5 魔法効かないみたい。
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ありがとうございます。
「???」
何故だが全く痛くなかった。痛いどころか当たってすら無かった。
ゆっくりと目を開けるとそこには口をあんぐりと空いたままになっている野次馬達がいた。顔を庇っていた手を下ろすと皆一気に体がビクリとなった。
そして1番に口を開いたのがクザンだった。
「イッイアン、大丈夫なのか?」
恐る恐ると言った感じで聞いてきた。
「あっあぁ、僕は至ってなんの問題も無いよ。ところで今どーなったの?」
イアンが普通にピンピンしてるのを確認したクザンは少しほっとした顔をして、イアンが今、自分で魔法を打ち消したのでは無いと理解する。
「正直言うと俺らにも分からねーよ。ただ言えるのはあのファイアはイアンに当たらず消えたってことだ」
クザンが見ていたことを詳しく説明するとイアンは自分のことなのに驚いた。
まずありえないでしょ、自分に当たる前に消えるとか。魔法で何かやるってんなら別だけどイアンは魔法はなんにも使えないし、野次馬達が魔法を使った形跡も無かった。
するとそこでやっとガルーダが動いた。
先生なのになぜ今まで動かなかったのか不思議だが、それほど不思議な現象が起きたことを示していた。
「イアン、付いてこい。」
どっかで聞いたことのあるセリフをいうガルーダ。
ってかまた学園長室とかじゃないだろーな?昨日も行ったのに2連チャンとかまじ止めて。僕もよくわからないんだって、僕はなんもしてないもん。
「イッイアン」
クザンが心配そうな顔で近づいてくるがイアンがそれを制すと大人しく引き下がった。
イアンがガルーダに「さぁ行きましょう」と目で伝えるとガルーダも分かったのか頷くと歩き出した、昨日見た同じ廊下をーー
今回はガルーダは話しかけてこなかった。昨日みたいに「お前、あれ知ってたのか?」とか聞いてくれれば大分落ち着くのだが、ガルーダは少しでも早く学園長室に行きたいのか早歩きで歩いている程だった。
そしてまた昨日と同じ流れ。
コンコン
「開いとるよー」
「失礼します」
カチャリ
そしてまた出会いました、真っ赤な絨毯。この絨毯はフカフカ過ぎて足音が全く聞こえないのだ、きっと走っても聞こえないと思われる。
学園長が扉の方に目線を向けると難しい顔をしたガルーダとなんかもーどーでもいいやって顔のイアンがいた。
「おろ?ガルーダ先生、今日は何の要件かの?一緒にイアン君もいるようだが何か問題でも?」
「はい、実は······ってまさか学園長がまた言い忘れてたとかじゃないですよね?」
話始めたと思いきや急に声のトーンが変わって学園長を怪しむような目付きになった。が、
「えぇ!?わしを疑っておるのかガルーダ先生······しかし残念ながらこの前話したことが全部じゃ。んで何があったんじゃ?」
ガルーダに疑われたことがそんなにショックだったのかズーンと周りに暗いオーラを漂わせたが学園長としての威厳を取り戻して再び問う。
「失礼しました。実はその······言葉では言い表せ難いんですが······そのー何て言うか、魔法が消えたんですよ」
「···········································」
絶句。
絶句の他無かった。
学園長はそれを聞いたとたんに顔から笑みが消えて固まったし、ガルーダは未だに自分で言ってることが信じられないのかチラチラとイアンの方を見ていた。
なっがーい沈黙。
その沈黙に耐えきれずイアンは部屋を観察し始めた。
部屋には昨日と変わらないソファと机、壁には幾つかの武器などが、だが昨日は目につかなかったが部屋の端に本棚がズラリと並んでいた。そこには魔法書やら歴史の本が沢山あったがイアンはとある1個の本に目が引かれた。
それはすっごく古い本で背表紙の端がボロボロで、なぜかチェーンで巻かれていて鍵を掛けられていた。
なぜそれだけ頑丈に閉じてあるのだと思ったが遂に部屋の沈黙が破られた。
