第1話「『内紛制度』と宣戦布告」
今から1ヶ月前。四月の初旬。
クラス替えが行われ高校生徒たちの心がうきうきと不安の混ざった色に染まった日。
初めて見る人もいながらやはり見知った顔が多く残念にも思う。
見知った顔もいるということはみんなやはり1年生の間に魔法学の成績が上がらなかったことを意味するのだから。
僕も今年また9組だったしね・・・。
「お、御門じゃん、また今年もよろしく」
「大瀬か。本当は今年もよろしくを言いたくなかったんだけどね・・・」
「しゃあないさ、魔法学の成績は努力うんぬんもあるがそれよりもなによりも才能というのがでかいからな。せいぜい1がついて進級できなくなるのはお互い避けようぜ」
「そうだね」
僕らは意気投合して握手をかわす。
大瀬とは1年生の頃からの友達で大瀬友という名前だ。
やっぱり見知った顔がクラスにいるというのは妙に安心できるね。
見たことない顔が何人かいるけど今年1年このクラスですごすんだ。
さてどんな人がいるのかな?と思いあたりを見渡す。
するとその時、ガラッと教室のドアがスライドされる。
「・・・・・・・・」
誰だろうかと思ってみてみるとそれはやはり9組の生徒だった。
まだ朝のホームルームまで時間があるし生徒が登校してくるのは普通だが、生徒が普通じゃなかった。
「くっ・・・」
苦しそうに呻く少年。
「ちっ・・・『聖なる城の封印』を使ったというのに・・・また疼きやがる・・・くそっ!」
『・・・・・・・』
なんかもう色々ドン引きだった。
教室がフリーズする・・・・・ということは1部でしか起こらなかった。
今来た少年、今野芳くんは1年生の頃も9組で僕も知っている。
そしてこのクラスは去年とあまり変わらないメンツなので今野くんの中2病にも慣れているのだ。
「あ、あいつ・・・なんだよ・・・」
となりですごく驚いてフリーズしているのは確か小林くんだったかな?
今年初めて同じクラスになったので今野くんには慣れていないんだろう。
だが小林くんもすごい異名を持っていたような気がするけれど・・・なんだったかな?噂になってたんだよね・・・ムッツリがどうのこうのって・・・。
ああ、そうだ。
「『自主規制』とかだったような気がする」
「!?」
となりの小林真人くんが過剰に反応する。
「な、なんでその名前を・・・せっかく新しいクラスからやり直そうと思ったのに・・・」
なんかぶつぶつ言っていたけれど声が小さくて聞こえない。
でも悪い人じゃなさそうだ。
「なかなか濃いメンツになってきたな」
「うん、すごくいいクラスだと思う」
大瀬とクラスメイトについて話す。
「あ、また誰かきたぞ?」
「もう全員揃ったと思ったんだけど・・・先生かな?」
足音が聞こえたので教室のドアのところに視線がいく。
ガラガラ・・・スライドする音の後にでてきた人物は・・・。
「柊。下がっていいわよ」
「は・・・。お嬢様、お気をつけください」
ガラガラ・・・とドアが閉まる。
「みなさん、ご機嫌よう。これからよろしくお願いします」
・・・・・・。
そこに現れたのはなぜか制服を改造してドレスのようにしている女生徒。
伊左地恩。
この人も1年生の頃から9組の人だ。
「よ、よろしく・・・」
と誰が声をだしたのかも分からないぐらい小さな声が聞こえた。
新しく9組になってきた人たちにとっては衝撃以外のなにものでもないだろう。
中でも眼鏡をかけた黒髪の生徒・・・確か岡元佐伯。
岡元さんがすごく困っている・・・真面目なキャラを保っているとこのクラスじゃあ身が持たないような気がするよ・・・。
「ほらー座れー、HRを始めるぞー」
先生が来たみたいだ。
去年と変わらない先生。もう慣れたのか何くわぬ顔で教室に入ってくる。
最初、担任の先生が女ということで喜んだことを懐かしく思う。
もう、今じゃあ、誰も喜ばないが・・・この先生本当に適当なんだよな・・・。
〇
「えー、以上。私からの言葉、もといHRは終わりだ」
先生がHRの終わりを告げる。
生徒もみんな2年生最初の授業を楽しみにしているようだ。
「あ、言い忘れていた」
・・・・・・まぁ、これぐらいは日常茶飯事だね。
1年生の頃、冬休みの宿題を配り忘れた先生が始業式の日に、配り忘れたから今やれ、と言われた時にはさすがに殴ろうかと思ったが。
「えー、今年から2年生ということで、お前らはもう1年生じゃない。ということで『内紛制度』を正式に認めることとなった」
内紛制度・・・?
1年生の頃にはなかったことだな・・・ってことは魔法学関連のことなのかな?
誰か知っている人はいないかと辺りを見渡す。
大瀬と目があったが首を横に振られる。
やつも知らないらしい。
「では説明を始める。『内紛制度』というのは簡単に言うとクラスごとの実技テストみたいなものだ」
実技テスト?
