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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
23

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[23:12] 解決は案外簡単?

「こうして毎回僕は君の努力の軌跡を聞かされる訳だが」


「うん」


「何だ今回のは。怖すぎるだろ」


 悪意を持った能力者が逆恨みで、持てる手段を全部使って一人の少女を殺しに来る。

 普通に怖すぎる。怪異もそうだが、ちょっと治安が世紀末過ぎる。


 もしかして、この世界は案外危険なのか? 

 今までWPPOが誰にも気づかれないように解決してくれていたから僕達も気づかなかったが、その加護が通用しなくなった途端にここまでの脅威に襲われるようになってしまうだなんて。

 もしWPPOがいなければこの世界は今頃どうなっているのやら……。


「話の続きしていい?」


「悪いが、一回整理させてくれ。今日聞かされた情報はちょっと多すぎる」


「分かった」


 歩きながらで悪いが、流石にこれをそのまますぐ理解しろというのは難しいぞ。


 1. 狙われているのは三好ルナ。

 2. 実行するのは影中トオル。公開手配中の能力犯罪者で、動機は3年前の逆恨み。

 3. 能力は『自分の体を影に変える能力』。影に潜っている間は攻撃が通らず、影を伝って接近し、足元から実体化して襲ってくる。逃げる時もまた、影に潜ればいい。

 4. 決行は12月24日の夜、21時台。場所を変えてもタイミングをずらしても追ってくるという。

 5. 人目を集める、暗い場所に移動する、予定を大きく変える、などしても解決には至らなかった。


 なんて恐ろしい話だ。

 この女曰く、7周目に人を集めてクリスマスパーティーを行ったらしいが……目撃者が何人いようと、実体化のハードルが上がることはなく。建物ごと停電させられて、明かりを持ち込まれて、混乱の最中に殺された。

 用意周到がすぎる。敵が思考できる存在というだけでここまで厄介になるものなのか。


 そして、今日が20日。

 あるのは4日と半日。

 これだけ材料が揃っていて、この女がまだ解決できていない。

 相手の格が……今までとまるで違う。


「……よし、理解した。で、今回の作戦はどうだって?」


「影中を通報する」


「そうかそうか。通報か」


 ……。


 ……えっ、無理じゃないか? 


 こちらが言えるのは「12月24日の夜、三好家に影中トオルが現れる」だけだぞ。それは未来の予告であって、証拠が一つも無い。

 しかも、あの組織の判断基準は未来予知だ。24日にあの男が動けば、その瞬間に死に戻りが起きるんだ。起きなかったことになる未来が、予知に映る訳がない。映らないものを予告すれば、返ってくるのは虚報という判定だけだろう。

 それができないからこれまで困っていたんじゃないのか。急に何を言っているんだこの女は。疲れているのか? 


「勘違いしてそうだから言っておくけど、予告なんてしないから」


「え?」


「『~の場所で指名手配犯の男を見た』って言うの」


 ……? 


 ……まあ、確かに? 


 確かに、目撃情報であれば未来を言い当てる必要が無いな。

 過去の目撃を報告するだけでいい。「見た」と言われれば、WPPOは実際に未来を視てその場所に影中トオルが存在しているか確認するだけだ。実際にあの男が現れれば、WPPO側の予知にもそれが映る。

 予告ではないのだから、死に戻りは関係ない。目撃者が目撃した場所を知っているのは当たり前で、「どうしてその情報を知っている?」と怪しむ要素だって一つも無い。

 見つかりさえすれば、後は向こうの仕事だ。バイト先に鳩が一羽入っただけで護衛を寄越す組織だぞ。公開手配中の能力者の居場所という情報を、放置する訳がない。


 しかし──どうやって実際に彼を見るんだ? 


 実際には見ていないのに通報しても、ただの虚偽申告になる。一度経験のある僕達には今更かもしれないが……実際にその場所に現れないのなら、通報したところで変化はない。

 見た場所を言うのだから、その場所そのものが要る訳だ。街のどこかとしか分からない相手について、地点を指定できなければ意味が無い、ぞ……。


「待て。そういえばさっき言っていたな。存在の確認はできたと」


「そうそう」


「その情報は正確なのか? どうやって確認した?」


「正確。方法については……まぁ、合法的な方法で」


 そうか、正確か。しかも合法の手段で。

 それなら、そういうことか。やっと理解したぞ。


 この女が7周目の12月22日で発見したという──5箇所の地点とやらだ。

 そこにいたと通報すればいい。


 辻セイラによれば「とある目印を準備したが、うち5箇所は破壊されていた」との話だ。

 21日に仕掛け、22日に回収に行った時、手法も全く同じ方法で記録が残らないように破壊されていたという……一体どんな手法でそれを確認したかは分からないが。合法だというのならそれを信じよう。


