*無題
登場人物
・堂本 学希《どうもと まなき》 高2 サッカー部
明るくサッカーが大好き。
風崎のことが気になっている。
・風崎 聖奈乃(かざき みなの) 高2 サッカー部
頼りになるサッカー部部員。
責任感が強い。
あることが原因で部屋に閉じこもる。
*サッカー部は一応男女混合です。
(堂本side)
高校2年になった年の、ある日だった。
「ヤッベー・・・鍵、忘れたァ・・・」
俺は、家の前で右往左往してた。
父さんも母さんも今日は用事で出かけてて、明後日まで帰ってこない。
明後日まで家には入れない、ってことだ・・・
どうする、俺!?
明後日までメシ抜き・寝床抜きはきついだろ!?
「あぁ!!もう、どうすんだよ~ッ!!」
「あら?まなくんじゃない。どうしたの?」
後ろで声がした。この声は、確か風崎の母さんだ。
風崎の母さんに会うのは久しぶりだった。確かこの間の大会の優勝報告後一切会ってなかった・・・気がする。
少なくとも、もう半年以上は会ってなかった。
「いや、その・・・鍵忘れちゃって・・・明後日まで、親が帰ってこなくって・・・」
「あら、そうなの!じゃあ、家に泊まりにいらっしゃい!」
風崎のお母さんは風崎に似た優しい人だった。いや、風崎が母さんに似たんだと思う。
確か、家事が苦手で困ると風崎がぼやいてた。でも、優しいし、頼りになる。
そんなお母さんがいてとても、羨ましい。(俺の母さんはガミガミうるさい。)
*
「お、お邪魔しま~す・・・」
ついに、来てしまった・・・久しぶりの幼なじみの家。
幼馴染の家とはいえ、急に押しかけるのも迷惑だろうと思い、一応断ろうとしたのだが、
さすがは風崎の母というか、なんというか、自分の意思は貫くタイプらしい、いろんな理由でひっくるめてついに来てしまった。
もしかしたら、そこまでして俺を家に呼んだのはアレが原因なのかもしれない・・・
*
風崎の母さんに、昔よく遊んだ部屋が空いているから、そこを使ってね、と言われた。
簡易式ベッドとソファと机が設置されていた。
ソファに横になる。荷物を端に寄せ、ジャージを脱いで寝転んだ。
壁に面して置いてあるソファ。その壁の向こうには、風崎の部屋がある。きっとそこで風崎は―――
その時だ。壁の向こうから、泣き声が聞こえた。声を押し殺して静かに涙を流すような・・・
間違いではない。視力にも聴力にも嗅覚にも自信があるから。
___風崎が、泣いてる・・・
風崎は、いつも、一人で泣く。誰にもバレないよう、一人で、隠れて・・・
なんでも一人で抱え込んでしまう。一人で解決しようとしてしまう。
「まなくーん、ちょっと、降りてきてくれないかしらー?」
・・・行かなきゃ。風崎の母さんが呼んでる。
正直、あまり行きたくなかった。というより、この部屋に居たい。ここで、風崎の隣で静かにしていたかった。俺が静かにしていたいと思うなんて、自分でも正直、驚いたけど。
俺は小さな決意をして、階段を下りた。
*
風崎の家には良く遊びに行っていた。だから家の作りはだいたいわかっっていた。
リビングの机に座ると、風崎の母さんは俺の好きなココアを入れてくれた。
俺は、この家のココアが好きだった。昔も、今も。
風崎の母さんは俺の正面に座ると、口を開いた。
とても、悲しそうな顔をしていた。
俺も、話の内容はだいたいわかっていた。
もしかしたら、俺も悲しそうな顔をしてたかもしれない。
*
あの話は、とても重苦しくて、正直、居づらかった。けれど、目をそらしては、いけなかった。
そう。さっき、決意したばかりじゃないか。
目を、そらすな。
現実を受け止めろ。
背を向けるな。
・・・どこかで、悲しんでいる人がいる限り・・・
そう、これは目をそらすわけにはいかないことだ。
だって、本人は、きっとこれ以上の苦しみを抱えているはずだから・・・
*
(風崎side)
ナゼ?
ナゼダロウ。
アタシハ、ナゼ、イキテイル?
ワカラナイ。
ワタシガ、イキルカチハ、アル?
