにさわったのかイアンは少しイラついた感じで、
「それ、ただ僕の気が良くなるように言ってるだけだろ」
折角、アルが言葉をかけてくれたのに冷たい言葉で突き放した。アルは一瞬ムッとした顔になったが何を思ったのか急に、
「あぁそうだよ、お前は不幸だよ」
っとさっきの軽い感じではなくて人をバカにするような態度で言い放ってきた。それには流石にイアンはカチンときた。
「っ!!お前に魔法が使えない人の気持ちなんかわかるのか!?しかも使えないだけじゃなくて不必要に魔法があちこちから飛んでくるし、もし魔法を打ち消す体質が無かったらって皆は考えないのかよ!?」
なんか、逆ギレになってしまったがアルは気にもしなかった。前にアルはイアンと同じような逆ギレをしたのだから、お互い様だった。
「俺、魔法使えるからそんな気持ちわかんねーし、魔法を打ち消す体質が無かったらとか言ってっけどあるんだから仕方ねーーっ!!」
ドガッ!
アルの返答を聞いている間に何かがプチんと切れた瞬間にアルがぶっ飛んだ。
正確に言えばイアンがアルをぶっ飛ばした。
アルはそのまま吹っ飛び壁に衝突した。アルを中心に壁に丸いヒビが入った。アルはケホケホしながらフラフラと立ち上がると、
「なんだよいきなり」
っと言って拳を構えた。イアンもその気になったのか構えの姿勢になると、なぜこうなったのか分からないがバトルが始まった。
まず初めはさっきのお返しと言わんばかりにアルが怪物級の瞬発力で一瞬でイアンの懐にはいると一発!ーーだったが、イアンはそれをヒラリと紙一重かわすと、かわすときに浮いた右足を曲げてアルの顔面に叩き込むーーが、まるで予想していたかのような動きで、それを伏せて避けるとイアンの足を払う。
くっと声をあげながら地面に倒れるが隙など一切見せずに立ち上がると距離を取った。
「へぇーお前、本当に怪物だな」
挑発するかのようにわざわざこの前までアルが気にしていた事を言うイアン。だが、それはもうこの前までの話だった。
アルはイアンに出会ってから物の見方が変わったのだ。例えば、この怪物じみた力は友達を守るために使うのだと。そう、アルは今も友達のためにこの力をふるっているのだった。が、それが今のイアンには伝わらない。
「俺についてこれるお前も怪物だけどな」
その言葉の終わりと同時に2人は動き出した。
2人とも拳に力を込めて打ち合うつもりらしい、イアンは大きく腕を振りかぶるとタイミングを見計らってパンチを繰り出した。が、アルは振りかぶった拳の力を抜くとイアンのパンチ合わせて回転しながら避けるとそのまま回し蹴りをイアンの首きお見舞いした。
イアンが無様にも吹っ飛ぶところを見てアルはビックリしていた。
なんたってこの間、渾身の一撃のパンチをもろに食らったにも関わらず顔色ひとつ変えないで立っていたのだから。
今回もそんな感じかなと思っていたのだがハズレだった。
アルは少し考えた結果、きっとイアンは自分の力をコントロールしきれてないのだと言う結論にたどり着いた。
「くそっ」
イアンが闇雲向かってきたが、そんな丸分かりの攻撃など食らうはずもなくヒョイヒョイとアルはかわしていく。
ふっとアルの口から言葉が漏れた。
「なんで、そんな力があるのに他の為にって使おうとしないんだよ······」
イアンの頭の上でははてなマークがいっぱいついていた。
なぜアルはイアンが自分の力を使わないっだけでそんな悲しそうな顔をするのだろうか。しかしそんなことよりもイアンは、
「他のーー為にーーって一体ーーなんなんーーだよ!」
イアンは自分の理解力の乏しさにイライラしているのか、はたまたアルに攻撃が当たってないことかなのかはわからなかった。
「そんなもん、自分で考えろ。と、言いたいとこだが今のお前じゃ無理そうだから特別に俺がみっちりとその体に叩き込んでやるよ」
まだイアンが闇雲に放ってきてるパンチを避けながら、余裕の笑みを浮かべた。
「例その壱」
丁度良くイアンが大きく振りかぶったハイキックをしゃがんで避けると拳に力を込めると、
「人を守る為に使え」
一気に拳を振り上げ強烈なアッパーを叩き込む。
「ガッ!!」
そのまま軽くぶっ飛び背中を打ち付けて肺の空気がなくなった。
「っ!!カハッゲホッゴホ……守るったって、魔法が使えないんじゃ守れねぇーじゃんか」
ぺっと血を出しながら、結局はすべて魔法だ、とでも言うかのような目付きでアルを睨む。
アルは、はぁーっとため息をつくとそんなことも分からないのかと呟くと、
「魔法がすべてじゃねーよ、魔法で敵を倒すだけが守るじゃねーよ。そのくらい頭冷やしたらすぐわかんだろ」
そー言うとまだ地面に座っているイアンを見下ろし、大分イアンの頭は落ち着いてきたと判断する。が、アルは決して手を抜こうとはしなかった。
「例その弐」
今度は足を後ろへ引くと思いっきりイアンのみぞおちを狙う。
目の前でアルが自分を蹴ろうと分かっていても決してイアンは避けようとはしなかった。
そのイアンの目には、さっきのような死んだ魚のような目ではなく、何かに気がついたような、そんな目をしていて、端から見たらさっきまで悩みを持っていた少年の目には見えなかった。