ってことはやっぱり魔法学関連か。
「クラス対抗の魔法を使ったバトルということだな。クラスから5人選び、その5対5で戦うという内容になる」
「先生ー」
大瀬が手を挙げる。
「魔法を使って戦うってそれは死人が出そうな気がするんですが・・・」
あぁ、と思い出したかのように先生が説明しだす。
あぁ・・・って忘れてたのかよ、そこらへんの説明・・・。
「それは大丈夫だ。戦いとはいっても殴り合いだけじゃない。徒競走とか宝探しとか種目は様々だ。でもそれでも死人が出る可能性があるな。本当なら自分の魔法で防御してほしいものだが・・・」
と先生は1度説明を区切る。
「そんな危険なことを生徒であるお前らにさせるわけにはいかないから・・・お前らの精神を飛ばしてバーチャル空間に実体を作る機械、装置を使う」
そんなとんでも装置なんてあるんですか!と声を上げるものはいない。
なぜならこの時代、魔法によって普通の何倍もの力を出せる人間がたくさんいるのだ。
技術が急速に発達するのも理解できる。
「そのバーチャル空間では痛みはない。痛みはないが一定のダメージ。気絶するぐらいの攻撃をくらうと強制離脱し、その時点でそいつは負けとなる。ダメージ量も設定で変えれるので、そこらへんは戦うクラスと相談して決めてくれ」
なんか平和そうだなぁ・・・とみんなぽわぽわしたイメージを考える。
運動会みたいで楽しそうだ。
「宝探しだろうがバトルだろうが徒競走だろうが5人全員が強制離脱となった時点でそのクラスの負けだ。説明はこれぐらいだが・・・質問はあるか?」
「はい」
伊左地さんが手を挙げる。
「痛みがないのならどうやってダメージを把握すればいいんですか?」
「それは簡単。痛みがないとはいえ、吹き飛んだりはするし、それに体に異変が起きるから。まぁ、そこらへんは実際に試してもらった方がいいかもな」
なるほど・・・急に勝てる気がしなくなった・・・。
体に異変ってなに!?すごく怖いんだけど!
「この『内紛制度』は月に1回行われる。対戦相手は同じ学年ならどこのクラスでもいい。相手のクラスに行き、宣戦布告してくればいいさ」
先生ーっと次は僕が手を挙げる。
「実技テストってことは・・・成績に関係してるんですか?」
「いい質問だな。勝ったら出場した5人だけでなく、そのクラスの魔法科の成績が上がる。それだけじゃなくご褒美まであるからな」
おお!っとクラスがどよめく。
ご褒美もいいが、やはり魔法科の成績が上がるのは僕ら9組にとっては嬉しいことだ。
「負けたらそれ相応の罰はあるからな。魔法科の成績が下がるだけじゃなく、『内紛』を仕掛けることすらも制限される。それは実際負けてみてからということで」
にやりと先生が笑う。
まるで僕らが負けるみたいな言い方だな。
でも運動会のパン食い競争で負けたことのないこの僕がいるんだ、そう簡単には・・・・・。
あれ?
・・・・・・・・・・魔法が許可されてるってことは・・・・・。
「せ、先生ー!この制度、魔法が下手くそな僕らにとっては重荷にしかならない気が・・・」
「これでHRを終わる。質問は受け付けない」
「せんせぇえええええええええええええええええええ!!!!!」
9組の叫びが先生に向けられる。
〇
というわけで現在。5月。
1週間後に最初の『内紛』が予定されている。
まぁ、でもあのあと逃げる先生に聞いてみると、必ずしもそのテストをしなければならないというわけではないらしい。
宣戦布告されると避けられないらしいが、魔法の実力はクラスによって違う。
ある意味、不公平なのだ。
だからやらなくてもいい。
自分のクラスよりも上のクラスを倒すほど成績も上がるという仕組みらしいし、僕ら底辺クラスにわざわざ構うような連中もいないだろうと予測される。
もちろん9組は不参加ということになっている。
「『内紛』は観戦もできるんだろ?楽しみだな」
「うん、大瀬はてっきり参加したいと言うのかと思ったよ」
「バカ言うな。勝てるわけがないだろ」
まぁ、結局はそれに尽きる。
勝てるわけがないのだ。
「でも成績上げたいよねー・・・・・」
「それは私も同感よ」
と隣にいつの間にかいた伊左地さんが会話に参加してくる。
「魔法学・・・これを上げれば将来どんなに便利か・・・・・」
「でも、伊左地さんの家ってお金持ちなんでしょ?」
「でも私は将来あの家から出ていく」
「・・・・・・・・・・そうなんだ」
なんかしんみりしてしまう。
家庭の事情が何かありそうだ。
「ま、俺らも俺らなりに努力しようぜ。せめて3には上げないと」
「そうだよね」
「えぇ」
もう少しで授業だなぁと思い、席に戻る。
するとすぐにドアが開き、先生が来た。
しかしその先生の後ろになんか小さいのがいた。
「9組の皆さん、こちらの生徒があなたたちに用があると」
教室が静まりかえる。
何の用だろうかと考えているようだ。
その小柄な体とその割にむちむちしていて胸もでか・・・はっ!ま、まさか・・・・・ロリ巨乳だと!
いや、そこじゃない!注意すべきはそこじゃない!
・・・・・・落ち着け、僕。
そう注意すべきは黒いマントに黒いとんがり帽子。
まるでそれは『魔女』のよう。
「えー9組の皆さん、こんにちは。ではいきなり本題からいかせてもらうよ」
とその子はどこから出したのか分からないマイクを手にもつ。
「私は1組の津野葉花。1組は本日、11時40分。9組に宣戦布告をさせていただきます」
第1話でようやく始まったという感じです。
ではまた次回。