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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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[17:00] 『共犯者』さん

「顔色も戻ったし、大丈夫そうね。戻って大丈夫よ」


「……ありがとうございます」


「瀬尾くんも、付き添いありがとうね」


「いえ。当然のことをしただけです」


 ああ、当然のことをした。

 授業中に「助けてほしい」と声をかけたクラスメイトに協力した。その後、顔色が悪かったので保健室まで連れて行った。どこからどう見てもクラス委員長として百点満点の行いだ。

 ……犯罪の共犯になったことを除けば、だが。


 ええい、いつまでもうじうじ過去を悔やむな瀬尾マコト。

 辻セイラの母親の命が助かった。それでよかったじゃないか。デッドラインから追加でさらに十分以上経っているが何一つ問題は起こっていない。目的地に到着後、再度無事を確認する電話を入れるそうだが……藤見台を抜けた先に事故の多い箇所はない。安心していいだろう。

 無事を確信した瞬間の辻セイラの顔は──まぁ、見なかったことにしておこうか。基本不愛想な彼女がするには随分優しい顔で意外だったが、あの顔を見たと言ったらこの女は怒るだろう。


「具合悪そうにしてたらこのまま休めたかなー……」


「仮病は駄目だ」


「はいはい」


 ……いや仮病かな。

 実際に、顔色が悪かったことは事実だが。


 僕はこの女のことをまだ完全に理解できていない。

 話を聞いた感じ、瀬尾マコトが関わったのはほんの数周にすぎない訳だし。中でも僕が関わったのは、最後のこの一周だけ。成功したは良いが、全体像がまるで見えていない状況。

 信じていない訳じゃない。

 だが、僕はこの能力の恐怖をまるで実感できていない。


 実際に彼女が死ぬところを──僕は見たことがない。


「なぁ……一つ聞いていいか」


「なに?」


「今回のこれは……よくあることなのか」






「いや、それほどでも。これで16回目」






「16回……目」


「まぁ、未然に防げてるのもあるけど。そういうの含めたら年に6か7回は起こる可能性があるかも」


「16……回」


「壊れた?」


 それは……どう言うべきなのか。


 能力者の能力は生まれつきのものだ。0歳の頃から発動する機会があったと考えるべきだろう。

 僕達は華の高校二年生。しかし、16回というと、単純計算でも年に1回はこういった複雑な状況が起きていることになる。

 どれも同じくらいの難易度だと仮定すると……合計試行回数は500以上。

 彼女は、既に500回以上の「死」を経験している、という話になる。


 正直、家族の命が危険に晒される機会がそこまで多いとは思えないし……まず、未然に防げているものもあるというのはどういうことだ、まだまだ数はあるということなのか。

 危険な兆候をいち早く察知してそもそも死に戻りが起きる前に対処を完了しているんだろうが──如何せん「死に戻りの発生条件が軽すぎる」ようにも思える。


「まぁ今回は短く済んだ。誰が対象か特定するのも、最初の7周で済んだし」


「……自力で特定までする必要があるのか」


「これでも早い方。どこかの誰かさんは嫌がるだろうけど、スマホは常備しておくこと」


「ぐぬぅ……! しかしそれは校則で……」


「ちなみに36周のうち6周はアンタに追いかけられて時間潰された。最悪」


「えっ」


 ……いやそうか。

 本来は辻セイラが急に教室から飛び出すから、僕は追いかけるのが基本のルートなのか。

 今の僕とは関係ないはずなのにもの凄く申し訳ない気持ちになって来たぞ……。


「追いかけてきたアンタに一か八かで協力申し込んで。そしたら意外とすんなり聞いてくれて」


「それで今に至る……と」


「そう。委員長はクラスの外でも役に立つみたい」


 一言多いんだよ。

 やっぱりこの女のことは嫌いだ。


 嫌いだが……流石に、これまでと常に同じ対応ができるかは別だ。

 今まで不良少女として奇行を繰り返していた不愛想な辻セイラだが、その行動全てに意味があった可能性が出てきている。

 しかも、これからの年齢、家族と離れる機会も多くなるだろう。幼い頃であれば家族と接する機会も多いが、もしかすると──これからはもっと「死に戻り」が頻発する危険性だってあるのかもしれない。

 少なくとも、まず。これからは彼女の行動を脳死で非難するのではなく、何らかの緊急事態である可能性を考慮してから対応に当たるべきだ。


 今回のケースから察するに、この能力のことは母親ですら知らないようだし、もしかすると僕が初めて知ってしまった人物なのかもしれない。

 この事実を知ってしまった者として、責任ある対応が今後求められ……。


 求め、られ……。


「そういえばさ。もうとっくに4時間目だけど、いいの?」


 ……ん? 