 そしてそれは、影中トオルが12月21日にその5箇所を通ったという証拠になる。

 偶然の破損? 無いな。全く同じ手法で路上に落ちているものを破壊する人間が、同じ夜に5人もいるものか。


 当然、5箇所全部が彼の拠点だとは限らない。

 目印を見つけた影中トオルが、「誰かが自分を探っている」「他の拠点にも同じものがあるかもしれない」と思って探し回った結果が、5箇所の破壊なのかもしれない。

 あの男が1つ目を見つけた後、他にも仕掛けられていないかを探して回ったのなら、残りの4箇所は「その夜だけ歩いた道」ということになってしまう。


 しかし──1つ目だけは違う。


「つまり、少なくとも5周かければ、通報が可能になるということか?」


「流石、相変わらず話が早い」


 やはり、そうだったか。


 1つ目を破壊した時点では、影中トオルはまだ何も知らないはずだ。後に、「探して回ろう」と思い立ったとしても、1つ目を見つけるまではその発想が一切なかったはず。

 つまり、5箇所のうち最低1つは本物。残り4箇所については分からないが、少なくともどこか1箇所は、彼が12月21日の夜に訪れることが確定している。


 なら、5箇所のうち1箇所を選んで、「その場所に影中トオルを見かけました」と通報すればいい。正確に「いつどのタイミングで事件が起こる」と通報すれば未来予知になってしまうが、「見かけた」と言われればWPPOは実際に張り込み、その結果がどうであるか予知を使って確認しようとするはず。

 しかも、これなら嘘にならない。影中トオルは実際に21日の夜にそこを訪れる訳だし、辻セイラがそれを確認したのも事実だ。行政に対する虚偽申告にはならない。


「君がしっかり説明してくれたおかげだ。考えれば分かることだった」


「ありがと。じゃ、後1箇所だから」


「よし、じゃあどれに通報を…………ん?」


 ……ん? 1箇所? 

 何を言っているこの女は。さっき5箇所という話をしていただろう。


 今日は20日だぞ。ループが始まったのは今日のはずで、放課後のこの時間まで、僕達はまだ電話一本かけていない。この周では、何もしていないのでは……。


 ……あっ。

 まさか……。


「……一応聞いておくが。今、何周目だ?」






「12」


 12。


 ……12? 






「さっき7周目って言ってなかったか?」


「それは大勢クリパした周。一つ前がそれだなんて言ってないでしょ」


 あー……そういう。


 つまりは、こういうことか。

 この女はクリスマスパーティーで三好ルナを殺された後、5回通報すればWPPOが影中トオルを逮捕してくれるということに気づき……それを既に4回行った。


 今が12周目ということは……8~11周目、つまり4回分余裕が空いている。

 その4回は、通報に充てた……と。

 君な。さらっと自分は追加で4回死んでますって言ってるんだぞ。それを何事でもないかのように。もう慣れてるんだろうし、僕から色々言われても余計なお世話だろうが。


「それで、結果は」


「駄目だった。回答は毎回同じ。『ご連絡ありがとうございました。いただいた情報は確認させていただきましたが、現時点では当該人物の所在を特定するには……』云々だって」


 なるほど。過去4周で通報した場所は当たりではなかった訳だ。

 やはり影中トオルは1箇所の拠点で怪しい目印を目撃した後に行動を変更し、残り4箇所を確認している。何もしなければその1箇所から動いていないということだ。


 となると? 

 残る1箇所には、確定で影中トオルがいる? 


