第3話「偵察と『内紛』開始という状況」
「なんていうクラスメイトなんだ・・・」
僕はクラスメイトの冷たさに泣きそうになっていた。
9組教室から離れた1組付近の廊下で。
もうこの時点で僕は五芒星すら書けなかったことをすでに忘れている。
「うんうん、まぁ、どちらも悪いとは思わないけど」
「そうなんだけどね・・・僕が底辺中の底辺だから・・・ってあれ!?」
なぜか近くに津野さんがいた。
偵察かな?と判断した僕はすぐに警戒する。
「あぁ、警戒しなくてもいいよ、えっと御門くんだっけ?」
「うん、そうだけど」
「葉花は別に偵察しにきたわけじゃないよ。というかこの距離じゃあ君が1組の偵察しにきたのかと思ったぐらいだったよ」
「う・・・」
確かにこの場所じゃ圧倒的に1組に近く、偵察にきたと思われても仕方ないと思う。
でも・・・。
「なんで僕がここにいるって気付いたの?」
「え?それは教室の中から見えたからだけど」
「じゃあ・・・なんで僕がここにきた一連の出来事も津野さんは『知っている』の?」
「・・・・・へー・・・・・」
そう。ここにいる僕に声をかけたとき、まるで全てを知っているかのような口ぶりだった。1組と9組じゃあ教室と教室の間がすごく離れているのだ。
その教室の出来事を知れるわけがない。
「驚いたな。9組は9組でも侮れない9組っていうわけね。実は偵察に1人、9組の教室に送り込んでいたんだって言ったら信じる?」
なぜか津野さんがすごく嬉しそうだ。
「信じるもなにも僕にある情報はそれだけだから信じざるをえないかな?」
「普通敵の人間の言うことは疑わない?」
「僕はバカなんだよね。だからそこらへんはよく分からないけれど、敵でさえ信じることができるのならそれは決して悪いことじゃないよね」
「まぁ、でも葉花たちに負けちゃったら君達、進級すら危ういよ」
「お前たちのことは絶対に信じない」
すぐに意見を変える僕。
忘れてた・・・!僕ら魔法学の成績最高でも2だからこれで負けたら・・・。
「くっ・・・考えれば考えるほど理不尽なルールだ・・・」
魔法学が苦手な生徒にとっては本当に邪魔な制度だよ・・・。
先生たちもまさか見返りのない底辺クラスに『内紛』を仕掛けるやつがいるなんて思わなかったのだろうか・・・。
「でもまだ一週間あるんだ、勝つことはできないかもしれないけれどベストは尽くさせてもらうよ」
「でも君、今回出場しないんでしょ」
「やっぱり偵察を出していたな!」
なんでバレてんの!?
「葉花たちも楽しみだよ。君たちとの『内紛』」
その時、見せた津野さんの笑顔はそれはもう見蕩れるぐらい可愛かった。
〇
「お、御門帰ってきたか」
「やっぱり大瀬の言うとおり、1組は偵察にきていたみたいだよ」
僕は『偵察』から帰ってきて大瀬に報告を告げる。
「じゃあ、作戦は成功ってことだな」
そう、もう『内紛』はすでに始まっている。
今までの作戦会議は全て相手の偵察が来ていることを前提とした演技だった。
そして僕が教室を出ていくということも全て計画通りだった。
予想外の出来事といえば僕は教室を出て、偵察者を探すということだったのだがしかし見当たらず、そのまま逆に偵察しにいこうという計画に変わったこと。
それと1組の津野さんが絡んできたことも。
「でも、大瀬。津野さんには見透かされてたのかもしれない」
「うーん・・・そうか。まぁ、いいよ。それだけでも十分な成果だ。津野葉花。やつは厳重注意だろう」
「はぁ・・・でも勝てるわけねぇじゃん。だからなんとなーくやる気が出なくてなぁ」
と小林くんが発言する。
9組はまったく勝利に関する執着がなかった。
ただただ先生に負けてもいいところを見せて成績を上げるまでいかなくともそのままの状態を保たれるようにしてほしいだけ。
それだけなのだ。
ってことは勝負に出る、5人。
その5人は最低でも魔法が使えなければならない。
「メンバーはすべてメールでの話し合いで決めた」
「それなら偵察者にも聞こえないしね」
偵察者が見つからなかった以上、注意を解くわけにはいかない。
「まぁ、みんな納得のメンバーだとは思う」
みんながこくこくと頷く。
「じゃあこれで決定だね」
あとは1週間このクラス全員がさも出場するかのように振舞えばいい。
「まずは今から魔法陣を暗記。そして言霊と魔法陣との連携強化をする」
魔法陣が書けても、言霊で制御できなければ意味がない。
しかし魔法の才能の部分は言霊だった。
言霊は練習でどうにかなるものではなく、自分の感覚で一番いい声量で、言い方で言わなければならないのだ。
それができない人間は暗記力があっても魔法をうまく使えない。
そのできない集まりがこの9組だった。
