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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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27/56

[20:06] こんな終わり方あり?

「……遅かったじゃないか」


「約束の15分前だが」


 ハルキが早すぎるだけだろう。いつから待ってたんだ。

 自慢じゃないが、僕は待ち合わせに遅れたことが一度も無い。

 予定の15分前に着く──それは幼少期からの行動原則で、破られた記憶も無い。

 今日も集合10時のところを、9時45分には着いていたんだ。それなのにモールの入口には既に先客がいて、開口一番がこれ。


 まあ、楽しみだったんだろう。楽しみにしてくれてるのはこちらとしても嬉しいよ。

 でも集合前に来ていて「遅かった」はちょっと言われる筋合い無いぞ。


「こっちは30分前から待っていたよ。つまり君の負けだ」


「時間の使い方間違えてないか?」


 30分前から人を待って勝ち誇る高校生がどこにいるんだ……目の前にいるけど。


 まあ、今日の名目は勉強会ではなく「遊び」。

 せっかくハルキからの「外で遊ぼう」という提案だったんだ。彼と勉強以外で時間を使うのはいつぶりか。桐島ミオとのプールも中々に楽しめたが、今日は僕だってさらなる期待をしている。

 明日には辻セイラも帰ってくるし、予定を入れられるのは今日が最後。楽しめるうちに楽しんでおくのが学生の夏休みというものだ。

 あの『ナントカカテチャ』については検索したところで一切ヒットしなかったが……あの妙な電話は勉強会とプールの日のあれだけ。便りが無いのは無事の証拠と言うし、きっと問題無かったんだろう。


「それで、今日は何をするんだい。僕はこういうの詳しくないし……」


「逆に聞くが、君は何がしたい? 今日の主役は君なんだ」


「そう言われても困るよ。遊びといえば、君との勉強会くらいしか……」


 真顔で何を言っているんだこの男は。


 しかし……ふむ、どうしようか。

 白状すると、こっちにも具体案は無い。一緒に今日決めてしまおうと思っていた。

 ボウリングに球技……は却下だな。運動が絡んだ瞬間、ハルキは置物になってしまう。

 カラオケも駄目だ、誘っても来ない男を今日に限って引きずり込んだところで、爆音の中では彼の体力と精神をすり減らすだけかもしれない。

 落ち着いた状況で、座って楽しむことができる。そして終わった後は二人で語り合える、そんな内容が丁度いいだろう。つまり……。


「映画はどうだ」


「映画? それ、わざわざ二人で観る意味はあるのかい。一人でも観られるじゃないか」


「二人で何かすることを重視しているんだろうが、僕に体力がついていかないだろう、君」


「そっ……そんなこと言わなくても!」


 じゃあなんて言ってほしい。


 確かに、君が懐疑的なのも分からなくはない。

 普段勉強ばかりで、フィクションなんかそれこそ国語の教科書か読書感想文程度でしか触れたことがないだろう。だからせっかくの遊びの機会を未知のイベントで潰したくないという懸念も理解できる。

 しかし映画はそんなに悪い物じゃないぞ? 僕だって友人とよく観に行くし、単純に勉強になるものもあれば心を強く動かされることもある。去年のヒット映画もあらかた観に行っているが後悔した覚えはなかった。


