始動
揺れている
何か、大きく温かいものに包まれて
この感覚は前にも感じた
そう、あれはたしか―――
「ッ!ゲホッ!」
マールは目覚めた。多少水を飲んでしまったようでむせかえってはいるが無事である。
真っ暗なのでとりあえず魔法で松明の代わりの明かりを灯す。
「そうだみんなはッ!?」
慌てて辺りを探すと、全員近くに転がっていた。
「おい!しっかりしろ!」
ゼクストの頬を往復ビンタ。痛そう
「う…ぐ…」
「起きろってー!」
肩をつかんでガクガク。後頭部連続強打
「だ…だいじょうぶですから」
「そうか!よかった…他のみんなは!?」
ソルエル達は正座していた。朦朧とした中でゼクストの惨殺…もとい気付けシーンを見て一気に目が覚めた次第だ
「俺らはこの通り無事ですから!」
(コクコク)
「そうか…よかった」
「しかし、なぜ助かったんだろうか」
「お嬢様、こちらをご覧ください」
ゼクストの声は横穴の奥から聞こえてきた。横穴を進むとゼクストが立っており、そこから先は崖になっていた。
「少しひいたようですが下の方には水がまだ流れています。恐らく流されている途中に先ほどの場所に流れ着いたかと」
「ふむ…」
「おーい!」
ソルエルの声がする
「どうした?」
「こっちから風が吹いてるってサリアが」
(コクリ)
「そうか、でかした!これでようやくこの遺跡から出れる」
全員サリアの先導で横穴を進むと、道の先に光が見えた。
「出口…ではないか。壁の隙間から光が漏れているようだな」
「お嬢、さがってな。俺がぶち破ってやっから」
ソルエルは助走をつけ、壁にタックルをかました
ドガシャア!!
壁はいとも容易く崩れ、大穴が空いた。
「うわっ!」
「眩しッ」
ずっと薄暗い遺跡の中にいた身には日光は厳しい。マールとゼクストは目を覆い、光に慣れるのを待った。
何故かサリアは平気そうである。盲目ではないはずだが…
ソルエルはタックルした時頭を打ったのかのびている。
目が慣れるにつれ、視覚が戻ってくる。そして気付いた
外に立つ男に
「よーう。生き汚ねぇ奴等だな全く」
マールはその姿を捕らえるや否や、剣を抜いて斬りかかる。
「やあぁっ!!」
「おーおー、元気一杯だなオイ」
男はおもむろに足下の木の棒を拾い、マールの斬撃を受け止めた。
「な…に!?」
「甘ぇんだよ。初孫に対面した爺さんぐらい甘ぇ」
マールは自分の剣の腕に絶対の自信を持ってるわけではないにしろ、それなりの自負はある。少なくとも、全力で打ち込んであの細い枝すら両断できないような情けない実力ではない。とすると…
「言っとくが、枝に細工なんか無いぜ。ほれ」
ダーツの矢のごとく放たれた枝を叩き落とす。枝は木端微塵だ
「まぁそういきり立つなよじゃじゃ馬ちゃん」
「だったらそれをやめろ!その態度を!」
「そりゃ無理だ。なんかアンタは馬鹿にしたくなる」
「前々から黙って聞いていればなんたる無礼!今すぐお嬢様に頭を垂れろ!」
「さっきはロクに戦えなかったからなぁ、再戦といこうぜ!」
ゼクストとソルエルが戦線に参加する。
「待てって、折角お前らの悪運に免じて見逃してやろうっつーのに何を死に急いでんだ?」
「何?」
「馬鹿なことを。今さら怖じ気づいたか」
「お前らこそ何勝てる気になってんだ?ちゃんちゃらおかしくて腸捻転が起きそうだ。」
雰囲気が、変わった
―――この感じは
マールの生存本能が警鐘を鳴らす。他の二人も微動だにできない。
「お前、あれが現実では出来ないとでも思ってんのか?」
マールの脳裏にありありと浮かぶ、惨たらしい三人の死に様。
「いいんだぜ?今すぐ消したってよ。そこを助けてやると言ってんだから大人しくしてな」
「結局…どうしたいんだ…お前は」
息も絶え絶えといった風情でマールが問う
