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4 一目惚れしちゃった。

「♪♪~♪~……」


前世の記憶で流行っていた音楽を鼻唄で歌う。

イアンは今、自分の部屋にいた。そのなかの自分のベッドで天上をじっと見ながら歌う。すると、


「オイ!イアン生きてっか!?」


バンと大きな音をたてながら扉を開いて部屋に飛び込んできた背高ノッポの少年――クザンが入ってきた。クザンは部屋のなかを見渡してイアンを探すがすぐにベッドの上にいるとこを見つけると狭いベッドの中に飛び込みイアンに抱きついた。


「よかったぁーイアンが生きていて。イアンが死んだら俺3年間も1人部屋とか嫌だもん」


そこかよ!と突っ込みかかったがそれでも心配してくれたクザンに、


「じゃー今から死んでも遅くは――」


「何言ってんだよ!お前だけはぜってー死んじゃいけねーって!!」


悪ノリ。

やっぱ友達って良いなーと頭のなかで考えていたイアンにクザンはふと気になることを聞いた。


「そーいえば、イアンは何でガルーダに連れてかれたんだ?クラスではその話題で持ちきりだったぞ」


クザンは未だにイアンに抱きついていたが、イアンがクザンを引き剥がすように手足を使い遠ざけながら、


「あぁーそれは学園長の部屋に行ってたんだよ」


それを聞いたクザンの顔は······アホ面だった。

ぽけーっと口を半開きにして、未だにイアンが遠ざけるために伸ばしている手が頬を引き伸ばしていて何ともバカみたいな顔だった。ハッと気を取り直すと、


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


「おせぇよ!」


反応するまでに使った時間はおよそ10秒。

人間の神経って異世界だと違うのだろうか、とそんな疑問を持ってしまうほど遅かったのだ。


「えっねぇなんでなんで!?」


クザンは当然っちゃ当然の質問をして来た。

何せまだ入学してから1週間くらいしかたってないのに、もう学園長の部屋に行くというのは余程悪いことをしない限り無いのだから。それにイアンはどちらかというと真面目君、呼ばれる理由など無いに等しいのだ。まぁそれでも呼ばれたんだけどね。


「んーこれは絶対誰にも言うなよ?クザンだから話すんだからな?」


入念に確認を取るように何度も聞くとクザンの頭は何度も縦に振られいつかコロリと転がってしまいそうだった。


「実はさ僕、魔力量がゼロなんだ」


っと「実は僕、人間なんだよ」的な事を言うのと同じくらい軽い感じでさらっと言った。

案の定、クザンの顔は本日2度目のアホ面だった。そして今回の反応に要する時間はさっきより長かった。じーっくり待っていると急に、


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????魔力量がゼ――むぐぅ」


クザンの叫びは咄嗟に繰り出されたイアンの拳によって途切れた。


「声デケーよ」


静かにそう言うとクザンは落ち着きを取り戻してきて、


「ふぁい、ふみまふぇん」


殴られた頬をさすりながら反省の色を示した。





 それからクザンに色んな事を説明した。

2歳の時から既に魔力量はゼロだったと言うこと、訓練しても魔力量は上がらなかったこと、魔力が無くても学園に通ってもいいと言うこと。そのたびにクザンがオーバーリアクションするため、クザンの顔が変な形になってることなどイアンは気にもしていなかった。


「ほうほう、イアンって結構大変な人生だったんだな」


今ではすっかり大人しくなったクザンはぶベッドの上で向かい合って座っていた。


「まぁ大変っちゃ大変だったけど、もうなれたしね別に魔力が無いからって命がどーのこうのとか無いからいいんだけどね」


しかし、イアンの顔が少し羨ましそうな顔になっているのをクザンでも見逃しはしなかった。

クザンが少し気まずそうに俯いていると、


「おいおい、どーしたよクザン。クザンが黙るとかなんか槍でも降ってきそうだからマジで止めてくれよ。もう魔力のことはもう良いからさ!今さらどうこうしたって変わらないんだから、取りあえずさ今を精一杯生きようよ!」


なっ!っとクザンの肩に手をかけると、クザンも仕方ねーかと言うような笑顔をしていた。


その日はなぜだかぐっすりと眠ることが出来た。イアンの不安が1つ消えたからだろうか……?