その顔を見てアルはニヤリと口角をあげると、わかってんじゃねーか、と呟くと思いっきり蹴りを叩き込んだ。
「誰も何も"殺せない"」
そう、イアンは人を傷つけることすら出来ないのだ(なんか怪物以上の筋力持ってるけど)。
吹っ飛んだイアンはスッキリとした顔をしていた。大の字に寝っころがって、さっきまで曇り空だったのだが今ではすっかり晴れた空になっていた。
「その顔だよ、お前にはその顔が1番似合ってるよ」
と、もう用はすんだと言わんばかりに屋上から退出しようとするアルをイアンは呼び止めた。
「ありがとう、アル。お陰でスッキリしたし、この力の使い道がハッキリしたよ」
いきなり感謝の気持ちを言われたアルは顔を赤くする。
「べッ別にお礼を言われるよーなことなんかしてねーよ、ただお前の悩んでる顔が気持ち悪かっただけだから殴っただけだし」
………………………………。
ツンデレかよ。
これは、完璧なツンデレだよな。
じゃあな、と今度こそ屋上から出ようとしたが
「あっそうだアル」
再びイアンが呼び止めた。
今度はなんだ見たいな顔で振り返ると、イアンは何か白いものを突きつけてきた。
「なッなんだーー」
「欠けた歯ってアルの魔法で治すことできる?」
………………いや、医務室行けよ。
その後、嫌がるアルを強引に一緒に医務室に行って、歯を治した後にブラブラ学校を歩いていると前からクザンが走ってきた。
「いたぁーイアン!ごめんな、イアンのこと気にせず魔法とかバンバン使っちゃって。これからは気を付けるからさ、しっかりと授業出ようよ」
いきなりのスライディング土下座で謝ってきたクザンに苦笑しながらも、気を使ってくれてる優しさが嬉しかったが、イアンはすっかり午後の授業のことを忘れていた。
「いやクザン、むしろ僕のことを気にしながら魔法とか使うのを躊躇うのはやめてほしいな、もう僕は大丈夫だからーー授業はさ······たまにはサボらなくちゃ」
入学したての小学生が授業をサボるとか考えられないが異世界だから良いかな的な感じで。
イアンが別に怒ってないと分かったクザンは顔をあげてパァっと顔を明るくするが、イアンの隣にいたアルを見ると怪訝そうな顔をした。
「そっそうか、それはよかったーーところであんた誰だよ」
っといきなりアルに敵意ある目で睨んできた。
おいおい、アルとは寮が一緒なんだから覚えとけよ、しかもアルにケンカ吹っ掛けるとか······死にたいのかなコイツ。
っとか心のなかでイアンは思っていたが決して言葉には出さずに成り行きを見守っていた。
「あ?なんだよてめぇー、鬱陶しいから俺の半径10メートル以内に入ってくんなや」
相変わらず仲の良くない人には言葉遣いが荒かった。
それを聞いたクザンは珍しくこめかみに青筋を浮かび上がらせた。
「ほほぅ、まぁここは平穏に済まそうではないか、俺の名前はクザン。君は?」
今にもぶちギレそうなクザンがグッと我慢をして何とか持ちこたえたが、次のあるの言葉で遂にキレる。
「テメェに名乗る筋合いはねぇーーイアン、行こうぜ」
「テメェ!こっちが平穏に済まそうとしてやってんのに何なんだよそのたいーーどわぁぶ!!!」
アルがクザンの隣を通り過ぎたときにクザンが後ろから攻撃しようとしたが、そんな丸分かりの攻撃がアルに当たるわけなく、アルの裏拳でクザンは壁にめり込んだ。
見事なオブジェだった。ただ、この壁の修理代はどおするのだろうと思いながらイアンは壁にめり込んでいるクザンに両手を合わせて、
「御愁傷様」
と、呟くと先に行ったアルを追いかけた。
やはり、イアンは教室で起こったことがまだちょっとムカついていたようで、ちょっとは苦しんでもらおうと敢えて助けはしなかった。
「ーーっ!!ーーーーーっ!!!!」
誰もいなくなった廊下にクザンの叫びにならない叫びだけが響いた。
***おまけ~続編~***
クザンが壁にめり込む前ーー
この前一生懸命考えた手紙のお返事を渡すべくクザンは学園中を走り回った。っとそこで遂に探し求めてた人には出会う。
「あっあの後ろ姿は!!クレアちゃーん」
クザンが遠くから呼び掛けるが一向に振り向かなかった。
「クレアちゃん、恥ずかしがらないで。イケメンが自分を呼んでるから恥ずかしいのは分かるけど、僕のために振り向いて欲しいな」
っとそんな恥ずかしいことをよく大声で言えるなと回りの人が感心して見ている中、クザンが遂にクレアちゃん”らしき人”の肩に手を置いて振り向かせた。
そこには、なんとも不細工な人の顔があった。髪型、体型はほぼ本物と同じなのだが、出っ歯で一重、頬は痩せこけていた。
「あーら、私のこと呼んでくれていたのねぇ、でも私の名前はク・レ・ハーー」
「人違いでしたぁーーーーーーー(ドップラー効果)」
風のごとく走り去っていった。
果たしてクザンは本物のクレアちゃんに出会えるのか!?(脈なしだけど)
読んで頂きありがとうございます。間違い、アドバイスよろしくお願いします。
クザンのおまけはまだ続ける予定です。