「魔法が消えた?」
沈黙を破ったのは学園長だった。
すると学園長は椅子から立ち上がりイアンの近くまで来た、イアンはジロジロと見られていい気分じゃなかったが、何か今動いたらいけないような気がして瞬きもせずにその目線に耐えた。がーー
ドサリ
何かが倒れた音がした。
それは目の前にいたーーガルーダだった。
「ガルーダ先生!?」
ついガルーダの元に駆けつけてしまったが学園長は一切焦ったような仕草は見せずに代わりに「あっやっちゃった(テヘペロ)」的な顔をしていた。
そんな学園長をよそにイアンは焦っていた。
「学園長!ガルーダ先生が!!ーー」
「まぁまぁ落ち着きなはれイアン君、ガルーダ先生はちと気絶しとるだけじゃよ」
イアンが振り返って学園長に助けと求めようとしたが気絶してるだけと聞いたイアンは前世で学んだ脈を測る。一応脈はあったから一安心した。が、それもすぐに終わって何故ガルーダが気絶しているのか聞くと、
「むしろ今の状況で気絶していない方がおかしいのじゃよ」
「そっそれは一体どーゆー?」
学園長は髭を撫でながらホッホッホと笑うと急に目付きが変わった。
「そのまんまの意味だ。何故ならわしはガルーダ先生ですら気絶するような魔力を放出していたのだからな。先生が気絶するほどの魔力なのにどうして一般の生徒、それも入学したての1年生が気絶しないのか······おかしいじゃろ?」
確かにイアンは魔力が放出されている事を感じていた。が、イアンにはただちょっと空気が重くなったようにしか感じなかったのだ、まさかそれが学園長が魔力を放出していたなんてイアンにはまだ分からなかった。
「おかしいと思ったわい。入学式が始まってから1年生が校門を通ってる途中にわしの49年間一度も壊されたことの無い結界が突然壊されたのだからな」
そのときはもー焦った焦った、と言いながら学園長はガルーダを軽々と持ち上げながらソファに寝かす。
「わしにもよー理解出来んがイアン君ーー君は、
魔法を打ち消す体質らしい」
はっ?
時が止まったかのように見えた。だっておかしいじゃん、何にも魔法が使えないイアンがその魔法を打ち消す事が出来るのだから。
固まっているイアンを余所に学園長は語りだした。
「そうしないと全ての辻褄が合わんのじゃよ。魔法が消えた理由も、イアン君の魔力が無い理由も。だからこれはあくまでわしの予想だが、その体質のせいで自分の魔力までも消してしまうのだろう。さっきわしがこの部屋に魔力を充満させたがイアン君には魔力の影響はなくただ空気の密度が高く感じただけになったのだろう」
ペラペラと理解不能な事を喋りだした学園長。いや、いきなりそんな現実離れした話を(すでに転生してるけども)信じろ言われても信じられないのが人間だ。
イアンがぽけーっとしていると学園長は話をやめホッホッホと笑うと
「いきなりこんな話をしても信じられる訳がないという顔をしておるな?まぁいきなり信じるなんてわしも思っておらんよ、わしも未だに自分で話してて信じられんからな。ってことでちと強引なやり方だが一番理解しやすい方法でやろうかの?」
するといきなり学園長は手のひらをかざしファイアを作り出した。
「うぇ!?ちょっ学園長!?」
当然イアンは驚いた。いきなりファイアとか出されたらマジでビビるし。
しかし当の本人はホッホッホと笑うとファイアを投げたーーイアンに向かって。
「(あれ?なんかこのパターン2回目じゃね?僕に向かって飛んでくるとか······)」
このときのイアンも咄嗟に顔を両手で覆うことしか出来なかった、そして再び目の前が炎に包まれた。
そしてまた、痛みは無かった。
「······························?」
ゆっくりと目を開けるとそこには相変わらずホッホッホと笑い続けてる学園長とソファに転がっているガルーダがいた。
「これで分かったじゃろ?君が魔法を消せる体質だと言うことが」
未だに呆然としているイアンに学園長が話を切り出す。が、そんな1回で理解できるほどイアンの頭は柔らかくはない。