「通報はアンタが、公衆電話でやって。私はWPPOに捕捉されたくないし」


「言われなくても。初めからそのつもりだ」


 辻セイラは死に戻りの能力者で、目を付けられかねないから電話すべきではない。

 かといって僕も見張られている身。発信元が瀬尾家になるから自宅の電話は使えない。

 携帯も駄目だ。学校に持って来ていないし、そもそも契約は母の名義だ。


 であれば、僕が公衆電話で通報するのが一番妥当だろう。


「一番近い公衆電話こっちだから」


「了解した」


 そして、これで5回目だから、行き先の目星までとっくについていると。

 そうだな、通報は早い方が良い。ぐずぐずしていると、街に明かりが点き始めてしまう。


 今はイブに向けて、光の増えていく季節だ。

 影中トオルにとって、一年で一番歩きやすい夜が、近づいているんだから。






 *






「じゃ、よろしく。もし言い淀んだらフォローするから」


「だからって二人でボックスに入る必要は無いんじゃないか」


「うっさい。私だって恥ずかしいんだから」


 それなら猶更こんな狭い場所に詰め込まなくたっていいんじゃないか。

 ほら見ろこれ、鳥肌。君と密室に二人きりというだけで背筋が冷たくなるんだ。

 もしこの状況を誰かに見られていたらどうする。たまたま人目が少ないからよかったが……君の親友二人見られたらどんな弄られ方するか分からないぞ。


 ……まあ、四の五の言っていられないか。

 通報する場所は、残った最後の一箇所──旧市街のシャッター通り。

 三好家の南側にある、再開発待ちで管理者のいない一帯。

 街灯は生きているから光はあるし、店は全部閉まっていて人目は無い。商店街を抜ければ自販機もコンビニもあって、物資にも困らない。そして管理者がいないから、ポスターが一枚も貼られていない。

 他の4箇所が外れた今、理屈の上であそこより怪しい場所はこの街に存在しない。


 言うことは一つ、「あの男を見た」。ただそれだけだ。

 明日ここに来るではいけない。それは予告で、影中トオルの関係者か、未来予知能力者でなければそんな発言はできない。

 よく見かけるも駄目だ。継続して観察していたことになってしまう。ただの一般人が、なぜ指名手配犯を観察し続けていたのか、と訊かれて答えられる訳がない。

 それから、名乗るのもNG。あの組織は僕を未来予知能力者だと疑っているから、名前を出した瞬間、ただの目撃情報に「瀬尾マコトの通報」という余計な意味がついてしまう。匿名でなければならない。


 これまでの4回は『上に確認させていただきます。少々お待ちください』と返された後に少し待って、「連絡への感謝」「確認が取れなかったという謝罪」「通報を記録して保管する旨」「次見かけた時の対応」を告げられたらしい。

 要は上──未来予知の結果と照合し、もし予知に現れないようであれば遠回しに「そんなもの確認できなかったよ」と告げてくるという訳だ。通報したこと自体は正しい行動として扱って、「見間違いでは」などと言ってこないあたり、WPPOらしいが。


「保留は長いのか」


「短い。すぐ戻ってくるよ」


 そうか、ならもう聞くことはゼロだ。

 かける先はWPPO日本支部の通報窓口だ。十円玉の用意は足りている。


 ……よし。


 ……。






『世界平和維持機構日本支部、通報窓口です』


 ……。


「──指名手配中の、影中トオルを見かけました」






『影中トオル、ですね。ありがとうございます。差し支えなければ、お名前をお伺いできますか』


「名乗りたくありません」


『かしこまりました。匿名でも承っております。それでは、いつ、どこで、どのような状況でご覧になったかをお聞かせください』


 よし、よし。

 特に咎められているということもない。匿名を選んだ瞬間に扱いが軽くなるかとも思ったが、事務的なまま、声色一つ変わらない。受け答えは問題なく進行している。


 日時は、『覚えていないが、最近』。実際に僕と辻セイラは影中トオルの存在をきちんと確認した瞬間が存在するが、そんな記憶を「僕は覚えていない」。当然、その日時が過去か未来かは断定しないが。

 場所は、まず都道府県名、市名、地区名……そこから「旧市街のシャッター通り」に限定していって。見かけたのは通りがかりに一度だけ。


 これで間違いはない、はず。


『その人物が影中トオルだと判断された理由をお聞かせください』


「駅前の掲示板で、手配のポスターを何度も見ていたので。あれと同じ顔でした」


『復唱いたします。旧市街のシャッター通りにて、手配ポスターと同じ顔の人物を一度目撃された──以上でお間違いないでしょうか』


「はい」


『確認いたしますので、少々お待ちください』


 ……っ! 


「(……終わった?)」


「(ああ)」


 よし、保留音だ。

 通報は問題なく終了した。良かった、変に緊張したぞ。


 ここからは、前回と同じだというならすぐだ。

 予知を回して、あの地点を視て、何も映らなければそれで終わり──のはずだ。


『──』


 どうだ? どう返ってくる? 