 なんだ? 4時間目? そうだぞ、もうとっくに開始しているが? 


「さっさと保健室に置いて、そのまま戻ればよかったのに。アンタみたいなルール人間が、珍しい」


 あ? 

 なんだ、そんなことか。


「校則第五条第二項、『授業中の無断離席禁止』ぐらい覚えておけ。許可を得た離席は無断離席に該当しない」


 僕はルールを絶対視しているが、ルールの内容まで盲信している訳じゃない。

 ルールの範疇で「後悔しない選択肢」を取ることを重要視しているだけだ。


 今回は君の様子がおかしかったので「君を心配して」先生に許可を取り退室した。

 事実、君は保健室に行くべき状態だったし、先生は許可を出した。「許可を得た場合でもすぐ戻るべき」というルールは存在しない。


「だから何も問題はないぞ」


「……ハッ」


 あっおい今鼻で笑ったな。

 ここは僕の、規則に対する忠実性と柔軟性を評価する場面じゃないのか。






 *






 それにしても……謎だ。

 頭の中が整理できない。


「考え事?」


「……そうだ」


「仮病が原因で授業中に廊下を歩くのは新鮮?」


「違う。というか、君の顔色悪かったのは事実だろう」


 確かにこうして廊下を歩くのは新鮮かもしれないが。

 そもそも移動教室とかあるじゃないか。授業中に廊下を歩くことなんて珍しくないぞ。

 何だ、不良自慢か? 不良っぽい行為で僕にマウンティング取ろうとしているのか? 

 悪いが今それどころじゃないんだ。


 今日だけで36回の死亡。過去含めて16回目のループ発動。

 この女はそれを全部一人で抱えてきた。


 ……何故だ? 


 どうして誰にも頼らない。どうして一人でやっている。

 一人のはずだ。既に協力者がいるなら電話があるから連絡を取れるだろうし、校内にいるなら直接会いに行けばいい。

 協力者が一人だけだから、都合が合わなくて……というのも考えにくい。こんな能力を持って生まれてしまった以上、常日頃から協力者は増やしておくべきだ。多いに越したことは無い。

 500回以上死んでいるかもしれないと、あの計算が正しいなら。500回死んで、500回やり直して、それを全部一人で。

 なぜだ? 


 そして、何故——よりにもよって僕なんだ。


 大嫌いなはずの僕に、どうして頼った。

 友人でもいい。家族でもいい。教師でもいい。信頼できる大人でもいい。なのにこの女が選んだのは、毎回のように衝突している同級生の僕だ。

 何か特別で合理的な理由があるに違いない。家族の命がかかっているのに、碌に考えず手を打っているなんて、あり得ない。


「一つ聞いていいか」


「なに」


 廊下を歩いている、教室に着くまでのこの時間だけでもいい。

 また明日になればいがみ合う日常が始まる。

 だから、今この瞬間に聞いておきたい。

 何故なのか。


「この能力のこと、他の誰かに教えたことはあるのか」


「ない」


「……即答だな。家族にも? いつも一緒にいるあの友人たちにもか?」


「マジに言ってんの? 一回冷静に考えてみて」


「え?」


 れ、冷静に? 

 そうか、そこまで言うならもう少し考えてみるか。


 そうだな。もし僕がこの能力を持っていたとしよう。それをどうして他の人に打ち明けられないか。

 例えば今回の標的は母さんだ。病気が悪化し、命に危険が訪れた。僕はそれをなんとか回避しなければならない。でなければ死に戻りが発生してしまう──いや、そうでないにしても母さんが死ぬ姿は見たくない。

 だが難病だ。僕一人の力で解決できるようなものじゃない。主治医の先生とは話し合いが必要だろうし、母さんにも説明と相談が欠かせない。

 持てる力をできる限り尽くして問題解決に向かうことになるだろう。


 ……それだけだよな? 

