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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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[27:00] 交錯する勘違い

 ……地震? 

 雪崩じゃなくて、地震? 

 地震って、あれだよな。プレートのズレ云々で大きく揺れるやつ。

 地震で埋まるってどういう……。


 ……ああ! 雪崩が起こる原因のイベントが「地震」だったのか! 

 これまでの周で九条ノドカを殺してきたのは、厳密には雪崩ではなく地震だったんだ。

 となると、さっきの九条ノドカの発言から察するに、WPPOによる今回のイベントの対策は……無事に成功した、ということになるのか。そうじゃないとあんなこと言わないよな。


 じゃあ、やっぱり成功だ。

 解決した、ループを突破した! 


「今、『何も起きない』って言いましたよね。起きるはずの何かを待っていたみたいに」


「そうだな」


「それって、未来予知能力が無いと……おかしいのでは」


「僕は能力者じゃないぞ。何度でも言うからな」


「流石にもう言い逃れできませんよ!?」


 まあ、そう思うよな。

 防寒具を二人分揃えさせて、丁度その時刻に、雪室の一番奥まで連れてきた後でだ。これで何も知りませんでしたと言っても、通る訳がない。さっきのは流石にちょっと失言だった。

 だが、正直こっちはループ突破でそれどころじゃないんだ。

 今の僕にとっては辻セイラが号泣するようなループを本当に突破できたかどうかの方が重要なのであって。ちょっと頭の中を整理する時間貰ってもいいか。


 おそらく彼女が上から「地震削除」の連絡を受けたのは旅行前のはずだ。

 九条ノドカが連絡を受けている以上、それがループ中に起こっているのなら彼女はそのことに気を取られているはず。しかし、彼女が言及したのは辻セイラの無言電話だけだった。彼女の中で上からの連絡というものは既に終わったものとして処理されていたということだ。

 それに、もしループ中に僕の行動でWPPOの対応が変わっているのなら、WPPOは「人一人の行動でころころ変わってしまう未来に逐一リアルタイムで対応する」……そんなあまりにも頼りない手法を取っていることになってしまう。そんな方針で世界中の能力犯罪を完全防止できるとも思えないし、僕が対応を完了した時点で、WPPOにはそうなる未来になることが分かっていたのだろう。


 要は、これまでの周の全てで九条ノドカは死んでいたということだった。死に戻りが起こってしまうため、WPPOはその死を知覚できず、地震もずっと削除されないままで辻セイラは解決法を見つけ出せずループに苦しんでいた。

 しかし、今回僕達が完璧な避難を完遂してしまったが故に、WPPOの未来予知を阻害する死に戻りが発動しなくなり、九条ノドカの生存がこの周で確定した。そう決まった時点で、WPPOは初めからこの地震を知っていたことになったんだ。


 本来は「何も見えないので何も起こらないと判断した」から、九条ノドカを旅行へ送り出した……というのが前までのシナリオだったのだが、未来の結果が変わったことでWPPOは初めから対策していたことになり、「事前に削除して、安全を確かめて」から、彼女を休暇に送り出したことになった。

 つまり、九条ノドカが知っているその情報は、前の周までどこにも無かったことになる。


 妙な話だ。

 僕が必死に避けようとしていた雪崩発生イベントは、彼女が生き残ると決まった瞬間に、最初から無かったことになっていた。だからと言って、ここまで来た意味は無かった訳ではない。ここに来たから彼女が生き残る周になった、順番が逆に見えるだけだ。

 前にミオが卵か鶏か問題で一晩中うなっていたことがあったが……それに似ているな。


 うん。

 ならやっぱり、終わったということだ。

 あまりにも情報の限られた周ではあったが、案外上手くいくものだな。

 正解の道のりが分からなかっただけで、辻セイラが涙するほどの難易度でも無かったと。


 どうしてあんなにガチ泣きしていたのだろう。

 現地の情報を知らないとはいえ、僕を5~6周使いまわせば思いつきそうな内容なのに。


 まあとにかく、無事に解決できたなら何よりだ。

 WPPOからの疑いが深まってしまったという懸念自体は当然残っているが……。


「そもそも、今月の分の自然災害対処通知はまだ未公開のはずです。私も旅行2週間前に告知されましたが、外部の人間である瀬尾さんがそれを知っているのは説明がつきません」


「へえ。未来予知能力者の予知範囲は2週間にも及ぶのか」


「………………あっ!」


 うん。

 この様子を見てる限り、どうにでもなる気がしている。


 第一に、九条ノドカ相手なら言いくるめられそうというのもあるが。

 正直、WPPOからの疑いが深まってしまうことについては重く受け止めなくてもいい気がしてきた。今回のループで間違いなく辻セイラは疲弊していたし、それを解決するためにも僕への疑いの目が強まるくらいで済むならそこまで大きな代償でもないだろう。