ワカラナイ。
ワカラナイ。モウ、ナニモワカラナイ・・・
壊せ。壊してしまえ。全て、そう、全てを。
完全に、おかしくなっていた。
全てを壊したくなった。
自分の生きる価値なんて、ないんだと思った。
だから、終わりにしよう、そう思った。
そうすれば、楽になれるのだ、と。
*
手首に紅い血がにじむ。
痛みは、なかった。
ただ、今になって、少しの恐怖が湧き上がってきた。
あたしは、何をしてるんだろう。
バカみたいだ。
笑いがこみ上げてきた。
今度こそ壊れてしまったのかもしれない。
自嘲的な笑いを収めると、次は涙がこみ上げてきた。
おかしい。ほんとに壊れた気がする。
止まらない。留め方がわからない。
どんどん溢れてくる。
気がつくと、無意識に名前を呼んでいた。
「・・・学、希・・・」
涙とココロの声で、大変なことになっていた。
顔はもうぐちゃぐちゃだと思う。
息も苦しい。
会いたい。学希に、会いたい・・・
涙は止まりそうになかった。
なんで、今頃まなきに頼ってんのよ。
ちっちゃいやつだ、あたしって。
ちっぽけで、弱くって、何かに頼らないと生きていけないんだ。
「・・・ッ・・・まなき・・・、会いたいよ・・・」
小さな、こんな声で、こんなことを言ったて、まなきは来ない。
だいたい、まなきがこの家にいるなんてこともよく考えたらおかしいじゃないか。
さっきの声はきっと気のせいか幻聴だろう。
ガチャっ
ドアが開き、暗い電気の付いていない部屋に、廊下の明るい光が入ってくる。
眩しい。
「風崎っ!!!」
そう呼ぶ声は、聞きなれた、今、一番聞きたい声・・・
なぜ?まなきがいる?まさか、ありえない。
「なぁ、風崎?居るんだろ?」
まなきの声がさっきよりも大きく聞こえる。
足音と共に、人の気配がした。
慌てて布団をかぶる。
こんな顔を見られたくない。
恥ずかしい。
「風崎・・・」
「・・・」
呆れた・・・今になって、声が出ない。
まなきと話がしたい。もっと、その声を聞きたいのに
「・・・まな、き・・・?」
やっと絞り出した声も驚くほど小さかった。
きっと、聞こえてない。
「よかった・・・」
何が?何がよかった?
あたしが返事しなくて?あたしがいなかったからよかったの?
「・・・風崎・・・ゴメン。」
何が?何がゴメン?
「風崎がいて、よかった・・・」
なにそれ?あたしがいなくなったみたいなこと言って。
「・・・これからも、一緒にいてくれるかな・・・」
一緒に?なに、それ。まなきは一人で生きていけるでしょ?他の仲間と一緒に生きていけばいいでしょ?
あたしが、死に損ないのこのあたしがかってにまなきに縋るだけだよ。
ポタっ・・・
なにこれ。 冷たい。
涙?
あたしのじゃない。
まなき?
「風崎。」
「風崎、そこに、いるのか・・・?」
「・・・居るよ。」
「そっか。」
「うん。・・・あのさ、風崎。」
「なに?」
「・・・ゴメン」
「何がよ。さっきも言ってたけど」
「もっと、早く来たかった・・・」
「なんで?」
「風崎、さっき泣いてただろ・・・ッ」
「・・・」
「最近、学校でも見かけないし。部活もこないし・・・」
「別に。あたしがいなくても成り立ってたでしょ。」
「・・・そんなことない。なんで・・・なんでそんなこと言うんだよ」
「普通でしょ。あたし一人居なくなったところで特に変わらない。」
「・・・そんなことない。」
「そんなことあるって。」
*
(まなきside)
風崎の母さんと話を終えて、何か、嫌な予感がした。
怖い。何かよからぬことがある気がした。
階段を駆け上がる。
自分の荷物がある部屋の手前で立ち止まり、
そして、ドアを開けた。
そう、そこは風崎の部屋。
ドアの向こうには、見慣れた風崎の部屋があった。
暗い。
「風崎っ!!!」
でかい声を出してしまった。
寝てなかったらいいけど、起こしちゃったら申し訳ないな・・・
「なぁ、風崎?居るんだろ?」
ベッドに少しづつ近づいていく。
布団が動いた。風崎が自分を隠そうとしてる。
「風崎・・・」
「・・・」
名前を呼ぶのに、精一杯だった。
「・・・まな、き・・・?」
風崎の声はすごく頼りなくて、細い声だった。
「よかった・・・」
思わず言葉にしてしまった。起きてた、それもあるけど今、ほかの気持ちがあった。
「・・・風崎・・・ゴメン。」
早く来れなくて・・・
「風崎がいて、よかった・・・」