 やっぱりどうしてだ。ただ打ち明けるだけだ。周りに秘匿する理由が分からない。

 ただ、母さんに向かって、「死に戻り」を説明すればいい。

 僕は、特定の条件で発動する能力の能力者で。発動すると僕は……。


 ……。


 ……僕、は。


 ……。


 駄目だ。


「分かった?」


「そう、か。そうだな、これは……言いにくい、言えない」


「でしょ。私、『今日ママのせいで脳が圧縮破裂して36回苦しみながら死んだ』なんて言えないもの」


 ……そうだ。

 これは、『大切な人』に対して説明できない。説明したくない。

 説明してしまえば、とてつもない壁と罪悪感が生まれてしまう。この問題を解決しない限り自分のせいで辻セイラが苦しんで死ぬという重荷を押し付けることになってしまう。

 そのまま解決したところで、もう二度と関係性は元に戻らない。いつ、どこで、何が原因か分からないまま我が子の頭が破裂する光景を目撃する恐怖に怯えることになる。

 確かに、相談することで問題解決には近づくかもしれない。推定500回以上の経験があるんだ、辻セイラだって「相談」をしたことがあったかもしれない。

 しかし、その結果があまり良くないものだったのか。それとも、ボロが出そうで一部情報を伏せて話すことを断念したのか。今の彼女は『大切な人への相談』が良い物だとは100%思っていない。そんな目をしている。


 だから、言えないのか。

 家族や友人などの「大切な人」には、この能力を説明することができない……。


「……でも、待ってくれ。それなら、なぜ僕に頼った」


「……」


「今の話なら、確かに『大切な人』に事情は説明できない。でも、大切じゃない人間なら他にもいる。僕じゃなくてもいいはずだ」


 そうだ。どっちかというと気になっていたのはこっちだ。


 辻セイラは僕の叔父や警察や消防隊を、「利用する」という目的でなら使用する判断を下せた。完全に自力に拘っている訳じゃない。

 じゃあやっぱり協力者を増やさない理由にならない。大切じゃない人になら、説明したってその人が発動原因になることはないし、心配も罪悪感も少なく済むはずだ。

 辻セイラが一切の犠牲を許さないような、完全な聖人には正直とても思えない。やろうと思えばそういった手段だって取れたはず。


 なのに、どうしてそうしなかったのか。

 どうしてしなかったのに、僕にはしたのか。







「それで頼った結果が──今の私の友達だって言ったら?」


 ……!! 






「勘違いしないでね。私の友達の、あの二人には『最終的には』言わずに済んだ」


「それは……一度頼って」


「そう。危機的状況で他人に頼ると、その人が『新しい大切な人』になりかねない」


 そういうことか……! 

 辻セイラにはいつも一緒にいる友人が二人いる。あれだけ排他的な彼女が、どうしてあの二人と交友関係を持てたか不思議で仕方が無かったが……今合点がいった! 