「題目は君が選べばいい。それでどうだ?」


「まあ、君がそこまで言うなら……そうしようか」


 よし。

 もちろん選択権はくれてやる。君が楽しんでくれるならそれが一番だから。


 しかし任せておいて何だが、遊びの引き出しが勉強会一択の男は、娯楽を何基準で選ぶんだ? これは純粋に興味深い。


「じゃあ、アクションは……得るものが少なそうだ。アニメも同じく」


 学習効率だった。

 筋金入りすぎる。


「んー……あっ、これはいいんじゃないかな。事実に基づく話なら、議論のしがいがある」


「……伝記映画、ドキュメンタリーか」


「君も嫌いじゃないよね、こういうの」


「そうだな。好きな部類だと思うぞ」


「じゃあ、それで」


 OK。券の準備をしてこよう。

 結構有名な人物だし、僕もこの人の人生の軌跡はある程度把握している。


 ポップコーンは塩味でいいか。飲み物も、まあハルキの好きな味は知っているからな。

 彼は勝手が分からないだろうし。ここは僕のセンスで、滅多にない彼の映画体験に「華」を添えてやろうじゃないか。

 かなり楽しみになって来たな。






 *






 ……。

 うーん……。


 微妙だ、正直。


『そして彼は、夢に向かって駆けだした──』


 いや、断定はまだ早い……が、微妙だ。

 いつも観ている映画なら、ここまで来ればもう一山ある頃だと思うんだが。

 これは事実が年表の順に律儀に並んでいくだけに見える。起伏を設計した形跡がないというか、燃えるべき場所で燃える描写ができていないように思えるぞ。


「……」


 まあ、隣のハルキはポップコーンに一切手を付けない程度に見入っているし、ある程度は楽しめているかもしれない。彼が良いなら良いんだが。

 もし、せっかく選んだ映画が微妙であれば、なんとも居た堪れない。そのためにもこの映画には是非とも頑張ってほしいと思って……思っていた。


 題材そのものは、きっと辻カリンでも知っている程度に有名だ。

 数十年前の短距離走者。人間離れした記録を連発して、「能力を使っている」と疑われ、他にも様々なトラブルに見舞われ、私生活が荒んでいき、最後は自死したという……。

 まあつまりは、結末の分かっている伝記なんだ。

 だったらせめて、演出や展開の妙で魅せてくれるものかと思っていたが。


『そしてこの記録が、彼の絶頂だった──』


 ……こういうところも、雑じゃないか。

 その記録は疑惑の後のはずだぞ。

 騒動の渦中でなお出した数字だと、逸話ごと有名なやつだ。

 あー……演出のために並べ替えたな? 


 並べ替え自体は構わない。編集はドキュメンタリーの権利だし、時系列の入れ替えだって演出の一環だろう。実写だろうと、映画は映画だ。より面白ければ、情報の整合性にだって多少は目を瞑れると思う。

 だが、今回のこれは逆効果じゃないか? 実際の順序の方が、よほど印象には残るぞ。疑惑にまみれながら、それでもなお走って、記録を出して──それでも、ひっくり返すには疑念は大きく膨らみすぎていたという。本当の時系列は、そういう話だった気がするぞ。

 盛るために並べ替えて、実話より弱くしてどうするんだ。事実で共感できる題材を握っていて、どうして数字の並びなんかに手を加えてしまうのか。


 お……これは例の大会だな? 

 ここで圧勝し──確か、これが境目のはず。


『あの速さは、能力によるものではないのか』


 最初は一紙の憶測記事。

 それが週も跨がずに次なる噂を呼んで、全世界へ火が回っていく……。

 基本的に擁護する声の方が多かったが、当時は規制が甘かったこともあり、他にも前例や逮捕者があったことから、彼も疑惑の渦中から逃げ出せなかった。

 足の速い人間が走ることが違法でないように、「能力の行使」が違法とされることはないが……競技の中では別の話になってしまう。


 競技での能力使用は反則、それは昔も今も同じだ。スポーツに、「能力」という個人個人より遥かに優れた力を発揮する要素を持ち込んでしまっては、平等性を保てない。

 しかし、能力者を判別する方法は存在しないし、使ったかどうかを調べる方法も無い。証明もできないが、反証もできない疑惑、ということになる。彼を責める根拠は、最初から「規定違反の疑い」ひとつしか無い。

 思えば、後の離婚や酒に酔っての問題行動、スポンサーの撤退などもこの出来事が起点になっていたような気がする。これがストレスとなり、追い詰められるようになったと。


『能力者は危険だ』


『私達の町から、出て行け』


『ヤツは危険思想を持っている』


『私は能力者じゃない。信じてくれ』


 ああ、これもあったか。

 能力者の排斥思想……所謂「能力者差別」だな。


 通常より強い力を持つ「能力者」を危険視し、「犯罪者が能力者である割合は一般人より高い」だの「いつ一方的に力を振るわれるか分からない」だの「悪意を持つのは能力者だけだ」などと曖昧な主張で、能力者を公然と差別する過激な思想。