 他の4回と全く同じ内容なんだろうか。その場合は、受理されたのかどうかこちら側では判断がつかない。もしかしたら文言が同じだけで一応対応してくれているのかもしれないが……その応答を受けた4回でも変わらず襲撃を受けているのだから、失敗と考える方が妥当だ。


『──』


 もし、失敗だったらどうしようか。その場合は、手掛かり……影中トオルに対する勝ち筋をまた一から探さなくてはいけなくなってしまう。

 ただでさえとんでもない強敵なんだ。5回の通報で突き止めるという辻セイラの案は非常に合理的なものだが、それが通用しないとなると次の作戦を考えるのは相当大変だ。


『──』


 いや、それでもきっと返ってくるはず。

 論理的に考えれば、必ず1箇所はどこかを訪れることになっている。WPPOが指名手配の通報を受けて、「ほんの一瞬視てみたけど悪戯電話っぽいから無視でいいよ」なんて曖昧な対応をしている訳がない。末端の九条ノドカですらあんな人間なんだからルールには厳しいはずだ。

 もし、良くない返事が返ってきたとしても、こっちから多少粘ればさらに確認を取ってくれるかもしれない。そうすれば、まだ可能性はある。


 ……。


 ……それにしても長いな。

 すぐ返ってくると聞いたんだが。辻セイラも不安そうにしてるぞ。


 もし予知に映らなければ、こんなに時間はかかるはずがない。「何も無い」ことを確認するだけなら、短く済むはずなんだ。長くなるということは……何かがあったんじゃないか。

 今、この受話器の向こうで何が起きている? 予知が回って、あの男がそこに映って、担当が上に報告して、どう返すかの判断を仰いでいる──そういう流れなら、この長さに説明がつくぞ。


 というか、そうであってくれ。

 これで解決する、そう言ってくれれば、それで解決するんだから……。


『——大変お待たせいたしました』


「っ! はい」


『ご連絡、ありがとうございました』


 来た、ようやく来た。

 さて、どうなる。今回もあの返事が来るのか。「現時点では当該人物の所在を特定するには至っておりません」──






『お寄せいただいた情報は、記録いたしました。引き続き、確認を続けさせていただきます』


「ッ!」






『なお、当該人物との接触は危険を伴いますので、お見かけになった際は決して近づかず、まずご連絡ください。この度はご協力に感謝いたします』


「はっ……はい。失礼、します……!」


 ……無い! 

 無かった。「所在を特定するには至っておりません」という文言が、無かったぞ。

 4回とも一言一句同じだったという文面の、所在を掴めていないという唯一中身のある一節だ。それが、今回だけ無い。

 そして、あの保留の長さだ。何も無ければ短く終わるはずのものが、あの長さだぞ。


 ──当たりじゃないか? 


「ど……どうだった?」


「……聞いていた返答ではなかった。確認を続けると言われたし、保留も長かった」


「……! それじゃあ」


「ああ、『当たり』かもしれない」


 無論、向こうは明言しないだろう。

 匿名の通報者に捜査の状況を教えれば、その情報がどこへ流れるか分からない。通報者が本当に善意の第三者だという保証なんて、どこにも無いんだから。

 あの組織は、そこまで含めて言葉を選んでいる。


 ──だから、何も言わないことが答えになる。


「一応言っておくが、『確定です』とは言われていないからな。見つかるのは今日かもしれないし、24日を過ぎるかもしれない。そもそも、あの場所も外れって可能性がゼロって訳でもない」


「分かってる。私は24日まで、当日含めて、ルナを見張り続けるから」


「そうか……そうだな」


 何一つ、確定した訳じゃない。


 今回たまたま文言が変わっただけかもしれない。

 上への確認も、別件で少し時間を食っただけかもしれない。

 もし見つかったとして、それが三好ルナ殺害後であれば何の意味も無い。


 しかし、これまでとは明確に感触が違ったはず。辻セイラの反応を見れば明らかだ。

 イブまで、あと4日。あの男にとって一番歩きやすい夜が近づいているが──その夜にあの男が街を歩いているとは、もう限らない。

 辻セイラの苦労に対して僕はせいぜい1、2時間程度しか付き合えていないが。これだけ早く対策ができたのだから、彼女も悪い気分ではないだろう。


「瀬尾、ありがと。これで解決できるかも」


「いいさ。役に立てたなら僕としても嬉しい」


 24日、三好ルナは家族と過ごして、無事に明日を迎える。

 辻セイラは三好ルナのパーティーに参加して、13周目を迎えない。

 そして僕は家に帰って、母さんとアラタとパーティーができる。


 去年と同じ──今年も、そうなるはずだ。






 *






 ──「ほら、さっさと出るぞここ。息苦しいったらありゃしない」


 ──「あっ待って今動かれると……ひゃっ!?」






「(なんでマコっちとセイラが二人でボックス入ってんの!? そういうプレイ!?)」

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