**********



その次の日からしっかりとした授業が始まった。

異世界の授業は魔法学以外は普通の小学生の授業内容と同じだった。しかもイアンはもうすでに字の勉強は済ませてあったから、その授業の時は暇で暇で仕方がなかった。算数もこの世界でも同じ数字を使っていたから、その時間はほぼクザンに勉強をより分かりやすく説明してやったりしていた。

2時限目の移動中


「だーかーらーここは順番に計算じゃなくて掛け算から計算していくんだって!」


四則計算をやっていた。クザンが流れで足し算からやっているのを何回も説明したのだろうか、イアンの顔にはイライラが見えていた。対するクザンの顔は――大きく口を開けて大あくびをしている最中だった。


「イアン……もうその授業終わったじゃんかよ、もう勘弁してよ」


今にもクザンの目からは涙が溢れてきそうだった。


「いや、別に僕は男の子の涙目&上目遣いには全く興味無いから。」


上目遣いっと言っても実際はクザンは長身、イアンは小学生でも低い方だからできるわけないのだが、それらしいことをしていたから一応言っといてやった。


「ひどいイアン君!!私の涙を見ても何も感じないっていうの!?」


「お前、いつか友達いなくなるぞ?」


気持ち悪いクザンの対応をしていたからイアンは気がつくことが出来なかった。前からも余所見をしながら歩いてくる女の子に。


ドンッ


「きゃっ!」


イアンはぶつかってからやっと前から来ていた人に気がついた。背が低いにも関わらずイアンはぶつかった衝撃で転ぶ以前にふらついてもいなかった。そのせいか、女の子は無様にも持っていた教科書を散乱させながら床に尻餅をついた。


「あっだっ大丈夫ですか!?」


紳士なイアン君は直ぐに女の子のとこに駆けつけて教科書等を拾って上げる。


「あっ大丈夫です、ありがとうございます」


その女の子も直ぐに立ち上がって教科書を一緒に拾い始めた。一応全部拾い終わるとイアンは持っていた教科書を女の子に渡すときにふっと顔を見たら――


『うん?なんだこれは?顔が熱いぞ?』


一目惚れだった。

前世で高校生まで生きたが恋なんかしたこともなかった精神年齢24歳の少年であった。

女の子の身長はイアンよりも10センチほど高くて髪は肩くらいで2つ結びの茶色、目は二重のくりっくり、少し頬にそばかすがあるがそれが凄く似合っていた。


しかし一目惚れに鈍感なイアンが気づくわけでもなく、何だかわからない気持ちを抱え続けることになるなんて今のイアンには気がつく術がなかった。


「あのー私の顔になにかついていますか?」


ハッと気がつくと目の前で少し顔を赤らめた女の子が立っていた。

考え事をしているうちにじーっと顔を見ていてしまったのだろう。


「あっいえ!大丈夫です!ただ御綺麗だなーって見とれてしまって―――ハッいや、違うんですちょっ今のは忘れてください!」


さっきまでの紳士っぷりをどこえやら……見事にテンパっている。

すると目の前の女の子は少しはにかみながら、


「ちっちゃいのに力強いんだね、私とぶつかってもふらつきもしなかった」


そーいうとバイバイと言って小走りで去っていった。

ボーッと女の子の後ろ姿を見つめているとクザンが横から脇腹をつついてきた。


「ほほう、御綺麗でつい見とれてしまったと……イアン君も中々な策士ですなー。あーゆーことを言ったら自分の事を気にせずにはいられないと思ったのかね?」


クザンの顔はにやけが止まらないようでキモオタの域に達していた。


「はぁ!?べっ別にそーゆー意味じゃないし!……ってかお前の今の顔、騎士団つき出したら簡単に牢屋にぶちこんでくれるような顔をしてるぞ」


気をまぎらわす為にクザンの話題を入れたがクザンに効果は無かった。


「遂にイアン君も異性に対して意識を持ち始めましたか……クザン君感激!」


うぅっと嘘泣きをするクザンにイアンは呆れ、


「感激しとけばいい」


さらりとそっけない返事をして次の授業の教室へ足を向けると、クザンは大慌てで


「あっちょっ待って!イアン君もしかしてすねちゃったぁ?」


「うっせぇ!しばくぞ!」


容赦なしの裏拳をクザンの顔に叩き込みそのまま放置されるクザンであった。





 次の授業は前世の記憶で言うと国語みたいなものだ、教科書の内容を皆で音読していた。しかしイアンはさっきのぶつかった女の子の事を考えていたため授業が進んでいることにも気がつかずにガルーダに当てられていたことにも気がつかなかった。


「おいイアン!!早く読め!!」


「はっはい!!すみませんでした!!聞いてませんでした」


いつの間にか皆での音読は終了していて次は1人ずつ丸読みで順番に回っていた。読む場所など勿論分かる訳なく、結果的に謝ることになってしまった。

隣でグヘヘとクザンが笑っているのを横目で見ると、クザンは意味ありげな目線を返してきた。


嫌な予感―――


その予感は見事に当たっていた、クザンは手を挙げながら席を立った。


「先生、イアン君は仕方ないですよ。今はそーゆーお年頃なので……例え授業中でも、ある女の子の事を考えてしまう、そのせいで授業に支障が出てしまうのは思春期ならではの悩みです。先生にもそのよーな時期がおありでしょう?」