それを理解したのか学園長は1度顔をしかめ再びファイアを作り出した。
「ふむ、ならば直接触ってみるのはどうじゃ?ちと勇気が必要だがの」
といきなりデンジャラスな事を言い始めた学園長。
「(いやいや、触るとかデンジャラスすぎるでしょ。そんな、じゃあ仕方がないから触ったら?みたいな顔をされても困りますって。ちょっと勇気がいるって······僕、結構臆病者なんですって、バレないように日々努力してるだけですって)」
っとそんなことを心の中で言っていると案外短気なのか学園長はズイズイ近づいてきてほれっほれっとファイアをつき出してきた。
これは何を言ってもダメだとイアンは諦め、恐る恐る手をファイアに近づけた、そしてーー消えた。
「!?」
確かにイアンはこの目で見た、目の前で赤々と燃えていたファイアが目の前で、正確に言うとイアンが触れた瞬間に消えたのだ。
すると、学園長は満足したような顔をみせガルーダが寝っ転がっているソファの反対側のソファに腰を下ろした。
「なっこれで理解できたじゃろ?君には魔法を打ち消す体質だと言うこーー」
ドサリ
ここでまたしても何かが倒れた音がした。
それはついさっき学園長のファイアを打ち消した張本人ーーイアンだった。驚きすぎて気絶したのだろうか······
「あやや······気絶するくらい驚いたのかの。全く、わしかて気絶したいくらい驚いておるというのに······」
と、学園長の独り言が部屋に響いた。
**********
「······っん······んんっふぁ~あ······あれ?ここはー僕の部屋?」
いつの間にかベットに寝ていてもう既に時刻は6時ごろだった。
「……あっれー?確か僕、学園長の部屋にいた筈だったんだけどなぁー」
さっきまでなんか学園長の部屋で色々話してたのは覚えていたのだがいつの間にかこの部屋に来ていた。
もしかして夢か……と現実逃避的な発言をしながら頭をかくと、
「そうだ、お風呂に入ろう」
っと「そうだ、京都へ行こう」的な感じで軽くお風呂場へ行く。
ぬぎぬぎと制服をぬいできると、カサッとポケットで音が鳴った。
「ん?」
半裸の状態でポケットを探ると折り畳まれた紙が出てきた。
ゆっくりと開くとそこには丸っこい可愛らしい字で、
『はじめまして、わたしクレアといいます。おともだちになりたくててがみをかきました。よかったらおへんじください。』
と書かれていた。
しかし、手紙に覚えの無いイアンは何がなんだか、まずクレアって誰だし。
身に覚えの無い手紙だったからイアンは、
「クザンのかな?」
と、その手紙をぽいっとクザンの私物のところに投げると、服を全部脱ぎお風呂に入った。
まさかその手紙の差出人ーークレアがあの廊下でぶつかったイアンの初恋の女の子だとは知るよしも無かった。
***おまけ***
イアンがお風呂から上がってもうすっかり寝てしまった時間。
「おーいイアン生きてっかぁー」
クザンが帰ってきた。
クザンは部屋に入ると、もうぐっすりと寝ているイアンを見つけるとホッと胸を撫で下ろした。
「ホント、人を心配にさせることしかできねぇーんだから」
いつものクザンからは考えられないほどの落ち着いた声でまるで弟を見るような目でイアンを見ていた。
「全く、世話のやけるヤローだぜーーん?なんだこりゃ?」
クザンはとある紙を見つけた。
それは、イアンが勘違いをして自分へ宛てられた手紙なのにクザンのだと思い込んだやつだった。
クザンが手紙を開いて読んでいくにつれて目が見開かれていった。
「こっこれは!?まさかラブレターなのでは!?しかもクレアちゃんって今日イアンにぶつかってきた、あの可愛らしい女の子じゃないか!······ぐっふっふ、イアンには悪いがクレアちゃんは俺が貰ってやるよ、ぐっふっふ」
っとなぜだかクレアが誰なのかも知っていたクザンだった。
手紙のお返事を考えていたクザンは次の日、目の下に隈を作りながら廊下に立たされるなんてことは知らないのだった。
間違い、アドレスくれたら嬉しいです。