 ああいう手合いは昔からいたと聞くし、今でも過激なごく一部の人間が問題を起こして時々ニュースで見ることがある。当時ならまだしも、今どきあれを真に受ける人間の方が珍しいだろうに。

 まあ、昔はそういう人間も少なくなかったんだろうな。


 ……しかし、この伝記映画の主には申し訳ないがやっぱり演出がチープだな。

 ここからが一番気になるところだろうに。流れに起伏が無さすぎて、盛り上がりどころに向けてのカタルシスの準備がまるで無いというか。わざとそういう方針にしているのか? 


 まあここからは悲劇の展開が続くはず。

 最後が円満な死亡で終わらないと分かっている以上、どう決着をつけるのか……そこだけは気になるぞ。最後の展開によっては、まだ記憶に残るシーンがあるかもしれない。さてどうなるか。






『そして、数々の悲劇を経て──』


 えっ。


『彼は、自らその命を……』


 あっ、えっ。


 ……ま、まさか終わるのか!? これで!? 






 *






 ……酷い映画だった。


 故人には申し訳ないが……少なくとも、去年観たどの映画よりも面白くなかった。

 上映時間からすれば確かに残り時間が少ないことは分かったはずだが、それでもあんな終わり方は無いんじゃないか。スタッフクレジットが流れてきた時は愕然としたぞ。


 そして何より……。


「すごい映画だった……」


「そうだな……」


「……ちょっとお手洗い行ってくる。待っててね」


 ……失敗だ、完全に失敗だ。

 楽しんでもらうはずだったのに。


 ハルキはどう思ってるんだろう、間違いなく満足してないよな。

 だってあれだぞ? 楽しさを求めて入った場所なのに……出てきたのは、起伏の無い展開に、順序の入れ替わった史実に、ショートカットだらけの終盤。これじゃ盛り上がれなくても当然じゃないか。

 とにかく二番目が致命的だ。勉強魔のハルキに対し、間違った情報の含まれる伝記だなんて……相性が良くないに決まってる。

 ああ、どうして僕は配慮ができなかったんだ。数分あれば映画の評価や口コミだって調べられたじゃないか。彼に楽しんでもらうために、僕が調査を怠るなんてあってはいけなかったのに。


 ……仕方ない。他に何かできることがないか調べよう。今からでもどうにか挽回できるかもしれない。面白そうなコンテンツを見つけて、それをハルキに提供するんだ。

 まず、携帯の電源を入れて……っと。


 ………………。






『あ、繋がった。今話せる?』


 なんだこの女は。






 勘弁してくれ、どうして今なんだ。

 電源入れた瞬間に電話かけてきて。完璧じゃないか、どんなタイミングだよ。

 もしかしてどこかで見てたりするのか? 

 でもなきゃおかしい精度だろ、軽井沢にいるんじゃないのか。


「……何の用だ」


『調べても分かりにくいことがあってさ。意見が欲しかった』


「……いやいやいやいや、待ってくれ」


 君が電話してくるのは桐島ミオと一緒にいるときじゃなかったのか? 僕の勘違い? 

 一昨日も、そのまた一昨日も、電話のタイミングは僕が桐島ミオと一緒にいる時だけだったじゃないか。だからてっきりそうなのかと思い込んでいたんだが……今はハルキと映画館だぞ? 

 桐島ミオの安否確認は今の僕にはできない。もしかして本当に偶然かけてきただけ? 


 それに「意見が欲しい」って。前にも「意見が聞きたい」だったじゃないか。

 何を小刻みに色々聞いているんだ。辻カリンがまた変なことに興味持ったのか? 