「あっ!クザンてめっ!何言ってん――」


イアンが必死に誤解を解こうと立ち上がったがクラスはもうすでに「遂にイアンも思春期か……」「誰だよそれー」「えっイアン君、好きな人出来たの?」「やーだー、イアン君は皆の物ー」「違う!イアン君は私の物よ!」「あんた何言ってんの!?」


なんかもう色々聞いてはいけないことなども聞こえてきてしまうほどクラスは興奮状態だった。なんかガルーダもウンウンと頷いてしまっているし誤解の解きようがなかった。


「そうだな、クザンの言うとおりだ男の子にはそーゆー時期もある。仕方ないイアン、今日だけだぞ?許してやれるのは?」


「はっはい、ありがとうございます······」


仕方なくイアンは椅子に座り直して机に突っ伏すのだった。隣でクザンが


「この前のお返しだ」


と言いながら笑いを堪えているのを感じながら。





 国語の授業は今までに無いほど長く感じた授業となった。

なにかとガルーダにちょっかいを出されたり、もう地獄だった。そんな疲れはててるイアンの隣では満面の笑みのクザンが歩いていた。

イアンに仕返しが出来たことの喜びと、いつも真面目君のイアンをいじれたことの満足感に浸されていた。


「「イアン君は私の物よ!」くぁーーモテモテだなぁオイ!」


教室で小さな乱闘になった発言を真似しながらイアンの背中をバシバシ叩いてくるクザン。しかし、今のイアンにはその言葉にも返す気力が無かった。


「俺も1度で良いから言われてみたいものだぜ!―――んだありゃ?」


と急にクザンの声のトーンは変わって前をじーっと見つめる。そんなクザンの異変に気がついたイアンもクザンと同じ方向を見つめるとそこには……


「なんの人だかりだ?」


そう、クザンが口にした人だかりが廊下を塞いでいた。よく見ると人だかりの真ん中には互いに向き合うような形で2人が見つめ合って――いや、睨み合っていた。

近くに行くと話し声が聞こえてきた。どうやら言い争っていたらしい。


「――貴様みたいな平民が貴族の僕に歯向かうな!!」


「なによあんた!私はただあんたの間違いを正しただけでしょ!」


「それが歯向かうという事なんだよ!そんなことも分からないとはさすが平民生まれだな」


「平民だからなによ!あんたこそ今までちやほやされてきたから脳ミソ腐ってんじゃないのかしら?」


イアン達が人混みを掻き分けて先頭に顔を出して見たものは、男女の生徒が何かよく分からないことで言い争っていた。

男の子の方は少しポッチャリで貴族らしい、女の子の方はメガネをかけていて膝したのスカートでおさげだった、いわゆる前世で言う学級委員だ。


「貴様ぁ!この僕の事を馬鹿にしたな!言っても分からないような頭脳なんだな。よし、じゃあここは魔法院だ魔法でケリをつけようじゃないか。まぁ平民生まれの貴様にどれくらいの魔法が使えるかだけどな」


「ふん、上等よ!私の魔力量を舐めないでもらいたいわね」


すると、先に貴族の子が指先に拳位の大きさの火の玉を作り出した。無詠唱だった。すぐに平民の子が両手を目の前につき出して「バリア」と言いながら左右に広がると同時に手を広げた所には薄くもやっとしたものが現れた。


「ふん、そんなバリアで僕のファイアを防げるとでも?」


そして、貴族の子が大きく手を振りかぶって火の玉を投げる―――とその時


「オイオイ、テメェらぬわぁにやっとんじゃ!!!」


先生が乱入してきた。運悪くガルーダだった。

が、本当に運が悪かったのはイアンだった。

貴族の子が先生が来たことに驚いて平民の子に投げるつもりだったファイアがあらぬ方向へ――やっと先頭に顔を出すことが出来たイアンの顔に向かっていった。


「えっ?」


咄嗟の事で反応が出来なかった、勿論回りの人も反応など出来ない。ガルーダもあっと大きく口を開けて駆け出すが間に合うはずがない。

イアンは咄嗟に両手で顔を覆うことしか出来なかった。


「イアン!!!!」


クザンがイアンの名前を叫んだ瞬間、イアンの目の前は火に覆われた―――


読んで頂きありがとうございます。

次回は遂にイアンのチートが······!?

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