 というのも、これまでの接触を踏まえて、僕のWPPOに対する印象は大きく変わった。

 初めに接触を受けた時は、WPPOから非常に強制力のある調査を行われるのかと警戒していたが……ここまで一緒に学生生活を過ごしてきたら、そういった狙いが無いことが十分に理解できた。

 WPPOはあくまで協力者を探しているだけで、相手が未来予知能力者かどうかを今すぐに断定しなければいけない訳でもないし、有用だからといってすぐにでも取り込もうという訳でもない。

 初めに説明を受けた通り、僕が本当に能力者だとしてもスカウトを引き受けるかどうかはこちらの判断に委ねられるし、僕が「能力者ではない」と否定し続けたところで、「嘘だ!」と糾弾してきたりもしない。


 向こうが強引な手段を取ろうと思っていない以上、どれだけ怪しまれるような行動をしても能力者疑惑を否定し続けることで何か損害が発生する訳ではないし、僕が認めなければ話はそれ以上進まない。疑われるだけで、それ以上のことは起きないんだ。

 なら僕は、辻セイラに関する証拠を出さずに否認を続けていればどうにでもなる。焦る場面ではなく、突破の代償として疑いを引き受けるというだけの話だ。嘘をついている訳ではないし、何ら問題ではない。


 それにしても2週間前か。「連絡を受けたのは旅行前」という推測は正しかったんだな。

 WPPOは最低でも2週間前の時点で、世界中で報道されるニュースを予知して対応に回っていると。かなり大変だな。そうでもしないと世界を守ることはできないのかもしれないが。

 そういう情報を九条ノドカに持たせてしまうのはどうなんだ。

 ちょっと管理体制杜撰じゃないか。


 ああでも、九条ノドカが漏洩するかどうか、それで問題が起きるかも予知できるのか? 

 なら、それを踏まえて彼女に渡す情報を厳選している可能性もある? 

 もしかしたら、彼女が言った「2週間前」の情報も正確でないかもしれないのか。

 だよな。あんまり組織の中枢に関わる情報を末端に教えられないだろうし、中でも彼女はぽろっと喋っちゃいそうだから、当然そういう対応も取っているよな。あまり鵜呑みにしすぎるのもよくなさそうだ。


「でっ、でも! 今回、瀬尾さんの能力について、重要なことが分かりましたから! それは報告させていただきますからね!」


「ふむ?」


「瀬尾さんの未来予知は、我々のものと比較して『正確ではない』、あるいは『先占に押し負けている』ということです。任務の優先度や、スカウトの方向性に影響があるかもしれませんから」


「僕は能力者じゃないと……まあ、言いたいことは分かるが」


 つまりはこういうことだよな。

 九条ノドカから見た僕は、「地震が起こるのではと未来予知して安全な場所に避難する行動を取った」ように見えた。しかし、WPPOは2週間前の時点で地震の削除を行っていたのだから、僕がそれに気づいていないような行動を取っていることが、「瀬尾マコトが所持している能力がそこまで強力ではない」という証拠になっていると。


 今、彼女の中で、瀬尾マコトが所持している能力は。

 1. 他の能力の関与を含んだ予知ができない、など弱点がある。

 2. 予知の性能に限界がある。あるいは予知そのものに強い制限がある。

 3. 予知の範囲が2週間以内であり、それ以上の予知には先占効果で敗北する。

 と判断された訳だ。

 場合によっては、上層部が「そこまで重要でもない?」「欲しいけど、優先度下げる?」「別の要員としてスカウトする?」みたいな判断を下すかもしれないから、しっかりそのことを報告すると。


 まあ別に、そんな推論を導出されたところで僕が気にすることではないが。

 僕は本当に能力者じゃないのだし、未来を視ている訳ではなく辻セイラからの伝言を聞いているだけだから不正確なのは当たり前だし、調査を厳格化する訳でもないだろうからデメリットがない。


「………………あ、あれ?」


「ほら、早く出よう。解決したというならもうここにいる意味は無い」


「え、あ……そ、そうですよね、はい」


 とにかく、大事なのはループが突破できたことだ。

 九条ノドカが準備した品については後で僕が全部費用を負担しなくては。問題解決一番の立役者である彼女に、電話越しに準備だけさせて金銭も全部向こう負担なんて許されないからな。