「でも相手が1組だったら相手の魔法陣を奪い取れるんじゃない?」
『は?』
クラス全員に返される。
ちなみにこれはもう演技じゃない。なのにピッタリに合わせられるとはなかなか結束力が高いクラスなのかもしれない。
でも今はそこじゃない。
僕は相手が魔法陣を書き終えたら魔法を発動させる前に書いた人物を魔法陣から突き飛ばし、自分が代わりにその魔法陣の魔法を発動させればいいと思ったんだけど・・・。
1組だからすごい魔法陣暗記してそうだし。
それに言霊の部分は相手の言霊を聞いて判断すればなんとかなると思うんだけど。
「あのなぁ・・・御門。それができれば苦労しない」
「え?」
「俺らは他人の魔法陣を使えないように教育されてるんだよ。やろうと思っても無理だ。本能に刻み込まれているからね。車がたくさん通っている道路に自分がつっこむことはしないだろ?」
「うん、まぁ」
「それと同じ。やろうと思っても足がすくむ。他人の魔法陣ほど危険なものはないからね。どんな魔法陣かも分からないのに適当に発動したら俺や御門の先日の実技テストのように瀕死になる。下手をすれば死ぬかもしれない」
「確かに」
その書いた魔法陣が間違っていれば発動したやつは僕の時みたいに吹き飛んだりと代償を受けることになるだろう。
「社会に出ると信用できるのは自分だけってことらしいけど。昔、そういう風に他人の信用を利用した殺人事件が多発したらしいからその影響だと思う」
「そうか・・・それなら無理かもなぁ・・・」
と僕は感心したように感想をもらす。
これで僕が普段授業を聞いていないことがバレたわけだけどね。
「偵察者がいたらお前これ、赤っ恥もんだぞ」
「しまった!」
と遅れて恐ろしい事実に気付く。
告げ口しないでほしいなぁ・・・。
〇
そして一週間後。
僕らは巨大な部屋にきていた。
体育館の何倍もあり、屋内の野球スタジアムのようになっていて観客ももう入っている。
ただ異様なのは真ん中にある異常なでかさの機械と大量のモニターだった。
「まさかくじ引きで1番を引くとは・・・」
『内紛』は5日間に渡って行われる。
なので最後の方であればあるほど他のクラスの『内紛』を見て研究できるというわけだ。
今回は誰にとっても初めての『内紛』なのでなおさら。
しかし僕らの9組、1組は一番最初、1日目の最初の『内紛』になってしまった。
「というかすごい観客の数だね」
小林くんが感心したようにつぶやく。
1組の『内紛』はどこの学年であれ人気があるようだ。
「これは完璧に1組人気だよね」
「まぁ・・・でも1組対9組なんて他の学年にもいないらしいしね・・・」
だからこの『内紛』自体を楽しみにしている人もいるのだろう。
『うぉおおおおおおおおおおおお!』
と大歓声が上がる。
僕らはふと入場口のところを見てみると。
「1組・・・!」
そこには1組がいた。
ちょうど入場したところだったらしい。
それにしたってなんて歓声・・・2年の1組は個性豊かで人気があると聞いたけどまさかここまでとは・・・やばい・・・変なプレッシャーで押しつぶされそうだ。
「あ、あれが『魔女』・・・か・・・!」
というセリフが出てくる。
え、えぇー!たぶん津野さんのことだろうけどなんか2つ名みたいなのもあるのかよ!
「やぁ、9組みなさん」
と津野さんは笑顔であいさつする。
「今日は楽しみにしているよ」
「こちらこそ」
と僕はなぜか代表面で返す。
「うん。でも今回御門くんはでないんだよね」
「え?」
今、なんて言ったの?
「だから出場選手として伊左地さんに今野くん、岡元さん、山岸くん、七さん
。改めてよろしく」
『!?』
驚愕の言葉だった。
なんで・・・なんで・・・。
「なんでこちらの『出場選手』を知っている・・・!?」
大瀬が驚く。
「こちらの話し合いはメールでおこなわれた・・・どこかで漏れたか・・・いや、まさか密告者が混ざっていたとか・・・でもそれは違う。うちのクラスやつが負けることになったら密告者だとしても進級できないはず・・・じゃあ・・・偵察者か?」
「ううん・・・どうだろうね。でもこれも立派な情報収集でしょ?ね、御門くん」
「うっ!」
ば、バレてる!
やっぱりあの時の偵察はバレていたのだ。
「んじゃ、さっそく始めようか」
「くっ・・・」
「どうするんだ、大瀬」
「やるしかないだろ・・・もう出場選手は先生に報告してるから変えられない」
「そうだよな・・・」
「でもうちのクラスは勝つことが目的じゃない。サドンデスルールだから1人でも多く相手を潰すんだ。一撃食らわせろ。『1組』に目にもの見せてやろうぜ」
そうして始まる初めての『内紛』。
その火蓋がきって落とされた。
というわけで3話です。
次回もよろしくお願いします。