「俺はお前が気に入ったよ。そして俺は気に入った相手にはそいつが嫌がることをしてやるのが好きだ。よって…」
「お前の大っ嫌いな、戦争を起こしてやる」
「俺の力で何も分からないまま滅ぼすのはつまらん!ならば人の憎悪という醜悪極まりないもので世界を満たしてやる!」
「狂ってやがんぜ…ここで死んどけや!」
ソルエルの鉤爪が男の喉を裂く。
「そのようなこと、させるものか!!」
マールの渾身の一撃が男の体に降り下ろされる。剣は男の体に吸い込まれ、肩から腹にかけてバッサリと両断した。
「殺った!」
マールの手に残った手応えは、ソルエルの言葉に反してとても虚しい物だった。
「あーっはははは!!」
男の高笑いはどんどん遠くなり、悪魔のような顔が見るからに薄くなっていく。
「消え…た?」
ゼクストは驚いたようだが、マールは「だろうな」
という心情だった。今更消えることに驚きはしないし(現代では十分驚くべきことだが)ヤツがそう簡単に死ぬ筈もないと分かっていた。
「皆」
マールは剣を納め
「とりあえず、街に戻って休息をとろう。今後の事はその後だ」
凛とした笑顔でそう言った。
とりあえず最寄りの街の宿屋に泊まり、一晩たった翌日、一行は酒場に居た。
「さて、今後の私達の動きについてだが…あの男の計画を止める。これに異論はないな?」
一同頷く
「これからあの男と戦っていくわけだが、いつまでも『あの男』と呼んでいてはやりづらい。そこで我々で名前をつけよう」
「名前…でございますか」
「そうだ。ちなみに私の案は、見た目が全体的に黒かったから『クロ』だ」
「…」
ゼクストはマールのティーカップに注いでいた茶をこぼしそうになった。
「いいねぇ!でも『スーパー』とかつけたらスゴそうじゃねぇか!?」
「え~?…」
さすがにゼクストが反論しようとすると
「おぉ!格好いいなそれ!」
マールが乗っかってしまい、出来なくなった。
二人は一層盛り上がり、ゼクストは一気に蚊帳の外となった。時おり聞こえてくる『ハイパーブラックマン』だの『真っ黒々助』だのといったネーミングに敵ながら同情を禁じ得ないなーとか思っていると、黙っていた(普段からだが)サリアが
「……アーヴィング」
と呟くと、水を打ったかのように静まった。それもその筈、サリアが自発的に声を発するのは極めて稀…というより初である。
マール達よりサリアと付き合いの長いソルエルもかなり驚いていることから、ソルエルも初めて聞いたんじゃないだろうか。
サリアは今まで、周囲の強い要望がなければ話すことはなかった。それが…
「え…あ…アーヴィング?…がいいのか?」
「……うん…私は…それが…いい…と思う…」
「「「ぅえッ!?」」」
酷い時には土下座までしてようやく単語が一言二言だったあのサリアが、主語・動詞・目的語揃った成文を口にするという異常事態。
―――――――――――
「さて、アーヴィングの動向についてだが」
今でこそ落ち着いているが、あの後は酷いものだった。というかソルエル一人が騒いでいるだけだったが。
「てんぺんちいのまえぶれだー!」とか「なんであんなやろーのためにー!」とか五月蝿いことこの上なかったが、お馴染みサリアの一撃でカタがついた。
名前はアーヴィングで満場一致であったことは言うまでもない。
「というわけで、戦乱の雰囲気の濃い所をまわり、探すこととする」
話がまとまったようだ。
「それでは、出発する!まずは北の大国、シエルジェだ!」
うん…アップが遅すぎる
しかも出してから気付いたけど二話のラストの切れ方おかしいだろ!うわーん!
他にもツッコミ所満載でお届けする「憎しみの世界平和」存分に突っ込んでください!もっと奥まで!(ここで下ネタって…俺なんか死ねばいいと思う)