 ああ、あと辻セイラへの連絡もしておかないと。

 彼女もきっと混乱しているだろうし、すぐ近くに九条ノドカがいるから電話ではなくテキストメッセージにはなってしまうが……明確に危機が去ったと伝えておかないとな。






「(じゃ、じゃあ……『君と一緒にいたい』『君が大事だから』というのは)」


「(瀬尾さんが、同行していたご友人二人ではなく、私のことだけを……)」


「(個人的に守りたいと、そう思ってくれたから起こした行動ということに……!?)」






 *






「荷物は僕が持つ。重いだろう」


「ありがとうございます……」


 ふぅ。

 中がだいぶ冷えてたから、冬なのに外に出た瞬間少し暑くなった気がする。

 結局雪室の中で人とはすれ違わなかったな。

 山ほど荷物を持っている状況を不審視されないかだけが不安だったが、誰にも見られることなくここまで来れたのは運が良かったというか……。


「マ、マコト……?」






「なんで、ど、どうして……九条さんと」


 えっ。

 なんでハルキがここに。


「おっ、やっと見っけた委員長……と、九条? ……ははーん、そういう」


 えっ。

 なんでアサヒまで。






「あ、あれ? 雪室に呼ばれたのは私だけのはずじゃ……瀬尾さん、あのお二人は何を?」


「さあ……?」


 どうして二人がここに? 


 ……さては、僕が挙動不審だったから気になって追いかけてきたのか。

 二人を危険から遠ざけるために展望台へ行くよう指示したはずなんだが……。

 めちゃくちゃ誘導失敗してるじゃないか。いや、今回はもう解決したから別にいいが。

 もし問題未解決なままだったらとんでもない大失敗だったぞこれ。


「(なあハルキ。やっぱイマジナリーなんて上手くいくはずが無いんだって)」


「(う、嘘だよ……だって、イマジナリーは『色恋沙汰じゃない』って言ってて……)」


「(でも事実、委員長は女といたじゃねーか。逢引きしてたってことだろ?)」


「(そ、そんな……さっきのマコトに、そんな様子無かったのに……)」


「(第一、気になるから追いかけようっつったのハルキじゃねーか。落ち込みすぎだろ)」


 というか、さっきからハルキの目線がどんどん険しくなってるのはどうしてなんだ。理由も説明せず、「展望台に行け」なんて言ってUターンしたのは悪いと思っているが……それで分かりやすく怒る性格でもないだろう。

 アサヒと何かひそひそ話しているのは分かるが……何を話してる? 最近ハルキの険しい顔を見るのは少なくないが、今回はいつにも増して悲壮感が強いような……。


 ……いや。

 これは逆にチャンスじゃないか? 


「なあ、三人とも。僕の都合で振り回して悪いんだが……」


「へっ?」


「んあ?」


「はい?」






「今から改めて、皆で展望台に行かないか?」






 *






 問題は解決したんだ。辻セイラへの報告も既にテキストで済ませてあるし、今からもう一度Uターンするようなイベントは起こらないはず。

 正直、今日は皆を振り回し過ぎた自覚があるが……今日は僕が主導する日で、残り時間をどう使うかは僕に一任するという取り決めだった。その予定は、元々展望台だ。

 明日はアサヒが主導する日だから、展望台に行けるのは今日しかない。一度は別行動になったが、こうしてもう一度合流できたんだから、予定を元に戻すだけの話だ。

 九条ノドカも元々観光で来ているんだし、展望台に誘ったら二つ返事で頷いてくれた。

 なら、せっかくだし四人で行けばいい。


 それに、指定された時刻はとうに過ぎたが……。


「いやー、良い感じに写真撮れたな! ちょっと気になるとこはあるけどよ」


「ですよね。宮野さんが瀬尾さんにくっつきすぎててバランスが悪いような……」


「失礼な。僕はマコトを女狐から守っているんだよ。言いがかりは止めてくれるかい」


「えっ狐が! 感染症とか大丈夫でしょうか……」


「……」


 そうそう。

 僕が写った写真を送るよう、辻セイラから頼まれていたんだった。


 あれはあくまで「展望台に行くな」という暗号であり、わざわざ解決した今になって写真を送る必要は無いが……まあ旅行の写真を知り合いに送ることは一般的なことだし。こうして全員が写った記念の写真と、何も起こっていない温泉街の風景を見せれば、安否確認にもなる。


 それに、今の辻セイラの様子も気になる。

 ループ自体はあっさり解決したが、やはり彼女のあの涙は今思い返すと不自然だ。


 状況が限定的とはいえ、辻母の交通事故の時と形式は同じだし、そこまで苦戦する内容でもなかった。彼女があそこまで精神を追い詰められる原因が分からない。

 さっきテキストを送った時もすぐ既読がついたし、すぐに返信が来た。だから、近くで誰かに脅されているという可能性も考えにくい。となると、暗号で連絡してきた意味も分からない。