 こっちはまだ分からないことだらけなんだ。結局あの肉塊の話の正式名称は何だったんだ? 教えてくれないといつまで経っても調べられないのに……。


「……話せるが、今は映画館にいるぞ。あと少し早かったら繋がらなかった」


『あっそ。じゃ手短に聞くんだけど』


「ガン無視じゃないか」


 手短に。こっちの状況を確認してから入るあたり、一応の配慮はあるのか。

 いや配慮があるなら「映画にいる」なんて話を聞いた時に、少し考える素振りでもしてくれていいと思うぞ。たまたま終わった直後だったから繋がっただけで、上映中だったら電源切ったまま出られなかった。


 まあいいよ、聞くけど。

 頼らないと言っておきながら、三日に渡って何度も何度も急に電話をかけてきて。

 だから君のことが嫌いなんだ。ハルキも君のことを良く思っていないから、彼が戻ってくるまでに済ませてくれよ。後、内容もせめて健全なものにしてくれれば……。






『正当防衛ってさ、どうすれば成立するの』


 ちょっと危ない匂いがしてきたな。






「……ループしてないよな?」


『だから、気にしなくていいって』


「えぇ……」


 そうか、そうなのか。君がそういうならそうなんだろうな。

 ……本当か? 正直もう流石に黒じゃないか? 


 一昨日、肉塊の処理方法について意見を聞こうとしてて──今度は正当防衛の成立条件について聞きたがってる? 前回はフィクションの話として聞き逃したが、ここまで危なげな発言が出てきて、それでもなお見当がつかないと言えるほど鈍いつもりもないぞ? 


 もしかして、「正当防衛が必要になる状況」が迫っているのか? 

 正当防衛だなんて、間違いなく穏やかな単語ではない。旅行先で、正当防衛の成立要件が知りたくなる状況というのは一体何なんだ。少なくとも今すぐ必要な人間はこんな電話してこないだろうし。

 何より、一昨日の「フィクション」云々のような前置きが今回は一切ないし、「カリンが気になっただけ」みたいな予防線も無い。ちょっと心配になって来たんだが。


「本当に大丈夫なのか? 今、問題に巻き込まれているのか?」


『大丈夫。後学のために聞いておきたいだけ』


 ……そうか。

 後学のため、か。

 まあ、あり得なくはないか。

 そこまで言うなら、信用するからな。そこまで言うなら、だぞ。


 多分この様子じゃ何度聞いたって説明してくれないんだろうし、もし本当に今すぐ「正当防衛の成立条件」が必要になる状況だというなら、無駄な押し問答で時間を浪費する方が危険だ。どちらにせよさっさと説明してしまった方が良い。

 ここまで譲歩してやっているんだから、しっかり聞いておけよ? 


「……えっとだな。刑法36条1項、正当防衛の成立要件は四つある」


『うん』


 1. まず急迫不正の侵害。

 急迫というのは現に差し迫っているということだ。過去の恨みや将来起こるかもしれない不安に対して先手を打つのは正当防衛にならない。あくまで今まさに違法な攻撃が迫っている状態でなければいけない。

 昨日嫌なことをされたから殴り返すとか、明日襲われそうだから先に手を出しておくといった、過去の恨みや将来の不安を理由にした先制攻撃は一切認められない訳だ。


 2. 次に、防衛の意思。

 自分や他人の権利を守ろうとする意思があること。積極的に相手を害してやろうという攻撃の意思が主であれば防衛にはならない。


 3. 次は必要性。

 その防衛行為が、侵害を排除するために必要だったかどうか。逃げられる状況で逃げずに殴り返すのは微妙になる場合がある。


 4. 最後に相当性。

 防衛の程度が侵害に対して相当であること。素手で殴りかかってきた相手にナイフで応戦すれば、たとえ他の要件を満たしていてもやりすぎ、36条2項の過剰防衛になる。

 刑の減免はあり得るが、正当防衛の成立とは別物になってしまう……。


『結構面倒……ろすのは駄目なんだ』


「……なんだって?」


『いや、何でもない』


 ……やっぱりおかしいぞ。


 どうして「今の状況は正当防衛になるか」じゃなくて、「どうすれば成立するか」なんて聞き方をする。まるで反撃の許可を取っているみたいじゃないか。誰かを合法的に殴り返す算段でも立てているのか? 