今まで、ほんとに支えられてきた
「・・・これからも、一緒にいてくれるかな・・・」
やっぱり、お前がいなきゃ、ダメなんだ・・・
ポタっ・・・
涙が零れ落ちる
「まなき。」
「まなき、そこに、いるの・・・?」
「・・・居るよ。」
風崎の隣に・・・
「そっか。」
「うん。・・・あのさ、風崎。」
「なに?」
「・・・ゴメン」
「何がよ。さっきも言ってた。」
「もっと、早く来たかった・・・」
「なんで?」
「風崎、さっき泣いてただろ・・・ッ」
「・・・」
「最近、学校でも見かけないし。部活もこないし・・・」
そう、最近会ってなかった。
風崎のクラスに行っても会えない。
すごく悲しかった。
寂しかった・・・
「別に。あたしがいなくても成り立ってたでしょ。」
「なんで・・・なんでそんなこと言うんだよ」
お前がいないサッカー部、DFはどうしろって言うんだよ
お前、言ってただろ。DFあってのFWだ、って・・・
「普通でしょ。あたし一人居なくなったところで特に変わらない。」
「・・・そんなことない。」
皆が困るんだよ。お前は、サッカー部の中の柱なんだ・・・
3年が引退した今、みんなお前を頼りにしてるんだぞ・・・
「そんなことあるって。」
・・・風崎。ちっちゃい頃から俺のと一緒にいてくれた。
一番大切な人。
布団をよける。
一部、赤い箇所があった・・・
これは・・・ 血・・・?
「・・・ッ!!!何してんだよっ!?」
慌てて手首を掴む。細い手首には、真っ赤な傷跡が・・・
「・・・」
風崎を抱き起こす。
もとから華奢だった体が、いつもに増して細く、弱々しく感じた。
「・・・バカ・・・」
「風崎のバカっ!((ギュウッ」
思わず抱きしめる。守ると決めたのに。なのに・・・
「心配してたんだぞ・・・なのに・・・」
「ごめん、まなき・・・ あたし・・・」
「風崎は、いいとこいっぱいある。 チームの柱でお前がいてこそのチームなんだ・・・」
「まなき・・・」
「優しくて、頼りになって・・・それから・・・」
もっと良いトコいっぱいあるんだぜ。
ダメだ。涙が、止まらない・・・
抱きしめる手に力が入る。
風崎の体温が伝わってくる
風崎の頬に涙が伝う。
「そうだ、血・・・」
止めなきゃ。確か、自分のカバンの中にまだ包帯があった。
でも、あまり一人にはしたくない・・・
「風崎、そこ、手当しなきゃ・・・ 俺のカバンの中に包帯あるからさ・・・とってくるよ。」
ギュッ・・・
手を掴まれた。風崎が涙で潤んだ目で見上げてくる。
「まなき・・・独りに、しないで・・・」
「・・・ん。分かった。」
「ゴメン・・・」
「いいよ、あやまんなくて。」
「ん・・・」
「でも、血、止めなきゃ・・・そうだ、一緒に行こう?立てるか?」
「ん・・・」
ふらふらと立ち上がる風崎は弱々しくて、
支えるために握ったその手は細くて、守ってあげたい、そう思う気持ちが強くなった。
クラッ・・・
「風崎っ」
「あ・・・ごめん・・・」
風崎の体が少し傾く。
貧血だろうか。
「ほら、歩けるか?ゆっくりでいいんだぞ?」
「・・・まなき、ゴメン・・・ありがと」
「いいって(ニカッ」
「・・・まなきのその笑顔見るとね、何か、安心する。」
「そっか。よかった(ニコ」
俺も、お前の笑顔見たら安心するんだ。だから、前みたいに、笑顔を・・・
「ほら。そこのベッド、座って。」
「ん・・・」
昔から、よく傷を作っていたおかげというか、傷の手当には馴れていた。
ぐるぐると包帯を巻きつけていく。
「・・・・・・まなき・・・ごめん・・・」
「何回誤ってんだよ。大丈夫だって。誰も風崎のこと怒ってないよ?」
「・・・ありがと・・・」
「なぁ、風崎・・・ こうなるほど、悩んでたんだな・・・」
消えてしまおうと思うほど、大きな悩みを一人でかかえこんで・・・
「んっ・・・」
涙というものは、どれくらい出てくるのだろう。それは、幾つになってもわからないかもしれない。
「何か、最近、あたし泣いてばっかり・・・高校生にもなって・・・みっともないね」
「いい。泣きたい時は泣けばいいんだよ。泣きたい時に泣いて、笑い時に笑えばいいんだ。自分の心に素直でいればいい。歳とか性別とか関係ないんだよ。」
「・・・まなきは、強い・・・自分の心に常に素直で、自分の意思を貫き通して、努力をやめない。多くの人に勇気と希望を与えるんだ・・・」
「風崎?」
俺が、強い?