 おそらく辻セイラは、問題解決のために「無関係の人間」に自身の能力を打ち明けることを決めたんだ。その結果、いくつか試行錯誤を重ねることで道筋が見えた。

 しかし、その過程でその「無関係の人間」に愛着を感じていき、いつしか、自分が死ぬところを見せたくない『大切な人』になってしまった。

 最終的に辻セイラは、その二人に自身の能力のことを打ち明けずループを打破したが、迂闊に相談をしてしまった結果、『大切な人』が増えてしまったんだ。


「だからさ、もう友達は増やさないようにしてる。勿論、この能力のことは誰にも話さない」


 そうか、だから彼女は排他的なのか。

 この女が周囲を拒絶しているように見えていたのは——全部自衛だったのか。

 今いる大切な人達だけで限界なのに、これ以上増やせるわけがない。大切な人が増えれば、死ぬ回数が増える。だから新しい関係を作らない。距離を取る。近づかせない。

 不良だと思われても構わない。嫌われても構わない。それで大切な人が増えないなら安いものだ、と。


 なんだそれは。そんな理由で十代の人間関係を犠牲にしているのか。

 いや——犠牲じゃない。この女にとっては、それが最善だから選んでいる。

 大切な人を守るために、大切な人を増やさない。

 論理は破綻していない。ただ、あまりにも孤独な合理性だ。


「じゃあ、僕を選んだのは……」


「アンタのこと大嫌いだから」


 ……。


「アンタとはどれだけ関わっても──『大切な人』にはならない自信がある」


 嫌いだから。

 選んだ理由は信頼じゃない。好意でもない。能力への期待でもない。

 嫌いだから安全。嫌いな相手は大切にならない。大切にならないからトリガーにならない。トリガーにならないから、巻き込んでも死ぬリスクが増えない。

 完全に合理的だ。僕は「嫌いだからこそ使える駒」として選ばれた。


「一応頭も回るし、理解も早い。都合がいいかなって」


「……なるほど」


「気分悪い?」


「いや。筋は通っている」


「そ、丁度良かった」


 別に僕だって傷つきはしない。

 嫌いな相手に「嫌いだ」と言われただけだ。僕だって君が嫌いだ。お互い様だ。知っていた。


 だが——この構造は理解した。


 僕はこの女にとって「安全な道具」だ。嫌いだから壊しても惜しくない。嫌いだから大切にならない。嫌いだから、安全に使える。

 ある意味、僕が彼女を嫌っているからこそ成立する関係だ。互いの嫌悪が安全装置になっている。好意が芽生えた瞬間にこの関係は壊れる。

 だが好意が芽生える見込みは——ない。断言していいだろう。僕もそう思う。

 なかなか見事な構造じゃないか。嫌いであることが、唯一の資格。世の中にこれほど皮肉な人選基準があるか。


 ……いや、待てよ。

 それでも、ただ嫌いなだけなら、やはりこの周で縁を切ればいい。傷つかないのは分かったんだから、藤見台の東の道の入り口だけ聞いて、次の周に一人でやればよかった。

 それをしないのは……まさか。






「瀬尾マコト。アンタにはこれから私の協力者になってもらう」


「……断ったら?」


「さっきの会話、全部録音してある。バラされたくなければ、私の秘密を守って。それと、今後のループでも私に協力して」






 ……脅し。

 それが、狙いだったのか。

 今までずっと一人でやってきたが、これからは能力の発動にひっかかることのない手駒が一つ増える。取れる手段もずっと増えるし、僕には既に周知済みだからこの周をクリアすれば二度目の説明をする必要はない。

 そのためにさっきの共犯の証拠を使って、僕を脅そうっていうんだ。嫌いな相手だからといって断ったりはしないが……辻セイラにとっては確実性がないと安心できない。彼女らしい、意地の悪い手だな。

 いや、家族を大切に思う気持ちはあるんだし、根は悪い奴ではないんだ。その意地の悪さも、彼女なりの「人と仲良くなりすぎない工夫」なのかもしれないが。


 だが……バラされたくなければ、か。

 別に僕はバラされても構わない。

 最悪、この一件が終わったら自首でもするつもりだった。通報の件も、校則違反の件も、初めから全部清算するつもりだったんだ。録音を公開されようが、僕が自首しようが、脅しとしては効かない。

 結果は変わらない。


「……いや、待てよ」


「?」


 待て。

 同じじゃない、同じじゃないぞ。


 録音ということは、僕の声だけじゃない。セイラの声も入っているじゃないか。

 もしこれが表に出たら、僕の共犯が明らかになるのはともかく——「虚偽通報を計画し実行した女子高生」として辻セイラの名前が出てしまう。

 動機は「母親を助けたかった」だが、死に戻りの証明はできないし、彼女の『大切な人』に知らせないためにもその能力を説明するわけにはいかない。

 おかげで、客観的には「面白半分で消防に嘘の通報をした」としか映らない。


 もし公開されれば、母を助けたかっただけのこの女が、悪者になってしまう。

 それは——いけない。


 もし僕が自首すれば、あるいは協力を断れば、この音声が公開される可能性がある。そうなれば、次のループでこの女は一人に逆戻りだ。

 いくら辻セイラのことが嫌いと言えど、そんな選択肢を僕は選べない。

 僕がいれば減らせたはずの死の回数を、僕の「正しくありたい」という信条のために見捨てることになるなんて。


 やれるのに、やらなかった。助けられるのに、助けなかった。

 それは——後悔する。絶対に後悔する。


 僕はこの高校生活を、悔いのないように生きると決めたんだ。

 助けられる命を見て見ぬふりした人間に、悔いのない人生はない。母さんに「真っ直ぐ育ってくれた」と言ってもらえる人間でいたいなら——ここで背を向けるわけにはいかない。


「……分かった」


「よかった。じゃ、これからよろしくね、『共犯者』さん」


 ……脅しが効いたと思っているんだろう、この女は。

 嫌いだ。本当に嫌いだ、この女。同情できる点は多いが、シンプルに性格も悪い。

 だが、筋は通っているし、そうするしかないのも理解できる。

 自分の嫌いな相手を安全装置として選ぶ合理性も、自首させないための保険も、協力関係を維持するための脅しも。全部。


 こんな規約違反まみれの女と、「大嫌いだから」という理由で。

 しかし、協力しなければ、僕はきっと後悔するだろう。


 結果として、僕は。

 一番嫌いなこの女と、協力関係を結ぶことになってしまった。











「(……嫌い、嫌い、大嫌い。好きになる要素なんて一つもない)」


「(コイツのことは嫌い。脅しまでしたし仲良くなんてならないはず)」


「(よし、これで大丈夫。これでもう、間違えたりはしない……)」

これで1周目終わりです。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

ここからこんな感じで、死に戻りバディものとして書く予定です。

いつかそのうちヤンデレ要素が入るかもしれません。癖なのでご容赦を。


可能であれば、感想や意見や評価やリアクションを頂けると嬉しいです。大喜びします。

それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)

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