 そもそも、正当防衛の条件を事前に整えてから反撃するなんて、それこそ防衛の要件から外れるんだが……。


「で、なぜそれを聞く。君、旅行先で誰かに何かされてるのか」


『いや何も? ありがとね、じゃ』


「あっおい、辻セイラ! ──ああ、もう」


 ……なっ! 

 おい……! 


 き、切られた……。


 相変わらずあの女は……どこまでも僕を便利な辞書程度にしか思っていないのか。

 家族旅行中でも辻セイラは平常運転で安心できそうだ。んな訳ないだろ。


 ループじゃないとは言ったが、本当に信じていいのか? 

 それに正当防衛ってなんだ。今まさに、誰かに襲われでもしているとでも言うのか? 

 だとしたら通報するべきだ。いや、彼女は「僕に頼らない」と宣言してしまったから、自分で何とかしようとして……だから僕に法律の壁を聞いてきた? 

 ダメだ、情報が少なすぎる。いくら考えても最悪の想像しか出てこない。


 ……落ち着け。

 本当に後学の可能性もある。もし絶対的な危機的状況なら相談しないはずがない。

 旅行は明日で終わる。明日にはあいつはこっちに帰ってくるはずだ。

 そうだ、これ以上ここで頭を抱えても仕方がない。


 あと、一日。それだけの辛抱だ。

 帰ってきたら、絶対に全部吐かせてや……。


「マコト」


 ……る。






「僕が席を外して早々、『誰』と楽しそうに電話していたんだい?」


 えっ、あっ。

 これはちが──






 *






「どうしたの、兄さん? 夏祭り、あまり楽しめてない?」


「いや、そんなことはないぞ。多分、杞憂さ、たぶん……」


「兄さん、昨日心臓押さえながら帰って来たし、僕はちょっと心配だよ」


「悪い……アラタは気にしなくていいから」


 8月14日。8月ももう中盤。

 夏祭りの日。辻家が帰って来た日。






 ……結局、何に対する正当防衛だったんだ、あれ。






 一番考えられるのは旅先で出会った不良か何かだろうか。

 見た目が派手だし、同類だと勘違いされて、良くない輩が近づいてきた可能性というのもなくはない。まあ勘違いというか事実辻セイラは不良の同類な訳なんだが。


 あるいは熊に対してだろうか。動物に襲われて反撃した場合は緊急避難が適用されるから、正当防衛の「不正」の要件は満たさないが……彼女がそれを知らない可能性もある。

 軽井沢には熊も出るし、熊対策用のスプレーなども売っている。だが、自然の動物を自分から先んじて攻撃する訳にはいかないし、そのための正当性が必要で……と考えた可能性も。


 いや、やっぱり分からないな。話を聞かないことには何も解決しない。


「……十分楽しんだし、もう帰ろうか」


「そうだね。混まない内に出ちゃおっか」


「ああ。しっかり手を握っていろよ」


「うん」


 結局あの後、「僕と来てるのに……! 辻さんが良かったなら初めからそう言えばいいだろ」ってめちゃくちゃ詰められてしまったし。

 桐島ミオに対抗しようとしたり、ハルキは昔から結構不満を感情的に表明する癖がある。だが、それを踏まえてもあれは本当に心が痛かった。まだ仲直りできてないし、ああもう、人生最低の夏休みだ。


 恨むぞ辻セイラ。

 八つ当たりではあるが、納得できる理由が無ければ僕は君を許すことができな……。


「──兄さん、あれ。何だろう」


「んあ? なんだ、アラタ……」


 ……って、救急車? 

 それに……パトカー? 


 なんだ、傷害事件か? 

 こんなときに、物騒な──






 *






 夏だ! 

 8月序盤! 夏休みのピーク真っ盛りだ! 


 ……しかし。

 今年の夏だけは……ただ楽しむ訳にもいかないんだよな。

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

ブックマーク・評価・リアクション等も、可能であればぜひお願いします。大喜びしますので。

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