多くの人に希望を与えるって?勇気を与えるって?
それは俺一人の力じゃないんだぞ?『風崎』という心の支えがあったからこそ、仲間がいたからこそなんだよ・・・
「・・・なのに、あたしは弱い。実力もない。器のちっちゃい、弱くて、頼りない、本当に小さな存在・・・」
風崎が弱いって?実力がないなんて。器がちっちゃいなんて。頼りないだなんて・・・
じゃあ、他のみんなはどうなんだよ。お前は、人1倍強くて、大きくて、頼りになるんだぜ、知らないのか・・・?
「風崎」
「あたしは、小さくて、何かに縋ってなくちゃ生きていけなくて、本当にダメな存在なんだ・・・」
そうだ、人間は小さな存在。だけど、ちっちゃいのは風崎だけじゃなくて、俺も、ほかの皆も同じだろ・・・?
「風崎っ!」
「・・・なによ、まなき・・・」
「さっきから、何言ってんだよ。風崎が弱いって?実力がないなんて。器がちっちゃいなんて。頼りないだなんて・・・じゃあ、お前に頼ってたってやつは居ないのかよ!?
みんな、お前のこと、頼りにしてるんだぞ!?
優しくて、しっかりしてて、頼りになるって、みんな言ってたぞ。それに、大会で勝てたのだって、みんなの力があってこそだ。お前がいなかったらきっと優勝できてなかった。
お前の器がちっちゃいとか言うんならじゃあ、俺は米粒よりちっちゃいのかもな。
確かに、人間なんて小さな存在だ。だけど、それならちっちゃいのは風崎だけじゃなくて俺も!ほかの皆も!全員一緒だろ!?
お前は、もっと自分に、自信持っていいんだよ・・・」
「まなき・・・ おれ、切った後にさ、あたしは、何をしてるんだろう、バカみたいだ、って思ったの。
何か、笑いがこみ上げてきた。今度こそ壊れたのかと思った。笑いを収めたら、次は涙がこみ上げてきた。ほんとに壊れた気がした。涙が止まらなかった。留め方がわからなかったんだ。涙はどんどん溢れてきて、体中の水がなくなるかと思った。それでな、気づいたら、無意識にまなきの名前呼んでた。涙とココロの声で、大変なことになってた。顔はもうぐちゃぐちゃだったと思う。
息も苦しかった。でもまなきに、会いたかったんだ。涙は止まりそうになかった。なんで、今頃まなきに頼ってんの。って心から思った。ちっちゃいやつだ、って。ちっぽけで、弱くって、何かに頼らないと生きていけないんだ。って思った。」
「頼ればいいよ。いつでも駆けつけてやる。人間なんて、みんなちっちゃいもんなんだよ。誰かにすがっていくしかないんだよ。だから、俺がいつでも助けてやる。一人で抱え込まないでいい。俺が相談に乗る。俺ができることは少ないかもしれないけどそれでも、自分の精一杯を尽くすよ。俺だって、ちょっとは賢くなったんだぜ?」
「うん。・・・ありがと。これからも、よろしくな。」
「なぁ、風崎・・・」
「何?」
「あのさ・・・」
「ん?」
好きだ。ずっと、前から。
「・・・ちょっと言いたいことがある・・・」
「え?あ、あぁ・・・」
「・・・風崎。これは・・・その、できれば、すぐに忘れて欲しいんだけど・・・
・・・そのっ・・・
「やっ、やっぱ、なしなしなし!ゴメンな。忘れて!!」
「なんだよ?」
「忘れてっ///」
「気になるじゃない」
「そっ、それよりさ、め、飯食わねえか!?」
「・・・そうだね。最近食べてなかったし。」
「え?メシ抜き!?」
「あぁ、うん。3日ほど。」
「よく生きてられたなぁ!?」
「全然大丈夫だった。」
「ご飯よー!」
「おっ!ナイスタイミングだなっ」
「そうだね。じゃ、行こっか。」
「オゥ!」
「・・・まなき、あたしも・・・好きだよ・・・((ボソッ」
「ん?何か言ったか?」
「いや?何も?」
・・・微笑みながら呟いた。
まなきが気づくのは、もう少し時間がかかるかな・・・?
まぁ、いいや。これから、一緒に生きて行くんだ。
のんびりと、待っていよう・・・。
でもね、まなき?早く迎えにこないと、どこか行っちゃうよ?
・・・だから、早く迎えに来てね!