 かといって、何の朗報も準備せずただ事情を説明しろと言うのはよくない気がする。

 本当なら、今すぐ電話して直接聞くのが一番早い。だが、ついさっきまで泣いていた相手にいきなり「なんで泣いていたんだ」と聞くのは、さすがに無神経だろう。ミオも泣いた後に理由を聞かれると、大抵もっと泣く。

 そういう時は母さんの対応を参考にするんだ。相手が落ち込んでいる時、母さんはまず甘いものを出して、落ち着いてから話を聞いていた。


 解決したとはもう伝えてある。だが、文字だけではまだ実感が湧いていないかもしれない。

 全員が生きて笑っている写真なら、甘いものの代わりくらいにはなるだろう。これを送って、少し落ち着いてもらってから聞く。それが一番のはずだ。


 ──プルルルル


 さて、どうなるか。

 これでもまだ泣きはらしているようなら、再度かけなおすことになるが……。






『はいは~い。マコトくん、お姉ちゃんに何か用?』


「ん? カリン?」


『そだよーっ』






 おや、どうしてカリンが。

 何故君が辻セイラの電話に出ている? 


 喋りたいことも君相手には喋れないんだが。

 姉に携帯を返してもらえるか? 


『ごめんね~。ちょっと前マコトくんから連絡来て、そこからお姉ちゃん元気なくてさー』


「む……そうなのか。かけなおすべきだったか」


『私が伝言してあげよっか?』


「ああいや、辻セイラ本人に聞きたいことがあったんだ。その……さっき送った写真の感想を聞きたくてな」


『写真?』


 危ない危ない。

 伝言なんかを許可してしまったら、カリンにループのことを聞かれてしまう。あくまで僕が用があるのは辻セイラ本人のみであると強調しておかなくては。


 しかし、元気が無い? 

 変だな。ループが解決したというのなら、気分は持ち直すはずでは。

 わざわざ、いつどこへ何をやって、どのようにして危機を回避したのか……そんなところまで逐一メモに書いて送りつけたんだ。ループを突破できたということはしっかり確認が取れているはず。

 まだ何か不安なことがあるのだろうか。

 それとも、何か新しい問題が? 


『……えっなにこれマコトくん浮気じゃん!』


「えっ」


『何この横にくっついてる可愛い子! お姉ちゃんというものがありながら!』


「ん? それはハルキだ。男だぞ」


『へ、そうなの?』


 うん。


 僕の横にいたのは確かにハルキだな。

 九条ノドカは辻セイラと友人になってからたまに遊びに行ったりしていたそうだし。カリンもどこかで顔合わせしていたと聞いている。「何この横の」と言っていたから、指しているのは彼女に面識のないハルキかアサヒだろう。

 そしてアサヒは可愛いと呼ぶには健康的男児すぎる気がする。カリンの好みがそういう男性ならあり得なくもない言い回しだが、文脈的にアサヒを指している訳では無いだろう。

 そしてハルキは身長がアラタと同じか、ギリギリ少し高い程度。

 顔つきも中性的だし、勘違いしてしまったのかもしれない。


 可哀想に、ハルキ……。


 ……。


 ……というか、「お姉ちゃんというものがありながら」ってなんだ。


『……そーなんだ。ふ~ん、油断できないなぁ~……』


「とにかく、今辻セイラと連絡はできないってことでいいんだな?」


『あっうん。ごめんなんだけど、また後でかけなおしてくれる?』


「分かった。ありがとう、カリン」


『いいよ! またお姉ちゃんに内緒でカラオケ行こうねっ!』


「受験生だろう君。カラオケは前みたいにご褒美だけだ」


 にしても、そうか。

 辻セイラの精神的不安定がまだ継続しているなら今連絡する訳にはいかないな。

 ループ解決の連絡を受け取っていてこうなのだから、何か落ち込んでいる要因は他にあるのだろう。例えば、九条ノドカが「新しく『大切な人』になってしまった」ことがまだ受け入れられないとか。

 解決法を知ったことで、「その解決法で助かった」=「九条ノドカが『大切な人』で確定した」という事実を受け止めざるを得なくなってしまい、それでショックが再燃してきたのかもしれない。


 今はそっとしておこう。

 疲弊している彼女に無理をさせる訳にはいかない。


『……あっ、あと一個!』


「ん?」


『お姉ちゃんが言ってたの、伝言!』


 伝言? 






『「ごめん、次からは一人でやる」──って』

これで11周目終わりです。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

遠隔の合流できない状況の中で協力していくってシチュをやってみたくて書き始めました。

最終的にほぼ委員長が独力で暴走していた気がします。協力とは。


可能であれば、感想や意見や評価やリアクションを頂けると嬉しいです。大喜びします。

それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)

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